採用戦略としての「初任給引き上げ」を考える メリット・デメリットと成功のポイントを徹底解説!
物価高騰、円安、そして人材不足と企業経営を取り巻く環境が厳しさを増す中で、2025年卒学生では企業選択の軸として「給与の良さ」を挙げる学生が過去最多となりました。
出典:マイナビ 2025年卒 大学生就職意識調査
これに呼応するようにして、企業側も初任給の引き上げを開始または検討しており、25年卒採用で「初任給を引き上げる予定がある」と回答した企業は全体で47.2%に達しています。
出典:マイナビ2025年卒企業新卒採用予定調査
しかし、初任給の引き上げは人件費の増加や既存社員との不公平感といったマイナスの事象を引き起こすこともあります。
そこで今回は、営業担当として現場で採用支援を続けた後、現在はマイナビのシンクタンク「キャリアリサーチラボ」の主任研究員を務める井出翔子にインタビュー。初任給引き上げが新卒採用にもたらすメリット・デメリット、そして成功のためのポイントを聞きました。
そこで今回は、営業担当として現場で採用支援を続けた後、現在はマイナビのシンクタンク「キャリアリサーチラボ」の主任研究員を務める井出翔子にインタビュー。初任給引き上げが新卒採用にもたらすメリット・デメリット、そして成功のためのポイントを聞きました。
給料の良さを求める理由は「社会と将来への不安」
— 今日はよろしくお願いします。今の学生は「給料の良い会社」を求める傾向が強まっているというデータがありますが、その背景はどのように分析されますか?
井出: マイナビでは過去20年以上にわたり、学生の「企業選択のポイント」についてアンケートを取っています。ここ数年のトレンドとしては「安定している会社」「給料の良い会社」の回答が増加傾向にあり、25年卒ではどちらも過去最高の数値を記録している一方、「自分のやりたい仕事ができる会社」は過去最低となりました。
以下のグラフからも分かるように、約半数の学生は「(初任給は)平均的な金額であれば良い」と考えており、「高額な初任給」を求めている学生は1割以下です。
— 「給料の高い会社」に入りたいが、「高額な初任給を求めているわけではない」。一見すると矛盾するアンケート結果のようにも見えますね。
井出: 統計から一人ひとり の心情を読み取ることはできませんのであくまでも推察ですが、一言で言うなら、これは「社会不安」や「将来への不安」が反映された結果と見ていいでしょう。
25年卒学生は大学入学とコロナ禍のタイミングがかぶっています。行動制限がある中で窮屈な学生生活を過ごし、そして今は就活を前にして物価高と円安という現実に直面しているわけです。
そんな学生生活を送る中で感じた「社会不安」、そして先行きの見えない経済環境による「将来への不安」。これらを解消したいという欲求が、こうした企業選択軸に表れているのでしょう。
そして企業側にとっては、そんな企業選択軸を持った学生にアピールできるポイントの一つが、「初任給の引き上げ」です。
初任給引き上げにはデメリットも――既存社員との逆転・昇給ペースの鈍化
— 初任給の引き上げのメリットとデメリットについて教えてください。
井出: メリットは、いまお話ししたように「学生へのアピール」に尽きます。
安定している企業、社員を大切にしてくれる企業、といったプラスの印象を抱いてもらえるからです。
一方、 懸念点も2つあります。まず注意すべきなのが「既存社員と新入社員の給与が逆転する」可能性です。
— 新入社員よりも先輩社員の給与が安くなってしまう可能性ですね。
井出: はい。「全社員の給与を上げた結果、初任給も上がった」という場合は問題にならないことが多いのですが、学生へのアピールのために「初任給だけを引き上げた」という場合、既存社員、特に若手社員との間に給与の逆転現象が生まれてしまうことがあります。
初任給の引き上げ理由として「全社員の給与を引き上げたため」「求職者へのアピールのため」を挙げた企業はそれぞれ約半数。
既存社員のモチベーションを大きく下げる要因となりますので、できれば「手取額」も考慮した上で、そのような逆転現象が起こらないように気を付けましょう。
— ほかにもデメリットはありますか?
井出: もう一つが、「初任給を引き上げた結果、昇給ペースが遅くなってしまう」というパターンです。
初任給を引き上げた結果、採用時点では有効なアピールとして機能したとしても、入社後にモチベーションが不足してしまい、早期離職につながる可能性があります。
自社の財務状況をよく見極め、「学生へのアピールのためだけに初任給を引き上げる」ということがないように気を付けていただきたいのです。
初任給引き上げで採用を成功させる3つのポイント
— ではここから、初任給の引き上げを採用に生かす方法を教えてください。
井出: 初任給の引き上げが可能な財務状況で、既存社員との逆転現象や昇給ペースの鈍化が起こらない、という前提のもとで、いくつかポイントがあります。
ポイント1:ライバル企業の状況をよく観察する
井出: 採用施策の一環として初任給の引き上げを行おうというとき、まず迷うのが「どの程度、金額を上げるか」ということでしょう。
採用上のライバルに初任給が極めて高額な外資系企業やIT企業がある場合など、「平均額」がまったく参考にならない場合もあるからです。
この水準を大きく超えてライバル社の初任給を上回る引き上げを行えるなら良いですが、そういう企業ばかりでもないでしょう。
重要なのは、「初任給の引き上げを行った」という事実から学生に伝わるメッセージ(安定した企業である、社員を大切にしている)なので、額にこだわらず、その他の施策も併せて紹介していくといいでしょう。
ポイント2:企業の安定性を別の方法でもアピールする
たとえば「福利厚生が充実している」「安心して働ける環境である」「スキルアップを支援してくれる」などの項目も挙げています。これらの要素を持っているのであれば、併せて広報すると、仮に大幅な初任給の引き上げができない場合でも十分に学生に響くでしょう。
ポイント3:先輩社員の「暮らし」でアピール
井出: 冒頭でお話ししたように、学生が求めているのは「高額な初任給」ではなく、「不安が解消できる・暮らしに不安を抱えずに済む環境」と見ることができます。
その点では、先輩社員たちの「暮らし」にフォーカスしたコンテンツの展開も有効です。
たとえば、採用広報では「1週間の働き方」をモデルケースとして紹介することがよくありますが、その中に「週末」も含めてしまうというやり方です。
「バイクが趣味なので、少しいいバイクを買いました。週末はツーリングに出掛けて温泉に入っています」
「週末は子どもと自宅の庭で遊ぶのが定番です」
のように、豊かな暮らしぶりが想像できるコンテンツを提供すると、会社に入ってからの仕事だけでなく、充実したプライベートまで想像することができますので、有効です。
— データに基づいた具体的なノウハウをありがとうございました!
学生の気持ちを知ってうまく広報しよう
初任給の引き上げは、今の学生ニーズに合った良いアピール材料です。しかし全社を巻き込む判断となるため、頭を悩ませる採用担当者も多いかもしれません。重要なのは、自社が「安定していて社員を大切にする会社である」ことを多角的に伝えること。給与の引き上げは、あくまでもそのうちの一つのポイントとして押さえておくという考え方が重要です。今ある制度や働く環境を改めて洗い出し、多方面から働きやすさをアピールしてみてはいかがでしょうか。
- 人材採用・育成 更新日:2024/09/13
-
いま注目のテーマ
-
-
タグ
-