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中途採用とジョブ型マネジメントが鍵 VUCAの時代に求められる人材と採用方策とは

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現在は予測不可能で変化が激しいVUCAの時代といわれています。こうした状況にあっては、既存の価値観やビジネスモデルが通⽤しないことが指摘されています。

では、このVUCA時代には、どのような能力が必要とされているのでしょうか。
また、そのような能力を備えた人材の獲得に向けて、どのような採用方策が有益なのでしょうか。

VUCAの時代とは

「VUCA」はもともとアメリカの軍事用語で、以下の4つの単語の頭文字を並べたものです。*1

  • Volatility(変動性)
  • Uncertainty(不確実性)
  • Complexity(複雑性)
  • Ambiguity(曖昧性)

この言葉が生まれた背景には、1990年代以降に頻発したテロ行為など多事多発的な破壊行動が、それまでの「国対国の戦争」とは異なり、分析や対応、戦略が難しくなったという事情があります。
そうした状況下で「予測不能な状態」を表す言葉として誕生したのがVUCAです。

2010年代になると、この言葉はビジネスの世界でも多用されるようになりました。
現在は経済活動やその基盤となる組織、所属コミュニティや個人などあらゆるものを取り巻く環境が複雑化し、将来予測が難しい状況であることが、VUCAという言葉に反映されています。

ITの驚異的な進化によってサービスの変容と多様化が進み、それに呼応して顧客の志向や細分化が常に変化し、有望と思われていたビジネスモデルはすぐに通用しなくなってしまいます。

技術革新に基づくイノベーションの予測も困難です。グローバル化によってビジネスには多数の企業や国家が関わり、互いに影響を及ぼし合っているため、その影響がどのようなものでいつどのような形でもたらされるか予測するのは難しいのです。

雇用に関しても大きな変化が訪れています。終身雇用や年功序列といったメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行が進行しつつあり、非正規雇用者も増加しています。


こうした変動性や不確実性、複雑性によって、ものごとの因果関係が明確にできず、曖昧性もより深まってきています。

以下の表1は、経済産業省がVUCAの時代の特徴をまとめたものです。*2

VUCAの時代に求められる能力

では、こうしたVUCAの時代に求められる能力やスキルはどのようなものでしょうか。

VUCAの時代は、予測不可能な状態が続くため、既存の価値観やビジネスモデルが通⽤しない時代だと⾔われています。*2

そのため、中⻑期の計画を⽴てても状況が変化する可能性がありますし、そもそも答えが見出せず、計画を⽴てることができない問題や状況に直⾯しているのです。

このような状況においては、柔軟に変化に対応することができる新しいアプローチが必要になってきています。

表1にもあるように、現在は生成AI、DXの活用によって仕事のやり方が変化していく時代であり、それにともなってその仕事に必要な能力も変わっていきます。*3

会社や社員1人ひとりがVUCA時代の変化に対応し、成果を上げるためには、業界や組織の特定のニーズに対応できる能力が必要です。

採用においては、経営理念に沿った人物像にだけフォーカスするのではなく、より狭義の人物像、つまり業界や組織のニーズに対応し得る職務能力を明らかにして採用すべきだと指摘されています。

VUCA時代の人材獲得

以上のような状況から、求められる雇用コミュニティにも変化が訪れています。
それはどのような変化でしょうか。

雇用コミュニティの変化

従来は事業環境の予見可能性が高く、安定性が重要でした。このような状況では、新卒一括採用による無限定正社員を中心としたキャリアパスが中心でした。*4, *5

そのような状況では、固定的なメンバーによる閉じられたコミュニティが求められ、安心感を持って働けるよう、内部公平性・安定性の確保を重視した人事制度を整備することが最重要でした(図1)。

一方、VUCAの時代には、変化への対応やイノベーションが重要となるため、新卒、中途、再入社など多様なキャリア・雇用形態の人材を受け入れることが必要です。そのため、さまざまなメンバーの出入りがあるコミュニティが求められています。

このように、必要な人材の質と量を充実させるためには、現時点の人材やスキルを前提とするのではなく、必要となる人材の要件を定義し、人材の採用・配置・育成を戦略的に進める必要があります。*6

また、様々なニーズを持った人材を処遇するために、外部労働市場と連動した柔軟な報酬制度などの人事諸制度、多様なキャリア機会の提供が必要です。

必要な人材の確保はどこから?

では、経営戦略の実現に必要な人材は、自社で確保するのがいいのでしょうか。あるいは社外に求めるべきでしょうか。

それは、その人材に求める要件に大きく依存するため、必要な人材の要件に応じて、社内の再配置と外部からの獲得の適切な組み合わせを検討するのが有益であることが指摘されています。*6

まず、自社が長年にわたって築いてきた強みに基づく事業拡大の継続や、既存の事業の高度化に必要な人材は、企業内での計画的な配置によって確保することを検討します。

一方、現時点で十分な知見を持たない新規事業の立ち上げや新製品の開発、DXの推進に必要な人材は、社内の人材に過度にこだわらず、外部から高度な経験や専門性を持つ人材を獲得することを検討します。

先進的な取り組み事例

経済産業省は2023年10月、「人的資本経営コンソーシアム 好事例集」(以後、「好事例集」)を公表しました。
人的資本経営とは、「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」のことです。*7

表1でみたように、VUCAの時代は、デジタル化や脱炭素化、新型コロナウイルス感染症などの影響で、構造転換がもたらされています。そうした状況の中で、「人的資本」の重要性が重みを増しており、人材戦略はその目的に立ち返って変革を進める必要があると、「事例集」は述べています。

「好事例集」から、NECの取り組みをご紹介します。

中途採用の促進

同社は中途採用(以後、「キャリア採用」)を拡大させ、2017年度の55人を2022年度は600人にまで増やしました。5年で10倍増となり、2023年度の新卒採用との比率は、1:1です。*8

こうした背景には、リーマン・ショックや東日本大震災によるダメージからの業績回復が思わしくなかったことが挙げられます。
現在の人材戦略最高責任者(CHRO)は、同社が再度成長するためには「生まれ変わらなければならない」という危機感が高かったと、当時を振り返っています。


業績回復、さらにその先の成長のためには人材の確保が重要でした。新分野の成長にも、企業文化を変えるためにも、触媒となるドライバーが必須です。そのきっかけとして、まず外部から人材を招き入れたのです。

2019年度には、部門やチームの牽引役として、トップマネジメント層の採用に力を入れました。執行役員や本部長クラスも外部から登用しました。

そして、2020年以降は、トップマネジメント層だけでなく、年代も職種も広げていきました。それは、組織を作り変えていくために、現場に近い層でも即戦力が必要になってきたからです。

このようにキャリア採用の社員が増えるにつれ、同社で長く働いてきた人材もキャリア採用の社員に触発されて、挑戦する気運が高まりました。

キャリア採用は、幅広い年齢層にまたがり、最も多いのは営業職ですが、システムエンジニアや事業開発・企画、経営・財務やコンサルタントも多く、あらゆる職種で採用実績があります。

ジョブ型マネジメントへの移行

NECは、事業成長を実現するために必要な組織・ポジションに合わせた人材の配置や育成をタイムリーに行うため、2018年度からジョブ型人材マネジメントへの切り替えを推進しています。*7

全社員を対象にジョブ型マネジメントに移行するためには、それぞれの仕事の目的や内容、範囲、必要な能力などを再整理することが重要です。*8
それを「ジョブディスクリプション(職務記述書)」にまとめ、充実を図っています。

社員にとっても、ジョブを明確に定義することには大きな意義があります。自分が組織にどのように貢献するか、どう成長していくかが、具体的にイメージできるからです。

また、外部人材の採用や内部人材維持のため、各ジョブに相当する社外の報酬水準を参照して処遇を設定し、2024年度には全社員に新報酬制度を導入する予定です。*7
新卒向けの採用でも、学歴別初任給ではなく、担う役割に応じた報酬水準で処遇する「新卒ジョブ型採用」制度を2020年から導入しています。*8

NECがキャリア採用の増加やジョブ型人材マネジメントの拡大に取り組んでいるのは、多様な人材が活躍する企業になるための手段の1つだといいます。

上述したとおり、VUCAの時代には、多様なキャリア・雇用形態の人材を受け入れることが必要です。
同社の取り組みは、まさにVUCAの時代に合致したものだといえるでしょう。

おわりに

予測不可能で変化の多いVUCAの時代には、異なる経験やバックグラウンドを持つ人材が必要です。

中途採用は既存メンバーとは異なる視点やスキルを組織に取り入れる手段となり、新たなアイデアやイノベーションを生む原動力となります。

また、ジョブ型人材マネジメントは事業に必要な能力やスキルを明確にし、社員とジョブをマッチングすることによって、大きな成果を産み出します。

このように、VUCAの時代においては、変化に適応し柔軟に対応するために、中途採用とジョブ型人材マネジメントが組織の成長にとって有益な手段になるでしょう。


  • Person 横内 美保子

    横内 美保子 -

    博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

  • 人材採用・育成 更新日:2024/06/11
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