給与体系とは?項目・モデル・見直しの手順を紹介
給与体系とは、企業が従業員に対して支払う給与を構成する大切なものです。給与体系は一度決めたら半永久的に継続させるものではなく、必要に応じた見直しが求められます。
この記事では、「給与体系を見直す方法を知りたい」「給与体系見直しにより、従業員の給与が減額になる場合の対応を知りたい」と考えている担当者や経営層の方に向けて、給与体系全般に関する情報や、給与体系見直しの手順について詳しく解説します。
給与体系とは
給与体系とは、“企業が従業員に対して支払う給与をどのように構成しているかまとめたもの”です。具体的な内容としては、給与の支給基準、各種手当の決め方などがあります。
給与とは、労働基準法第11条により定められている「労働の対価として企業から支払われる全てのもの」であり、原則現金払いです。
主な給与体系は以下の2種類です。
- 基準内賃金
- 基準外賃金
基準内賃金は、所定時間(雇用契約により定められた1日の労働時間)における労働の対価であり、基本給と諸手当に分かれます。
基準外賃金は、所定時間の労働に関わらず支払われる対価です。詳しくは、「給与体系の項目一覧」で説明します。
また基準内賃金と基準外賃金とは別に、割増賃金というものもあります。
割増賃金とは、法定労働時間を超えた労働や、休日、深夜における労働に対して支払われるものです。
給与体系と給与形態の違い
給与体系に似た言葉として、給与形態があります。給与形態とは給与を支払う算出方法で、固定給とそれ以外に分かれます。
固定給としてあげられるのは、主に以下のとおりです。
月給制 |
給与設定が1ヶ月単位である |
---|---|
時給制 |
給与設定が1時間単位である(パート、アルバイトに多い) |
年俸制 |
給与設定が1年単位である |
週給制 |
給与設定が1週単位である |
日給制 |
給与設定が1日単位である |
業務単位制 |
給与設定が1業務単位である(講師業に多い) |
固定給以外の給与形態は、主に以下の2種類です。
- 完全出来高制:完了した作業分の給与が支給される
- 完全歩合制 :労働の成果や売り上げ分の給与が支給される
これらを踏まえて、給与体系と給与形態の違いは以下となります。
給与形態 |
給与を支払う算出方法で、固定給とそれ以外に分かれたもの |
---|---|
給与体系 |
給与形態が決まった後さらに具体的な給与構成が示されたもの |
よく似た言葉ですが、意味はまったく違うと覚えておきましょう。
給与体系と賃金モデルとの違い
給与体系と似た言葉として、もう1つあげられるのが賃金モデルです。
賃金モデルとは、“ある企業に新卒で就職した人が標準的なペースで昇格・昇進した場合の賃金推移”です。
給与体系が従業員に給与を支払うルールに対して、賃金モデルは標準的な賃金の目安です。
給与体系は従業員全員に適用されており、従業員の給与計算に関係しますが、賃金モデルは個々の従業員には適用されません。
賃金モデルは、あくまで、特定の職務や役職に対する標準的な賃金を示すものであり、言い換えると昇給の参考値となるものです。
給与体系と賃金モデルは、設定の目的も異なります。給与体系の設定は、給料の透明性を保ち、公平に管理することが目的であり、賃金モデルの設定は、どのくらいの給料が支払われるかを示すことが目的です。
給与体系の項目一覧
給与体系には、以下の3種類があります。
- 基準内賃金
- 基準外賃金
- 割増賃金
それぞれ詳しく解説します。
基準内賃金
基準内賃金とは所定時間内の労働の対価として支払われるもので、内訳は、基本給と各種手当です。
詳しい内容は下記の表をご覧ください。
賃金 |
内容 |
---|---|
基本給 |
各種手当を除いた賃金で、毎月一定額支給される |
仕事給 |
基本給類型の一つ。担当業務や職務遂行能力など、労働状況に考慮して支給される |
属人給 |
基本給類型の一つ。年齢や勤続年数など、個人の属性を考慮して支給される |
総合給 |
基本給類型の一つ。仕事給と属人給の双方を考慮して支給される |
技術手当 |
一定の技能や技術を持っている従業員に対して支給される |
資格手当 |
業務遂行に役立つ資格を持っている従業員に対して支給される |
地域手当 |
勤務地により発生する支出の差を補うために支給される(例:寒冷な地域への冬期間の暖房費補助) |
皆勤手当 |
出勤すべき日に1日も休まず出勤した従業員に対して支給される |
役職手当 |
課長や部長といった役職(管理職)について従業員に対して支給される |
基準内賃金は、労働基準法および最低賃金法で定められている最低賃金の対象となり、時間外労働や深夜労働に対する割増賃金の基準にもなります。
基準外賃金
基準外賃金とは、所定時間の労働とは関係なく支払われる対価であり、全部で7種類あります。
詳しい内容は下記の表をご覧ください。
賃金 |
内容 |
---|---|
住宅手当 |
家賃や住宅ローンなど、住宅に関する支出負担軽減のために支給される |
通勤手当 |
従業員が通勤するための費用が支給される |
家族手当 |
家族支援を目的として、配偶者や子どもがいる従業員に支給される |
別居手当 |
転勤時、やむを得ない理由で家族と別居する従業員に支給される |
臨時賃金 |
支給条件が決まっているが、支給されることが不確実であるもの(例:退職金や結婚手当) |
子女教育手当 |
子どもの教育に負担が増大する従業員に対して費用負担軽減のために支給される |
期間で支払われる賃金 |
1カ月を超える期間(半年や1年)での業績を評価して支給される |
基準外賃金の設定は企業によって異なるため、福利厚生としての一面もあります。
割増賃金
割増賃金とは、法定労働時間を超えた労働や、休日および深夜における労働に対して支給されるもので、3種類あります。
詳しい内容を、表に示しました。
賃金 |
内容 |
---|---|
時間外労働割増賃金 |
1日8時間、1週間に40時間を超えた労働に対して支給される |
深夜労働割増賃金 |
午後10時から翌日午前5時までの労働に対して支給される |
休日労働割増賃金 |
法定休日の労働に対して支給される |
法定休日とは、労働基準法第35条で定められた、使用者が労働者に必ず与えなければならない休日です。
給与体系を見直すメリット
給与体系の見直しは、企業と従業員の双方にメリットがあります。
給与体系を行うメリットの一つが、コストの効率化です。給与体系を見直す中で、過剰に支給されている手当や無駄な支出が見つかるケースがあります。給与体系全体の見直しにより、無駄な支出を削減できて、コストの効率化がはかれるのです。
また、給与体系見直しにより、適切な給与水準が設定できます。適切な給与水準が分かれば、人件費も把握しやすくなり、適切に管理されるでしょう。
給与に対して不満があった従業員にとって、給与体系見直しによる給与がアップされると、モチベーションがあがります。特に基本給の増額や福利厚生の充実化は効果が大きいものです。
公平で透明性の高い給与体系に見直すと、従業員の不満や不信感が払しょくされて、仕事への意欲が高まり、ひいては、生産性や業績の向上につながります。
給与体系を整えることは、優秀な人材を採用できるチャンスです。
求職者は、各企業の給与体系を比較して見ています。自社の給与体系を、現在の労働市場に見合ったものにすることで、優秀な人材が応募する可能性が高くなるでしょう。
給与体系の見直し(変更)は違法?
給与体系の見直し自体は違法ではありません。しかし、給与体系の見直しにあたっては、自社の就業規則を変更する必要があります。
特に、給与体系の変更によって、給与が減額される従業員がいる場合には注意が必要です。
労働契約法第9条には、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」とあります。*1
減額を含めた給与体系の見直しに関する注意点は、以下の2点です。
注意点1 従業員の同意書を得る
労働契約法第8条には、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」とあります。*1
給与体系の見直しも労働契約の変更に該当するため、従業員の同意がないと、給与体系は見直しできません。
また給与体系の見直しが、給与減額といった労働条件の不利益変更になる場合は、同意書が必要です。従業員代表からだけではなく、従業員一人ひとりから同意書をもらう必要があります。
従業員からの同意は、強制されたものではないことが大切なポイントです。
労働組合がある企業の場合、労働組合との労働協約の締結も必要です。
注意点2 合理的な理由かつ、十分に周知する
給与体系の見直し、特に減額が行われる場合は、企業の業績悪化といった合理的な理由を十分に説明することが求められます。
主な説明内容を、以下に示しました。
- 減額の理由や必要性
- 変更後の給与額
- 業績回復後に増額する可能性の有無
説明した内容や従業員からの質問、それに関する回答は書面に残しておくと良いでしょう。
給与体系を見直す手順
給与体系を見直すタイミングは、法改正時や企業の組織体系変更時などがあります。
しかし、タイミングだけで見直しを判断するのは好ましくありません。給与体系の見直しは、以下に示した手順にそって実施しましょう。
1. 目的と方針の明確化
給与体系見直しの出発点は、目的と方針の明確化です。
給与体系見直しの目的は、給与決定の過程や基準を明確にすることです。見直しにより、社員の不満および不信感を払しょくできて、モチベーションやパフォーマンス向上につながるでしょう。
給与体系見直しの方針としては、主に以下の2つが挙げられます。
- 給与体系と企業の方向性が矛盾しないか
- 従業員が納得できる給与体系になっているか
目的および方針の明確化は、効果的で持続可能な給与体系を作るためにとても重要です。
2. 現状分析
現状分析では、現在の給与体系において見られる問題を把握します。
分析用の資料としてあげられるのは、社員へのアンケートや人件費のデータです。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査も現状分析に有効な情報です。*2
3. 給与体系の設計
現状分析により出てきた問題を解決するための給与体系を設計します。自社の現状や企業風土、組織文化も考慮して設計しましょう。
給与体系で大きな位置になるのが、基本給です。基本給には、以下の3タイプがあります。
- 仕事給型:労働状況に考慮する
- 属人給型:個人の属性を考慮する
- 総合給型:仕事給型と属人給型の両方を考慮する
この中から自社に合った基本給体系を選びましょう。
給与体系を設計したあとは、移行シミュレーションを実施します。シミュレーションの目的は、想定通りに賃金が算出されているかの確認および、減給対象になる社員への説明材料の準備です。
4. 評価制度の構築
シミュレーション後に行うことは、評価制度の構築です。
- 従業員の働きに見合った対価になっているか
- 現行の給与体系による問題が解消されているか
- 従業員が最低限の生活を営める以上の給与額になっているか
評価制度を構築するにあたっては、これらの点を考慮すると良いでしょう。
5. 社内周知
新しい給与体系を導入する数カ月前には、従業員に対して十分に周知します。事前の周知により、従業員も給与体系見直しによる生活状況の変更を想定できます。
周知する内容は、給与体系見直しの目的と経緯、変更された点などです。
給与体系見直しの際は、社内周知に加えて、労働組合の代表者または、労働者の過半数の代表者からの意見聴取も必要です。
給与体系見直しによって、就業規則や給与規定変更される場合は、労働基準監督署に意見書を提出してください。
給与体系を正しく理解して、適切な方法で給与体系を見直そう
給与体系は企業が従業員に払う給与構成をまとめたものであり、企業、従業員双方にとって大切な指標です。そのため、給与体系見直しにあたっては、企業と従業員双方のメリットを考えつつ、できる限り従業員の不利益が少ない方法が求められます。給与体系見直しの際に、この記事が参考になれば幸いです。
参考
- 経営・組織づくり 更新日:2024/09/03
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