内部留保の「備え」と「社員への還元」のバランス
賃上げをするには継続的な支払い能力が必要です。支払い能力とは、財務状況で確認して、経営資源が有効に活用され、効率良く利益を生み出しており、今後の成長も見込める状態かどうかで判断するものです。
こうした状況が整っていれば、賃上げを実施しても、経営を圧迫することなく、社員のモチベーションやエンゲージメントも向上させることができると考えられます。
今回はこのような体制をつくるために何を実行すればよいのかについて、利益を出し続けている企業を参考に探ってみましょう。
企業が生き残るために行う利益の使い方
企業が事業を展開し、売上を伸ばし、利益を得ています。利益というのは、大まかには、収益から費用を差し引いたものとして定義できます。利益は、企業が生き残るための手段として使われるものです。その主な使い方を確認しておきましょう。
税金の支払い |
企業にかかる税金はさまざまあります。法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税、消費税が基本的な税金です。そのほかにも、社会保険費負担分なども利益のなかから支払うべき費用です。 |
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借入金の返済 |
企業が事業展開をするうえで、設備を準備したり、原材料を購入したり、さまざまな費用が発生します。 |
先行投資 |
設備や原材料の購入以外に、事業展開で必要となる費用が先行投資です。主は社員教育のための費用や、研究開発費などが考えられます。 |
株主への配当 |
利益がでると、株式を保有している株主にたいして配当金を支払います。 |
内部留保 |
内部留保というのは、利益を蓄積して純資産を増やしていく、ということを意味しています。内部留保を貯めておくことで、財務基盤が強くなりますから、不測の事態が起きたときにも対応できる可能性が高くなります。 企業が将来の展開や不測の事態を懸念して内部留保を貯めることは悪いことではありませんが、内部留保の蓄積を第一に考えて他への投資を節約しているという状況も企業体質としては好ましいものではありません。 |
社員への還元 |
企業が事業展開をし、売上を伸ばし、利益を得るというプロセスは社員の活動があって成立するものです。つまり業績が伸びるか否かは社員の活動に左右されるともいえます。 そのうえで、利益が出る状態が継続されるのであれば、たとえば、賞与への反映や福利厚生の拡充など、さまざまな形で社員への還元を図ることが重要です。具体的な利益の還元が感じられることで、社員のエンゲージメントやモチベーションが向上し、さらなる業績アップへも期待ができるようになります。 |
内部留保の額よりも活用状況 が重要
賃上げが実現できて、社員のモチベーションも高く維持される企業体制をつくるために、利益の活用状況についてみておきましょう。
企業が利益を「溜め込みすぎ」「利益は社員への還元に使うべき」との意見が世間一般から聞かれる昨今ですが、注目されている内部留保の現状と活用状況はどうなのでしょうか。
たしかに、内部留保というのは、利益剰余金なので、先にも紹介したように、投資や社員への還元など、将来を見据えた使い方をするための資金でもあります。賃上げをするにも原資となる売上が必要なのですから、売上が伸び、利益が蓄積できているのであれば、十分に賃上げができる状況ではないのか、と考えることもできます。
つまり、内部留保は、備えとしての蓄積量のバランスを考えないで、溜め込むばかりでは意味がありません。
しかし、内部留保の額が大きいことだけに注目をして、企業が貯蓄ばかりに注力していると思い込むのは早計です。注意しておきたいのが、内部留保の額は大きいけれど、企業の業績が良いことと同義ではないことです。
まずは内部留保の実態をみておきましょう。
内部留保は増加傾向
厚生労働省が公開している「法人企業統計調査」をみると、内部留保(利益剰余金)は2022年度では554兆7,777億円です。この数値は2021年度につづき過去最高となりました。
内部留保が大きくなる理由
内部留保額が大きな企業とはどういった企業でしょうか。
コンスタントな利益が出ている老舗等 |
内部留保の額は、創業してから長く継続して事業を行っている企業であり、かつ利益が継続して出せている企業のほうが大きくなります。 |
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輸出による収益がある企業 |
商品を海外へ輸出している企業は円安になることで内部留保の額が増大する可能性があります。 |
金融機関や投資家からの信頼獲得 を高めたい企業 |
内部留保の額は金融機関から融資を受けるさいの判断基準ともなりますから、企業の経営者としては、内部留保の確保は意識しているところでしょう。 そのため、内部留保を積み立てておくことを優先的に考える体質の企業はその額も大きくなる傾向にあると考えられます。 |
内部留保は現金が貯蓄されているとは限らない
内部留保の額が大きくなる理由とともに、内部留保は現金の貯蓄とは限らないという点も注意して確認しておく必要があります。
たとえば、内部留保は利益から税金を支払い、配当金を支払い、借入金を返済するなどを行った後、残る資金です。その資金は事業活動にあてたり、備えの資金として蓄積したりするわけです。
そして、内部留保としている資金から、賃上げや賞与など支払いとして活用した場合は内部留保の額が下がります。
一方、工場の機械を刷新したり、システムを刷新したり設備投資に活用した場合は、現金は減りますがあくまでも資産として残りますので、内部留保の額としては減りません。
つまり、内部留保額が大きいから、緊急事態が起きたときにも、すぐに支払いにあてられる現金がある、ということにはならない点を理解しておくことも重要です。
内部留保の額ではなく、その使い方を意識した経営判断 が社員への還元 を実現させる
内部留保はいざというときに企業も社員もまもるための資金として貯めておく必要のあるものです。しかし、企業が溜め込むばかりでは、何のためにがんばって業績を伸ばしているのかわからない、と社員のなかに不満が出る可能性も高くなります。
使い方が大切なのです。
じっさいに、内部留保を何%程度持つべきなのか、という基準はありません。貯まった資金を何のために使うのか、を意識することが大切でしょう。
たとえば、設備投資を行い、業務負担を軽減するためにAI機能が搭載されたシステムを導入するために内部留保から資金を出すだとか、既存のシステムがレガシー化しているため、刷新するための資金に使うなど、社員の働き方が改善され、さらに利益を生み出せる環境を整えることへの投資に使うことを意識すべきでしょう。
また、人への教育投資も重要です。社員への研修や教育機会の提供、あるいは有能な人材を高い給与で雇い入れることも必要な場合があるでしょう。 もちろん、他社と比べて給与水準が低い場合は、内部留保を貯めているより、社員の賃上げに使うべきです。
利益を生み出すことは企業にとっては「真」の命題ですので、利益追求の姿勢は問題ありません。ただ、その利益を社員への還元という意識で経営判断を行うことが今後はますます必要になると考えられます。
その判断が、他社との競争に打ち勝ち、有能な人材を確保することにもつながると考えられます。安定した経営と、社員への利益還元のバランスを考えた経営判断が企業の成長を左右するといえそうです。
- 経営・組織づくり 更新日:2024/06/20
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