賃上げ事例12選!大手企業・中小企業の取り組みを紹介
賃上げとは、企業が従業員(正規雇用・非正規雇用含む)の賃金を増額することです。 従業員の賃金水準を一律で引き上げる「ベースアップ」と、個人の年齢や勤続年数に応じて賃金を引き上げる「定期昇給」の2種類の方法によって行われるのが一般的です。
近年、物価上昇や人材不足といった背景から、2023年に引き続き、2024年も賃上げ実施の動きが活発化しており、2024年の春闘(※)では、前年同期を大幅に上回る高い賃上げ水準の傾向が見られています。
大企業をはじめとする各社が積極的に賃上げに取り組んでいることからもわかる通り、賃上げを行い、従業員が経済的な不安を抱えることなく仕事に集中できる環境を整えることは、企業の社会的責任ともいえるでしょう。 賃上げを実施することで、企業の社会的イメージや、競争力を高めることにも繋がっていきます。
今回は、企業の賃上げ事例を12選紹介します。大企業だけでなく中小企業の具体的な動きについて見ていくことで、賃上げをめぐる企業の対応について理解し、自社に必要な対応を検討してみましょう。
※春闘(しゅんとう)……毎年春に行われる、賃金の引き上げを中心とした労使交渉。大企業の労働組合をはじめ、日本の主要な労働組合が連携し、同じ時期に統一的に要求することで、企業に対する交渉力を高める目的がある。
【2024年版】企業の賃上げ事例12選
企業名 |
業種 |
企業規模(従業員数) |
賃上げの内容 |
---|---|---|---|
株式会社ニトリホールディングス |
家具・インテリア用品の企画・販売、新築住宅のコーディネートなど |
18,934人(2024年3月時点) |
● 総合職社員のベースアップ(月例給で最大5.3万円の処遇改善となるよう手当を改定)
|
アサヒロジスティクス株式会社 |
食品物流 |
6,575名(2023年3月末時点) |
● 新卒初任給を22万1,000円から25万1,000 円へ引き上げ(113.1%の賃上げ率)
|
株式会社レオパレス21 |
アパート・マンション・住宅等の建築・賃貸管理および販売 |
3,853人(2024年3月31日時点) |
● 非管理職の正社員に対して一律月額1万1,000円のベースアップを実施(定期昇給を含む平均6.1%の賃上げ)
|
株式会社湖池屋 |
スナック菓子の製造・販売 |
945名(2023年3月31日時点) |
● 賃上げ率9%(ベースアップ6.3%含む)を実施
|
エレコム株式会社 |
パソコンおよびデジタル機器関連製品の開発・製造・販売 |
716名(契約社員・パート社員228名)(2023年3月31日時点) |
● 正社員だけでなくパート社員も含めたベースアップを実施(正社員一律5,000円、パート社員は時給30円引き上げ)
|
株式会社TOKYO BASE |
セレクトショップの運営、オリジナル商品の小売販売 |
380人(2024年5月時点) |
● 新卒採用初任給を一律30万円から40万円へ引き上げ
|
株式会社ドリーム・アーツ |
大企業向けクラウド製品の企画・開発・販売 |
240人(2024年12月時点) |
● 新卒初任給を44%引き上げ(年収350万円から504万円に引き上げ) |
株式会社未来ガ驚喜研究所 |
デザイナーズブランドの買取および販売など |
180名(2024年時点) |
● 全社員の固定給を3万円引き上げ
|
ファーストキッチン株式会社 |
ファーストフードチェーンの経営およびフランチャイズ事業の展開 |
正社員180名(アルバイト・パート 3,000名)(2024年5月時点) |
● 基本給を一律12,000円引き上げ、ベースアップと定期昇給を合わせて平均6%の給与水準引き上げ |
大和財託株式会社 |
不動産を活用した資産運用コンサルティング事業 |
130名(2023年9月時点) |
● 全社員を対象に平均10%の給与水準引き上げ
|
株式会社コインパーク |
駐車場の運営・管理、 駐車場の企画・コンサルティングなど |
81名 (2022年9月時点) |
● 新卒採用初任給を前年度28万円から一律33万円へ引き上げ(賃上げ率約18%)
|
株式会社IMOM |
飲食店運営および、障がい者就労支援事業 |
70名(2024年4月時点) |
● 9,000円の賃上げ(ベースアップ単体での賃上げ率は4%) |
2024年5月現在、日本労働組合総連合会の公表によると、3,733組合が賃上げを決定しています(2024 春季生活闘争の第5回回答集計(*1)より)。
賃上げは通常、経済的影響力が大きいことや政府側からの賃上げの要請などといった理由から、上場企業をはじめとした大企業が先行して表明します。 2024年5月現在、賃上げを表明している企業のうち12社を、従業員数が多い順に紹介します。
1.株式会社ニトリホールディングス
■ 事業内容:家具・インテリア用品の企画・販売、新築住宅のコーディネートなど
■ 従業員数:18,934人(2024年3月時点)
株式会社ニトリホールディングスは、21年連続で総合職社員のベースアップを実現しています。 また、11年連続でパート・アルバイト社員の時給引き上げも実現しています。2024年の具体的な取り組みは以下のとおりです。
- 総合職社員のベースアップ(月例給で最大5.3万円の処遇改善となるよう手当を改定)
- パート・アルバイト社員の時給を引上げ(※ 制度昇給以外)
- 新卒入社社員の初任給の引き上げ(四年制大学卒で1万5,000円、大学院卒で2万5,000円の引き上げ)
- 海外で活躍する従業員の給与を、年収ベースで最大18%増加
同社では、持続可能な成長と生産性向上のために、従業員のモチベーションを高め、人材の成長を促すことが不可欠と考えています。 この理念のもと、長年にわたり経済状況に左右されることなく、一貫して労働条件の改善を行っています。
今後、海外展開を強化することを見据え、海外で活躍する人材の賃上げにも取り組んでいる点が特徴です。
2.アサヒロジスティクス株式会社
■ 事業内容:食品物流
■ 従業員数:6,575名(2023年3月末時点)
アサヒロジスティクス株式会社は、食品物流に特化した企業です。 2024年4月から、大学新卒の初任給引き上げをはじめとして、従業員の給与待遇改善を実施しています。主な実施内容は以下のとおりです。
- 新卒初任給を22万1,000円から25万1,000 円へ引き上げ(113.1%の賃上げ率)
- 既存従業員に対して平均104.2%の賃上げ(基本給ベースアップと、業績考課に基づく定期昇給によるもの)
- 手当の見直し(転勤者の帰省費用の改定、赴任手当の新設、単身赴任手当の120%増額)
現在、ドライバー不足が深刻な問題となっている物流業界。 同社では、人材確保を目的に、従業員の働く環境を整備し、モチベーションを向上への取り組みの一環として賃上げを実施しています。 同社は、2022年から給与の見直しや年間休日の増加などの待遇改善を段階的に進めており、ドライバー職の給与待遇は2022年より3年連続で改善しており、累計で14%の引き上げを実現しています。
3.株式会社レオパレス21
■ 事業内容:アパート・マンション・住宅等の建築・賃貸管理および販売
■ 従業員数:3,853人(2024年3月31日時点)
不動産賃貸事業やリゾート施設の運営などを手掛ける株式会社レオパレス21の、2024年における賃上げに関する主な取り組みは以下のとおりです。
- 非管理職の正社員に対して一律月額1万1,000円のベースアップを実施(定期昇給を含む平均6.1%の賃上げ)
- 2025年度以降の新卒初任給についても、一律2万円引き上げることを発表
同社では、ベースアップを2期連続で実施しています。 人的資本の観点から従業員の働きやすさや成長機会の提供に注力しており、初任給の引き上げは、その一環として実施しています。
4.株式会社湖池屋
■ 事業内容:スナック菓子の製造・販売
■ 従業員数:945名(2023年3月31日時点)
菓子メーカーの大手である株式会社湖池屋が2024年に決定した、賃上げの主な取り組みは以下のとおりです。
- 賃上げ率9%(ベースアップ6.3%含む)を実施
- 大卒の初任給を2万円アップし、23万8,000円に
同社では、社員一人ひとりを経営上のかけがえのない財産として捉え、一人ひとりがワクワクと働ける環境を整備することに努めています。 2023年には、7月・10月と年2回の賃上げ(賃上げ率6.8%)を実施しましたが、この取り組みを2024年も引継いでいます。
5.エレコム株式会社
■ 事業内容:パソコンおよびデジタル機器関連製品の開発・製造・販売
■ 従業員数:716名(契約社員・パート社員228名)(2023年3月31日時点)
デジタル周辺機器のメーカーであるエレコム株式会社の、2024年の賃上げの主な取り組みは以下のとおりです。
- 正社員だけでなくパート社員も含めたベースアップを実施(正社員一律5,000円、パート社員は時給30円引き上げ)
- 役職手当の増額(役職に応じて30,000円/月、または50,000円/月を支給)
同社は、今後の企業成長のためには人材への投資が不可欠と考え、物価高の状況も踏まえて、 従業員の安定した生活を支援し、定着率の向上を図るために、2022年から毎年継続的に賃上げを行っています。
6.株式会社TOKYO BASE
■ 事業内容:セレクトショップの運営 オリジナル商品の小売販売
■ 従業員数:380人(2024年5月時点)
国内ブランドを取り扱うセレクトショップの運営や、オリジナル商品の小売販売を行う株式会社TOKYO BASEは、賃上げの主な取り組みとして以下を実施しています。
- 2024年4月入社以降の新入社員に対して、新卒採用初任給を一律30万円から40万円へ引き上げ(学歴、年次不問)
- 全従業員を対象としたベースアップ(全正社員の月額支給額が40万円以上となる)
同社は、ファッション業界の社会的地位向上を目指しており、収入の向上がその一環であると考えています。 また、グローバル展開も進めるにあたって、給与もグローバル基準に合わせる必要があるとして、適正な対価としての40万円へのベースアップを実現しました。
この給与改定により、これまでファッション業界に就業してこなかった人材の採用も目指します。
7.株式会社ドリーム・アーツ
■ 事業内容:大企業向けクラウド製品の企画・開発・販売
■ 従業員数:240人(2024年12月時点)
株式会社ドリーム・アーツは、大企業向けクラウド製品の企画・開発・販売、コンサルティングおよびシステム開発サービスの提供を行っています。 2024年は、賃上げの主な取り組みとして以下を実施しました。
- 新卒初任給を44%引き上げ(年収350万円から504万円に引き上げ)
同社では、年功序列型賃金体系を採用しておらず、社員が活躍に見合った十分な報酬を得られるように、相対的に給与が低くなりやすい若手の処遇改善に注力してきました。
継続的な賃上げの取り組みにより、若手社員の月給与額は、2019年から2024年までの5年間で27.9%アップしています。
8.株式会社未来ガ驚喜研究所
■ 事業内容:デザイナーズブランドの買取および販売など
■ 従業員数:180名(2024年時点)
アパレル事業を展開する株式会社未来ガ驚喜研究所は、2023年度に過去最高の営業利益を達成したことをきっかけに、長年計画していた給与のベースアップを2024年から実施します。 具体的な内容は以下のとおりです。
- 全社員の固定給を3万円引き上げ
- 賞与の予算を前年比185%に増加
上記の取り組みにより、全社的な平均年収は512万円から612万円に引き上げられる見込みで、アパレル業界では最高水準といえます。
他社と異なる特徴としては、同社では物価高騰への対応ではなく、ウェルビーイング経営の一環として賃上げを実施していることです。 アパレル業界の「稼げない」「残業が多い」「きつい」といったイメージを払拭するために、ウェルビーイング経営で成功しているアパレル企業のロールモデルとなることを目指しています。
9.ファーストキッチン株式会社
■ 事業内容:ファーストフードチェーンの経営およびフランチャイズ事業の展開
■ 従業員数:正社員180名(アルバイト・パート 3,000名)(2024年5月時点)
ファーストフードチェーンを展開するファーストキッチン株式会社は、2024年4月から、全正社員と全エリア正社員(勤務する地域が限定された契約社員)を対象に、ベースアップが実施されています。 基本給を一律12,000円引き上げ、ベースアップと定期昇給を合わせて平均6%の給与水準引き上げとなります。
ファーストキッチンの社員を対象にしたベースアップは、ファーストキッチンがウェンディーズ・ジャパンの傘下となった2016年以降では初めての試みとなります。
10.大和財託株式会社
■ 事業内容:不動産を活用した資産運用コンサルティング事業
■ 従業員数:130名(2023年9月時点)
不動産投資や管理、コンサルティング事業を展開する大和財託株式会社は、2024年の賃上げの主な取り組みとして下記を実施しました。
- 全社員を対象に平均10%の給与水準引き上げ
- 建築技術職(設計職・施工管理職)においては、4~20%の賃上げを実施
- 新卒社員は年収512万円から560万円に増加
建築業界では、1995年頃をピークに労働人口が減少傾向にあり、若い働き手を増やさなくては業界自体が衰退していく懸念があります。
同社は、随時給与改定を行っており、2023年9月には全正社員の給与を平均10%引き上げましたが、 2024年は、建築技術職を対象にさらなる賃上げを実施し、職業イメージや建築業界の概念を変えることを目指しています。
11.株式会社コインパーク
■ 事業内容:駐車場の運営・管理、 駐車場の企画・コンサルティングなど
■ 従業員数:81名 (2022年9月時点)
全国1600ヵ所以上の時間貸し駐車場を運営する株式会社コインパークは、2024年に賃上げの取り組みとして下記を実施しています。
- 新卒採用初任給を前年度28万円から一律33万円へ引き上げ(賃上げ率約18%)
- 全従業員を対象としたベースアップを実施(「職種」「勤続年数」「等級」に応じて、基本給を2万円~5万円増額)
令和3年度の大卒の平均初任給22万5,400円よりも、同社の賃上げ後の初任給は10万円以上高い金額となっています。 従業員のモチベーション向上に寄与し、人材獲得・定着に向けた給与体系を実現するために実施されました。
(参考:厚生労働省|令和3年賃金構造基本統計調査結果)*2
12.株式会社IMOM
■ 事業内容:飲食店運営および、障がい者就労支援事業
■ 従業員数:70名(2024年4月時点)
株式会社IMOMは、共生社会の実現を目指し、スペシャルティコーヒーの販売や、障がい者の社会参加を支える就労支援などのサービスを提供する、福祉系ベンチャー企業です。
同社では、業績の大きな拡大も踏まえて、2024年4月から、下記の取り組みを実施しています。
- 9,000円の賃上げ(ベースアップ単体での賃上げ率は4%)
この賃上げ率は、福祉業界では異例の数字です。同社では、福祉業界の低賃金のイメージを変え、人材を確保するためにも、人事制度を整え、労働環境の改善を行い続けています。
賃上げの傾向は今後も続く見込み
今回は、企業の賃上げ事例12選を紹介しました。 2024年の春季労使交渉では、大手企業の定期昇給とベースアップを合わせた賃上げ率は5.58%と発表されており、1991年の5.6%以来、33年ぶりの高水準となっています。
物価上昇や、少子高齢化による労働力人口の不足を鑑みても、賃上げが活発化する傾向は、今後も続くと予想されます。 賃上げに取り組まないことは、短期的に見ればコスト削減になるかもしれませんが、長期的には企業の成長に影響を及ぼす可能性が高いでしょう。 人材の流出、モチベーションの低下、企業イメージの悪化といったリスクを避けるためにも、賃上げの必要性を再検討してみてはいかがでしょうか。
賃上げを実施している企業の動向をチェックし、自社の競争力を維持するために何が必要なのか、検討していきましょう。
- 経営・組織づくり 更新日:2024/07/24
-
いま注目のテーマ
-
-
タグ
-