春闘とは?要求の内容・流れ・企業側の注意点を紹介
現在、賃上げに取り組んでいる企業や、これから賃上げに取り組む予定の企業にとって、毎年2月から3月にかけて行われる、企業と労働組合との交渉である「春闘(春季生活闘争)」は大きな関心事となっているでしょう。
春闘における交渉結果を見ることで、大手企業をはじめとした賃上げの実施率や、賃上げ額の傾向について知ることができ、自社の賃上げについて検討するうえでも役立ちます。
この記事では、春闘が開始された背景をはじめとして、労働組合が要求する内容や一連の流れについて解説します。また、企業側の注意点についても解説しますので、賃上げに関心のある担当者はぜひ参考にしてください。
春闘とは
春闘(しゅんとう)とは、労働組合が企業に対して賃上げや労働環境の改善などを交渉することで、毎年2月から3月にかけて一斉に行われます。毎年春先に行われるため、春の闘い=春闘と呼ばれていますが、春闘の正式名称は、「春季生活闘争」です。
春闘のはじまり・背景
春闘のはじまりは、高度経済成長が始まった1956年頃とされています。当時の労働組合は企業別に組織されていました。そのため、賃金をはじめとした労働条件を決める側の企業が有利であり、労働組合は対等に交渉できるだけの力を持っていませんでした。
またこの頃は戦後の経済復興期であり、経済成長が優先されて、労働者の賃上げや労働条件改善の優先順位は低かった時代でした。弱かった交渉力を補うため各企業の労働組合が産業別にまとまり、毎年同じ春に賃上げ要求を行う形をとったのが、春闘です。
春闘では何を要求するのか
春闘における要求の中心は、基本給やボーナスなどの賃上げです。また、そのほかにも、長時間労働の見直しや育児・介護休暇制度の充実化など、幅広い労働条件に付いて交渉を行います。
要求の詳細については後述します。
また、主な要求以外は付帯要求と呼ばれ、働きやすさや生活の質向上を目的に交渉されます。
春闘の目的
春闘の目的は、賃上げを含む、労働条件の改善です。憲法や労働組合法などでは、労働者と企業側が対等に交渉できるように、労働者の権利が定められています。いわゆる、団体交渉権です。
それでも労働組合の力が弱い企業では、対等な交渉が難しいケースも少なくありません。そこで、全国の労働組合組織が、それぞれの労働組合をまとめて同時期に労働交渉を行うことで、交渉力を高めています。これが、毎年決まった時期に春闘が行われる理由です。
全国的な労働組合組織としてあげられるのは、主に以下の3つです。
- 連合(日本労働組合総連合会)
- 全労連(全国労働組合総連合)
- 全労協(全国労働組合連絡協議会)
ここからは、労働組合法について、詳しく説明します。
春闘に適用される法律
春闘に適用される法律は、労働組合法です。労働組合法第7条第2号に、団体交渉拒否の禁止が定められています。
正当な理由なき団体交渉の拒否はもちろん、誠実に交渉しないことも禁止事項に含まれます。(誠実交渉義務違反)
誠実交渉義務違反の例となるケースを見てみましょう。
- 「合意の意思はない」と宣言した上で交渉に臨んだ
- 決済権がない企業担当者が対応して、「持ち帰って検討する」を繰り返した
- 交渉事項の資料提供を理由なく拒否した
また、労働組合法第7条には、団体交渉権拒否の禁止に加えて、不当労働行為についても述べられています。
不当労働行為にあたるケースを見てみましょう。
- 労働組合への未加入、もしくは脱退を雇用条件にする
- 労働組合の結成や運営に介入する
- 労働組合に関する経費の援助を行う
春闘の流れ
春闘の流れは、基本的に以下に示す6つのフェーズに分かれます。
フェーズ1:要求の検討
春闘における最初のフェーズは、要求の検討です。連合や全労連などの全国組織では、前年8月頃から要求事項を検討します。
半年近く前から要求について検討するのは、各産業においてふさわしい賃金水準を達成するためです。
フェーズ2:春闘の方針決定
前年11月から12月頃、連合や全労連といった全国組織によって春闘の方針が決定されます。各産業別の労働組合は、方針に沿って要求および交渉内容をまとめていきます。
しかしこの段階はあくまで内容のまとめであり、正式決定ではありません。
フェーズ3:政府による経団連への働きかけ
前年11月から12月頃、政府が経団連に対して賃上げの働きかけを行います。目的は、経済の活性化や消費の促進です。
政府からの働きかけに拘束力はありません。しかし、大企業は政府と深いつながりを持っていることも多く、ある程度の配慮をしている現状があります。
フェーズ4:春闘の全体方針決定
12月から1月にかけて、春闘の全体方針が決定されます。その後、産業別組織における要求水準が決まり、各企業における労働組合の要求内容も決定されます。企業別労働組合の要求内容を決める要素は、自社の業績や今までの賃上げ状況などです。
フェーズ5:春闘開始
2月頃から春闘が始まり、企業別の労使交渉が行われます。労働組合が2月末までに企業に対して要求を提出することが一般的です。
フェーズ6:企業による集中回答・妥結
労使交渉が行われて、3月に企業の回答が集中します。この時期は、ヤマ場とも呼ばれます。大手企業の妥結状況を見極めてから、中小企業の春闘が妥結されるのが一般的な流れです。
妥結内容としてあげられるのは、以下のようなものです。
- 賃上げ率
- 労働条件の改善点
- 付帯要求の実現状況
これらの妥結内容は書面にまとめられて、今後の労働条件に反映されます。
春闘における要求の内容
春闘における要求の内容は、大きく分けると以下の7点です。
- 賃上げ
- 労働時間の適正化
- 非正規社員の待遇改善
- 格差是正
- ワークライフバランスの実現
- 育児・介護制度の充実
- ダイバーシティと人権尊重
1.賃上げ
賃上げは、春闘における最も関心の高い要求といえるでしょう。賃上げは、定期昇給(年齢や勤続年数、階級などに応じた昇給)と、ベースアップ(従業員の給与水準全体の底上げ)の2種類に分かれており、初任給やボーナスに関した要求が出されるときもあります。
2.労働時間の適正化
労働時間の適正化も、労働者の健康促進のために重要な課題です。春闘の要求としてあげられるのは、長時間労働の是正や労働時間の短縮などです。
2019年に働き方改革関連法が施行されて、時間外労働の上限規制や有給休暇の取得義務化が始まりました。
今後も、労働時間に関する議論は高まるでしょう。
3.非正規社員の待遇改善
非正規職員の待遇改善は、雇用の公平性と安定を目的としています。実際の交渉内容としては、主に以下のようなものがあげられます。
- 賃金格差解消
- 福利厚生の充実
- キャリアアップの機会提供
2021年4月に、パートタイム・有期労働雇用法が全面施行されて、同一労働・同一賃金が原則となりましたが、全ての職場に浸透していないのが現状です。
令和5年賃金構造基本統計調査結果の概況によると、正社員・正職員の賃金(男女計)は336万3,000円でした。その一方で、正社員・正職員以外(男女計)の賃金は226万6,000円です。*1
正社員・正職員の賃金を100とすると、それ以外の賃金は67.4となっており、賃金格差が続いている現状がうかがえます。
4.大企業と中小企業の格差是正
大企業と中小企業間の格差是正も要求の一つです。
中小企業庁のデータによると、2021年6月1日の時点で中小企業数は336万5,000社となっており、全企業の99.7%を占めました。
加えて、独立行政法人中小企業基盤整備機構のデータによると、中小企業で働く従業者の割合は全従業者の69.7%でした。
中小企業の割合および中小企業に従事する人の割合が圧倒的に多いにも関わらず、大企業との格差が存在する状況です。格差の理由としては、そもそも労働組合が存在しないために団体交渉する場がない、人件費を増やす資金的な余裕がないなどがあげられます。
今後の経済発展のためにも、企業間の格差是正も大事な要求の一つです。
5.ワークライフバランスの実現
ワークライフバランスの実現とは、仕事と生活の調和を目指すもので、具体的な施策としては、主に以下が挙げられます。
- テレワークの推進
- 有給休暇の取得推進
- 所定外労働時間の削減
- メンタルヘルスケア など
ワークライフバランスの推進は、労働時間の適正化とも関係しています。
6.育児・介護制度の充実
2024年5月には育児・介護休業法および次世代育成支援対策推進法が改正されました。
具体的には、子育て中の従業員に対して、柔軟な働き方を実現するための措置を設けることが企業の義務となったり、子どもの看護休暇の対象が拡大されたりしています。*2
育児や介護と仕事との両立が社会的にも重要な課題であるため、春闘でも制度充実化の要求が増えてきており、より良い制度の実現を目標としています。
7.ダイバーシティと人権尊重
ダイバーシティとは多様性を意味する言葉であり、さまざまな属性を持つ人が組織で共存している状態をあらわします。
さまざまな属性としてあげられるのは、主に以下のとおりです。
- 年齢
- 性別
- 国籍
- 障害の有無 など
上記以外の属性も含めた、すべての労働者が平等に扱われ、能力を最大限に発揮できる職場環境をつくるために、春闘では、多様な従業員の要望を整理しつつ改善案を提案したり、交渉したりすることもあります。
春闘における賃上げ結果(ベア・定期昇給など)
厚生労働省の「民間主要企業における春季賃上げ状況の推移」によると、令和5年の民間企業における賃上げ率は3.60%で、賃上げ額は、1万1,245円でした。*3
共にコロナ禍前の令和元年を大きく上回っており、コロナ渦から回復しつつあることがうかがえます。賃上げ率が3%を超えたのは1994年(平成6年)以来29年ぶりで、賃上げ額が1万円を超えたのは1993年(平成5年)以来30年ぶりです。
企業における春闘の注意点
企業における、春闘に関する注意点は主に3点あります。一番重要な点は、先に述べた団体交渉拒否についてですが、ここではそのほかの注意点として2つ紹介します。
1.経営状況の透明化をはかる
経営状況の透明化とは、労働組合に対して隠さず正確に伝えることです。正確に伝えることで、組合側との信頼関係が得られます。
誠実かつ現実的な交渉を行うためにも、経営状況の透明化は大切だと覚えておきましょう。
2.長期的な視点を持つ
短期的な賃上げだけではなく、長期的な成長という視点も大切です。もし企業に余力がない状況で無理に賃上げを行うと、力が弱まり結果として経営が難しくなるでしょう。
その結果、雇用が不安定になると、かえって従業員にとって不利益が生じます。福利厚生の充実により働きやすい職場環境をつくることも、交渉への対応につながります。
まとめ
春闘とは、企業と労働組合が労働条件について交渉する場であり、2月~3月にかけて行われますが、実際は前年8月から一連の流れが始まっています。
春闘では、労働時間の適正化やワークライフバランスの実現など、様々な観点から交渉が行われますが、なかでも、ベースアップ・定期昇給を含めた「賃上げ」の動向に最も大きな関心が寄せられます。
企業の賃上げ率や平均賃上げ額など、春闘の結果をチェックすることで、自社においてどのように賃上げを行っていくべきか、検討する助けになるでしょう。
- 経営・組織づくり 更新日:2024/09/17
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