経営と人材をつなげるビジネスメディア

MENU CLOSE
1 ty_saiyo_t01_fact-based-hiring_2507011 column_saiyo c_interviewc_knowhowc_saiyougakuc_kijunc_mensetsukanc_sowaauthor_organization_saponet

採用は「印象」より「事実」で判断する──人事と現場のギャップをなくす対話術

/news/news_file/file/ty_saiyo_t01_fact-based-hiring_250704.webp 1

求める人材の確保が非常に困難な昨今の中途採用市場において、言語化された「採用基準」を持つことは大切です。しかしその前に、面接を行う現場担当者と人事の間で、目線を合わせた“意見のすり合わせ”は、きちんとできているでしょうか。

今回は、さまざまな企業へ組織人事コンサルティングを行う株式会社人材研究所代表の曽和利光さんに、 現場を巻き込んだ戦略的採用と、そのために必要なコミュニケーション術についてお伺いしました。

  • $タイトル$
  • 曽和 利光 さん 株式会社人材研究所 代表取締役社長

    1971年、愛知県豊田市出身。95年、京都大学教育学部教育心理学科を卒業。株式会社リクルートで人事採用部門を担当、ゼネラルマネージャーとして活動した後、株式会社オープンハウス、ライフネット生命保険株式会社など多種の業界で人事を担当。「組織」や「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を確立し、2011年に株式会社 人材研究所を設立、代表取締役社長に就任。企業の人事部へ指南すると同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する。



人事と現場の“求める人物像”はなぜ食い違うのか?

理想アプローチと現実アプローチ

— 採用によって事業の成長を促すためには、人事と現場との間で「採用すべき人材像」をしっかりとすり合わせる必要があると思います。しかし、その際に「すれ違い」が起こることも多いようです。その背景とはどのようなものでしょうか。

曽和さん:その背景には、採用する人物に求める能力、つまり「採用基準」の認識が現場と人事との間でずれやすいということがあります。

まず前提として、採用基準を考える方法は、大きく「理想アプローチ」と「現実アプローチ」の2つのアプローチに大別できます

現実に活躍している人たちの特徴を抽出して、それをもとに求める人物像や採用基準となるような要素を確定させていくのが「現実アプローチ」。

まだ自社にはいないけれど、適性検査のもとになっている「職務適性理論」や「リーダーシップ理論」など、いろいろな理論に基づいて理想の人物像の条件、つまり採用基準を生み出していくのが「理想アプローチ」です。

どちらのアプローチも取り入れて採用基準を策定することをお勧めしますが、取り入れやすい方法はやはり「現実アプローチ」の方で、その際に現場へのインタビューによって「活躍している人」の姿を分析するステップがあるわけです。


そして、その「活躍している人」は多くの場合、営業で高い数字を残していたり、画期的なアイデアを形にしてきたりした「ハイパフォーマー」であることが多いでしょう。

しかし、そういったハイパフォーマーが必ずしも、その職種に必要な要素をうまく説明できるわけではありません。ここに、すれ違いの原因があります。

ハイパフォーマーの条件が必ずしも採用すべき人材の条件とは限らない

— 実際にパフォーマンスが出ていることと、業務に必要な能力を分析的に把握していることとの間には違いがあるわけですね。

曽和さん:そうです。私が以前、クライアント先のトップ営業マンに「売れている方のスキルは何ですか」と尋ねたところ、その方は「根性」や「やり切る力」とおっしゃるんですね。

ですが、実際に営業同行させていただくと、商談前の事前準備がものすごく周到だったり、レスポンスがめちゃくちゃ早かったり、普段よくしゃべるのに客先では傾聴力が高かったりと、ご本人が言う「根性」や「やり切る力」以外に、優れた要素がたくさんありました。

むしろ、そういった「本人の自覚していない能力」の方が業務にとっては重要で、採用する人材に求めるべきものであったりします。


— 現場の方は当たり前すぎて自覚がないのかもしれませんね。

曽和さん:はい。他にも現場から採用時に重視したい能力をヒアリングして「営業でクレーム対応があるからストレス耐性が必要」と回答があった事例で、業務分析をしてみると、実はクレームのある業務・ない業務があり、必須条件ではなかったという例もありました。

つまり、現場ヒアリングから得られた「採用基準」が、ヒアリング対象の現場担当者の「思い込み」であったり、その方が接している「特異な事情」や「限定的な条件」から導かれたものであったりするパターンは多いということです。しかし、現場にいる人がそれを把握することは難しい。

なので、現場の意見は重視すべきですが、一方でそのまま採用してしまうと最適な採用基準にならない場合もあり、人事からは「現場の意見を聞いたのに採用した人のパフォーマンスが上がらない」と見えてしまいます。

つまり、現場の経験に基づく「理想の人材像」が、事実に基づかない思い込みや限定的な状況に根差していると、人事が描く人物像と一致せず、採用基準の食い違いが生じます。こうしたすれ違いをなくすには、両者が共に分析と対話を重ねる姿勢が必要です。

採用基準のエビデンス化や分析について詳しく知りたい方は、こちらもご覧ください。
関連記事:HRアナリティクスとは?メリットや必要なデータ・実践方法も解説

「意見」のぶつけ合いではなく、「事実」をぶつけ合う

感覚に頼らない判断をするためには?

— では、そのようにすれ違いが起こった際、ギャップを埋めるための「すり合わせ」では、何に気を付けるべきでしょうか?

曽和さん:人事と現場がただ意見をぶつけ合っても水掛け論になりますし、立場が上の人との議論であれば、力で押し通されてしまうことも往々にしてあります。ですので、何らかの「事実」をもとにして議論を進めることが必要です。エビデンスベースで議論をすれば、現場と人事とが建設的な議論の中で意見をすり合わせることができるようになります。

— なるほど。どんなエビデンスがあればいいですか?

曽和さん: 採用した人物のパーソナリティテストなどの定量的なデータや、インタビュー、行動観察などの定性的なデータと、その人物のパフォーマンスを比較するといいでしょう。

要するに「どのような社員が、どのようなパフォーマンスを上げるか」が客観的に明らかになればよいので、中にはGPSによる行動履歴をAIに分析させている(※)会社もあります。そういったファクトがあると、議論する上で強い武器になります。

その上で、現場と人事とが考えるそれぞれの「理想の人材像」がどのようなパフォーマンスをあげているかを冷静に比較していけば、採用基準のすり合わせをすることができます。

※GPSによる社員の位置情報取得を適法に行うためには、業務時間中であること、労務管理の一環として行われていること、プライバシー侵害への配慮を十分にすることなどの条件を満たす必要があります。

どんな部署や職種でもエビデンスをもとにして判断を

— なるほど。では、ギャップが生まれやすい部署や職種はあるのでしょうか?

曽和さん:そうですね。専門性の高いスキルを要する職種の場合、人事は現場ほど専門スキルを把握しているわけではないので、現場との間で求める人材像のギャップが生まれやすいですね。例えばエンジニアなどの職種で、この言語がこのレベルで使えないとダメだとか、専門知識が必要な要素をすり合わせるのが難しいですよね。

しかし「高い専門スキルを持っていてもすぐ辞めてしまっている」などのデータがあれば、そのスキルは本当にマストなのかと議論することができますし、どこの部署でも生かせるベーシックなスキルやパーソナリティテストの結果を重視すべき、という議論もできるようになります。

結局は、どの部署や職種でもエビデンスは大切になってくるでしょう。


「すり合わせ」に役立つコミュニケーションの工夫

発言は「立場の弱い人」から

— 現場と人事とで採用基準のすり合わせをするには何よりも「エビデンス」が大切であることが分かりました。次は、より具体的に、すり合わせの議論をする際に気をつけるべきことを教えてください。

曽和さん:人事(採用担当者)、面接官、現場担当者、現場責任者…と多くのプレイヤーがいる場で採用基準をすり合わせる場合、気を付けていただきたいことがあります。

立場の強い人(職級が高い人)が先に意見を話してしまうと、それが「正解」であるかのような空気になってしまうことです。なので、立場の弱い人(職級が低い人)から順に意見を聞いていくべきです。

— 確かに、立場が上の方の意見が続いた後に、反対意見は言いづらいですよね。

曽和さん:これを「バンドワゴン効果」といいます。つまり、誰かが「これこそが理想の人材像だよね」と話し、次の人がそれに同調すると、自分もその意見に賛同しやすくなってしまう現象です。そして、最初の発言者の力が強いほど、その効果も出やすい。なので、職級が下の人から話してもらうのが、スムーズで有意義なすり合わせにつながるでしょう。

フラットな議論には“書く文化”が効く

— お互いの意見をすり合わせる場面で、他にもお勧めのコミュニケーション方法はありますか?

曽和さん:テキストコミュニケーションがお勧めです。対面だとテーブルで議長席に偉い人がどんと座っていて、動作の一つひとつが周りに影響を与えてしまったりするのですが、テキストコミュニケーションでは、相手の威圧感を感じることなく、フラットに意見が交わせたり、アイデアが出しやすかったりします。

コロナ禍でオンライン会議が普及し、チャットでの議論が多用されるようになって、改めてテキストコミュニケーションの民主性が見直されていますね。

— ちょっとした工夫や準備でフラットに議論できるわけですね。

曽和さん:要は本音を引き出し、意見を述べ合って、エビデンスベースで議論することが目的なので、職級による力関係を取り除いた環境を用意することが大切ですね。

採用基準が明確でなくても、現場でできることはある

インタビュー力とアセスメント力の底上げを

— ここまで、採用基準を現場と人事とですり合わせるための具体的な方法をお伺いしてきました。しかし、明確な採用基準がない企業もあると思います。その際に、人事が現場とのコミュニケーションをうまく進め、適切な人材を採用するために必要なポイントはありますか?

曽和さん:まず、たとえ一人の採用であっても採用基準は持っておくべきだと思います。しかし、他の業務で忙殺されてなかなか腰を据えて採用基準を持つことが難しい場合もあるでしょう。

その上で考えるべきなのは、どのようにして「候補者をフラットに評価するか」です。面接官や採用担当者によってバラバラな基準で採用をしていては、結局、どのような人材を採用すべきかが最後まで見えてきません。

その基準をそろえるために用意するのが「採用基準」ですが、それがないのであれば、「インタビュー力」と「アセスメント力」を強化する必要がありますね。

面接官の評価基準やインタビュー力の強化については、こちらの記事も参考になります。
関連記事:現場担当者が身に付けるべき面接力とは? 採用を成功に導く「見抜く」「惹き付ける」の極意

— 「インタビュー力」と「アセスメント力」ですね。

曽和さん:はい。
「インタビュー力」とは、一度の面接でどれだけ候補者のポテンシャルと課題を見つけ出すか、という能力です。

具体的な方法として、「STAR面接(Situation:状況/Task:課題/Action:行動/Result:結果)」を取り入れるのもいいでしょう。

面接の場で、状況・課題・行動・結果の要素をきちんと聞き出し、候補者から出てくる抽象的だったり比喩的だったりする表現に対して具体的に質問することが大切です。

例えば「厳しい環境でもやり抜く力があります」という候補者の回答には「これまでで具体的に『厳しい』と感じた状況を教えてください」、「お客さまの声に耳を傾けていました」という回答には「具体的にどのような課題に直面し、どのようにお客さま対応をされて、どのような成果を得ましたか」と 課題・行動・結果をセットで聞き出す、というような方法です。

こうすることで、フラットな評価をするための素材を集めることができるようになります。

面接時のコミュニケーションについてさらに知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
関連記事:人事・面接官必見!候補者の志望度を高める「面接コミュニケーション術」とは?

— 次の「アセスメント力」についても具体的に教えてください。

曽和さん:はい。「アセスメント力」とは、評価に対し客観性を持つ能力です。

「なぜ採用したのか」「なぜ落としたのか」の理由を客観的に分析することで、曖昧すぎたり個人の趣向に左右されすぎたりする採用判断を防ぎます。

結果的に、後から「採用理由と現場でのパフォーマンス」を比較することができるようになるため、候補者の見極め精度を向上させていくことができるでしょう。

アセスメント力を伸ばすには、「人を表現する言葉の解像度を上げる」ことが必要です。例えば、「コミュニケーション力が高い」という評価に対し、論理的思考力が高いのか、表現力が高いのか、または空気が読める能力が高い、なのか、別の言葉で置き換えられる力を養うことが大事です。

また、フラットな評価のためにはバイアス(偏見)を取り除くことも大切ですね。

人はそれぞれ無自覚に「運動部経験のある人を高く評価する」とか「前職が別業種だった場合に低く評価しすぎてしまう」というようなバイアスを持っています。

それを発見するための「すり合わせ研修」というものもあります。競合他社に内定を持った候補者に来てもらって、社内の面接官がそれぞれに評価を付け、両極端の評価を付けた2名にディベートしてもらってそれぞれが持つ偏見をすり合わせる、というものです。

他にもいろいろあるのですが、少なくとも自分が持っているバイアスを自己認知してもらうような研修やワークショップを導入してみるのはお勧めです。

とはいえ、やはり 基本は面接官同士が日々しっかりとコミュニケーションを取り、すり合わせを行うことです。そうすれば、少なくとも「一人の偏った判断で採用可否が決まる」といったことは起こらず、フラットな評価に近づいていくと思います。

採用を成功させるのに必要なのは「エビデンスベースの対話」

今回お話しいただいた、人事と現場の間で行うべき「すり合わせ」の手法は、非常に勉強になるものだったのではないでしょうか。データを見れば一目瞭然のエビデンスベースのコミュニケーションは、面接官自身も自己改革が行われるといいます。ぜひ今回の手法を取り入れ、採用現場のフラットでスムーズなコミュニケーションにお役立てください。


  • Organization HUMAN CAPITALサポネット編集部

    HUMAN CAPITALサポネット編集部

    新卒・中途採用ご担当者さま、経営者さま、さらには面接や育成に関わるすべてのビジネスパーソンに向けた、採用・育成・組織戦略のヒントが満載の情報メディアです。HR領域に強いマイナビだからこそお伝えできるお役立ち情報を発信しています。

  • 人材採用・育成 更新日:2025/07/11
  • いま注目のテーマ

  • ログイン

    ログインすると、採用に便利な資料をご覧いただけます。

    ログイン
  • 新規会員登録

    会員登録がまだの方はこちら。

    新規会員登録

関連記事