『The Loudest Duck』 多様性の尊重を職場で成功させる方法
世界中の企業が経営理念に多様性の尊重を掲げています。しかし、その理念を実現できている組織は少ないのが現状です。なぜ多様性を受け入れることが、これほど難しいのでしょうか? 『The Loudest Duck』の著者ローラ・リスウッド氏は、まず、多様性の尊重が実践で上手くいかない理由を述べています。そして、キャリア形成における不公平をなくし平等に競争できる職場をつくるために、多様性の正しい扱い方を解説しています。
リスウッド氏は、長年グローバル・リーダーシップや多様性の問題に取り組んできました。現在は世界女性指導者会議事務局長も務めています。その長年の経験と調査結果を元にした、多様性を尊重する方法について、ご紹介しましょう。
多様性の尊重は、ノアの箱舟のようにはいかない
企業が多様性を考えるとき、女性、外国人、宗教の違う人などに目を向け、その数を最低2人以上に増やそうというような考え方になりがちです。しかし、ノアの箱舟のように、ありとあらゆるマイノリティを2人ずつ組織に迎え入れたとしても、それだけでは多様性を尊重しているとはいえません。多様性によって職場に本当の実力主義をもたらすためには、ノアの箱舟を共有する人全員が、お互いの気持ちに気づき考えられるように努力することが必要です。
無意識な評価が昇進や昇給に影響を与えてしまう
リスウッド氏は、職場のなかで無意識に相手を評価する材料になってしまう問題を次のようにあげています。
出身国、年齢、文化、宗教、性別、性的指向、社会的階級、婚姻ステータス、家族構成、言語、職位や職種、趣味、容姿など
多様性を尊重するためには、これらの問題を評価材料にしないよう意識しなければなりません。例えば、ミレニアム世代と呼ばれる20代は落ち着きがなく、組織に忠実ではないというイメージがあるかもしれませんが、実際には50代でもそういう人はいます。私達は無意識のうちに年齢に頼って人を評価してしまうのです。
それでは、部下に妊娠を報告された上司が「おめでとう。」と言った後に何を考えるでしょうか。リスウッド氏は、講演会に出席した男性に、部下に妊娠を告げられたら、どう思うか聞きます。その人は「彼女は結婚していたのか。」そして「もう一人産むのかな?」と思うと正直に答えました。これは自然な反応ですが、すでにマインドセットされてしまっていることが明らかです。
また、多様性というと性別や人種の違いが例になることが多いものですが、ゴルフやテニスなどの趣味も多様性を邪魔する材料になることがあります。例をあげれば、ゴルフが大好きな上司が、ゴルフ好きで話の合う部下を、ゴルフに興味のない部下よりも無意識に高く評価してしまうといったことがないよう気をつけなければなりません。
多様性を尊重するには、無意識に仮定することをやめなければなりません。それには組織のなかにいる人たちを正しく認識し、無意識の仮定が自分の心をどの方向に動かすか知っておくことが大切です。これは不可能ではありませんが、とても難しい挑戦となります。
リーダーは、ゾウとネズミ、両方の視点を持たなければならない
ゾウとネズミが同じ部屋で暮らしているとします。大きくて力が強いゾウは、ネズミのことなど知らなくても生きていけます。しかし、ネズミは潰されないようにゾウのすべてを知らなければなりません。リスウッド氏は、この例え話を元に、企業内にある支配するグループと支配されるグループについて考えることを提案します。
あるグループがほかのグループよりも力を持つという現実を避けることはできません。その原因は、人数のバランスであったり、歴史的に力を持っていたり、文化のなかで決められたものであったりします。アイルランドのメアリーロビンソン元首相は「イギリス人がアイルランドについて知っていることよりも沢山のことを、アイルランド人はイギリスについて知っている。」というコメントを残しました。世界の国々もゾウとネズミの関係で動いているのです。
多くの場合、ゾウはネズミの視点で物を見ません。しかし、現代のグローバルな環境の中では、それが国家であれ企業であれ、リーダーは、ゾウの視点とネズミの視点の両方を持つことが必要です。
自分の「固有の信念」を職場に持ち込んではいけない
私たちは知らず知らずのうちに、子供のころに育った環境や出会った人から影響を受けています。今までに触れたテレビやメディア、子供の頃に教えられた神話、信じている宗教や、自分自身の過去の経験なども意思決定に影響を与えています。
自分の意見を言うことが大切とされるアメリカには「きしむ車輪は油を差される」ということわざがあります。はっきりと自己主張することによって、見返りがあるという意味です。しかし中国には「一番騒ぐアヒルは銃で撃たれる」、そして日本には「出る杭は打たれる」という、アメリカとは、まったく逆の意味のことわざがあります。アジアには、自分を主張しすぎるのはよくないという文化があるためです。
では、各自がそのような固有の信念を職場に持ち込むとどうなるでしょうか?自己主張をよしとする文化で育った上司の元では、自己主張しすぎることはよくないと教えられて育った部下は認められないかもしれません。逆に、自己主張しすぎることはよくないという文化で育った上司は、自己主張する部下に良い印象を持たないでしょう。
私たちは大人になっても固有の信念から離れられません。しかし、固有の信念から離れなければ、様々なバックグラウンドを持った人を組織に迎え入れたとしても、多様性を尊重しているとはいえません。
管理職が職場の多様性のためにできること
それでは、私たちは多様性を尊重するために具体的に何をすればよいのでしょうか。本書の内容を参考に、管理職が組織の多様性のためにできることをあげてみます。
部下の「固有の信念」を知る
チームで働く人たちが、どのような経験をして過ごしてきたかを気にかけ話を聞きます。そして、全員の固有の信念を知りましょう。固有の信念の影響で、話し役になりやすいのは誰か、聞き役になりやすいのは誰か、自分に似ているタイプの人は誰か、そして自分と違うタイプの人は誰かなど、チーム全体のバックグラウンドを認識します。
新入社員に暗黙のルールを伝授する
エジプトに転勤になった人には、左手で物を食べたり、靴の底を見せたりしてはいけないというマナーを教えるでしょう。現地のマナーを知らなければ、その人はトラブルに見舞われてしまいます。それと同じように、新入社員に、社内のドレスコードや、上司がどのような接し方を好む人か、職場でタブーとされていることなど、暗黙のルールを説明しておきます。
そうすれば、まだ職場の文化に慣れていない人でも失敗をせずに過ごすことができます。
会議で調整役になる
会議では、話し役の人ばかりが自己主張して終わらないよう調整役になります。何か言いたくても、人の話を聞くことが大切だと信じているせいで話し出せない人がいるかもしれません。静かに座っている人に「Aさん、どうですか?」「次は、BさんとCさんの意見を聞かせてください。」などと、話をふるようにしましょう。
また、誰かの発言中に、話の腰を折る人に対しても「Dさんが発言中なので、少し待ってください。」と注意をし、誰もが平等に会議に参加できるようにします。
コンフォートゾーンを抜け出す、抜けださせる
コンフォートゾーンとは、ストレスや不安がなく過ごせる「安全領域」のことです。例えば、慣れ親しんだ職場や、自分と気が合う人が多い職場はコンフォートゾーンになります。しかし、多様性のある職場にするためには、上司も部下も、そのコンフォートゾーンから一歩踏み出さなければなりません。
もし「出る杭は打たれる」と信じている人が、アメリカで働く機会を得たら、自己主張の大切さを知るはずです。このように、自分が心地よいと感じる環境から意識的に離れてみたり、今まで自分が信じてきたことと逆のことをしてみたりすることで、自分の可能性を伸ばすことができます。管理職は、部下にもそのチャンスを与えてください。
批判的な指摘を、上手にする(クリティカルフィードバック)
ときには批判的な指摘も必要です。チームメンバーの仕事ぶりに問題があるとき、相手が誰であってもきちんとフィードバックできるようにします。一般的に、自分と似たタイプの部下には、相手の反応が予測できるので批判的な意見が言いやすいものです。一方で、自分と違うタイプの部下には言いづらいかもしれません。
しかし、批判的な指摘をしなければ、その人が成長するチャンスを奪うことになってしまいます。相手の固有の信念をよく観察し、もし批判的な意見に弱い人の場合には、前向きな話を多めに加えながら話すような工夫をしてください。
潜在的な不公平をなくす
誰でも、自分と似たタイプの人とは話しやすいものです。そのため、部下に仕事上のアドバイスをするときでも、自分と似たタイプの人に時間をかけてしまうことがあります。また、性別や年齢、人種などから無意識に偏見を持って部下と接してしまうことも考えられます。
そうして苦手な部下とのコミュニケーションを避けてしまえば、その人は正しく評価されません。いつも自分の行動を振り返り、潜在的な不公平をなくす努力をしましょう。
趣味とビジネスを切り離す
ゴルフやテニスを一緒にプレイしている人や、いつも一緒に飲みに出かける人とはつながりが深まります。部下や同僚と親交を深めることは悪いことではありませんが、親しい人を仕事のうえで無意識に有利にしていないか自己確認をしてください。職場では、趣味が違う人も同じように評価されなければなりません。
誰にでも参加しやすいチームビルディングのプログラムを考える
職場のコミュニケーションを活性化させるために、チームビルディングはとても良い方法です。しかし、そのプログラムが一部の人だけで盛り上がるものであったら、せっかくの機会を生かすことができません。チームビルディングのプログラムを企画するときには、全員が楽しめる、参加しやすいという視点を忘れないようにします。
測定できる結果で評価をする
職場では、各自が期待された成果を出せているかどうかが最も重要です。習慣や育ってきた環境が違えば、仕事へのアプローチの仕方も違うかもしれません。しかし、測定できる結果で評価をしましょう。ひとつの物事に対して、いろいろな異なるアプローチ法が出てくることが多様性の良いところであると理解しましょう。
多様性の尊重とは、ほかの人の視点を理解すること
本書で述べられている多様性の尊重とは、マイノリティの数を増やすだけではなく、ほかの人の視点を理解し、その人達とどうやったらうまく仕事をすることができるか考えることです。自分や部下の意識を変え、多様性のある職場にすることは難しい挑戦ですが、一度達成できればその効果は長く続きます。様々な視点から物事を見ることができるチームは、創造性を伸ばし、企業を成功へと導くでしょう。
The Loudest Duck
著者 Laura Liswood
出版社John Wiley & Sons, Inc. (初版2009/11/16)
ISBN-10: 0470485841
ISBN-13: 978-0470485842
- 経営・組織づくり 更新日:2023/02/22
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