介護職採用でアピールしたい「自法人の魅力」の見つけ方
介護保険制度は、利用者がどの地域に住んでいても同レベルの介護サービスを受けられることを前提にしています。そのため介護業界では、ほかの業界と比べると法人によってサービス内容が大きく異なるケースは少なく、他法人との介護業務の違いを打ち出すのは困難です。
しかし、「何のために介護をするのか」という介護観、つまり仕事の目的は、法人ごとにさまざまです。自法人の介護観こそ、求職者から見ればその法人の魅力であり、「この施設で働きたい」という動機になりえるものです。
したがって求人票を書く際には、応募要件や仕事内容の欄に、自法人の介護観やこだわりを盛り込むことが大切です。
たとえば仕事内容を「高齢者の介護・生活支援」とそのまま書いてもほかの施設との違いはわかりませんが、「当施設では利用者さまが自分らしく生活できるように、一人ひとりに合わせたケアにじっくり取り組んでいます。また、できる限り自立した生活を続けられるように、利用者さま自身でできることはお任せし、掃除、洗濯、散歩などの日常生活を通じて生活リハビリをおこないます」と書けば、自法人らしさが伝わります。
また、求人広告や採用サイト、説明会などでは、実際にあったエピソードを通して自法人の介護観を伝えると、求職者の心に響きやすくなります。特に新卒採用の説明会では、未経験の学生たちが「こんな仕事をしてみたい」と思えるようなストーリーを紹介することをおすすめします。
紹介するエピソードは、現場で働く職員から引き出すのがよいでしょう。複数の職員に「仕事をしていてどんなことがうれしかったか」「どんなときにやりがいを感じたか」という聞き方でヒアリングをして、集まった回答のなかから、自法人や職員自身の介護観が伝わるエピソードを選びましょう。
では、実際にはどんなエピソードを紹介すればよいのでしょうか。具体例をいくつか見てみましょう。
■利用者の夢や要望をかなえたエピソード
介護職のなかには、日々のコミュニケーションを通して利用者の夢や要望を汲み取って、食事会や外出などのイベントを企画した経験を持つ人も多いはずです。そのようなエピソードにはストーリー性があるため、求職者に介護職のやりがいを伝え、モチベーションを高めるのにぴったりです。
一例が、大阪市が主催する「みおつくし福祉・介護の仕事きらめき大賞2019」 (※1 出典:大阪市ホームページ )で最優秀賞を受賞した「おおきなな~ ひろ~いうみでおよぎたいねん ~行きたいから生きたいへ~」 (※2 出典:大阪市ホームページ )というエピソードです。
このエピソードでは、90代の女性利用者の「海で泳ぎたい」という夢を、担当の職員が準備や調整を重ねて実現するまでの様子が語られます。女性利用者は、職員に支えられながら3年連続で海への外出イベントを楽しんだ後、息を引き取ったそうです。
介護は日々同じことを繰り返すルーティンワークと思われがちですが、介護職の関わり方次第では、利用者の人生や終末期のあり方を変えるようなチャレンジができることもあります。そんな介護の仕事の魅力を感じさせてくれるエピソードです。
■認知症の利用者への対応エピソード
認知症の高齢者と接するときは、どんな言動も否定せずにいったん受け止めることが大切だといわれています。認知症の利用者が多い施設であれば、自法人の職員ならではの利用者への対応を紹介するのも一案です。
以下は、あるグループホーム(認知症の高齢者を対象とした小規模施設)の職員の体験談です。
職員は、男性利用者A さんとともに、外出先から施設に帰るところでした。そこは東京の郊外でしたが、Aさんは昔住んでいた京都にいると思い込んでいて、「京都駅に行く」と言い始めます。
思わず「ここは京都じゃありませんよ」と言ってしまいそうな場面ですが、職員は「じゃあ駅に行ってみましょうか」と答え、回り道をして最寄りの駅まで歩くことにしました。到着して駅名を見たAさんは、そこが京都ではないことに自ら気づき、二人は何事もなかったかのように施設に帰ったそうです。
なにげない日常のひとコマながら、認知症の症状を理解したうえで寄り添うという介護観をわかりやすく伝えるエピソードです。
■治療方針に介護職の意見が活かされたエピソード
高齢の利用者の生活の場である入居型施設では、利用者が病気やケガをして治療が必要になった場合に、普段から接している介護職の意見が求められる場面もあります。
たとえばある施設では、利用者Bさんが脚を骨折した際に、担当の医師が全治を目指して手術することを提案しました。一方、介護職は、長期の入院生活で認知症が進行してBさんの生活の質が大きく低下することを案じ、手術は避けたほうがよいという見解を医師に伝えました。
このケースでは、関係者が話し合った結果、介護職の意見が取り入れられ、手術以外の方法で対処することになったといいます。
医療従事者の使命は患者を治療することですが、介護職は、利用者が残りの人生をより幸せに生きるためにどうするべきかという別の視点を持っています。上記は、そんな介護職の専門性が伝わるエピソードです。
なお、求職者から見た法人の魅力には、「仕事のやりがい」と「給与・勤務地などの条件」という2つの側面があります。どんなにやりがいがあると感じる仕事でも、希望の条件を大きく下回っていれば応募や内定承諾につながりにくいでしょう。逆に条件がいくらよくても、介護観が合わなければ選考途中の辞退や入職後の離職の一因になります。つまり、いずれも求職者にとっては無視できない要素といえます。
ここまでは主に、仕事のやりがい面の魅力の見つけ方、伝え方についてお伝えしてきましたが、求人情報を書く際には、条件面もしっかりアピールする必要があります。特に給与については、求職者にとって好印象になるように、書き方を工夫することが大切です。
介護法人の採用担当者には自法人の給与が低いと思い込んでいる方が少なくありませんが、客観的に見るとそれほど低くなく、書き方次第で好条件に見えるケースもあります。具体的な書き方は、下記の記事を参考にしてください。
■昼食を安く食べられる
利用者に食事を提供している入居型施設では、職員が数百円程度で食事を食べられる場合があります。職員には当たり前でも、調理設備がない施設で働く人や未経験者には十分に魅力的なので、ぜひ求人票でアピールしたいところです。
■資格支援制度が手厚い
資格支援制度自体は多くの介護法人が導入していますが、細かい内容は法人によって異なります。費用の一部ではなく全額が支給される、就業時間内に勉強が許可されているなど、ほかの介護法人の資格支援制度よりも充実している点があれば、求人票にも盛り込めるアピールポイントになります。一度、ほかの法人と制度内容を比較してみましょう。
■トップとの距離が近い
小規模な介護法人で、介護職と理事長や施設長との距離が近い場合は、それもアピールポイントになるかもしれません。そのような法人では、気軽に理事長や施設長と話ができるため、意見や提案を伝えやすいのが魅力です。
■景気に左右されない
介護は、人々の生活に欠かせない仕事の一つであり、介護保険という公的制度に基づくサービスです。そのため、不況になっても職を失うリスクが低く、長く安定的に働ける仕事といえます。
■残業が少ない
重労働のイメージがある介護職ですが、じつは、ほかの業界と比べると残業が少ないことがわかっています。2023年2月に実施された厚生労働省の調査でも、16種の産業のうち、一般労働者の所定外労働時間がもっとも少ないのは医療・福祉業界でした(※)。理由の一つには、介護法人や医療法人では、国によって人員配置基準が決められていることがあると考えられます。
※出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和5年2月分結果速報等」
■好きなことを仕事に活かせる
通所介護事業所(デイサービス)や入居型施設でレクリエーションやイベントの担当になると、カラオケや手芸、ネイルといったプライベートでの趣味を活かせることもあります。
■AIやロボットに取って代わられるリスクが低い
今後、幅広い産業でAIやロボットが導入され、自動化される作業が増え、業務が効率化されていくといわれています。介護業界でも、見守りロボットや介護職の体への負担を軽減するアシストスーツなどが普及しつつあります。ただ、AIやロボットには、利用者の心身の微妙な変化に気づいたり、不安や苦痛に共感したりすることは難しいため、介護職の仕事の全てが自動化されることはないと考えられています。また、AIやロボットを活用して介護職の負担軽減や作業時間の短縮が図られることで、利用者とのコミュニケーションや業務プランの熟考など、人的リソースでしかできない業務に集中できるようになると期待されています。
- 人材採用・育成 更新日:2023/05/11
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