介護職の採用は今後どうなる?未来予測と取るべきアクション【介護職採用シリーズ_vol.2】
総務省の統計によると、2022年現在では、65歳以上の高齢人口は3,623万6,000人、15歳~64歳の生産年齢人口は7420万8,000人です。(※1)また、国立社会保障・人口問題研究所によると、2040年の高齢人口は3,928万5,000人、生産年齢人口は6,213万3,000人と推計されています。(※2)
将来的には、今以上に高齢者の人数が増えるため、介護のニーズはますます高まる見込みです。その一方で労働人口は減少するため、介護業界における採用の難易度は今後も上がり続けると予想されます。
かつてリーマン・ショックやコロナ禍による不況が起こった際には、一時的に介護業界に就職する人の数が増えました。また不況が来れば、介護業界の人気が高まる可能性はありますが、それまでは介護法人の採用担当者にとっては厳しい状況が続くでしょう。
※1.出典:総務省「人口推計 2022年(令和4年)10月1日現在結果」
※2.国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」
マイナビが新卒採用で内々定を得た学生に、「その企業に入社したいと最初に強く思ったタイミング」を聞いたアンケート調査では、「インターンシップ・仕事体験参加時」(25.5%)、「1次面接~最終面接受験時」(19.3%)、「個別企業説明会参加時」(7.8%)が上位を占めました。特に、「インターンシップ・仕事体験参加時」の割合が多くなっています。※
これらのタイミングは、いずれも、法人側の担当者や職員と学生が直接顔を合わせる機会です。つまり「直接接触」の機会が志望度を引き上げるといえます。これから先、介護法人が学生の獲得競争に勝つためには、いかにインターンシップ、説明会、面接の質を高めて、学生に介護の仕事や自法人の魅力を伝えられるかがカギとなるでしょう。
※出典:マイナビ 2024年卒 学生就職モニター調査 6月の活動状況
採用活動では、法人の採用担当者が自らノウハウや情報を集め、積極的に努力する姿勢が不可欠です。とくに新卒採用においては社会情勢を反映して学生の就職先選び、業種選びの志向が変化するため、情報を広く収集することが重要です。
たとえばインターンシップの開催も情報収集のひとつです。インターンシップは学生のキャリア形成・職業意識の醸成のために企業での実務体験をするものですが、雇用側にとっては直接、学生の考え方や働くことに対する価値感を知る大きなチャンスになります。そのためインターンシップに参加する多数の学生を集めて、業務内容や職業に魅力を感じるきっかけを与え、結果的に採用につなげるためのひとつの窓口と考える必要があります。そうしたインターンシップの活用をするには、経験と試行錯誤を重ねて、集客や学生対応のコツをつかまなければなりません。たとえば、学生から業務に対して疑問や質問、感想を忌憚のない意見として聞き、丁寧に回答をする時間を作る、あるいは、可能な範囲で具体的な業務を一緒にこなすプログラムを用意し、単なる業務見学に終わるようなものにしないといった工夫が必要でしょう。すでにインターンシップを何度も実施している法人と未経験の法人では練習量が違うため、おのずと対応力に差が開いていきます。
介護業界にも、採用難だからこそ新しい工夫や施策をどんどん取り入れている法人が存在します。しかし一方で、「どうせ今はがんばっても採用できないから」と諦めて、インターンシップの開催などの積極的なチャレンジをしていない法人も少なくありません。
今後、ますます採用の難易度が高まるなかで、採用に注力している法人としていない法人の格差が広がっていくでしょう。
ご存じの通り、採用の手段には、大きく分けると、他法人での勤務経験のある人材を採用する「中途採用」と、就業の経験のない大学や短大などを卒業見込みの学生を採用する「新卒採用」の2種類があります。
介護法人は、中途採用と新卒採用を比べると、どうしても即戦力となる人材確保の観点から中途採用に注力しがちです。一方、将来的にも事業が安定して継続できる状況を維持するためには、積極的に新卒採用に注力することも重要です。新卒採用に注力すべき理由を理解するために、まずは両者の特徴を改めて確認しておきましょう。
■中途採用の特徴
法人によって細かい違いはありますが、中途採用の選考過程は、新卒採用に比べると比較的シンプルです。ハローワークや転職情報サイトなどの求人媒体を使って募集をかけた後、応募があれば電話やメールで面接日程を決め、その後は一度の面接で採否を判断するのが一般的です。
工程が少ないので採用担当者の負担が少なく、マッチする人材から応募があれば、応募から数週間程度で採用できます。また、介護職経験のある応募者が多いので、新卒採用に比べると面接での見極めがしやすく、経験者を採用できれば即戦力になります。
■新卒採用の特徴
一方、新卒採用では、インターンシップや合同説明会を開催したうえで、主に就職情報サイトを使って募集をかけた後、複数回の選考試験や面接を行う必要があります。社会人経験のない学生がターゲットなので、面接では、介護職への適性や意欲を見極める必要があり、面接官にテクニックが求められます。
また、新卒の学生は、内定を得た複数の法人を比較検討して入職先を選ぶので、内定を出した後も、自法人を選んでもらえるように入念に内定フォローを行う必要があります。さらに、準備や選考を含めると、動き始めてから内定までに1年以上の期間がかかるのも特徴です。
上記の特徴からわかるように、新卒採用よりも中途採用のほうが採用活動にかかる手間や時間が少ないため、介護業界では人手不足で採用に悩んでいる法人ほど、中途採用に頼りがちです。しかし、自法人の安定的な人材確保を考えるのであれば、今後は中途採用よりも新卒採用に力を入れていくことをおすすめします。
なぜなら新卒採用は、多くの若手人材に一斉にアプローチできる絶好の機会であり、効率的に人材を確保できる手段だからです。新卒採用を軌道に乗せることができれば、毎年安定的に若手人材を採用できるようになるからです。
また、介護業界全体の発展のためにも、新卒採用に力を入れることは大切です。というのも、もし介護法人の多くが中途採用ばかりしていたら、他業界に新卒の学生を採られてしまい、介護業界に就職する若手人材の人数が少なくなるおそれがあるからです。そうなれば、介護業界の人手不足はますます深刻化し、施設を利用している方々への十分なケアを行う体制が確保できなくなるかもしれません。さらに人手不足が深刻になると、施設自体の存続が難しくなる法人が増えるかもしれません。
それぞれの介護法人が新卒採用にできる限り力を入れていくことが、介護業界の未来を支える人材を増やし、介護職員の労働環境を改善して介護サービスの質を向上させることにつながります。
新卒採用は中途採用よりも採用までの工程が多いうえに、インターンシップや説明会の実施には細かいノウハウが求められます。試行錯誤の結果、コツをつかんで安定的に採用できるようになるまでには、2〜3年ほどかかると考え、じっくりと取り組むことをおすすめします。
そのことを考えると、現状で新卒採用を行っていない介護法人は、早めに新卒採用を始めるべきでしょう。行ってはいるもののうまくいっていない場合は、現状のやり方や体制を見直すなど、対策を実施して新卒採用を軌道に乗せることが重要です。
一歩でも早く新卒採用をスタートし、ノウハウを蓄積して軌道に乗せることで、10年後、20年後の法人のあり方は大きく変わってきます。
介護業界では、新卒採用といっても、一般企業のように就職情報サイトをメインに使って大学卒業予定の学生を採用するのではなく、学校経由で高卒や介護福祉士養成校卒の学生を採用してきた法人が多いかもしれません。
しかし、今後は介護法人も、未経験の大卒者も新卒採用のメインターゲットにしていくべきでしょう。
というのは、近年は少子化の影響もあって、高卒や専門学校卒の学生は減少傾向にあるからです。
日本介護福祉士養成施設協会の調査によると、2023年度の介護福祉士養成校入学者数は6,197人。
10年前の2013年の入学者数である13,090人と比べると、半数以下になっています。
また、入学者数に占める留学生の割合は増加傾向にあります。2023年度の入学者6,197人のうち、1,802人は留学生でした。今や介護福祉士養成校の学生のうち、ほぼ3人に一人は外国人といえるのです。
一方で、内閣府が発表している「令和5年版高齢社会白書」によると、2000年以降、全国の介護職人口は増え続けており、一般大学の卒業生をはじめとする未経験者の入職が、介護職人口を支えていると考えられます。
※出典:日本介護福祉士養成施設協会「令和2年度 介護福祉士養成施設の入学定員充足度状況等に関する調査の結果について 入学定員・入学者数の推移」「令和5年度介護福祉士養成施設の入学定員充足状況等に関する調査の結果について 介護福祉士養成施設への入学者数と外国人留学生」
※出典:内閣府「令和5年版高齢社会白書(全体版)」
今後、ますます介護職の採用の難易度は上がることが予測されます。そんななかで介護法人が採用力を高めていくためには、今までのように即戦力を求めての中途採用だけに頼るのではなく、新卒採用に力を入れていくことが、大変そうに見えて一番の近道といえます。
新卒採用を積極的に行うための取組を継続的に行うことがますます重要になります。
まずは情報収集と情報発信の機会を増やすことです。そのひとつが、学生の職業意識を知る機会でもあり、学生たちへ介護業界への理解を深めてもらう機会としてのインターンシップです。また、説明会を開催し、具体的な業務内容や施設の様子についても丁寧に伝える機会を増やすことも重要になるでしょう。今後のために試行錯誤を重ね、地道にノウハウを蓄積していきましょう。
次回以降の記事では、「選考フローを見直し、不要な選考を廃止する」「説明会を動画化する」といった対策を実施して新卒採用を成功させた介護法人の事例を紹介します。
- 人材採用・育成 更新日:2024/02/29
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