賃上げ率とは?計算方法や近年の推移、2024年の賃上げ率を紹介
企業や組織が従業員の給与を引き上げることを「賃上げ」といい、給与が一定期間中にどれだけ上昇したかを示す指標として「賃上げ率(%)」が用いられます。
賃上げ率は、経済活動や労働市場の健全性を示す一つの要素としても用いられるため、目にする機会も多いでしょう。
この記事では、賃上げ率の定義や計算方法、2024年の賃上げ率、過去12年の賃上げ率の推移について解説します。
賃上げ率について理解することは、経済や労働市場の動向を把握するうえで役立ちます。また、自社の人材確保や競争力向上にも関係するため、ぜひ正しい知識を身につけておきましょう。
賃上げ率とは
賃上げ率(昇給率)とは、昇給前と昇給後を比較して、給料や賃金がどれだけ上昇したかを「%」で示したものです。賃上げ率の基準になるものは、あくまでも毎月の給与や賃金といった基本給であり、賞与(ボーナス)や残業代といった各種手当は含まれません。
賃上げ率は毎年、春闘後に発表されます。春闘(しゅんとう)とは、労働組合と企業が次年度の賃金値上げや労働条件の交渉をすることを指し、正式名称は「春季生活闘争」といいます。一般的な企業が、会計期間を4月1日から翌年3月31日に定めている関係上、2月から3月にかけて交渉が行われます。このように春先に行われる闘いということから、「春闘」と呼ばれるようになりました。
連合や業種を同じくする労働組合が連携することで、企業側に対する交渉力を強化して交渉に臨みます。
賃上げ率はどこで確認できる?
様々な機関が、賃上げ率の調査や発表、分析などを行っています。具体的には、政府の統計データや、労働組合、調査団体などが賃上げ率を公表しており、最新の賃上げ率や賃金動向についての詳しい情報を得ることができます。
賃上げに関する代表的な調査機関は以下のとおりです。
- 厚生労働省
- 日本労働組合総連合会(連合)
- 一般財団法人日本経済団体連合会(経団連)
上記他には、各企業が、自社の賃上げに関する情報をプレスリリースとして公表していることがあります。
調査範囲は実施機関ごとに異なるため、賃上げ率の数字もそれぞれ異なりますが、この記事では、日本労働組合総連合会(連合)がとりまとめて公表している調査結果を中心に解説していきます。
賃上げ率は何にどう影響する?
賃上げ率は、経済状況や、労働市場の動向を把握するための重要な指標です。
賃上げ率が高くなると、従業員の給料の上がり幅も増えてくるため、収入も増えます。収入が増えることで、モノを買ったり、旅行に行ったりといった消費行動も活発になるため、経済に良い影響を及ぼします。
反対に賃上げ率が低くなると、従業員の給料の上がり幅が減るため、消費行動が鈍くなり経済活動も停滞します。最近では、2020年からの新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2020年から2021年にかけて賃上げ率が低迷していました。
賃上げが与える影響は、従業員だけにとどまりません。従業員を雇用する企業にとっても、大きく影響します。
厚生労働省による、令和5年労働経済白書 「令和5年版 労働経済の分析 -持続的な賃上げに向けて-」に掲載された調査結果からは、企業が賃上げを実施したことで、様々な効果を実感していることが分かります。
- 既存の社員のやる気が高まった
- 社員の離職率が低下した
- 企業イメージが向上した
また、上記の効果以外にも、同調査では、賃上げで年収が増加することにより、労働者の幸福度や仕事への満足度が増加する傾向が示されました。
賃上げ率の増減については、この記事の後半「賃上げ率の推移」にて詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
賃上げ率の計算方法
賃上げ率の計算方法を、具体的な計算式・計算例とともにお伝えします。
賃上げ率の計算式は、以下のとおりです。
- (昇給後の給与)÷(昇給前の給与)−1(100%)=賃上げ率(%)
例えば、前年の給与が35万円であり、今年昇給して36万5,000円になった場合、以下の計算式で賃上げ率を計算できます。
- 36万5,000円÷35万円−1(100%)=0.04 (賃上げ率4%)
2024年の賃上げ率は5.17%
日本労働組合総連合会が集計・公表している春闘のデータ最新版、「第5回回答集計(2024年5月2日集計・5月8日公表)」によると、2024年の賃上げ率は、5.17%でした。5%越えの賃上げは、1991年以来33年ぶりの高水準です。
2023年の第5回回答集計では賃上げ率が3.67%でしたので、1.5%の増加になります。
賃上げの動向として中小企業の組合が多く含まれており、特に賃上げ率の増加が顕著です。また、有期・短時間・契約等労働者の賃上げも注目されます。
連合が行っている賃上げ調査は、「労働組合のある企業」を集計対象としています。
「第5回回答集計(2024年5月2日集計・5月8日公表)」では、3,733組合(266万1,683名)が対象となりました。
集計対象となった組合員数の内訳を見ると、従業員規模1,000名以上の大企業が占める割合が7割を超えていることが分かります。
ただし、国内の就業者数は6,766万人(2024年5月時点 )いることから、本賃上げ調査の対象となっているのは全体の約4%に過ぎない点に注意が必要です。
また、賃上げ額の計算方法は「平均賃金方式(集計組合員数による加重平均)」が採用されています。こちらについて、詳しく解説していきます。
平均賃金方式と加重平均とは
平均賃金方式とは、労働者一人ひとりの賃金合計額を労働者の数で割った賃金水準のことです。
計算方法は、以下の2つに分かれます。
- 加重平均……労働組合員の数を計算式に入れる方法。労働組合員1人あたりの賃上げ額の平均を算出できる。
- 単純平均……労働組合員の数を計算に入れない方法。労働組合ごとの賃上げ額の平均を算出できる。
ここでは、2つの組合を例にして、加重平均と単純平均で賃上げ額を計算してみました。
- 労働組合A:賃上げ額10,000円、組合員数:70人
- 労働組合B:賃上げ額5,000円、組合員数:30人
- 加重平均:(10,000円×70人)+(5,000円×30人)÷100人(総組合員数)=8,500円
- 単純平均:(10,000円+5,000円)÷2組合=7,500円
賃上げ率の数字を見るにあたって注意点が1つあります。それは、「連合の調査における賃上げ率は、労働組合員の賃上げ率である」ということです。
つまり、労働組合のない企業や、組合に加入していない従業員や官公庁職員は、賃上げ率計算の対象に含まれません。
そのため、連合の調査データによる賃上げ率と、実際の企業における賃上げ率が一致しないケースもあります。
中小企業の賃上げ率は4.66%
日本労働組合総連合会が集計・公表している春闘のデータ最新版、「第5回回答集計(2024年5月2日集計・5月8日公表)」によると、2024年の中小企業における賃上げ率は、4.66%でした。
2023年の第5回回答集計では賃上げ率が3.35%でしたので、1.31%の増加になります。
こちらの調査においても「組合員数300人未満の労働組合」を調査対象としています。しかし、多くの中小企業には労働組合がないため、賃上げ率4.66%という数字は、中小企業全体の賃上げ率と完全に一致しない現状があります。
賃上げ率の推移
ここでは、2013年から2024年までの賃上げ率平均の推移について解説します。
下記の表は、2013から2024年までの賃上げ率平均の推移を、賃上げ率と中小企業の賃上げ率に分けて出したものです。
連合が毎年発表している賃上げ率調査結果のうち、第5回の回答集計結果をもとにしています。
2013年 |
2014年 |
2015年 |
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
2020年 |
2021年 |
2022年 |
2023年 |
2024年 |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
賃上げ率(%) | 1.74 | 2.11 | 2.28 | 2.02 | 1.99 | 2.09 | 2.10 | 1.93 | 1.81 | 2.10 | 3.67 | 5.17 |
中小企業賃上げ率(%) | 1.60 | 1.84 | 1.99 | 1.86 | 1.90 | 2.02 | 1.99 | 1.91 | 1.77 | 2.02 | 3.35 | 4.66 |
参照: 連合 2024 春季生活闘争 第 5 回回答集計結果について 2013以降の第5回回答集計結果の推移より
上記のデータから、2020年から2021年にかけては、賃上げ率が著しく減少していることが分かります。主な原因としては、新型コロナウイルスの感染拡大による景気の後退が考えられます。
しかし、2022年から再び増加に転じ、2024年の賃上げ率は33年ぶりの高水準となりました。中小企業もあわせた場合、過去12年で最も高くなっています。
賃上げ率について理解し、賃上げの動向をチェックしておこう
賃上げ率は、人々の消費行動や、日本経済にも大きな影響を及ぼす重要な指標です。
過去12年の賃上げ率の推移を見ると、新型コロナウイルスの影響で賃上げ率が大きく低下した時期もありましたが、ここ2年は増加に転じており、2024年は33年ぶりの高水準となっています。
賃上げ率の増加は、従業員にとっては収入増や仕事への満足度の向上といったメリットがあるだけでなく、企業にも、離職率低下や企業イメージの向上といったメリットをもたらします。
自社を取り巻く状況を正確に把握するために、今後も賃上げ率に注目していきましょう。
- 経営・組織づくり 更新日:2024/08/06
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