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賃上げを可能にする財務分析

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高い賃金を支払うことで企業の魅力を高め、人材を採用しやすい条件を整えていくというのは人材不足の時代において、効果的な方法のひとつです。しかし、賃金を上げるには、原資となる売上を安定して伸ばしていくことが重要です。

賃上げの実施を求める動きは政府の強い姿勢もあって、多くの企業において賃上げは活発化していますが、賃上げが現状の経営を圧迫しては意味がありません。

今回は、企業の魅力のひとつとして魅力的な賃金を設定するために、賃上げを実施する際、まず確かめておくべき財務状況についてみていきましょう。

財務分析の必要性と実施する意味

自社の財務状況を分析することで経営の状況や賃上げが可能なのかも把握することができます。

財務分析とは、会社の経営を客観的で事実に基づいた数字を基に「改善する点はないか」「問題はないか」「これから実施する施策の財務的見通しに問題はないか」をチェックすることです。

具体的には貸借対照表や損益計算書等の財務諸表の数字に基づいて、会社の収益は確保できているか、安全性は保たれているか、生産性は伸びているか、成長性は期待できるか等を分析します。

財務分析を行うことで、経営危機を回避することも可能になり、また、将来の会社の利益も予測できます。さらに、正確な財務分析によって現状把握と今後を予測をすることで、経営に必要な意思決定ができるようになります。

財務分析と賃上げの関係

賃上げをするということは、人件費が増加することを意味します。つまり、それを補うだけの売上を継続的に稼ぎ出す体制を構築する必要があるということでもあります。

現状の経営がどのような状況にあるのかを客観的に判断しておくことが重要です。そうした判断をせずに、社会が賃上げへ動いているからその流れに追随する感覚で賃上げを実施すれば、経営を圧迫するおそれもあります。

まずは、財務分析を実施し、財務状況を理解したうえで、さらに、人件費の支払い能力尺度として付加価値の年間総額の増減、価格変動に左右される付加価値率の高低値、労務分配率、従業員1人当たりの付加価値の増減費、総資本経常利益率の高低値の5つを再確認してみましょう。

賃上げは原資となる売上が確保でき、将来的に生産性、成長性ともに伸びる期待が高いときに実施できるものです。

実務上の支払い能力を測定するための5つの尺度

財務分析を実施し、会社の経営状態を理解したうえで、さらに実務上の支払い能力を測定することが必要です。 具体的に「付加価値の年間総額」「付加価値率」「労働分配率」「従業員1人当たりの付加価値」「総資本経常利益率」の5つの尺度についてどういった内容の数値なのかを確認しておきましょう。

  • 付加価値の年間総額の増減
  • 価格変動に左右される付加価値率の高低値
  • 労務分配率
  • 従業員1人当たりの付加価値の増減費
  • 総資本経常利益率の高低値

付加価値の年間総額

企業は外部から原材料を購入したり、外注先に材料一部を発注して制作したりしたものを基に、社内の経営資源を活用して価値を加えたうえで商品やサービスと創造し、販売しています。この過程において加えられた価値のことを付加価値といいます。

付加価値額を計算する方法は2種類あります。
控除法と加算法です。

控除法というのは、自社の売上高から外部からの仕入れや、外注先への支払い部分を控除して計算するものです。

付加価値額=売上高−外部購入額(材料費、部品費、商品購入費、運送費、外注加工費など

加算法というのは、自社が生み出した価値を加算していく方法で計算するものです。

付加価値額=人件費+賃借料+金融費用+税金+当期純利益

付加価値額が高ければ、商品やサービスを提供することで得られる収益も高くなります。つまり、経営状況が安定していることにも結びつきます。また付加価値額は企業の競争力を示す数値でもあり、それが高いことは競争力が高いと考えられます。

価格変動に左右される付加価値率

付加価値率というのは、売上高に占める付加価値額の割合です。

付加価値率(%)=付加価値額÷売上高×100

付加価値率が高いということは、企業が創造した価値の割合が大きいことを示しています。
付加価値率が高いほど、原価に利益を上乗せすることができたことを意味しています。また収益性が良いとも判断できます。

労働分配率

労働分配率というのは、付加価値に占める人件費の割合です。

労働分配率(%)=人件費÷付加価値(粗利益)×100で計算します。

労働分配率が高いということは、利益に対する人件費の割合が高いということです。この数値が同業種と比べてかなり高い状態なら、人件費が経営を圧迫するおそれがあるともいえます。 また労働分配率が低いと利益に対して過剰な労働を強いている可能性もあります。つまり人手不足の懸念もあります。

どれくらいの労働分配率が適正なのかについては、経済産業省が目安 を公表しています。それによると主な業種で、製造業は47.7、卸売業は43.8、小売業は49.1です。 また、中小企業庁が示している「中小企業白書(2022年版)」 のなかに企業規模別の労働分配率の推移が示されています。それによると、大企業においては、おおよそ57%、中小企業であれば80〜86%が目安となるといえます。

大手企業に比べて中小企業の労働分配率が高くなるのは、いくつかの理由が考えられますが、ひとつは中小企業においては、人手のかかる事業を営んでいることが多く、その分、人件費が高くなるためと考えられます。もうひとつは、大手企業に比べると利益水準が低いことも考えられます。分母となる付加価値(粗利益)が小さいので労働分配率が高くなるのです。

従業員1人当たりの付加価値

従業員1人当たりの付加価値額というのは、従業員1人がどれくらいの利益を生み出せたかを判断する数値です。 付加価値労働生産性という指標で求めることができます。

付加価値労働生産性=付加価値額÷労働量(従業員数)

付加価値労働生産性の数値が高いほど、従業員1人当たりの生産性が高いといえます。つまり、効率良く人的資源が生かされ、利益に結びついているということです。

総資本経常利益率

総資本経常利益率というのは、一般にROA(Return on Assets)とよばれるもので、経常利益の総資本に対する割合のことを指します。企業の総合的な収益性を知るための指標として用いられます。総資本経常利益率が高い場合は、投下した資本が有効に活用されて高い収益性を示しています。

総資本経常利益率(%)=経常利益÷総資本(期首・期末平均)×100

財務分析の5つの種類とみるべき指標

改めて、財務分析を行う目的と財務分析の種類を確認しておきましょう。まず、財務分析には主体となって分析を行うのは誰であるかによって「内部分析」「外部分析」に分けることができます。

内部分析

経営者等が主体となり、経営内容を把握し、意思決定や経営判断の基とするために行います。

外部分析

外部の関係者、たとえば投資家や金融機関、国・地方自治体等が主体となって対象企業の将来性や信用状況、経営活動の実態や問題点を予測・把握するために行います。

今回は企業内で行う「内部分析」を確認しておきましょう。(以下、財務分析は内部で行う内部分析を指しています)

財務分析は目的によって分析方法を選択する必要があります。基本的なものは「収益性分析」「安全性分析」「生産性分析」「成長性分析」「活動性分析」等の5つの分析です。 財務分析は、何を知りたいのか、によって分析方法を変えて、使い分けるもので、それぞれの分析方法によって使う指標 も異なります。 ここでは基本的な5つの分析と使用する指標をみておきましょう。

  • 1.収益性分析
  • 2.安全性分析
  • 3.生産性分析
  • 4.成長性分析
  • 5.活動性分析

1.収益性分析

活用した資本が効率良く利益を生み出しているかどうかを把握し、企業の「利益を生み出す力」を売上高や資本に着目して分析するのが収益性分析です。

指標

粗利率

大まかな利益率を知りたいときには、売上高総利益率(粗利率)を使って分析します。粗利率は売上高に対する売上総利益の比率であり、利益率を表す基本的な指標です。

売上高営業利益率

営業活動や企業運営がどれくらい効率的に行えているかを知りたいときは、売上高営業利益率を指標に使います。これは売上高に対して、どれくらい営業利益が残っているかを表した数字(売上高に対する経費がどれくらいかを示す数字)です。比率が高いほど利益が残っている状態を示しています。

総資本経常利益率(ROA)

資本に着目して、企業の資本を有効に活用できているかどうかを知りたいときに使う指標です。

2.安全性分析

企業がどれくらいの支払い能力を有しているのかを判断するときに活用するのが安全性分析です。流動負債や株主資本に着目した分析方法です。分析した数値は流動比率が高いほど支払い能力が高いことを示します。つまり倒産のリスクは低いといえます。

指標

自己資本比率

この指標は、経営がどれくらい安定しているのかを把握するために用いるものです。企業が長期にわたり経営が安定していると判断できるかどうかを確認するためのものです。

株主資本比率

財務の安定性を図るときには、株主資本比率を指標に用います。株主資本比率が高いということは、返済義務のない資金が多きことを示しています。つまり、すぐに支払う必要のある現金は少なく、安定した財務状況であることがわかります。

流動比率

企業が1年以内に獲得できる現預金の額を示す流動資産と、1年以内に支払う必要のある現預金の額を示す流動負債とを比較した数値が流動比率です。流動比率が小さいなら短期的な支払いが多い状況を示しています。いいかれば、財務の安定性は低いと考えられます。

3.生産性分析

生産性分析は、経営資源が効率的に活用でき、売上や付加価値を生み出しているかどうかを把握するために行う分析方法です。注目するのは経営資源の「ヒト・モノ・カネ・情報」がどのように活用されているかをみます。

指標

労働生産性

労働者1人当たりの売上総利益率がどれくらいなのかを確認するときに使う指標が労働生産性です。この数値が高いほど、労働者が十分なパフォーマンスを発揮しているといえます。。

労働分配率

自社が販売している商品やサービスの付加価値に占める人件費の割合を確認するときに使うのが労働分配率という指標です。労働分配率が低いと労働環境が悪いと判断されることもあります。しかし、労働分配率が高い場合には、収益を圧迫していることにもなり、利益の上がらない状況に陥っていることも懸念されます。

4.成長性分析

企業が今後、どれくらい成長できるかを判断するときに用いるのが成長性分析です。売上、利益といったお金が流れだけではなく、企業の強みや特性から将来性を考える分析です。

指標

増収率

前年と比べて売上高がどれくらい増減したのかを示す指標です。企業がどの状態(成長期なのか安定期なのか)にもよるため、数年度の伸び率を確認することが基本です。

増益率

前期の経常利益に比べて今期の経常利益がどれくらい増加しているかをみるための指標です。 増収率と増益率を合わせて検討することで、成長しているかどうかを判断します。

EPS

1株当たりの当期の純利益を把握するときに用いる指標です。さらに、株価をEPSで割った数値(株価収益率)を指標として使うと、株価が適正であるかどうかの判断ができます。 株主や投資家にとって企業の成長性は関心が集まる事項ですから、成長性分析によって、自社の将来性を把握するとともに、株価が適正であるかをみながら明確な基準で判断することが重要です。

5.活動性分析

在庫や固定資産を効果的に活用して売上を増やせているかどうかを確認するときに用いるのが活動性分析です。

指標

棚卸資産回転率

適正な在庫数が管理されているかをみるための指標が棚卸資産回転率です。回転率が低いのは過剰在庫があることになるので、生産と在庫、販売がうまくいっていない可能性が示唆されます。

固定資産回転率

固定資産が有効に活用できているかを確認するときに用いる指標が固定資産回転率です。この回転率が高いほど、固定資産は効果的に活用できていることになります。

労働分配率を適正に保ちながら付加価値を高めることで賃上げ可能な構図が生まれる

5つの尺度を紹介しましたが、注目しておきたいのは労働分配率です。労働分配率を理解することで、付加価値を生み出すためにどれくらい人件費がかかっているのか、またどのような労働環境であるのかを知ることができます。

注意しておきたいのは労働分配率が低い場合です。基準となる数値よりもかなり低い場合は、あきらかに過剰労働の状態です。つまり人手が足りません。業務フローを見直し、単純作業や繰り返し作業については自動化を図る必要があるでしょう。また積極的にデジタル化を進めたり、AI技術の活用を考えたりしながら、従業員の業務負担の軽減と業務効率化へ取り組みましょう。

賃上げのひとつ目的は人材採用を有利に進めることでもありますが、まずは業務改善をすることで、既存の従業員の働きやすい環境を整えることが先決です。

業務に潜むムダ・ムリ・ムラな部分を省き、利益を生み出す構造を作りましょう。利益が安定的に生み出せる体制が整えば、賃上げも無理なく行えるようになり、従業員のモチベーションアップはもちろんのこと、人材採用にむけて好条件を提示することもできると考えられます。

  • Organization HUMAN CAPITALサポネット編集部

    HUMAN CAPITALサポネット編集部

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  • 経営・組織づくり 更新日:2024/06/20
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