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雇用の流動性と賃上げの関係

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日本は世界的にみると人材の流動性が低いとされています。新卒でひとつの企業に就職すると、定年退職を迎えるまで働き続ける、いわゆる終身雇用制度を採用している企業が多く、労働者側もそれが基本だと考えているのが現状でしょう。

一方、労働力人口が減少しているなか、人材移動をさらに活発化させて、有能な人材が自分の力を存分に発揮できる企業へと転職しやすくする雇用市場の改革が必要だとする声も高まっています。

また転職以外にも、副業や兼業などを自由に選択して力を発揮できる環境を提供することで、生産性の向上をめざしたいとする企業も増えています。今回は、雇用の流動性と賃上げの関係を探ってみましょう。

雇用の流動性の自由度と国際比較

極端な話ですが、企業の立場から考えた雇用の流動性の自由度が高ければ、たとえば賃上げが経営の負担になるリスクがあれば、給与が高いけれどスキル的に求める人材ではないと判断できるケースに当てはまる従業員を解雇することもやりやすくなります。

また労働者にとっては、スキルアップによって高額の給与で雇用してもらえる可能性が高まり、自分の実力が活かせる企業と労働契約を結ぶことへのモチベーションが高まる可能性があります。

では、雇用の流動性の自由度は日本においてどのような状況なのでしょうか。

法的にみた日本の解雇の自由度(民法第627条)

民法の第六百二十七条には、「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」とあり、二週間前に解雇を従業員に伝えれば、雇用者は解雇ができることになっています。

また「期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。」ともあり、期間が定められた雇用の場合は、雇用期間の前半に契約の解約を伝えれば解雇が可能です。

さらに「六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。」とあることから、六箇月以上の期間の雇用契約であっても、三箇月前に解雇を伝えれば、可能です。

つまり、企業側から従業員を解雇することは比較的容易であることが民法からは伺えます.

しかし、実際は合理的な理由がない解雇は「解雇権の濫用」と判例が出ています。また、労働基準法のなかにも明文化されていることから、人件費を削るためなどの理由によって不当に解雇をすることは社会通念的に正しいことではないと判断されることになります。

世界にみる雇用の流動性と日本の現状を比較

日本では労働基準法のなかに明文化されていることもあり、人件費を削減するという理由だけで、不当に従業員を解雇することは認められていません。また社会通念的にも雇い入れ側の都合による従業員の解雇は消費者から批判される傾向があり、企業イメージを損ない、経営を左右しかねないおそれもあります。

そのため、日本においては、経済が収縮し、企業の業績が思わしくない状態であっても、従業員を解雇せず、雇用調整助成金等を活用して休業補償等を行いながら雇用を維持する傾向にあります。

一方、世界、とくに米国においては、企業の経営状態が悪い場合には、すぐに従業員を解雇し、人件費を削るという手段をとる傾向にあります。

たとえば、「2022 White Paper on International Economy and Trade (通商白書)」のなかに示されている「失業率及び非雇用指数の推移」をみると、新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年4月の失業率は極端に跳ね上がり、22.4%に達しています。

同じ資料での比較ができませんが、厚生労働省が公表している資料 によると2020年には、日本における有効求人倍率、完全失業率ともに悪化し、完全失業率は10月に3.1%まで上昇した、と記されています。

つまり、日本においては、米国同様に経済状態が悪化し、経営が思わしくない時期であっても、すぐに解雇という手段によって経営の存続を考える企業が少なかったことが伺えます。

米国と日本の企業意識、社会通念の差を背景に、従業員の状況を考察すると、雇用の流動性が高ければ、経営が厳しくなれば解雇されるリスクがあるけれども、能力や必要とされるスキルを身に付けていれば、高く評価され好条件の企業に継続的に雇用される可能性もあると考えられます。

いいかえれば、雇用の流動性は働く側のスキルアップへの意欲を高め、同時に企業側にとっては、高い給与を支払ってでも求めるスキルを保有している人材を確保する意識が強くなるといえそうです。

雇用の流動性と雇用システム の関係

雇用システムを大きく分けるとメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用が考えられます。それぞれの特徴と雇用の流動性との関係をみておきましょう。

メンバーシップ型雇用

日本の多くの企業は基本的に終身雇用による年功賃金を採用しています。一般にメンバーシップ型雇用と呼ばれている雇用システムです。

  • 職務を決めて採用する方式ではない
  • 年功によって給与が上がる
  • 雇用の流動性は低い

職務を決めて採用する方式ではない

この雇用システムでは、雇用契約のなかに労働者がどのような職務を担うべきなのかについては明記されていません。そのため、どのようなスキルや能力があるかという指標ではなく、何年勤めているのかといった年功によって定められることが基本とされています。

また、メンバーシップ型の雇用形態においては、労働者は会社に入社後、配属された部署で業務を覚え、担当することになります。基本的な知識や社会人としてのマナーは入社当時から問われますが、業務遂行に必要なスキルは入社後、身に付けることが一般的です。

しかしこの雇用形態のままでは、企業は必要な職務を担える人材を確保できない可能性が高まります。 そうなれば、十分に業務が遂行されず、事業に支障を来すことにもなりかねません。

なぜなら、職務内容を決めて人材を採用するのではなく、採用してから職務に振り分ける配置に仕方では、適材適所の人材が見つかるとは限りません。だからといって、余分に採用するだけの人材の数もない状況だからです。

年功によって給与が上がる

また、長年勤めている従業員が多いほど人件費が経営を圧迫する可能性があり、賃上げがしにくい状況を生み出すおそれがあります。

メンバーシップ型雇用は、労働者側にとっては、長年勤めればそれなりに給与が上がることが約束されているため、安心して働ける一方で、自分が修得したスキルや持てる能力を正当に評価されにくいこともあり、働く意欲やスキルアップへのモチベーションが保ちにくい状況であるともいえます。

雇用の流動性は低い

メンバーシップ型雇用では、安定して長年勤めることで給与が上がるため、ひとつの企業で定年まで勤めることへの意識が生まれます。つまり転職をする従業員が極端に増えることはないと考えられます。雇用の流動性という観点からすると低い状態になるといえます。

ジョブ型雇用

ジョブ型雇用は雇用契約に労働者の職務を明確に規定し、その職務に基づいた賃金が定められる仕組みです。

  • 能力に応じた賃金
  • 雇用の流動性は高い

能力に応じた賃金

その結果として、労働者が修得したスキルや持てる能力を十分に発揮する機会が約束され、また納得のできる賃金が支払われることで働く意欲やさらなるスキルアップへのモチベーションが高まる可能性があります。

雇用の流動性は高い

またジョブ型雇用では、自分がさらなるスキルや経験を積むことで、より高額な賃金で雇用契約が結べる可能性が高いため、転職とスキルアップを積極的に考える労働者が増える可能性があります。

企業にとっても、必要なスキルを持った人材を雇用しやすくなると考えられます。雇用の流動性という点では、高い状態になるといえます。

雇用の流動性を促すジョブ型雇用 は賃上げしやすい状況へとつながる可能性がある

賃上げができる経営状態を維持するためには、利益を上げ続けることが必要です。業務を効率的に正確にこなす人材が確保され、求める作業を期待以上に実行するスキルの高い人材が揃っている企業では、イノベーションを起こす可能性も高く、利益を伸ばし続ける可能性も高いと考えられます。

こうした環境を実現するには、労使ともに意識改革が必要です。労働者側は自分の実力を正しく評価してもらい、納得できる賃金で雇用契約を結びために、スキルアップを心がける必要があります。使用者側(企業)は、従業員が実力を発揮できる機会やスキルアップの機会の提供、スキルに応じた賃金の支払い等、条件や環境を整える必要があります。また人材への投資を重要視する姿勢も重要です。

このようなジョブ型雇用が広がれば、雇用の流動性が促され、スキルに応じた賃金が支払われる契約構造へと変わっていくことが予想されます。

一方で、超高齢社会の日本において、65歳を過ぎても働きたいという意欲のある労働者が安心して、納得して働ける環境も構築しておく必要があります。こうした取り組みは労働年齢人口が減少する日本社会において、企業にとっても必要な取り組みです。

いいかえれば、人材の個性、能力、経験、スキルを正当に評価できる指標と、人材へと投資を惜しまない姿勢が企業の将来を左右するとも考えられそうです。

  • Organization HUMAN CAPITALサポネット編集部

    HUMAN CAPITALサポネット編集部

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  • 経営・組織づくり 更新日:2024/06/20
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