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“採用の間口を広げる”戦略で生じやすい現場の混乱と注意すべきポイント

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採用難が続く現状において、人材確保のために、採用の間口を広げる戦略を採る企業が増えています。

新卒または中途の採用開始、外国人従業員の雇用、柔軟な働き方の許容などがその例です。

人手不足の問題解決に対して、非常に有用な戦略であると同時に、現場の混乱によって生産性低下を引き起こすリスクもあります。

本記事では、どのような心構えで導入し、何に注意すれば成功しやすいのか、考えていきたいと思います。

採用難を乗り越えるために有効な「間口」の見直し

まずは、間口を広げる戦略の背景や具体例を、確認しておきましょう。

人手不足感が加速する現代

「人手不足で困っている」という悩みは、多くの企業で実感されているところかと思います。

以下は、2008年〜2022年の従業員数過不足DIの推移です。プラスなら人手の過剰感、マイナスなら人手の不足感を表しています。

コロナ禍にあたる2020年に一時上昇したものの、その後はどの業界においても、人手不足感が強まっていることがわかります。

採用の間口を広げる必要性

売り手市場に傾くと、従来の求人条件のままでは、期待する採用成果を得にくくなります。

そこで求められるのが、採用の間口を広げることです。

たとえば、
「未経験者も採用する」
「シニア・女性・外国人といった、今までに採用していない層を積極的に採用する」
「学歴の制限をなくす」
などの方針転換によって、採用母集団を拡大すれば、人材確保のチャンスが増大します。

間口の広げ方の事例

間口を広げる際には、固定観念やこれまでの慣行を払拭することが大切です。当該業務に対して “本当に必要な求人像” を、フレッシュな視点で見つめ直すプロセスです。

中小企業庁の資料(*2)より、以下に事例をご紹介します。

▼ 経験豊富なシニア人材を採用
(製造業(その他)、100~300人未満、長野県)

  • 数年来の増収が続き、生産ラインのキャパシティが限界に達していたため、生産現場の合理化や生産性向上への取組が喫緊の課題だった。生産性向上に取り組むことができ、生産現場に精通した人材を求めていた。
  • 企業の特色も体感してもらい具体的な業務イメージを共有し、社長が面談した上で、経験豊富なシニア人材を嘱託の形態で採用した。
  • シニア人材の採用に当たり、既存の従業員には、採用の狙いや課内でのポジション、役割について丁寧に説明し、理解を求めた。

▼ 固定観念にとらわれない新しい働き方で、リーダー人材の採用に成功
(建設業、20~50人未満、沖縄県)

  • 会社の成長に対し、リーダー層の人材が不足しており、リーダー層の社員も、体系的な教育を行ってこなかったため、社員のスキルが不足していた。
  • 固定概念にとらわれない新しい働き方として、個々のやりたいことと、雇用だけではない自由な関わり方(個別契約・業務委託等)を選択可能にした。ダブルワークや、自由に復職時期を決められる産休育休制度等、社員が自分らしい働き方も選択できるようにしたところ、不足していたリーダー人材の確保に成功した。

▼ 高度な技術を有するシニア人材を、柔軟な勤務形態で再雇用
(製造業(その他)、50~100人未満、香川県)

  • 高度な技術を有し、将来の幹部候補となる中核人材が不足していた。しかし、求める人材の採用が難しく、高度な技術を有する社員ができるだけ長く活躍し、ノウハウを蓄積できる会社づくりに取り組んだ。
  • 高度な技術を有するシニア人材は、働き続けられる限り再雇用契約することにし、フルタイムに限らず、自分のペースで勤務している。
  • シニア人材から若手社員への技術指導も積極的に行われるようになり、将来の中核人材育成が進んでいる。

▼ 国内の採用は難しく、高度外国人に目を向けた
(製造業(機械)、100~300人未満、栃木県)

  • 少子高齢化に伴う人手不足でロボット活用が進む中、右肩上がりの受注に対し、対応できる人材が不足していた。
  • 国内の採用では人材が集まらない状況が続き、工業系大学等を卒業した高度外国人に目を向けた。
  • アジアの拠点設立に合わせ、アジアからも優秀な人材を採用したことで、人手不足解消につながっている。


「理想論だけでは難しい…」現場の混乱 3つのケース

経営視点から見ると、採用の間口を広げる戦略はダイバーシティ推進にもつながるため、積極的に進めたいものです。

しかし、そのようなポジティブな意向とは裏腹に、現場では深刻な混乱が起きることもあります。

以下では、筆者が中間管理職の立場で経験した3つのケースをご紹介します。

ケース1:新卒採用に初チャレンジしたが誰も残らなかった

1つめのケースは、スタートアップ企業で初めて新卒採用にチャレンジしたときの、苦い思い出です。

その企業では、即戦力を重視していたため、キャリア採用のみで人材を確保していました。やがて、採用の間口を広げるために、新卒採用に乗り出しました。

合同企業説明会への参加やインターンシップの導入など、手間暇とコストをかけて挑んだのですが、結果、新卒採用者は数年以内に全員離職してしまいました。

新卒採用者を適切に育てるノウハウと余裕が、社内になかったのです。

ケース2:キャリア採用の強化で社内のパワーバランスが崩れた

2つめのケースは、キャリア採用を集中的に強化した企業での経験です。

その企業では、社長の「生え抜きを育てたい」という意向で、人材確保の中核を、未経験者や若手の採用に置いていました。

事業拡大とともに人手不足が深刻となり、方針転換して、キャリア採用を集中的に実施しました。

結果、アットホームだった社内の雰囲気が、変わってしまったのです。

キャリアのある新入社員たちから見ると、当時の社内は、未熟な部分や業界の常識から外れていると感じる部分が多かったようです。

社長との意見対立や、それを起因とした派閥のようなグループ化が生じました。価値観が違いすぎていたために、わかりあうことが難しく、複数の離職者を出す結果となりました。

ケース3:日本のビジネス文化の共有は難しかった

3つめのケースは、グローバル化に備えて、外国籍の社員を採用したときの出来事です。

日本語と英語で円滑にコミュニケーションが取れ、保有スキルが極めて高く、即戦力として活躍する人材でした。

ただし、バックグラウンドがまったく異なるために、日本での商慣習になじむのが難しいという問題を抱えていました。

たとえば、クライアントとの商談の際、その企業では資料の端をきっちりとそろえ、丁重に差し出す習慣がありました。“ホチキスの向き”まで気遣う、念の入れようです。

外国籍の新入社員が商談を担当したとき、同席者は背筋を凍らせました。資料を片手でざっくばらんに渡し、自身は脚を組んで、フランクに話し出したためです。

これは一例ですが、文化を共有していく難しさは、本人が話してくれました。

この社員の場合、見た目が日本人と変わらなかったため、カルチャーの違いを直感的には理解されにくく、苦労が多かったとのことでした。

間口を広げる際の注意点 4つのポイント

では、採用の間口を広げる際は、どのような点に注意すればよいでしょうか。ここでは、4つのポイントを解説します。

(1)明確な採用基準を再設定する

1つめのポイントは、明確な採用基準を再設定することです。

単に、“従来の基準を緩くする” だけでは不十分で、新たに基準を見直すことが必要です。

【採用基準の設定例】

  • スキルセット:必要な技術や知識をレベル別に分類。初級、中級、上級といった具体的なレベルを設定し、それに応じた評価基準を用意する。
  • 適性:企業文化や価値観に合致するかを判断するための指標。リーダーシップ、コミュニケーション、柔軟性などを評価する項目を設ける。
  • 経験:業界経験や職務経験を年数などの定量的な基準で設定。3年以上のマネジメント経験、5年以上の業界経験など、数値で明示する。
  • 保有資格や学習歴:必要な資格や学習歴をリスト化。MBA取得者優遇、TOEIC 800点以上など、具体的な条件を設定する。


さらに、ペルソナ(実在する人物のように詳細を描いた代表的な人物像)を設定すると、イメージが具体化され、社内関係者の間での共有に役立ちます。


(2)多様性のマネジメントを行う

2つめのポイントは、多様性のマネジメントを行うことです。

採用の間口を広げれば、その分、異なるバックグラウンドを持つ人材が集まることになります。

「間口は広げるが、あとは自然に任せる」というスタンスでは、組織のバランスが崩れるリスクがあります。意図した戦略的なマネジメントが、不可欠です。

【多様性マネジメントの実践例】

  • 文化理解:異文化背景を持つ人材の価値観や習慣を尊重する。たとえば、異文化の祝祭日に配慮する。
  • コミュニケーション:オープンな対話の場を設け、意見交換を活発にする。すれ違いが小さなうちに調整し、お互いに歩み寄る機会を作り続ける。
  • メンター制度:経験豊富な先輩社員(メンター)が新入社員(メンティ)をサポートする。業務外の悩みや問題についても幅広くケアする。


多様性を組織のカルチャーと融合させ、すべての社員にとって快適な環境の醸成へと昇華させるアプローチを、進めていきましょう。


(3)オンボーディングを強化する

3つめのポイントは、オンボーディングを強化することです。

採用した社員が実力を発揮するためには、オンボーディングの質が重要です。

採用の間口を広げた場合、今までと同じオンボーディングプロセスでは不十分と考え、あらかじめ入念な準備を行います。

【オンボーディングの実践例】

  • オリエンテーション:企業文化、ミッション、ビジョン、行動指針を明確に共有する。察してもらう部分や既存社員のサポートに依存する部分を、できる限り排除する。
  • トレーニング:業務に必要なスキルセット、ツールの使い方、業務フローなどをトレーニングする。「これくらいは知っているだろう」といった固定観念を払拭して、丁寧なレクチャーを行う。


オンボーディングを持続的な人材開発の一環として位置づけ、改良を重ねることで、強い組織を構築できます。


(4)継続的なフォローを行う

4つめのポイントは、継続的なフォローを行うことです。

適切なフォローが持続的に提供されることで、エンゲージメントが向上し、新入社員の定着率が高まります。

【継続的フォローの実施例】

  • フィードバックセッション:上司からの一方通行のコミュニケーションではなく、お互いにフィードバックを分かち合うための場を、定期的に設ける。
  • キャリアパス:社員一人ひとりの長期的なキャリア目標に対応したプランを作成する。このプランを、将来の役職やスキルセットに対する具体的なロードマップとする。


フォローを受けながら成長した社員は、やがて自身がフォローする側に回ったとき、質の高いフォローを提供できます。こうして、好循環が始まります。


さいごに

間口を広げる戦略は有効ですが、成功させるためには事前の準備がカギとなります。

本記事でご紹介したポイントを踏まえつつ、体制を整え、採用活動を展開していただければ幸いです。

人数を確保するだけではなく、質の高い採用を目指すことで、採用難の時期を乗り越えていきましょう。

  • Person 三島 つむぎ

    三島 つむぎ -

    ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。

  • 人材採用・育成 更新日:2024/04/23
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