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守りと攻めで考える「採用基準」の作り方──中小企業が採用に失敗しないための2つの視点

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「採用基準」を設けることの必要性は分かっていても、人手不足や、そもそもどこから手を付けていいか分からない、といった中小企業の人事の方は多いのではないでしょうか。

しかし、明確な基準があれば、採用活動の中で「この人は採用すべきかどうか」と悩んだとき、その判断の助けになります。

加えて、 面接の属人化を防げる、候補者に一貫したメッセージが伝わる、採用後のミスマッチが減る――といった多くのメリット もあります。

そこで今回は、採用・定着支援のプロフェッショナルであるジャンプ株式会社の増渕知行さんにお話しを伺いました。採用基準と一口に言っても、実は「守り」と「攻め」の2つの側面から考える必要があるのだとか。

詳しく紹介していきます。


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  • 増渕 知行(ますぶち・ともゆき)さん ジャンプ株式会社 代表取締役社長 兼YouTuber

    2008年の会社設立以来、採用力強化に特化した事業を展開。採用戦略オープン講座「STRUCT ACADEMY」や人事向けYouTubeチャンネル「採用こっそり相談室」を立ち上げ、複雑な採用マーケットを分かりやすく解説することを目指して活動中。



「守り」と「攻め」の採用基準

「防波堤」としての採用基準とは

— 採用基準策定において、「守り」と「攻め」の2つの側面があると伺いました。まずは、「守り」の側面から教えてください。

増渕さん:はい。「守り」の採用基準が持つ大きな役割は、“リスクヘッジ”です。

過去に採用した人材の中には、残念ながら職場へのミスマッチが見られたり、それが理由で早期離職につながったりした方もいたでしょう。そして、そのような人材には「遅刻が多い」「報連相ができない」「他責志向」などの共通項があるのではないでしょうか。そうした実例を振り返り、「どんな人材が自社では活躍できないか」というネガティブ基準に落とし込んでおくことが、同じ轍(てつ)を踏まないための第一歩になります。

関連記事: 早期離職を防止するには?原因と対策を詳しく解説

特に中小企業では社員数が少ないため、大企業と比較すると相対的に「1人の影響力」がとても大きく、採用ミスのダメージが深刻です。採用ミスにより、入社後に問題を起こす、すぐ辞める、既存社員が疲弊する──そんなリスクを防ぐには、 最低限「こういう人はNG」というネガティブ基準、つまり「防波堤」となる基準が必要 です。

この防波堤がないと、面接官がその場の印象や「なんとなく合いそう」といった感覚に頼って判断してしまい、NG人材を通過させてしまうリスクが高まります。

なので、「こういう人材は採用しない」というネガティブな採用基準を明文化し、判断のブレを抑えることが、リスク予防になるのです。

— 中には、採用基準があるのに経営層や上席者がそれを見ていない、軽視するということに悩んでいる方もいるようですが、その場合にはどうしたらいいでしょうか?

増渕さん:その場合、書類選考や1次面接の段階で、ネガティブ基準に掛かった候補者をスクリーニングしてふるい落としてしまい、そもそもNG人材と経営層・上席者を会わせないという方法が有効です。

— なるほど。そもそも会わせなければ、NG人材の入社も起こらないということですね。ほかに、ネガティブ基準を持つことのメリットはありますか?

増渕さん:はい。ネガティブ基準があれば、例えば現場から「今回はこの人を採用したい」という声が上がってきたときにも、「なぜこの人がリスクになり得るのか」を冷静に伝える材料になるため、人手不足の中で「とりあえず採用してしまう」という判断を防ぐことができます。それが結果的に、会社と組織を守ることにつながるのです。

ここに、防波堤としての採用基準を持つことの大きな意味があります。


未来志向の「攻め」の採用基準とは

— 次に「攻め」の採用基準について伺います。

増渕さん:はい。採用基準は、“攻め”の役割も果たします。

その分かりやすい例が、 採用基準が持つ「未来のあるべき自社の姿に必要な人を定義する」という重要な役割 です。

特に近年はAIが普及するなど、社会環境が素早く、大きく変化しています。その中で、今までの成功パターンが通用しなくなる場面も増えてきているでしょう。

そんな時には、「今、●●ができる人が活躍しているから、似た人を採用しよう」ではなく、「これからの時代に必要なスキルやスタンスは何か?」と問いながら採用を進めるという視点が不可欠です。

そして、そういった視点を最も強く持っている社長や経営陣のビジョンを盛り込むことが、“攻め”の採用基準につながるでしょう。経営の方向性と一致した人材像を採用基準に組み込むことで、組織の成長スピードも大きく変わってくると思います。

— “攻め”の採用基準は、“守り”の採用基準より未来志向ですね。

増渕さん:はい。現場が「今、すぐに必要」と考える人材像が、必ずしも「未来のあるべき自社の姿」に必要とは限りません。一方、「今、すぐに必要」なスキルは持っていない人材でも、将来的には必要になる人材である可能性は大いにあります。例えば「変化を歓迎できる人」「学び続けられる人」など、環境変化に強い人材がそれに当たります。

“攻め”の採用基準では、このように「今」ではなく、「未来」を大切にします。それは言い換えれば、企業がどう変化しようとしているかを表す指針でもあるのです。

また、社長が目指すビジョンがまだ社内に浸透し切っていない場合、採用基準を通して「こういう人を迎えたい=こういう組織にしたい」という意図を、現場に伝える手段にもなります。

また、社長を巻き込んで採用基準を策定できれば、リソース的な問題もクリアできるかもしれません。採用基準は単なるチェックリストではなく、経営と現場の意思疎通を促す機能を果たしてくれるのではないでしょうか。

「即戦力採用」「ポテンシャル採用」それぞれ見るべき軸

— なるほど、ありがとうございます。まずは「守り」、そして次に「攻め」の採用基準を持つという流れが現実的ですね。その上で、採用目的として「即戦力採用」と、将来の活躍を期待した「ポテンシャル採用」がありますが、それらでも採用基準の設計は変えるべきでしょうか?

増渕さん:はい、 「即戦力採用」と「ポテンシャル採用」の採用基準は明確に分けるべき です。

即戦力採用の場合は、配属部署と連携し、Must(必須)とWant(歓迎)のスキルをきっちり切り分けておくようにしましょう。どの業務を任せたいのか、どの程度の即戦力を求めるのかを明文化しておかないと、採用の現場で「何となく良さそう」で選んでしまい、ミスマッチにつながることがあります。

ただし、現場の声をそのまま採用基準としてしまうことにはリスクもあります。

なぜなら、配属先の現場は即戦力を求めて多くのスキルを必須条件にしがちですが、昨今の厳しい採用市場において、それでは人材が集まらないからです。

現実的には、「後から伸ばせるスキル」は「Want(歓迎)要件」とし、Must(必須)スキルは「後から伸ばしにくいスキル」だけに絞るのが現実的です。最低限の必須要件を満たしていれば、他は加点要素として評価していくといいですね。

一方で、ポテンシャル採用では今あるスキルや経験よりも、「再現性のある行動特性」が見られるかどうか、がポイントになります。

候補者は面接時にさまざまな経験や結果をアピールすると思いますが、「社内で表彰された」「営業成績で1位を取った」などは再現性のないものの代表例です。

関連記事: 未経験者の中途採用面接では何を確認すべき? その難しさと見極め方


— そのようなアピールがあれば、その人の実力を裏付けるものとして受け取ってしまいそうです。

増渕さん:お気持ちは分かりますが、会社の状況やチームの支援体制など、ほかの要因も絡んでいるはずなので、自社で採用して同じようにパフォーマンスを上げてくれるとは限りません。つまり「再現性がない」ということですね。

なので、「どういう行動をしてその結果を生み出したのか」という点をしっかりと聞き、「賢い・頑張り屋・感じがいい」などの評価軸に置き換えて見極めてみてください。

一見、曖昧な基準のようですが、これらは「その人がもともと持っている性格や性質」を表す言葉なので、再現性があります。

— つまり、「成果そのもの」は状況に左右されるが、その成果につながった「その人の性格や性質」は状況に左右されないため、自社でも同じように発揮してもらえるということですね。ただ、客観的に見極めるのが難しそうです。

増渕さん:そうですね。性格や性質は大きく変化しないので、自社でも同じように期待することができます。

一方、見極めが難しいと感じる方が多いのもまた事実です。いくつかポイントを紹介します。

関連記事: 現場担当者が身に付けるべき面接力とは? 採用を成功に導く「見抜く」「惹き付ける」の極意

— ぜひお願いします。

増渕さん:例えば「頑張り屋」を見極めるには、コンピテンシー面接(行動特性面接)がよく取り入れられます。

これは、候補者が過去に直面した具体的なエピソードをもとに、「なぜそれをやろうと思ったのか」「どんな工夫をしたのか」「その結果、どう変化したのか」といった“行動のプロセス”を深掘りしていく手法です。単に成果だけを聞くのではなく、そこに至るまでの判断や工夫、努力の質に着目することで、表面的なアピールではない再現性のある性格・性質を見極めることができます。

ほかにも、「賢さ」に関してはSPIや過去の学習情報 、「感じの良さ」は、複数人での接触を通じて客観的な根拠をもとに判断できると思います。

“攻め”と“守り”の採用基準がベストな結果に導く

採用基準の策定や実践は、決して簡単ではありません。しかし、たとえ一人人事であっても、 最低限この条件は守るという「ディフェンシブ=防波堤」と、未来のためにここは採用するという「オフェンシブ=未来志向」を押さえるだけで、採用は戦略的かつ安定したものになります。

採用基準の策定や運用を行う上で、今回ご紹介したノウハウをぜひご活用ください。


  • Organization HUMAN CAPITALサポネット編集部

    HUMAN CAPITALサポネット編集部

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  • 人材採用・育成 更新日:2025/07/14
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