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人事と労務の仕事内容、向いている人、スキルや資格について解説

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人事の仕事は、企業の経営安定・発展のために人材を適切に活用することです。優秀な人材を採用したり、社員をサポートできたりすると、自社の利益や顧客の満足度を高めることができるでしょう。

「人事」と一口に言っても、人材マネジメントから労務管理まで、企業によって担当する範囲には多少差がありますが、人事担当者はさまざまな役割を担っています。具体的な仕事内容を理解していないと、会社から求められる質の高い働きはできません。

ここでは労務を含めた仕事内容についても併せて確認しながら、人事の仕事内容や向いている人、キャリアアップに必要なスキル・資格について解説します。

人事とは?総務や労務との違い

人事の役割は、人材を活用することによって会社組織を安定・発展させることです。

「人事」と混同されやすい業務には「労務」や「総務」があります。いずれも社員の働きをバックアップする仕事ですが、それぞれの業務にはどのような違いがあるのでしょうか。

まずは、「人事」と「労務」「総務」の役割の違いについてお伝えします。

人事の仕事一覧

  • 人材採用
  • 人材育成
  • 人事評価
  • 人材管理 など
  • 労務の仕事一覧

  • 給与計算
  • 福利厚生制度の整備
  • 社員の退職時に必要な事務手続き
  • 労務トラブルの対応 など
  • 総務の仕事一覧

  • 社内備品や機器の管理
  • 施設管理
  • 文書管理
  • 取締役会や株主総会の企画運営
  • 社内行事の企画運営
  • 電話、メール、来客対応 など
  • 「人事」が人材活用を通じて経営に関与するのに対して、「労務」「総務」は社員が働きやすい労働環境の整備をおこなっています。

    労務は給与や保険などに関わる事務業務を担当し、社員が安心して働けるようにさまざまな待遇を管理する仕事です。総務は企業の事務全般を管理・運営し、各部署の社員を支援するバックオフィスの役割を担います。

    なお、中小企業では人事が労務・総務の業務を併行することがよくあります。そのため自社の人事担当者に求められている役割は何か、経営側に確認することも大切です。

    人事の仕事内容

    1. 人材採用

    人材採用は会社が求める人材を獲得するために、採用計画を策定したり採用面接をおこなったりする業務です。人事は経営方針や運営状況を踏まえながら、自社に必要な人材を募集・採用していきます。

    採用計画では経営側や各部署の責任者にヒアリングしながら、現場で必要とされている人材イメージを具体的にしておくことが重要です。人事担当者は、具体化した人材イメージを考慮しながら求人広告の作成や会社説明会の実施・採用面接などの採用活動をおこなっていきます。採用面接では応募者を評価し、会社の社風や業務内容に適応できるか見極めることが人事担当者の主な役割です。

    採用業務は、企業の経営を維持・発展させるために欠かせない仕事です。自社の社風や業務内容に合わない人材を採用してしまうと、コストを費やしたにも関わらず早期離職してしまったり、チームの生産性を下げたりすることにもつながりかねません。実際に、独立行政法人 労働政策研究・研修機構がおこなった「若年者の離職状況と離職後のキャリア形成」に関する調査(平成29年)では、離職理由として「自分がやりたい仕事とは異なる」と回答した方は男性が約28%、女性が約20%にも上ります。

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    2. 人材育成

    企業が経営を発展させていくには、社員の育成が必要です。人事は、研修や実務を通じて社員を教育・指導しながら人材育成をおこないます。

    ① 新入社員研修

    新入社員研修では、会社の業務を遂行するうえで求められる知識やノウハウを教育します。中途採用者・新卒者に関わらず、入社直後の社員は会社からどのような役割が期待されているか、自分がすべきことがわからないものです。そのため、人事担当者は研修を通じて社員に働き方や業務内容を伝えていく必要があります。

    研修では、まずは企業理念や経営方針などの教育にはじまり、新卒社員向けにはビジネスマナーや社会人スキルについて研修をおこないます。基本的な接遇や顧客対応が滞りなくできるように指導します。また、特に中途採用者は配属先の部署が入社時点で決まっていることも少なくありません。そのような場合は、部署で求められる専門的な業務内容について、各部署の管理者に協力をあおいだり、委託したりすることも時には必要です。

    このような研修によって、中途採用者・新入社員がスムーズに業務をおこなえるようにすることが人事の役割です。

    ② 管理職研修

    管理職研修には、主に「新任管理職研修」と「上級管理職研修」があります。

    まず「新任管理職研修」では、人事は新しくマネージャーになった社員を対象に部署のマネジメント方法について指導します。プレーヤーからマネージャーに昇格した社員は、担当部署の目標設定や売上分析・部下の業務量の配分調整などができようにならなくてはなりません。時には、部署のメンバーの人間関係が円滑化するようにハブ的役割が求められることもあるでしょう。

    よく勘違いされがちですが、プレーヤーとしてスキルの高い社員が必ずしも優秀なマネージャーになるとは限りません。マネージャーになると、部下の能力を評価したり業務を指導したりする業務が多くなり、社員をサポートする仕事が増えていきます。そのため、たとえプレーヤーとして成果を残している人であっても、新任のマネージャーとして成長させるには、適切なマネジメント方法の教育が欠かせないのです。「新任管理職研修」では、プレーヤーとマネージャーに求められる役割の違いを説明しながら、職場マネジメントのノウハウを伝えていくことが重要です。

    一方で「上級管理職研修」では、人事は既任の管理職を対象に会社経営やリスクマネジメントなどについて指導します。部長や役員クラスをはじめとする上級管理職には、担当部門の業績目標を達成し、自社の経営を発展させる役割が求められます。上級管理職になると、部門の責任者として事業の意思決定を自ら判断できるようにならなければなりません。時には、自社の経営に大きく影響する判断が必要になることも。そのため「上級管理職研修」では、管理職が長期的な視点を持ちながら会社経営に参加できるよう指導することが大切です。

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    3. 人事評価

    人事評価は社員の業績や働きを評価し、個々の給与査定や処遇・配置などをおこなう業務です。人事評価の最終的な目的は会社の業績を上げていくことですが、そのためには適切な評価によって社員のモチベーションを維持・向上させていくことが大切です。

    では、どのよう点に注意しながら人事評価をおこなっていけばよいのでしょうか。ここでは人事評価の3つのポイントをお伝えします。

    ① 公平であること

    人事評価は社員にとって公平でなくてはなりません。人事が陥りやすい間違いは、主観で社員の評価をしてしまうことです。これでは人事担当者との関係性によって結果が変わってきてしまうので、社員の業績や能力を適切に評価することができなくなります。不公平な人事評価は社員のモチベーションを下げたり、会社に対する不信感につながったりしやすいものです。そのため、人事評価は誰が見ても公平であることが大切です。

    公平な人事評価をするには、あらかじめ評価ポイントやプロセスを統一することが重要です。統一した方法で評価がおこなえれば、人事担当者の主観が結果に影響されにくくなり、社員も自分の評価点や改善点を理解しやすくなるでしょう。

    ② 具体的であること

    人事評価では、具体的なフィードバックができると社員の行動変容を促しやすくなります。

    例えば、売上目標を達成できない社員がいる場合、単に「売上をアップさせるように」と声かけをするのではなく、売上目標の数値を設定したり目標達成のための手段を伝えたりするなど、具体的なフィードバックをするとよいでしょう。そうすることで社員としては問題の解決策を知ることができ、自分の仕事のやり方を変えられるのです。

    このように、具体性のある人事評価をおこなうことで、社員の成長を促したりチームの生産性を高めたりできます。

    ③ 多角的であること

    人事評価は、評価対象となる社員の上司と結果を共有することも重要です。直属の上司だからといって、必ずしも部下の仕事ぶりを全て理解できているとは限りません。上司の見えていないところで、自分なりに工夫をして会社に貢献しようと努力する社員も多いです。このような努力を見逃してしまったために、社員が「会社はまったく自分のことを理解していない」といったように不満を抱き、モチベーションの低下や離職へとつながるケースもよくあります。

    部下の仕事ぶりを正確に理解するためには、人事評価は、各部署の管理職と情報交換をしながら多角的な視点でおこないましょう。

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    4. 人材管理

    人材管理とは企業が策定した経営戦略を実現するために、資源である“ヒト”を管理する業務です。一般的に、企業は市場の動向をリサーチ・モニタリングしながら経営戦略を策定していますが、この経営戦略を実現するには、実行される業務・プロジェクトに合わせて人材を配置したり育成したりする必要があります。

    ただ適切に人材管理ができていなければ、人材配置や人材育成をしようにもそれぞれの社員がどのようなスキルや経験を持っているか把握することが困難です。逆に、人事部が社員のスキルや経験について情報を収集・管理できていれば、業務・プロジェクトが実行される時にもスムーズな人選が可能になるでしょう。限られた人的資源をフル活用して業務の生産性を高めたり、プロジェクトの進行を早めたりする効果が期待できます。社員の能力を活用しやすくするためにも、人事が中心となって各部署の人材管理に取り組んでみてはいかがでしょうか。

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    労務の仕事内容

    「人事」の仕事内容を理解したところで、次は労務の主な仕事内容について説明します。

    給与計算

    給与計算は、労務の重要な仕事の1つです。労務担当者は社員の基本給や勤怠状況・控除額などを確認しながら、次の5つのステップで給与計算をおこなっていきます。

    ① 勤怠・各種手当の情報から総支給額を計算する

    まずはタイムカードで社員の勤務状況を確認して、基本給と時間外勤務手当を算出します。ここで算出した金額に、「家族手当」「住宅手当」「通勤手当」などの各種手当を加算して、総支給額を計算します。

    ② 社会保険料や税金を計算する

    次に、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料)と税金(住民税、所得税)額を計算します。社会保険料はそれぞれ「都道府県ごとの保険料率表額(全国健康保険協会)」、「保険料率額表(日本年金機構)」、「雇用保険料率表(厚生労働省)」を参照しながら控除額を算出します。また所得税は、総支給額から社会保険料を引いた金額を国税庁の「給与所得の源泉徴収税表」にあてはめて算出します。なお住民税は各企業に送付される「住民税課税決定通知書」を確認し、こちらで請求された住民税額を12で割った金額を毎月総支給額から差し引きます。

    ③ 総支給額から控除額を差し引いて、社員の手取額を算出する

    総支給額から社会保険料と税金を差し引いた金額が、社員の給与(手取額)となります。

    ④ 賃金台帳を作成する

    社員の給与を算出後は、労務は賃金台帳を作成します。賃金台帳は、労働基準法によって義務づけられた給与支給に関する記録です。賃金台帳には特別に決められた書式はありませんが、「社員の氏名・性別」「賃金計算期間」「労働日数・時間数」「時間外労働時間数」「基本給・各種手当額」「社会保険料・税金の控除額」の記載が必須です。

    ⑤ 給与を社員に支給し、税務署に社会保険料と税金を納付する

    最後に給与を社員に支給し税務署に総支給額から差し引いた社会保険料と税金を納付します。このうち、税金(所得税)と住民税は、原則給与を支給した翌月10日に税務署へ納付します。なお、所得税は、社員が9名以下の会社の場合に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に提出することで、毎年7月と翌年の1月の年2回にまとめられる特例があります。

    給与は、社員にとって仕事の対価であるとともに働き続けるためのモチベーションです。ミスがないよう計算方法を十分に確認し、給与支払いの準備をしていきましょう。

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    福利厚生制度の整備

    社員が働きやすい労働環境をつくるために、福利厚生制度を整えるのも労務の役割です。福利厚生は、社員の獲得や定着を図ったり、健康を増進したりするために必要な制度です。最近では、仕事のやりがいはもちろん、会社に「働きやすさ」を求める社員が増えています。

    そのため、労務担当者として社員に喜ばれる福利厚生制度が整備できれば、仕事の満足感を高めたり、働くモチベーションを維持したりして社員の生産性を向上しやすくなるでしょう。ここでは、労務管理の一貫として、社員に喜ばれる代表的な福利厚生を紹介します。

    ① 住宅費を補助する

    住宅費の補助は、社員の生活費の一部を補助する福利厚生です。一般的には1万円前後の金額を支給することが多く、単身世帯・ファミリー世帯ともに喜ばれます。住宅費の補助の支給要件は、各企業で自由に決めることができます。

    社員のなかには引っ越しをしたり住宅を購入したりと、ライフステージに応じて住居の形態が変化していくケースも多いです。社員の立場からすると、住宅費の補助があることで固定費の負担が軽減するので、生活に合わせて住む場所を自由に選びやすくなるでしょう。

    ② 休暇制度を整える

    休暇制度を整えることは、特に若手から中堅社員の従業員満足度を高めるために重要な要素です。最近の社員の傾向としては、労働条件のなかでも「休み」を重要視する方は少なくありません。

    実際に厚生労働省の「雇用動向調査(平成30年)」でも、前職を辞めた理由として「労働時間、休日などの労働条件が悪かった」と回答した方が男女ともに上位を占めています。有給休暇に加えて夏季・冬季休暇を設けたり、勤続年数に応じてリフレッシュ休暇を付与したりすると、プライベートの時間を増やすことにつながり、社員の職場に対する満足度も高まります。

    ③ 弁当のデリバリーサービスを導入する

    こちらは、社員のランチを充実させる福利厚生です。最近では、オフィスに弁当を宅配するデリバリーサービスが人気です。事業者によっても変わってきますが、デリバリーサービスの多くは1食500円程度から利用できます。

    導入方法は労務担当者が事業者と契約し、希望した搬入時期・方法でデリバリーサービスのスタッフが弁当をオフィスに配達します。デリバリーサービスは、低価格から有名店の弁当までメニューも豊富です。社員としてはコンビニ食やファーストフードの利用回数を減らすことにつながり、バランスのとれた栄養を摂取できるでしょう。

    ④ お菓子の提供

    若い人が多い会社では、飲食物やお菓子の無料提供も飲食に関連する福利厚生として喜ばれます。仕事の合間に利用できる「置き菓子」があると気分をリフレッシュしたり、同僚とコミュニケーションをとったりしやすいものです。会社の経費としてお菓子代を捻出できない場合には、社員からのカンパ制にすれば会社側の負担を抑えられます。

    ⑤ 予防接種費の補助をする

    福利厚生としてインフルエンザの予防接種費の補助を取り入れ、社員の健康管理をサポートする方法もあります。近年では感染症対策の意識が高まっており、個人で季節性インフルエンザの予防接種をする社員も増えています。

    インフルエンザの予防接種費用の相場は2,000~5,000円ほどです。感染症が職場内に流行すれば、当然欠勤者が増えていくので、社員の健康管理のためにも予防接種費用の補助を検討してみてもよいかもしれません。

    このほかにも、福利厚生にはさまざまな種類がありますが。労務担当者として社員のニーズを踏まえながら福利厚生制度を整備していくことが大切です。

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    社員の退職時に必要な事務手続き

    労務は、社員の退職時に必要となるさまざまな手続きをおこないます。労務担当者がおこなう事務手続きには、次のようなものがあります。

    ① 社会保険・雇用保険の脱退手続きをおこなう

    社員が退職する時には、速やかに保険の脱退手続きをおこなわなければなりません。社会保険の脱退手続きは、社員の退職日から5日以内に「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を事業所の所在地を管轄する年金事務所へ提出することでおこなえます。

    また、雇用保険の脱退手続きは、社員の退職日から10日以内に「雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書」を事業所の所在地を管轄するハローワークに提出することで完了します。

    ② 住民税や所得税の手続きをおこなう

    住民税は、退職する社員が再就職するかどうかで対応が変わってきます。退職時に再就職が決まっている社員には転職先に特別徴収(給与から住民税を天引きする徴収方法)を引き継ぐことができるので、労務担当者は退職翌月10日までに転職先へ「給与所得者異動届書」の送付が必要です。これに対し再就職が決まっていない社員の場合には普通徴収(個人が自分で住民税を直接支払う徴収方法)に切り替わるので、労務担当者がおこなう特別な手続きはありません。

    一方で所得税は、「源泉徴収表」に退職月までに源泉徴収している所得税を記載します。こちらは転職先の年末調整や確定申告で使用することになるので、退職から1ヵ月以内に必ず社員へ交付しましょう。

    ③ 社員から貸与品を回収する

    社員の退職時には、会社からの貸与品を回収します。貸与品には「健康保険証」「社員証」「名刺」「携帯電話・タブレット端末」「ユニフォーム」などがあります。

    有給休暇の消化などの理由で退職日と除籍日に期間があるケースでは、健康保険証の返却を郵送で対応するのも方法です。こうすることで、社員としては退職日から数日の間は既存の健康保険証を利用できるので、残りの在籍期間を安心して過ごせるようになるでしょう。

    ④ 社員に必要書類を送付する

    労務担当者から退職者には、「源泉徴収表」「雇用保険資格喪失証」「離職票」の送付が必要です。源泉徴収表は転職先の会社で提出が求められるので、退職日から1ヵ月以内に社員まで送付しましょう。離職票は、希望がある社員に限って送付します。特に、転職先が決まっておらず失業保険を受給するケースでは離職票が必要になるので、社員の送付の希望を確認してみましょう。

    以上が社員の退職時に必要な労務担当者の役割です。退職時の事務手続きに不備があると、社員の転職や生活に不利益が生じるばかりでなく会社に対する悪い印象が残ります。必要書類や提出期限などを確認しながら、社員が気持ち良く退職できるように最後までしっかりとサポートしたいものです。

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    労務トラブルの対応

    どのような企業にも仕事上のトラブルはつきものです。なかでも人間関係の問題を抱える企業は数多く見られます。離職理由として人間関係の問題を挙げる人は少なくありません。人間関係の問題を放置してしまうと、社員の離職につながってしまいかねないのです。

    しかしその一方で、社内のトラブルに適切に対処できれば、会社と社員のエンゲージメントは向上しやすいものです。というのも、会社側が問題に早く気づき、丁寧な対処をすることができれば社員の会社に対する信頼感が増すからです。また、エンゲージメントが向上すれば、離職率の低下も期待できます。人間関係の問題を含め、社内トラブルが起きた際には主に労務が対応していきます。

    代表的な労務トラブルには、次の5つがあります。

    ① パワーハラスメント

    パワーハラスメント(パワハラ)は、職位や立場が優位にある人が目下の社員に精神的・身体的苦痛を与えることです。パワハラと聞くと「上司」と「部下」の間で起こるようなイメージがあるかもしれませんが、「先輩」と「後輩」など、職位に関係のない間柄でも起こります。例えば部下や後輩が仕事のミスをした時に、強く叱ったり机をたたいたりすることは職場内でよく見られるパワハラです。

    パワハラの厄介なところは、しっかりと調査をしてみないと実態がわからないことです。自分の評価が下がったり不利益を被ったりすることを恐れて、パワハラを受けていると、ほかの社員に相談しないこともよくあります。同じ部署で短期間のうちに複数の退職者が出ている場合には、上司や先輩によるパワハラを疑ってみたほうがよいでしょう。

    ② セクシャルハラスメント

    セクシャルハラスメント(セクハラ)とは社員の意志に反して性的な言動がおこなわれたり、解雇や降格・減給などの不利益を被って不快な思いをしたりして、業務に重大な支障をきたす行為を指します。

    近年はメディアでも大きくクローズアップされているので、あからさまなセクハラ行為は減ってきた印象がありますが、普段の言動がセクハラ問題につながっていることも少なくありません。例えば、食事やデートにしつこく誘ったり、「男のくせにだらしない」といった性差別的な発言をしたりするのもセクハラ行為に該当します。

    このようなセクハラ行為は社員を不快にさせることに加えて、会社も使用者責任として賠償を命じられるケースもあるので、個人と会社を守るためにも問題となる言動がないか注意が必要です。

    ③ マタニティハラスメント

    マタニティハラスメント(マタハラ)とは、妊娠中や出産後の女性社員に対する不当な待遇や嫌がらせ行為のことです。妊娠・出産を理由に退職勧奨をおこなったり、つわりがひどくて休んだ社員に嫌みを言ったりするのは、代表的なマタハラです。マタハラは「男女雇用機会均等法」や「育児・介護休業法」のなかで違法行為とされており、ひどい場合には裁判に発展するケースもあります。

    ④ 時短ハラスメント

    時短ハラスメント(ジタハラ)とは職場側が労働時間の短縮を指示したにも関わらず、社員に厳しいノルマや納期を与え、過度な業務負担を課す行為を指します。

    働き方改革の一環として残業時間を減らす取り組みをおこなっている企業が増えています。しかし以前より労働時間を少なくする一方で、業務量が変わらず結果的に社員が過剰労働を強いられるケースも見られます。ジタハラがはびこると上司に隠れてサービス残業をしたり、自宅に業務を持ち帰り遅くまで仕事をしたりして社員が体調を崩す原因にもなりかねません。形だけの働き方改革がおこなわれていないか、社員の勤務実態を正確に把握することが大切です。

    いずれの場合にも共通しているのは、労務トラブルは社員の生産性を下げたり、職場内の雰囲気を悪化させたりしてしまうことです。労務担当者は良好な労働環境を維持していくために、トラブルの有無をチェックしながら問題があった場合には早急に対処を講じる必要があります。

    労務トラブルを未然に防ぐにはどのような対策をすればよいかというと、まずは各部署の社員や管理職に定期的な声かけをすることです。社員と定期的にコミュニケーションをとっていれば、何か不安や悩みを抱えている時に会話内容や表情・声質・身だしなみなどから問題に気づきやすいものです。管理職からは遅刻や残業時間・勤務態度などを聴取してみるのもトラブルの早期発見に効果的です。トラブルを抱えている社員は心身の不調から仕事上のミスが増えることも多いので、普段の様子との違いがないか管理職と情報交換してみましょう。

    ただし、そうはいっても社員のなかには上司や同僚にトラブルを知られたくないという思いから、労務トラブルがあっても平静を装ったり相談ができなかったりすることも少なくありません。ですから、社員がクローズドな環境下で会社に悩みを相談できる体制も必要です。労務担当者に直接連絡できるホットラインを設置したり、全職員を対象としたアンケートを実施したりすると、上司や同僚に知られることもなく会社に相談ができます。労務トラブルの問題を解決するには労務と社員が意思疎通できる機会を増やして、トラブルを未然に防げるような体制を築きましょう。

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    人事に向いている人

    ここまで「人事」と「労務」の仕事内容について説明しました。では、人事担当者にはどのような人材が向いているのでしょうか?人事に向いている人の特徴がわかれば、自身の適性の判断や、仮に不足点が合った場合でも自身の課題を客観視しやすくなります。

    そこで続いては、人事に向いている人の特徴を紹介します。

    秘密を厳守できる人

    業務の性質上、人事は社員のさまざまな情報を知ることができます。なかにはプライベートなことやデリケートな内容・機密情報なども含まれるので、秘密を厳守できることは人事担当者として重要な要素です。人事担当者として知られたくない内情を簡単に口外してしまうようでは、社員から報告や相談を受ける機会が少なくなり、適切な人材育成・配置をするための情報も集まりません。

    他人に興味を持ち、人間観察力に優れた人

    人事の基本は、人を観察して人柄や能力を評価したり能力を活かしたりすることですから、高い人間観察力が求められます。人柄や能力を見極めるには、まずはその人に興味を持てなければなりません。相手のことをしっかり理解しようとする姿勢がとれる気質があれば、人事に向いているといえるでしょう。

    周囲の人のサポートができる人

    人事の役割は、社員の仕事をサポートしながら会社の経営を維持・発展させていくことです。人事は、実務を通じて自分の手で業績を上げるのではなく、社員をうまくマネジメントしながら会社に貢献していくのが特徴です。ですから、人事には相談・指南役として社員をサポートできる人が向いています。

    冷静な判断力がある人

    感情的になりやすい人には、人事の仕事は務まりません。それというのも、人事には会社全体の利益を考えながら仕事をすることが求められるから。組織優先の考え方によって、時には特定の部署や個人から厄介がられることもあるものです。そのような環境下でも、感情に流されず会社全体の利益を冷静に優先できる判断力が人事担当者には必要です。

    人事に必要なスキルとおすすめの資格

    では、人事として、自分のキャリアを積み上げていくにはどのような能力を研鑽(けんさん)していけばよいのでしょうか。最後に、人事に必要なスキルや資格についてお伝えしましょう。

    人事に必要なスキル

    ① コミュニケーションスキル

    近年、ビジネスシーンではコミュニケーションが重要視される傾向にありますが、人事には欠かすことのできないスキルです。採用活動や人事評価など、人事担当者がコミュニケーションをとるのは相手の気持ちをくみ取ったり不快な思いをさせないようにしたりと気を遣う場面が多いです。言い換えると、コミュニケーションスキルが高いほど採用面接の応募者や自社の社員から本音を聞き出すことができるでしょう。

    コミュニケーションスキルを高めるには、普段から他人と意思疎通をとることももちろん大切ですが、ビジネス書を参考にするのもおすすめです。市販のビジネス書には、話の聞き方やボディランゲージなどの技術が紹介されているので、コミュニケーションの具体的なノウハウを身につけることができるでしょう。

    ② 情報収集力

    人事評価や労務トラブルの調査をする時には、管理職や社員からの情報収集が不可欠です。ただし会社の業績と違って、社員の仕事ぶりやトラブルを数値化・視覚化するのは決して簡単ではありません。そのため、人事担当者には積極的に情報収集をおこなえるフットワークも必要になります。社員の信頼が厚い人事のもとには、社内の情報が自然と集まってくるものです。誰でも頼りに思う人に報告や相談をしたがるものですから、広い意味では信頼感も情報収集力の1つといえるかもしれません。

    いずれにしても、情報収集力を高めるには社員と接する機会を増やすことが重要です。人には何度もくり返し接触したヒト・モノに対して好感度や評価が高まるという性質があります。心理学では、この性質を「ザイオンス効果」といいます。社員と接する機会を増やして好感度や評価を高めることができれば、彼らの考えや意見・悩みなどについて情報収集しやすくなるでしょう。

    ③ 正確な業務遂行能力

    どのような仕事でもミスのない正確な業務遂行能力が求められますが、特に労務管理をおこなう人事担当者には絶対条件です。労務管理では、給与計算や社会保険手続きなどがおこなわれます。例えば給与の金額を実際よりも少なく計算していた場合には、社員は会社に対して不信感を抱くでしょう。あるいは社会保険料の天引き額が不足していたケースでは、不足分の金額を翌月の給与から差し引かなければなりません。このように、労務管理では少しのミスが社員の不信感や重大な不利益につながるので、人事担当者には正確な業務遂行能力が求められるのです。

    では業務の精度を上げるにはどうすればよいかというと、もっとも簡単な方法は日常の業務を「見える化」し、タスクとスケジュールを整理することです。人事にはさまざまな性質の業務があるので、放っておくとどのような仕事をどれくらいのスケジュール感でおこなうとしているかわからなくなることがよくあります。そうなれば、タイトなスケジュールのなかで膨大な種類の仕事をこなさなければいけない状況に陥るため、ささいなミスも起こりがちです。正確に業務を遂行するためには、自分の仕事を正確に把握しながら気持ちに余裕を持つ環境をつくれることが大切です。

    ④ 法律の知識

    人事には、法律の知識も必要です。人事が知っておくべき代表的な法律には「労働基準法」「男女雇用機会均等法」「健康保険法」「厚生年金保険法」「職業安定法」などがあります。例えば、労働基準法では会社側は社員に6時間以上の勤務につき45分、8時間を超える場合には1時間の休憩を与えることが義務づけられています。このようなルールを知らないと、気づかないうちに違法な勤務体系で社員を働かせてしまうかもしれませんし、仕事が社員の健康に悪影響を与えてしまうでしょう。社員が安心して働くには、人事担当者が法律を十分に理解して適切な労働環境をつくっていくことが大切です。

    人事に関する法律は、専門の書籍を参考にしながら勉強するとよいでしょう。ただし、普段の業務のなかで必ずしも法律のすべての条文を頻繁に活用するとは限りません。そこで、頻繁に活用する法律の条文は、リストアップしてマイノートにまとめたりデスクにメモを残したりするのもおすすめです。必要な時に情報を早く取り出しておけるようにしておくと、法律の知識を実務に活かしやすくなるでしょう。

    人事担当者におすすめの資格

    ① 人事総務スキルアップ検定

    人事総務スキルアップ検定は、「一般社団法人 人事総務スキルアップ検定協会」が主催している検定試験です。こちらの資格は3級・2級・1級の三段階があり、人事の業務をはじめて担当した方から企業経営者まで人事の専門的な知識を身につけることができます。特に労働法規や社会保険などの法律が関わる実務について自信をつけたい方には、基礎をしっかりと築ける試験内容になっているので資格取得がおすすめです。

    ② メンタルヘルス・マネジメント検定試験

    こちらは「大阪商工会議所」が主催する検定試験です。最近では、精神的な不調によって休職・離職をする社員が増えています。労働困難までいかなくとも、さまざまな不安・悩みを抱えながら働いている社員は多いです。メンタルヘルス・マネジメント検定試験では、職場内のストレスを緩和したり社員の建造増進をはかったりするスキルを学ぶことができます。人事担当者として、社員の精神面のサポートにも力を入れていきたい方は、メンタルヘルス・マネジメント検定試験の受講を検討してみてはいかがでしょうか。

    ③ キャリアコンサルタント試験

    キャリアコンサルタントは「特定非営利活動法人 キャリア開発協会」が主催している国家資格です。労働者の職業選択をフォローしたり、職業能力を開発したりすることをキャリアコンサルティングといいます。キャリアコンサルタントはキャリアコンサルティングをおこなう専門家であり、資格を取得することで社員の適性を踏まえながら適切な人材配置や業務分担などをおこなうことができます。人事担当者として、社員のキャリア開発に力を入れていきたい方はキャリアコンサルタントの資格を取得するとよいでしょう。

    ④ 社会保険労務士

    社会保険労務士は、社会保険労務士法に基づいた国家資格です。資格を取得すると、労働基準法や雇用保険・社会保険などの専門知識を活用しながら、社員が働きやすい労働環境づくりを積極的におこないやすくなります。なかでも、法律や会計・経理が関わる労務管理は業務が煩雑になりやすいので、誰もが専門知識を備えた人材に頼りたくなるものです。そのため、「労務管理の要」として会社で活躍したい方は社会保険労務士の資格取得がおすすめです。

    まとめ

    以上、労務の仕事内容にも触れながら人事の役割を説明しました。

    人事はさまざまな業務を通じて社員が働きやすい労働環境を整備し、実務をサポートしていくことが大切です。時には直接現場に足を運び、管理職や社員とコミュニケーションをとりながら仕事ぶりやトラブルの状況を確認するのも人事に求められる仕事です。もちろん、会社によって人事担当者の業務範囲は変わってきますから、経営側の意図や考えも踏まえながら自分の役割を果たしていくようにしましょう。

    また、人事としてキャリアアップするには新たなスキルや資格を身につけていくのも必要です。人事や労務に関わる専門的な知識を学びながら、自社で働く社員をしっかりとサポートしていきましょう。

    • 労務・制度 更新日:2021/11/10
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