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職場で世代や異文化のギャップを埋める3つのステップ

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『The Business of We: The Proven Three-Step Process for Closing the Gap Between Us and Them in Your Workplace』の著者ローラ・クリスカ氏は、日本生まれでアメリカ育ち。大学卒業後、日本の本田技研工業に就職したという異色の経歴を持つ人物です。その後も日本を始めとする世界中のグローバル企業をクライアントに、異文化コンサルタントを続けてきたクリスカ氏が本書のなかで紹介する事例は、客観的でありながらも実体験を通した視点で語られます。これは特に日本人読者には面白く感じられるでしょう。事例の要点を含めながら異文化のギャップを埋める3つのステップの概要を説明します。

「われわれ」対「彼ら」というメンタリティーを脱する

グローバル化が進む現代では、人種、国籍、性別、年齢、宗教など異文化間のコラボレーションがビジネスの存続に不可欠だと考えられています。しかし残念なことに、多様なバックグラウンドを持つ人を集めることは、企業の目標に反して「われわれ」対「彼ら」という分け隔てを前提とするメンタリティーを生み出します。同じ場所に多様な人が集まっているだけでは異文化間のコラボレーションにならないのです。 そこで「われわれ」対「彼ら」というギャップを埋め、ひとつにまとめる「WEの文化」が必要になります。

「WEの文化」の必要性

なぜ「WEの文化」が必要なのでしょうか?多くの組織は、社内で訴訟問題が起きたり、メディアで問題が取り上げられたり、顧客を失ったりしてから慌てて異文化間に起こる問題に対処しようとします。これまでも、たくさんのグローバル企業や組織が安くない代償を支払ってきました。しかし、日ごろから積極的に多様性の根本的な問題に取り組んでいれば、低コストでトラブルを回避でき生産性や利益性も上がります。

共に働く人たちのチームに多様性を持たせることは、組織にとって大きな価値となります。チームのリーダーたちが、さまざまな文化、年齢層、社会経済的背景を持つメンバーで構成されるチームをまとめられるよう励ましましょう。

「WEの文化」のメリット

「WEの文化」を持つ組織には次のようなメリットがあります。

  • 利益性が上がる
  • イノベーションが生まれやすくなる
  • 組織内のコミュニケーションが向上する
  • 危機管理ができる

日本人が陥りやすい「われわれ」対「彼ら」のメンタリティー

本書には、日本人社員が海外法人に赴任したときや、異文化の同僚と一緒に働くことになったときに起きたことに関する複数の事例が紹介されています。成功談もありますが、ここではあえて日本人が異文化に接したときに起こった問題を挙げてみましょう。複数の事例の中から要点を拾いました。

  • それが問題であることに気がついていない
  • 異文化を理解するのは良いことだと思っているが、それがビジネスに直結するとイメージできていない
  • 日本から海外法人に赴任した社員だけが日本語で交流し、そばに座っている現地社員には声をかけない
  • 間違った態度を取らないよう気を使うあまり、文化の違う同僚から無視されていると思われてしまう
  • 言葉の壁を乗り越えられずコミュニケーションができない

どんなに優秀な人材を海外に派遣しても、現地のスタッフや取引先と真のコミュニケーションがとれない限り成果が期待できません。特に日本の場合は、もう一歩踏み込んで異文化を理解する必要がある事例が多いようです。

「WEの文化」を生む3つのステップ

異文化間のギャップを埋め「WEの文化」を生み出すために、本書は3つのステップを提案します。

  • 問題を認識する力を育てること:Foster Awareness
  • 自己評価をすること:Self-Assess
  • 行動すること:Take Action

目の前で起きている問題が問題であると気づかない人もいます。そこで問題意識を持ち、自分や組織がどれくらい異文化を理解できるか客観的に知り、行動することで職場にWEの文化を育てていきます。

1 問題を認識する力を育てる

旅先で自分とは違う文化を知ることがあると思います。しかし、見ただけでは異文化を理解することはできません。同じように組織の中でもさまざまな方法で文化の「違い」についてのデータを集める必要があります。目に見える情報は氷山の一角です。大切な情報は水面下に隠れています。

水面下に隠れている異文化のギャップを知るためには、異文化を持つ人との意識的な対話が必要です。本書では、どのような異文化を体験したか話し合う場を設けることや、違う文化を持つ人(年齢や国籍など)同士が集まって、それぞれの文化の情報交換ができる機会を作ることが提案されています。その際には無理に聞き出すのではなく自発的でポジティブに話し合える場にすることが大切です。

2 自己評価をする

次のステップは、特定の人種、国籍、性別、年齢、宗教などの文化を一つ挙げ、その文化について自分のなかにギャップがあるかどうかを自己評価することです。この調査も希望者のための自己評価方法の例であり強制してはいけません。どのような自己評価をするのか、問いの例を紹介します。

  • この文化を持つグループの人と会ったことがありますか?
  • この文化を持つ人たちと長い会話をしたことがありますか?
  • この文化を持つ人たちと飲食を共にしたことがありますか?
  • この文化の歴史や価値観を意図的に研究したり学んだりしたことがありますか?
  • この文化を持つ人たちの重要な行事(祝日、伝統、習慣)に参加したことがありますか?
  • 参加者の多数がこの文化を持つ人々で構成されているグループ活動(クラス、スポーツ、礼拝など)に参加したことがありますか?
  • この文化を持つ人を家に招待したり、相手から招待されたりしたことがありますか?
  • いままでに、この文化を持つ人と信頼関係を築いたことがありますか?
  • この文化を持つ人や家族と、旅行や出張、共通の体験などで連続24時間を一緒に過ごしたことがありますか?
  • この文化を持つ人と信頼関係が5年以上続いていますか?または続いたことがありますか?

「はい」「いいえ」で回答し、「はい」の数はいくつあったでしょうか?

0点 ステージ1 他人 この文化を持つグループや、その人について何も知りません。
1-3点 ステージ2 知り合い 対面により基本的な交流ができています。
4-5点 ステージ3 仲間 対より多く対面することでステレオタイプに惑わされない交流ができています。
6点以上 ステージ4 信頼できる仲間 信頼関係を築くことができていま

目標は、ステージ3から4です。ステージ4まで到達するのは時間もかかり難しいことですが、ギャップを埋めチームの生産性を上げたいリーダーは必達です。

3 アクションプランを作成する

自己評価の結果を受け、どのような行動をするかアクションプランを考えます。「すぐにできること」「少しリスクを伴う挑戦的なこと」「ハイリスクだがゲームチェンジになること」という3段階の難易度にそってブレインストーミングをしていきます。「個人でできること」「組織でできること」「物理的な空間でできること」「就業規則で改善できること」「ビジュアルやメッセージで伝えられること」などについて、それぞれ考えてみましょう。例えば次のようなアクションプランが思いつくかもしれません。

すぐにできること

その文化について、本を読んだりインターネットで調べたりするなど、コストが少なくリスクなしにできるアクションです。宗教の違いに対応して社内に礼拝スペースを作るといったことも含まれます。

少しリスクを伴う挑戦的なこと

例えば異なる文化を持つ人をランチやお茶に誘ったり、交流の場を設けたりするアクションです。断られるリスクもありますが、成功すれば相互理解につながるでしょう。社内で特定の文化に合わせたイベントをしたり、言葉を教え合う会を開いたりすることも考えられるかもしれません。

ハイリスクだがゲームチェンジになること

世代のギャップを埋めたいときに「別の世代のグループ活動に長期間参加する」といった大胆なアクションです。実行前にある程度の相互理解が必要なものの、成功すれば異文化のギャップが縮まるでしょう。異文化の儀式に出席したり、現地の状況を学ぶために留学したりするアクションも考えられるかもしれません。

「WEの文化」を阻む障害を克服する

「WEの文化」が根付いていると思っている組織でも、実際には多くの場合「われわれ」対「彼ら」のメンタリティーがあります。例えばこのようなギャップが存在していないでしょうか?

  • ホワイトカラーの職種とブルーカラーの職種の違い
  • 入社年度や世代による違い
  • 学歴の違い

オフィスに勤務するホワイトカラーの職種のほうが、工場で製造にあたるブルーカラーの職種よりも優遇されることが多くあります。なぜでしょうか?特定のスキルの差や教育のレベルの違いは現実にあるかもしれませんが、成功に向けて全員が力を合わせるためにはそのギャップを埋めなければなりません。

1990年代、オハイオ州にある本田技研工業のアメリカ法人では、そのギャップを埋めようとオフィス勤務者も製造部門と同じ白のつなぎを着て勤務していたといいます。また、重役でも駐車場の場所やカフェテリアの場所取りは優遇されず、先に来た人が良い場所を確保できるようにしました。「WEの文化」を浸透させるには常に問題意識を持ち異文化のギャップを埋めることが必要です。

ホームチームの有利性に注意すること

どこの組織でもマジョリティで構成される「ホームチーム」の文化は強く「WEの文化」の浸透を妨げます。日本の文化もホームチームが有利になってしまう傾向があり、海外進出を考えるときや異文化の同僚と働くときには気をつけなければなりません。なぜ日本の文化はホームチームが有利になりやすいのでしょうか。

クリスカ氏は、日本の98%近くが日本人であり、インドや中国と違って、国で使われる言語も一つだけであることを指摘します。そして日本のどこで育っても義務教育の教科書は同じで、教育の仕方も同じです。その結果、日本で育つすべての人々が同じ文化と経験を共有することになります。

コミュニティとアイデンティティに対して誰もが強い共通の感覚を持つ日本独自の文化により、人々は同じ目標に向かって集中する能力を発揮します。これは日本の文化の素晴らしいところです。しかし、ますます多様化するグローバル市場では、この均質性が障害になってしまうことがあります。

組織の中に「WEの文化」を支える基盤をつくる

「WEの文化」の開発は継続的なプロセスです。何か問題が起こってから対処するのではなく今すぐ行動を起こしましょう。お金をかける必要はありません。組織の中で意識的に問題を認識し、自己評価をもとに行動を起こすという3つのステップを繰り返すことで、さまざまな異文化を持つ人たちとのギャップをなくし、「WEの文化」を浸透させることができるようになるでしょう。

The Business of We: The Proven Three-Step Process for Closing the Gap Between Us and Them in Your Workplace
著者Laura Kriska
出版社HarperCollins Leadership (電子版2021/01/12)
ISBN-10 : 140021680X
ISBN-13 : 978-1400216802

  • 経営・組織づくり 更新日:2023/03/02
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