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大手企業で大幅賃上げが実現できたのはなぜか。要因と背景を探る

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2024年の春闘では大幅な賃上げが実現されました。その背景には、賃上げを必須の課題として声を上げてきた政府による圧力や粗利の増加などのほかに、バブル期入社世代が退職時期を迎えるなど、社会情勢の変化が考えられます。

ただし、こうした背景によって賃上げ実現が可能になったのは基本的に大手企業です。大手企業が大幅賃上げを実現できたのはなぜでしょうか。その要因と背景を探ってみましょう。

賃上げと社会経済の関係

賃金や労働時間などの勤務条件が労働基準法で定められています。

賃金は労働基準法第24条において、通貨で、直接労働者に、全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払うものとされています。そのうえで労働者と使用者が交渉によって、法律の定めの範囲内で変動することがあると解釈されています。

賃上げは基本的にベースアップ(ベア)と定期昇給が考えられます。春闘で毎年のように労使交渉が行われ、ベースアップの交渉が広く社会でも注目されています。こうした労働者組織と使用者側の交渉によって労働環境を改善したり、基本給の見直しがなされたりしています。

なかでも世界的にも名前を知られているような大手企業の春闘の動向はその他の中小企業へも大きな影響を与えるので、注目が集まります。では、どのように春闘で注目を集める賃上げは決められるのでしょうか。

賃上げに大きく影響をするのが、企業の業績や社会経済情勢、それと労働力の動向です。

労働力不足は賃上げの材料になる

企業を継続的に発展させ、安定した運営をささえるのは労働力です。どのような事業を展開するにも、労働力が不足していたのでは実現できません。もちろん適材適所ですから、労働者側も必要とされる能力を身に付けることは前提です。

そうしたなかで、人材不足が大きな課題となっている現状においては、基本給を上げて労働環境の魅力をアピールすることで人材確保を模索する企業の動きは活発化します。「売り手市場」と呼ばれる現象がそれです。

新卒採用において初任給を高めに設定したり、さまざまな手当てを支給したり、企業側が労働者に向けた賃金面での増額を図る動きは労働力数の影響を受けると考えられます。

好景気はベースアップがしやすくなる

たとえば、バブル経済であった時代は日本のどの地域においても好景気といわれた時代でしたから、賃上げは企業規模の大小にかかわりなく行われました。

バブル世代が60歳 を迎え、給与水準の削減時期に入る

バブル世代というのは、1986〜1993年に入社した人たちを指します。この世代の従業員が60歳を迎え、給与水準が削減される時期に入ります。日本の企業は終身雇用、年功序列で雇用をしているところが多いため、長年勤めている従業員が多いと、支払う給与等の人件費は多くなる傾向にあります。

バブル世代が入社した当時は、大量一括採用で多くの大卒者が大手企業に就職をしました。そのため、バブル世代に対する人件費は年々上昇してきたことになります。そのバブル世代の従業員が60歳を迎えるとなれば、彼らが賃金水準が下がる年代に入るので人件費が下がることになります。

つまり、大幅な人件費削減が実現できる可能性が高いため、代わりに若手のベースアップが行いやすくなると考えられます。

インフレによる賃上げの関係

経済がインフレ状態になると商品やサービスの価格が上昇します。そうした経済情勢のなかでは、生活に関わる消費が増え、消費者は収入が増えないと生活が苦しいと感じるようになります。その結果、労働者からは賃上げ要求がでることになります。

また政府も支持者である市民の情勢に応えるために賃上げを後押しする動きを活発化させることになります。一方、企業においては、経営が圧迫されているインフレ経済状態のなかで、人件費が急激に増えることへの懸念が生じることもあります。

日本政策投資銀行が2023年12月に調査をした「生活意識に関するアンケート調査」では、「1年前と比べて物価が上がったと感じる」人の割合は9割を超えています。また、「今後1年間の支出にあたっては物価を考慮する」とした人はおよそ7割です。

こうした消費に対する考え方の動向をみると、物価高による節約志向が強まり消費を控える動きが強まると考えられます。この背景には、実質的な賃金上昇が伴わないインフレ型の物価上層が続いていることが伺えます。さらにこの傾向が継続されると、景気は下降するおそれもでてきます。

大手企業における2024年賃上げの動向 と背景

2024年の春闘の第2回回答では、基本給を底上げするためのベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせた賃上げ率は平均で5.24%と発表されました。中小企業では4.50%との賃上げ率となり、中小企業での賃上げへの積極的な姿勢がみられた結果となりました。

大手企業と中小企業双方において賃上げの動きはみられたものの、大手企業と中小企業では格差が目立つ結果となったのも事実です。ではそれぞれの背景を探り、賃上げの動きへの影響を考えてみましょう。

大手企業が実現 できた背景1:利益剰余金(内部留保)の蓄積

人材不足が深刻化するなか、大手企業は優秀な人材を確実に採用したいという思いが強まっていると考えられます。そのためには学生や求職者に魅力的に受け止めてもらえる給与等の改善にも取り組む姿勢があったのでしょう。

また利益剰余金(内部留保)の大きさから考えると大手企業においては賃上げを後押しする条件が揃っていたといえそうです。

財務省が公表している「法人企業統計調査(2023年10〜12月期)」 をみると全産業における利益剰余金は644兆3,386億7,900万円でした。この数値は全産業においてですから、大手企業だけではありませんが、利益剰余金の大半は大手企業の内部留保であると考えられます。

利益剰余金を資本金の規模別でみると、資本金が10〜100未満(単位:百万円)の産業では、189兆279億6,200万円、資本金100〜1,000未満(単位:百万円)の産業では、93兆2,999億1,800万円、資本金1,000以上(単位:百万円)の企業では、362兆107億9,900万円でした。つまり、2023年10〜12月期の利益剰余金の半数は資本金10億円以上の企業が稼ぎ出しているのです。

資本金の規模

利益剰余金

割合

全産業

644兆3,386億7,900万円

10〜100未満(単位:百万円)の産業

189兆279億6,200万円

29.3%

100〜1,000未満(単位:百万円)の産業

93兆2,999億1,800万円

14.5%

1,000以上(単位:百万円)の企業

362兆107億9,900万円

5.6%

利益剰余金が増加しているということは、売上原価の増加に対して、それ以上の販売価格の引き上げを行い、価格転嫁に成功して、利益を伸ばしてきたということです。 つまり、大手企業においては、賃上げを実現できる原資が蓄えられていたことが背景にあったといえそうです。

大手企業が賃上げできた背景2:同調圧力

消極的な理由だともいえますが、政府、労働者からの賃上げに対する圧力が例年以上にかかったこともひとつの背景として考えられます。

こうしたなか、同業他社間で他社の賃上げへの積極的な取り組みに関する情報が伝わったことで自社が見劣りすると新規採用に大きな影響がでると不安感が高まり、賃上げに拍車がかかったといえそうです。その背景には日本特有の考え方も影響しているかもしれません。

他社に合わせるのが最も安心である、という考え方です。とくにライバル視している他社が賃上げをするなら自社も賃上げをするという動きになるのです。今回は、社会全般に、賃上げを実現した企業への高評価が想像できたため、大手企業の大半が賃上げ、それも大幅な賃上げに踏み切ったことが考えられます。

根本的な背景としては、やはり人材不足、労働力確保の困難さが伺えます。

大手企業が賃上げできた背景3:バブル入社組が60歳に

上述したように、バブル期入社組が60歳を迎えます。60歳を超えると給与水準の削減を受ける時期になります。バブル期世代は一括採用で大手企業に大量に入社した世代です。また年功序列で年々上昇してきた給与水準は人件費を増大させつづけ、経営を圧迫してきたことも想像されます。

そうした多くのバブル期入社組が60歳を迎えることで、給与水準が下がる従業員が増えることになり、人件費の増加が抑えられる結果になります。その分を若手社員の賃上げに回せる可能性が高まったと考えられます。

大手企業が実施した賃上げの実績

賃上げの背景や賃上げが可能な状況などを見ていくと、賃上げには人材確保のための取り組みとしての大きな意味もあることが見えてきました。では、大手企業が実施した賃上げ、なかでも人材確保を意識した実績をみておきましょう。

2024年4月に株式会社帝国データバンクが公開した「緊急調査 2024年度賃上げ実績と初任給の実態アンケート」を参考にすると、大手企業の8割近くが賃上げを実現させました。

なかでも製造業のベースアップの牽引する大手企業であるトヨタ自動車グループ では、5.08%のベースアップを実現させ、定期昇給と合わせて前年の1万102円を上回る1万4074円でした。

初任給アップも実施

賃上げの背景に人材確保への準備でもあることがみえてくるなか、新卒採用状況も確認しておきましょう。

2024年度入社の新卒社員の採用状況は大手企業の76.2%で採用を実施するとしています。 同調査のなかで、新卒社員の採用があるとした企業が予定している初任給額は、20〜24万円とした企業が57.4%で最も多く、15〜19万円とした企業(33.3%)がそれに次いでいます。なかには初任給30万円以上としている企業が0.2%ですが存在しました。

大手企業やメガバンクなどは初任給を大幅にアップさせて、人材確保への好条件を提示できる体制を打ち出したかたちです。

企業力を高める好循環を創るためにも、従業員の生活を安定させる賃上げは重要

賃上げは従業員が働く意欲を高く維持し、創造的な活動を積極的に行うためには必要な施策です。企業が競争力を高め、DXの推進をはじめ、さまざまな社会変化に的確に対応できるかどうかは、従業員ひとりひとりのモチベーションやエンゲージメントの高さが影響するものです。

企業規模の大小をとわず、賃上げを継続的に実現させ、従業員の生活を安定させたうえで、持てる能力をフルに生かして働ける環境を創るためには、企業は賃上げできる原資の確保に取り組まなければなりません。

今期、大幅賃上げを実現させて大手企業においても、こうした好循環を生み出すためには経営者として以下の点を意識しておく必要があります。

価格転嫁の適正

価格転嫁というのは原材料や光熱費、人件費が上昇した分を下請事業者が発注事業者に対して製品代金、サービス価格に上乗せをすることです。

大手企業の事業の一環を担うかたちで中小企業や個人事業主が製品、サービスの一部の製造に関わっている場合、下請となる中小企業や個人事業主から契約期間中に価格転嫁を申し出られた場合、そうした申し出に対応しなければなりません。そのうえで、自社の製品、サービス価格を見直し、上昇下分を適正に転嫁する必要があります。

労務費交渉が当然の権利として行える環境づくり

上記のように下請事業者が価格転嫁をして、製品代金やサービス価格の見直しを申請しようとする場合、長年の取引関係のうえに成り立った契約を破棄されるのではないか、あるいは、他の下請事業者へ乗り換えられるのではないかと心配して、正当な労務費交渉が行えない圧力がかかることがあります。

こうした状況は適正な市場価格を維持するうえでも問題ですし、労働者の就労環境をも悪化させるおそれのあるものだと考えられます。発注事業者の経営者は労務費交渉が当然の権利として行える関係性を取引先事業者と築き、そうした環境を創っていく必要があります。

高付加価値の商品・サービスの創造

消費者の価値観やニーズが多様化するなかでは、価格が安いから売上が伸びるというのは一部のケースです。適正価格の範囲であれば、安さが際立つものよりも、同様の製品やサービスのなかで付加価値の高いものが選ばれる傾向にあります。

製品やサービスの開発において、マーケティングを徹底して行い、顧客の消費行動を把握し、求められるものを創るという姿勢で臨むことが重要でしょう。

このような取引先との良好な関係構築や高付加価値の商品・サービスの創造を見直したうえで、客観的な数字(財務諸表に現れる数値等)をもとに、将来にわかって賃上げできる原資の確保について見通しをたてておきましょう。

  • Organization HUMAN CAPITALサポネット編集部

    HUMAN CAPITALサポネット編集部

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  • 経営・組織づくり 更新日:2024/06/20
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