介護法人の採用担当者からもっともよく聞くのが、「なかなか応募が集まらない」という悩みです。売り手市場の採用市況が続いている近年、どの法人も、人材の確保には苦労しています。じつは、就職・転職情報サイトやハローワークに掲載する求人票の書き方を見直すだけでも、応募が増えるケースが少なくありません。

求人票は採用活動の要であり、何をどんな表現で書くかによって、求職者の反応は大きく変わってきます。今回は、介護職の求人情報のなかでも重要な項目の一つである「仕事内容」欄の書き方を解説します。

まずは、求職者が求人票のどこに注目しているのかを確認しましょう。下記は、マイナビが求職者に「求人を見て、応募をためらう理由」を聞いた結果、回答率が高かった項目をまとめたものです。

Q. あなたが求人を見て、応募をためらう理由は？
■1位：給与が低い（56.4％）
■2位：休日が少ない（45.3％）
■3位：福利厚生が少ない（35.2％）
■4位：勤務地が希望と異なる（33.7％）
■5位：仕事内容がわかりにくい（31.7％）

※出典：マイナビ「転職動向調査2024年版(2023年実績)」（2023年12月調査）

より多くの応募を集めるためには、1位、2位にあがっている給与や休日を増やしたり、3位の福利厚生を充実させたりしていくのが理想ですが、すぐには難しいのが現実です。一方、5位の「仕事内容がわかりにくい」という課題については、求人票をはじめとする求人情報の書き方を見直せば改善することができます。
求人票には多数の項目（欄）がありますが、今回は「仕事内容」に絞ってテクニックを解説していきます。

求人票の仕事内容欄には、文字通り、具体的な介護業務の内容だけを書いている法人が多い印象です。しかし、仕事内容欄には、仕事内容しか書いてはいけないわけではありません。仕事内容を書いたうえで、そのほかの「求職者が知りたい情報」も盛り込むと、よりアピール性の高い求人票になります。

では、求職者が知りたい情報とはどんなことなのでしょうか。下記は、マイナビが求職者に「転職サイトで仕事内容欄を見る際に、どちらの情報を必要とするか」と聞いた調査の結果です。

※出典：マイナビ「転職サイト利用者の行動特性レポート 2023年版」（2023年7月調査）

上記の結果から、求職者は、下記の情報を知りたがっていると考えられます。

■入職後担当する仕事内容
■待遇・環境面
■法人の今後の展望
■業績・安定性
■未経験も歓迎
■先輩社員のインタビュー
■社員からのメッセージ
■やりがい・社内貢献性

求人票の仕事内容欄には、このなかから、自法人の強みや魅力アピールにつながる情報を盛り込むとよいでしょう。

求職者にとってわかりやすく、「応募したい」と思ってもらえる求人票を作成するためには、書き方・伝え方を工夫する必要があります。ここでは、基本的なポイントを紹介します。

■エピソードを盛り込む
求人票を読んだ求職者に興味を持ってもらうコツは、自法人の職員から経験や思いを聞き出して、具体的なエピソードとして紹介することです。仕事内容欄にエピソードを盛り込むことで、求職者が入職後の働き方や将来像をイメージしやすくなり、訴求力が大幅にアップします。また、エピソードには自法人の働きやすさや自法人で働くことで感じたやりがいや喜び、つまり自法人らしさが詰まっているため、他法人には真似できない唯一無二の求人へと生まれ変わるというメリットもあります。

■求職者の気持ちを想像しながら流れを構成する
求人票作成においては、法人側が伝えたいことを伝えたい順に書くのではなく、求職者が何を知りたいと思っているかを想像しながら構成を考える必要があります。とくに仕事内容欄に複数の情報を盛り込む場合は、読みやすく自然な流れを意識しながら、求職者にとって優先順位が高い情報から順に書くようにしましょう。

■見出しを設ける
仕事内容欄に仕事内容以外の情報も盛り込むと、文章が長めになりがちです。いくつかのパートに分けて頭に見出しをつけたうえで、上下に線を引く、太字にするなどして見出しを目立たせると、長めの文章でも読みやすく、スムーズに理解できるようになります。

■1行20文字以内で改行する
求職者の多くは、スマートフォンで求人情報をチェックします。1行の文字数が長いと、スマホ画面では見にくく、改行が崩れた状態で表示されることもあります。スマホ画面で就職・転職情報サイトを見た場合の1行の文字数は、20文字程度が一般的です。求人票を書く際には、できるだけ1行あたり20文字以内に収め、きりのいいところで改行しましょう。

■4行おきに1行分のスペースを空ける
最近の求職者は、XやインスタグラムなどのSNSで100文字程度の短文を読むことに慣れているため、長文に見えると最後まで読んでもらえないおそれがあります。行が長くなる場合は、4行ごとに1行分のスペースを空けるようにしましょう。適度に箇条書きを取り入れるのも効果的です。

ここからは、情報の種類別に、求人票の「仕事内容」欄の書き方・伝え方の具体例を見ていきましょう。

介護法人の求人票でよく見られるのが、食事支援、入浴支援、排泄支援、生活支援といった介護業務の具体的な内容が書かれた上記のような例です。この書き方がNGというわけではありませんが、介護法人の求人票を見る求職者の多くは主な介護業務についてはイメージできているため、あえて求人票に書く必要はありません。

求人票では、具体的な業務内容よりも、介護の仕事の本質、つまり仕事のやりがいやおもしろさを伝えることが大切です。上記の例では、「孫といっしょに桜を見に行きたい」という利用者の思いをかなえた介護職が、利用者に感謝の言葉をかけられた瞬間に思わず涙してしまったという体験談が紹介されています。

このようにエピソード形式で書くと、日頃、自法人の介護職がどんな姿勢で利用者に接しているか、介護の仕事にどんな思いを持っているかを表現することができます。その結果、より心に響く文面になり、求職者に「自分もこんな仕事をしてみたい」と思ってもらいやすくなります。

人手不足の介護業界では、多くの法人が求人票に、未経験者歓迎のメッセージを盛り込んでいます。しかし上記のように「無資格・未経験でも応募を」と書くだけだと、テンプレートのような印象があり、求職者に「誰でもよいから人手がほしいだけなのでは」と思われかねません。

一方、上記の例では、ただ未経験者歓迎と書くだけではなく、未経験で入職した職員の前職を具体的に紹介しています。このように書くと、未経験の求職者に「こんな業界から入っている人もいるなら、自分にもできるんじゃないか」と期待感を持たせることができるうえ、職員の個性を尊重している姿勢も伝わります。

上記はよく見る書き方ですが、「残業少なめ」のような抽象的な表現の場合、実際には残業10時間以内の可能性もあれば、30時間の可能性もあります。具体的な残業時間がわからないと、求職者は働きやすい環境かどうかを判断できません。

「残業少なめ」「働きやすさ◎」と書くよりは、上記のように残業の時間や休日の日数、休日の日数や有給休暇取得の状況などを具体的に記載するのがベターです。

より訴求力をアップして求職者に「応募したい」と思ってもらうには、上記の例のように、職員の休暇の過ごし方を紹介するとよいでしょう。プライベートの様子に触れることで、求職者が有給休暇の取得状況をリアルに感じとれるため、信頼性が高まります。

残業時間に関しては、月あたりの時間数に加えて、上記のように1日あたりの時間数や職員の退勤時間などの詳細情報を書くと、説得力が増し、「この職場なら働きやすそう」と思ってもらえます。そのほか、「シフト制のため基本的には定時退社」「基本的には残業なし。繁忙期のみ○時間ほど残業あり」などと、残業が少ない理由や残業が発生する時期を詳しく書くのも一案です。

「求人票の仕事内容欄に書くために必要だから」と、急に職員にヒアリングを実施しても、仕事の魅力が伝わるエピソードが出てこない場合もあります。日常のコミュニケーションのなかで、折に触れて「仕事をしていてうれしかったこと」や「やりがいを感じた瞬間」を聞いて、求人票に使えそうなエピソードがあれば書き留めておきましょう。

職員のなかでも、とくによく気がつくタイプの人や利用者への対応にやさしさや気遣いが感じられる人、業務改善のために積極的に意見を出してくれる人に協力してもらうと、求職者の心に響くエピソードを引き出しやすいでしょう。採用担当者が現場での介護業務も兼務している場合は、普段から業務内で積極的にフォローをして、職員と良好な関係を築いておくことも大切です。

採用活動において、求職者に自法人の魅力やリアルな状況を発信していくには、自法人の職員の協力が不可欠です。ただ、求人票の作成や説明会の開催といった採用活動は、介護職員から見ると介護業務の範囲外という感覚があるため、採用担当者が働きかけや工夫をしないと、積極的に関わってもらうのは難しいかもしれません。

工夫の一つとして考えられるのが、採用活動に興味がありそうな職員や仕事熱心で有能な職員に、採用サイトや就職・転職情報サイトに掲載する集合写真に写ってもらうことです。自法人の顔として選ばれたという自信が、採用活動への協力意識を高めるきっかけになります。

就職・転職情報サイトを利用している場合は、媒体の営業担当者に、職員を採用活動にうまく巻き込むコツを聞いてみるのもよいでしょう。

なかなか応募が増えないという介護法人の求人票を見ると、内容や表現に課題があるケースが少なくありません。その場合、求人票の書き方を見直すと、使っている媒体が無料か有料かにかかわらず、応募が増える傾向があります。

どんな手法を使うにしても、採用活動に求人票は欠かせません。とくに「仕事内容」は多くの求職者が入念に目を通す項目です。仕事内容で自法人の魅力をしっかりアピールして、より多くの応募を集めましょう。後編では、「給与」の書き方を工夫して印象をアップするテクニックを紹介します。

求人情報の書き方・伝え方については、下記の記事でも紹介しています。

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