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転職フェアを活用した採用改革~専門業界の人材獲得の苦労と工夫

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  • 社名 株式会社長内水源工業
    事業内容 建設
    設立 1969(昭和44)年4月14日
    従業員数 48名
    URL http://www.osanais.co.jp/

岩手県に本社を置く株式会社長内水源工業は、井戸を掘るさく井(さくせい)工事や温泉掘削工事などを請け負う事業を展開しており、近年需要が高まっている地熱発電等の井戸に関する調査やメンテナンス業務にも携わっています。事業拡大や働き方改革への推進に向けて人材獲得を目指すものの、さく井業自体の認知度が低さもあり、採用が進みませんでした。同じ建設業界の中でも、さく井業は全体の0.5%という専門性の高い業種です(※) 。そのため、そもそも経験者、有資格者の採用も難しい状況にありました。

そうしたなか、マイナビ転職フェア(以下、転職フェア)の出展を決め、転職フェアを有効活用する手法を試行錯誤しながら多様な人材の確保に成功しました。業界内でも専門性の高い職種の人材獲得を強化する戦略について、テクニカル事業部の取締役副本部長であり、人事も兼任する水沼 覚様にお話を伺いました。
※「建設業許可業者数調査の結果について」国土交通省

  • 課題

    • 建設業の中でも特に専門的な分野で認知度が低い
    • 経験者が少ない職種のため採用が難しく、未経験者にもアプローチする必要がある
    • 事業拡大、働き方改革の推進のため、採用人数を増やし教育を進めたい
  • 成功ポイント

    • フェア会場に現場で使用する機材やクイズ形式の資料などを展示し、体験型アプローチを実施
    • 将来性や待遇等について具体例を示し、難易度の高い専門職採用を実現
    • 職種を限定しない採用で、やる気ある若手の未経験採用に成功

経験者がほとんどいない専門業界の採用活動の難しさとは


Qこれまでの採用状況・課題を教えてください

水沼 覚 様(以下、水沼): 株式会社長内水源工業は、さく井業:井戸を掘る事業を主として事業展開していますが、その中でも「深く掘る」分野に特化しているのが特徴です。
さく井作業は昼夜工事となり、12時間労働の2交代制で進めています。働き方改革を実施するうえで、社員数が増えるほど労働環境が整いやすくなるため、できるだけ採用人数を増やしたいと考えていました。

以前は地域密着型の媒体に求人広告を掲載していましたが、作業員の補充を目的とした募集がほとんどでした。現場で人数が足りないときや、退職希望の意思表示があったときなどにその都度募集をかけていたため、採用計画が立てにくいのも課題の1つでした。

Q建設業界、特にさく井業の状況や採用活動の現状について教えてください。

水沼: 建設業の中でもさく井業を主とする企業は少なく、中途採用による即戦力を期待しても、そもそも経験者が市場にほとんどいないという状況です。また、「さく井業」自体の知名度が低いため、未経験者を募集する際にも、まずどのような仕事なのかを知ってもらうことから始めなければいけません。
このような背景から、採用活動はとても厳しい状況にあります。

実は、さく井業に対する需要自体は高まっているんです。最近は、国主体で地熱発電量を増やす取り組みが行われており、弊社でも地熱関連の仕事が増えてきました。将来性のある事業を展開しているものの、求職者にアピールできる機会が不足しているのが現状です。特に、建設業自体への転職希望者が少ない印象があり、その中でもニッチな業界であるさく井業に興味を持つ人は限られています。

加えて、実際の工事を行うためには、専門作業員だけでなく、施工管理者も確保しなければいけません。さく井業における施工管理の業務は他の建設業と比べて特殊で、有資格者と出会うこと自体が稀です。こうした背景の中で、人材獲得を強化するために、採用活動の幅を広げる必要があると考えていました。

求職者との直接対話を増やす。現場での対話が採用の可能性を生んだ


Q専門分野特有の採用課題を克服するための新しい取り組みについて教えてください。

水沼: これまで利用していた地域密着型の求人媒体では募集しづらいと感じていました。というのも、一般的な施工管理技術者の募集は土木や建築、管といった分野が多く、同じ資格を持っていても、他の建設業と比べると業務内容や働き方が異なります。業界未経験者はもちろん、求職中の有資格者でも、弊社で活躍できるイメージが持ちにくいのではないかと考え、求人方法に悩みました。

そこで取り入れたのが、対面型の転職フェアです。
事業内容や業務について直接詳しく伝える機会があれば、アプローチしやすくなるのではないかと考えました。建設業の経験者と未経験者、それぞれの状況に合わせて説明・提案できるのも魅力でした。ただ、正直なところ、当初は弊社が参加しても良いのだろうかと少し不安もありました。

というのも、マイナビ転職フェアというと、認知度の高い大手企業ばかりが並んでいるイメージがあったからです。誰も来ないのではないかと思いながら初回に臨みましたが、実際にやってみると、求職者からの反応も良く、多様な人と出会うことができました。

Qフェアでの工夫などを教えてください。どのようにして多様な人材と出会えたのでしょうか?

水沼: まず、募集職種を変えてみたんです。
以前は作業員や施工管理技術者、営業職のように、職種別の募集をしていましたが、マイナビ担当者のアドバイスを受けて、「総合職」として募集を行うことにしました。すべての職種を提示したうえで、内定時には希望の部署などを提示してもらうか、こちらから提案した職種に配属するという流れです。

たとえば、技術作業員として採用したものの、屋外での作業は難しいとして営業職に配属を変えることもあります。一方で、事務職を希望していた応募者を、双方納得の上で、施工管理者として採用したケースもありました。ニッチな職種、専門的な職種としてではなく、総合職として門戸を広げ、配属も柔軟に対応することで、経験、未経験を問わず、多様な人材からの応募につながったのではないかと考えています。

加えて、ブースに座っていただいた方には、面接日程を事前に告知するという工夫も取り入れました。土日を含め、1ヶ月程度の日程から面接候補日を伝えたうえで、希望者を募る流れです。その場で面接日が決まらなくても、後日メールで連絡してもらうようにお願いしたり、こちらから連絡したりしてアプローチを強化したところ、10名以上の面接に成功しました。

Q採用活動に転職フェアを取り入れることで、人材獲得の戦略はどう変わりましたか?

水沼: すでに複数回にわたって転職フェアに参加しています。職歴だけで見極めるというよりも、資格やスキルの有無や、希望勤務地などを踏まえて、採用した際にどのような業務を担当してもらえるかをイメージしながら対応しています。それが結果的に採用につながったのではないかと思います。

若手人材や、自社にマッチした複数名の人材の獲得にも成功しました。

実物を見せたら興味をもってくれた!コミュニケーションの入り口としての「転職フェア」

Q転職フェアでは実物展示をしたとのことですが、当日の様子を具体的に教えてください。

水沼: どうすれば興味を持ってもらえるのか、転職先の選択肢に入れてもらえるのかをいろいろと考えました。まず、口頭だけでは説明が難しいので、スライドを作りこみました。配布資料にはせず、ちょっとしたクイズなども差し込んで、スクリーンに投影しながら説明しています。

*当日投影のスライド:一部抜粋

そもそも経験者の確保は容易ではありません。そこで業界未経験の求職者に、応募先の選択肢に入れてもらえるように、さく井業について興味関心を持ってもらうことが重要だと考えました。
なかには、井戸を見たことがないという人もいるため、井戸とは何か、というところから説明を始めました。

さらに、実際の掘削作業で使用するドリル(ビット)やパイプの実物、コアと呼ばれる地質のサンプルなどを運び展示しました。さく井業は掘る仕事ですが、一般の方だとスコップで掘るようなイメージがあるかもしれません。ドリルなどの実物を見てもらい、作業イメージを具体的に持ってもらえればと考えました。ただ、現物を持ち運ぶには重く、準備も大変です。当日の限られた時間で搬入するのではなく、事前に搬入してセッティングすればよかったと反省しました。

実は転職フェアの会場は、弊社が井戸の工事に携わっていたんです。会場内の井戸について簡単に紹介しながら、目に見えていなくても身近にある仕事であると伝えられたと思います。体感では7割ぐらいの方には興味を持ってもらえたように感じています。

きちんと情報を提供して不安を解消する。業界未経験者をターゲットとした採用の秘訣


Q興味をもってくれても、実際に応募してもらえるかは難しいところだと思います。その点でどんな工夫をされたのですか?

水沼: はい。井戸の説明に興味を持ってくれても、将来的にどれくらいのニーズがあるのか、安定して仕事が続くのかと思われるようです。

そこで、事業の将来性や持続性についても、しっかりアピールしました。例えば、国主体で地熱発電が推進されており、これは弊社の事業にも大きく関わります。安定した仕事が見込めるということは、建設業経験者にも納得してもらえたと思います。

建設業全体でいうと、東北地方では、2011年に発生した東日本大震災の影響で建設業の需要が高い時期がありました。しかし復興が進むなかで建設業の需要が減少しつつあり、業界では収入や将来性に不安を抱える要因となっています。
ですが、さく井業が関わる地熱関連の事業は、今後の需要が見込まれるものであり、さらに待遇面でも良い影響が出る可能性が高くなっていることも伝えています。

Q経験者と未経験者とで、アピールするポイントをどう変えていますか?

水沼: 業界知識のある方には、主に待遇面や働き方についてアピールしました。実際に、国土交通省が提示している地熱関係の作業員は、比較的、高い単価が設定されています。あくまで相場観の話ですが、実際の例を挙げて、見込み額を提示することもありました。ほかにも、業界特有ではありますが、順調に掘削作業が進んでいるときは、肉体的に負担が軽くなるときがあるなど、実際の現場をイメージして、働き方を伝えるようにしました。建設業の施工管理の経験者にもブースに来てもらえました。

一方で、業界未経験者には、仕事内容や入社後の教育体制を丁寧に伝えています。ブースには掘削専門学校の教科書も用意しました。実際に、マイナビを通して採用した人の中には、短期的に専門学校に行ってもらった社員もいます。未経験でも安心して学び、対外的にもスキルを身につける機会があるという点もアピールできました。

また、私自身、人事を含む総務から、営業、工事まで一通りの経験があります。求職者からの質問に対して、良い点だけでなく不安材料になりやすい点も具体的に答えていました。これは、採用活動としてはもちろん、業界全体で人材確保を進めるために必要なことだと思っています。

もし、自分が若手で、転職を考えた時に、よくわからない業種は選択肢に入らないと思っています。ニッチな業種だからこそ、発信していくことが重要だと思います。業界や仕事内容をしっかり伝えたところでやっと、土俵に立てるのではないでしょうか。
どんな仕事をしているのかを知ってもらう場として、転職フェアは非常に役に立っています。特に未経験の方にアピールしやすいという点も転職フェアの魅力ですね。

Q今後の採用強化に向けて、どのような取り組みを予定されていますか?

水沼: 弊社が取り組む地熱関連の事業において、需要が拡大しています。本来であれば、業界全体でのアピール材料ではありますが、同業種が少ないこともあり、弊社からこの業種に携わる魅力の一つとして伝えていけたらと思います。需要の拡大から、事業拡大につなげ、さらに待遇面に反映できるように取り組んでいます。そのことも伝えていきたいですね。

今後は、他都道府県での営業所開業も視野にいれています。状況によっては、他県で開催される転職フェアにも参加したいと思います。引き続き、転職フェアを活用しながら、一緒に仕事ができる仲間を増やしたいと考えています。

※参照:建設業許可業者数調査の結果について(令和6年5月15日)|国土交通省

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  • Q 株式会社長内水源工業 取締役/水沼 覚 様

    2015年に株式会社長内水源工業に入社。大学では電気工学を専攻したが、入社後は個人宅の井戸掘削から地熱発電に関する掘削まで、井戸に関わる幅広い業務に従事している。入社当初は営業職を予定していたが、現場職に配属され、温泉掘削を担当することとなった。現在は取締役として採用担当も務め、多くの転職希望者との面接を行っている。

ページ上の各種情報は2025年1月時点のものです。

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