研修設計時に見落としがちな2つのポイント(理論編)
研修転移とは、一言で言えば研修での学びを職場で実践できるようにする考え方を指します。研修に関して、時間軸で事前・当日・事後に分解し、さらに関係者を学習者、上司、講師に分解して分析したところ、研修転移に最も重要なのは「研修前の上司」というデータがすでに出ています。(『研修開発入門「研修転移」の理論と実践』(中原淳ほか、ダイヤモンド社、2018年)に詳しく記載されています)
また、ウェストミシガン大学のロバート・ブリンカーホフ教授が2007年に提唱した「40:20:40モデル」では、研修前に40%、当日に20%、研修後に40%、労力をそれぞれかけるべきであると指摘されています。つい当日のコンテンツ設計に力を入れすぎてしまいがちな研修担当者には、驚きの数字かもしれません。
こういった理論が提唱されていることからも、学術的にも研修の事前と事後が注目されていることが分かります。ではなぜ、事前と事後がそれほどまでに重要なのでしょうか。
そもそも満足度を高めることとは、相手の期待値を超えることです。受講者の多くは「忙しいのに呼ばれた」「自分には必要ない」といったネガティブな意識を抱いており、心理的な期待値のハードルが著しく高い状態です。心理的なハードルを越える方法は2つしかありません。1つはハードルを越えるコンテンツを設計すること、もう1つはあらかじめハードルを下げることです。
コンテンツ設計といっても限界はあります。また、作り込み過ぎて重厚になるとかえって受講者が身構えてしまい、心理的なハードルを上げかねません。一方、ハードルを下げることとは、前向きな気持ちで研修に臨んでもらうようにすることであり、まさに事前に行うべきことと言えます。
学んだことが職場で活かされない理由は2つあります。1つは研修自体に問題があり、業務と学んだことのミスマッチが起きていること。もう1つは職場に問題があり、学んだことを活かせる環境にないことです。これらの結果、受講者は「やっても意味がない」「使えない」と思ってしまうのです。
前者を解決するために、きちんと業務上の課題に沿ってコンテンツ設計することはもちろん重要です。しかし、後者をおろそかにすれば、どれだけ受講者が前向きでも、どれだけ研修そのものが素晴らしくても、学んだことは職場では活かされません。したがって、事後の適切なフォローが欠かせないのです。
事前と事後が大事である理由について論じました。次に、具体的にどうすれば良いかについてみていきます。
受講目的を自分の言葉で語ると、受講者は自分の言葉に一貫性を持たせようと行動します。つまり、「こういうことを学びに来た」と自分で言うことで、実際に研修でそのように振る舞うようになるのです。これは「コミットメントと一貫性」と呼ばれる、無意識のうちに人が動いてしまう要素の一つです。(『影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか』(ロバート・B・チャルディーニ、誠信書房、2014年))
オリエンテーションなどで事前に集まり、語り合うことで受講者同士が相互に刺激しあう状況を作ります。受講者の目的や前向きさは人それぞれですが、経験上、ポジティブな人に引きずられて全体的に良い雰囲気になる傾向にあります。また、初対面の受講者が多い研修であれば一気に受講者同士の理解が進み、研修当日の「様子見から始まる」状況を防ぐ効果も期待できます。
- 人材採用・育成 更新日:2020/01/28
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