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ベースアップとは?平均額や平均昇給率、計算方法について紹介

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企業が従業員に支給する給与を増額することを「賃上げ」といいます。賃上げは、主に「ベースアップ」と「定期昇給」の2つの方法によって実施されることが一般的です。

そのうちベースアップとは、インフレや物価高騰時に従業員の生活を守り、所得格差の拡大を防ぐことを目的として、従業員の給与を一律で引き上げる方法です。ただし、企業の総人件費が増え、場合によっては社内で不公平感が出るリスクを抱えることにもなります。そうならないためにも経営戦略との整合性や、中長期的なコスト増加への配慮が不可欠です。

本記事では、ベースアップとはなにか、定期昇給との違い、ベースアップの実施状況、2024年のベースアップの平均額・平均賃上げ率、種類と計算方法、ベースアップにおける春闘の役割、ベースアップを実施するメリット・デメリット、実施方法と注意点について詳しく紹介します。

ベースアップとは

ベースアップとは、景気の影響や企業の業績に応じて全ての従業員の給与が一律で上がることです。略して「ベア」と呼ばれます。

企業の規定によって異なりますが、一般的には勤続年数や成果、役職に左右されず全ての従業員が昇給します。ただし、必ずしも実施する必要はなく、企業の業績や経営状況によっては実施しない選択肢を取ることもできます。

ベースアップの昇給率は毎年2月頃に行われる労働組合と経営者との交渉である「春季闘争」の結果に応じて行われます。春季闘争について詳しくは後述します。

厚生労働省では、ベースアップとは「賃金表(※)の改定により賃金水準を引き上げること」と定義しています。
(※)「賃金表」とは、学歴、年齢、勤続年数、職務、職能などにより賃金がどのように定まっているかを表にしたもの

一方、「賃金表の改定により賃金水準を引き下げること」は「ベースダウン」と言われます。これはベースアップの反対であり、全ての従業員の給与が一律で下がることを指します。

ベースアップの目的

ベースアップの目的は、インフレ時や物価高騰時の従業員の生活を守り、所得格差の拡大を防ぐために実施されます。

具体的には、物価が上昇すると生活費が増え、従業員の購買力が低下するため、ベースアップによりその差を埋め、生活水準を維持することを目指します。

また、所得格差の拡大を防ぐため、ベースアップを通じて全従業員に公平な賃上げを提供することも重要です。

ベースアップと定期昇給の違い

定期昇給とは、企業が決まった時期に従業員の給与を上げることです。ベースアップと似ているようにも見えますが、以下のような違いがあります。

対象者

昇給額

実施するタイミング

ベースアップ

従業員全員

一律

決まっていない

定期昇給

従業員によって昇給の有無が異なる

従業員の能力や成果、勤続年数によって異なる場合がある

年1回や年2回など、企業が決めた定期のタイミング

定期昇給は従業員の能力や成果、勤続年数によって昇給額に差がでます。また、そもそも昇給の有無が異なることもあります。

対してベースアップは一律の昇給であるため、勤続年数が長いベテラン社員と新入社員にそれぞれ等しく実施され、昇給額も一律です。

これらは「個人」と「企業や社会」のどちらに基づいたものかといった大きな違いがあります。定期昇給は個人の成果によって実施されるのに対し、ベースアップは企業の成果や社会の情勢によって実施されます。

定期昇給について詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてみてください。


ベースアップの実施状況

厚生労働省の「令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」*1 によると、2023年のベースアップ実施状況は以下のようになりました。

【ベースアップを実施した(実施する)と回答した企業】

管理職

一般職

5,000人以上

67.5%

85.9%

1,000~4,999人

73.6%

83.2%

300~999人

77.7%

87.9%

100~299人

69.8%

76.5%

※調査対象は、定期昇給がある企業より

この調査結果から、企業規模にかかわらず一般職のベースアップ実施率が高いことが分かります。特に中規模企業(300~999人)では、最も高いベースアップ実施率が見られます。

一方で、大企業においても一般職に対しては積極的な賃上げが行われていますが、管理職に対するベースアップの実施率はやや低めです。これは、企業が賃金改善を行う際に、まずは一般職を中心に実施する傾向があることを示唆しています。

また、同調査より、2005年から2023年にかけての実施率の推移を紹介します。

【ベースアップを実施した(実施する)企業割合の推移】

リーマンショック(2008年)でベースアップ実施率は大幅に低下し、その後の回復期(2010年代前半)に徐々に上昇しました。2015年以降は経済の安定により高水準を維持しましたが、新型コロナウイルス感染拡大(2020年)で再び低下し、2022年以降は回復傾向にあります。

また、2023年から2024年にかけて賃上げが急上昇している背景には、世界的な物価上昇と人手不足が深刻化しています。

新型コロナウイルスやウクライナ侵攻による供給制約の影響で物価が上昇し、円安が進行しているほか、岸田首相の賃上げ要請も後押ししている状況です。

少子高齢化により生産年齢人口が減少し、企業は人材確保のため賃金を引き上げる必要性も迫られているといえるでしょう。

【2024年】ベースアップの平均額・平均賃上げ率

連合の「2024 春季生活闘争 中間まとめ」*2 を参考に、ベースアップ(定期昇給を除いた賃上げ)の平均額と、平均賃上げ率を紹介します。

3,733 組合のうち、ベースアップ(定昇を除いた賃上げ)が明確に分かる組合2,860 組合の平均額は10,778 円、平均賃上げ率は3.57%です。そのうち中小組合( 1,725 組合)は、平均額 8,461 円、平均賃上げ率3.22%となりました。

4 月末時点で 3%を上回ったのは、ベースアップと定昇を分けて集計をスタートした2015以降初となります。

2024年春季生活闘争では、連合が2014年以降で最も高い賃上げを実現し、1991年以来の定昇込み5%台を達成しました。

こうした高い賃上げの主な要因としては、賃上げへの期待の高まり、人材確保の競争激化、社会的な賃上げ機運の高まり、労使間のコミュニケーションの深化、労働組合と企業が賃金や労働条件について集中的に交渉する春闘メカニズムの効果的な機能が挙げられます。

ベースアップの種類と計算方法

ベースアップには計算方法が大きく2種類あります。それぞれの計算方法を紹介します。

1.社員の給与を一律の金額でベースアップする



例:現在の給与が20万円で、一律「2,000円」のベースアップであれば、「20万2,000円」になる

もとの給与が低い人ほど昇給率が高くなる特徴を持っています。

2.社員の給与を一定の割合の金額でベースアップする



例:現在の給与が20万円で、「3%」のベースアップであれば、「20万6,000円」になる

もとの給与が高い人ほど昇給額が高くなる特徴を持っています。

現在の給与が20万であれば「20万6,000円」ですが、30万円であれば「30万9,000円」になり、3,000円の差が出ることになります。

ベースアップにおける「春闘(春季闘争)」の役割

春闘とは、春季闘争の略で、毎年2月頃に一斉に行われる労働組合と経営者との交渉のことです。具体的には、2月に労働組合から要求を企業に提出し、3月頃に企業から回答があります。これらが春先に行われることから春闘と呼ばれています。

主に賃上げや労働条件について交渉が行われます。

従来は、主要企業の労働組合が同じ額の賃上げを要求し、企業からの回答額も揃える「統一交渉」が主流でした。

しかし、コロナ禍を経て、業種間、企業間の業績の違いにより、「統一交渉」が機能しなくなっているという指摘もあり、今後は、春闘においてもより柔軟化が進むと考えられています。

企業がベースアップを実施するメリット・デメリット

ベースアップには、従業員の生活確保や、所得格差の拡大を防ぐためといった目的がありますが、それ以外にもメリットがあり、反対に実施によるデメリットもあります。

メリット

ベースアップを実施することで企業が得られる代表的なメリットは以下の2つです。

1.従業員のモチベーション向上につながる
ベースアップにより全従業員の給与が増えるため、従業員のモチベーション向上が見込めます。
物価高騰に対抗でき、従業員の生活水準の担保や離職を防ぐことにもつながり、生産性向上も期待できるでしょう。

2.採用力の維持・強化につながる
ベースアップを実施することで採用競争でも優位に立ちやすいといえます。
ベースアップによる企業力をアピールすることで、競合他社との差別化や、企業としての安定感を求職者に示すことができます。

デメリット

反対にベースアップを実施することで発生し得るデメリットは以下の2つです。

1.総人件費が増加する
例えば、定期昇給の基準が「年齢による基本給+役職による職務給」だとすると、従業員の人数・年齢・役職といった人員構成が一定である限り、定期昇給によって総人件費は増加しません。

しかし、ベースアップは従業員の給与水準を引き上げるため、総人件費の増加に直結してしまいます。

また、一度ベースアップしたものを戻すのは難しく、企業にとっては長期的な負担になり得えます。とくにベースアップ時は良かった業績が悪化した場合を考えるとリスクが大きいと言えます。

2.不公平感が出る恐れがある
従業員個人の成果や評価に関わらず、一律で従業員の給与が上がるため、成果を上げている従業員は不公平に感じてしまう可能性があります。

また、全体の給与が上がるため、従業員個人で見た場合にそれぞれが能力や評価に対する適正な給与の配分にならないこともつながります。

そのため、ベースアップだけでなく昇給と合わせて従業員が納得できるような調整が必要になりますが、より企業の人件費が増え、負担も重くなります。

ベースアップを実施する方法・注意点

ベースアップの実施方法は、まず春闘(春季生活闘争)で労働組合と企業が賃金交渉を行い、賃金改定率を決定することから始まります。この交渉結果をもとに、企業は新しい賃金水準を設定し、社員に通知します。

しかし、ベースアップはここまで述べてきたようにメリットとデメリットがあります。経営やコスト、人事といったバランスを考慮しなくてはいけません。

以下で注意点を解説していきます。

経営戦略との連携

ベースアップが必要かどうかを判断する際には、事業戦略、人材戦略、財務計画、社会貢献などとの整合性を確認します。特に、労働組合がある企業では、ベースアップの方針について組合との間に齟齬が出ないような十分なコミュニケーションが重要です。経営戦略と一致しない場合は、定期昇給のみを実施する選択肢も検討されます。

コスト管理の重要性

ベースアップを実施すると、基本給の増加に伴い、時間外手当、社会保険料、退職金などの関連コストも増加します。そのため、中長期的なコストシミュレーションを行い、財務的な負担を見極めることが必要です。

以下は具体的なコストシミュレーションの例です。

  • 基本給の増加額:例えば、社員100人の会社で一人当たり月額基本給を2万円引き上げる場合、年間の基本給増加額は約2,400万円。
  • 時間外手当:基本給増加に伴い、残業代も増加。月20時間の残業で年間約500万円増加。
  • 社会保険料:増加分に約15%を掛け、年間約360万円増加。
  • 退職金:基本給の増加が退職金に反映される場合、将来の負担が大幅に増加。

これらより年間の総コスト増加額は、基本給、時間外手当、社会保険料を合わせると、約3,260万円となります。退職金が加わるとさらに負担が大きくなります。

複数の人事制度でバランスを取る

ベースアップにより一度上がった給与を下げることは難しいため、他の人事制度でバランスを取る仕組みが求められます。定期昇給や賞与、降給・降格などの制度を再設計し、業績が悪化した場合にも柔軟に対応できるようにしておくことが重要です。

ベースアップと同一労働同一賃金の注意点

同一労働同一賃金とは、同じ企業内で同じ仕事をしている正規社員と非正規社員の間で、不合理な待遇差をなくすための原則です。これは、非正規社員に対する差別的な取扱いや不合理な待遇を禁止し、公平な待遇を実現することを目的としています。

具体的には、基本給や賞与、手当、福利厚生など、全ての待遇において均等さを求めています。この原則は、働き方改革関連法によって強化されており、企業はこの法令を遵守する必要があります。

そのため、ベースアップを行う際には、正規社員だけでなく非正規社員も同等の賃金引上げが必要です。待遇差を設けることは法的整合性の観点からも不合理と判断される可能性が高く、均等な待遇を実現することが求められます。

ベースアップを理解して、適切に実施しよう

ベースアップは、インフレや物価高騰時に従業員の生活を守り、所得格差の拡大を防ぐために給与を一律に引き上げる制度です。実施にあたっては、経営戦略との整合性や中長期的なコスト増加への配慮が求められます。

2024年春季生活闘争では、2014年以降で最も高い賃上げを実現し、賃上げに対する社会的な機運も高まっており、ベースアップを効果的に活用することが企業には期待されています。

企業が従業員の生活水準を維持しながら、健全な経営の指針とするためにも、ベースアップを理解し、適切に実施していきましょう。



  • Organization HUMAN CAPITALサポネット編集部

    HUMAN CAPITALサポネット編集部

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  • 経営・組織づくり 更新日:2024/08/28
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