ジョブ型雇用とは?導入する方法と気をつけたいポイント
昨今話題になることが多い、「ジョブ型雇用」ですが、正確な理解が進んでいるとは言えない現状があります。
今回は、ジョブ型雇用とは何か、またどのように導入したら良いのか、法律上のポイントと併せて紹介します。
ジョブ型雇用とは?メンバーシップ型雇用との違い
ジョブ型雇用とは、どのような雇用方法なのでしょうか?
また、なぜ今ジョブ型雇用が注目されているのでしょうか? メンバーシップ型雇用を対比しながら解説します。
ジョブ型雇用では、あらかじめ職務内容が決まっている
ジョブ型雇用とは、職務(ジョブ)をあらかじめ職務記述書(ジョブディスクリプション)に明記したうえで、その職務に見合った人材を採用する方法です。 実は、ジョブ型雇用は従来の採用・募集、働き方においても利用されてきた雇用方法です。
例えば、中途採用の場合は、そのポストの職務内容や求められるスキルが決まっており、それに見合った人材を採用することが多いでしょう。「まずポストがあり、職務内容や求めるスキルが決められたうえで、それに見合った人材が採用される」という点では、中途採用とジョブ型雇用は近いと言えます。
ただし、中途採用でも、入社後にさまざまなポストを経験し、部署も移動していく、いわゆる「総合職」のような働き方の場合もあります。この場合は、ジョブ型雇用ではなく後述する「メンバーシップ型雇用」と言えるでしょう。
非正規雇用の場合も、ジョブ型雇用に近いと言えます。アルバイトやパート、契約社員はあらかじめ契約で職務内容が決まっているからです。
では、現在論じられているジョブ型雇用の目新しさは何でしょうか? それは、非正規雇用ではなく正規雇用でジョブ型雇用を行おうという点です。
ジョブ型雇用が話題になっている理由
経団連が、2020年末に「ジョブ型雇用を新卒から対象とする方針」を打ち出したことが話題となっています。 ジョブ型雇用は、日本型の雇用制度の見直しの中で論じられるようになりました。深刻な人手不足が進み、企業が「年功序列・終身雇用」といったこれまでの雇用制度を維持することは、コストの面からも難しくなってきています。
それに伴い、「部署異動や転勤を繰り返して、長い期間をかけてゼネラリストを育成していく」という従来の一般的な企業方針は「時代にそぐわない」と考えられるようになりました。グローバル化やIT技術の革新が進む中で、企業が競争力を維持するためには、「ゼネラリスト」よりも「スペシャリスト」が求められているのです。このような時代の変化に対応するための対策として、ジョブ型雇用が注目を集めています。
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違い
ジョブ型雇用は、職務・求められるスキルがはっきり決められている雇用方法です。会社との関係は、ポストを通じた契約関係であり、部署の整理でポストがなくなったら基本的に契約は終了するという考え方になります。
一方、メンバーシップ型雇用の場合は、入社をすると定期的に異動・ローテーションが行われ、社員はさまざまな職務に従事します。今働いている部署がなくなったとしても、他の部署へ異動することが多いです。求められる能力とそれに見合ったスキルが採用時に必ずしも要求されるというわけではありません。メンバーシップ型雇用は、採用した後にさまざまな部署を経験してもらい、社内で人材を長期的に育成するタイプの雇用方法で、新卒者を総合職で採用する場合などに多く見られます。
どちらの雇用方法が優れているかという問題よりも、自社ではどのような雇用方法が適切なのかという点を検討した方が良いでしょう。というのも、この後お伝えするように、ジョブ型雇用は万能ではないためです。
ジョブ型雇用のメリット・デメリット
ジョブ型雇用にはメリットがある一方で、デメリットも存在します。メンバーシップ型雇用と比較しながら解説していきます。
ジョブ型雇用のメリット
ジョブ型雇用の導入は、企業にとってコスト削減につながる可能性があります。ジョブ型雇用では、責任の範囲や業務内容に対しての給料を払う形になりますので、能力の高いジョブ型雇用社員を採用できれば、結果的に無駄なコストを削減できるというわけです。一方、メンバーシップ型雇用では、年功序列制が基本であるため、成果よりも年功に応じた給与が払われる場合が多いです。一部、成果主義が導入されている企業もあるものの、基本給の部分は年功に応じて昇進していく形をとる企業が多いのではないでしょうか。
ジョブ型雇用では、「何年間自社で働いてきたか」という点よりも、その人が持っている能力の方が重要視されます。ジョブ型雇用をうまく導入すれば、現在、能力はあるけれどもメンバーシップ型雇用の働き方ではなかなか能力を活かせない人材を掘り起こし、活用できる可能性があります。また、異なるバックグラウンドの人々が集まり、働く環境を構築することで、社内の多様性を高め、今までになかった視点を取り入れることによりイノベーションにつながることも期待できます。
ジョブ型雇用のデメリット
一方、ジョブ型雇用にはデメリットもあります。
まず、ジョブ型雇用ではポストに応じたスキルを持った人材の採用が前提となります。メンバーシップ型雇用のように、「社員を1から育てる」という考え方ではありませんので、自社の求めるスキルを持った人材が採用市場において少ない場合は、人材の確保が難しくなります。一方、メンバーシップ型雇用の場合は、スキルを持てるように人材を社内で育てていきますので、人材を採用するハードルは比較的低くなります。
また、ジョブ型雇用が主流の海外の労働関係法令と、日本の労働関係法令とでは、大きな違いがあることも考慮する必要があります。日本では、民法に「解雇・退職の自由(民法627条)」と「権利濫用の禁止(民法1条)」が定められており、解雇は、解雇権濫用の禁止によって制限されています。具体的には、客観的に合理的な理由と社会通念上相当がない限り、「解雇権を濫用した」と見なされ解雇が無効になります(労働契約法16条)。
ジョブ型雇用は、「ポストがなくなってしまえば契約は終了する」という考え方です。しかし、それは「合理的な理由と社会通念上相当である」と認められるのでしょうか。企業としては、経営的に合理的な理由があると言えるかもしれませんが、社会通念上の問題があります。特定のポストがなくなり、ジョブが無くなった場合、日本では「ジョブがなくなったので解雇」とはいかず、他の部署への配置転換が優先されると考えられます。
このように、日本の場合は解雇については法律によってかなり制限がされていますので、ポストが消滅したからと言って、すぐに雇用終了するのは法律上難しいという点は、ジョブ型雇用を運用するうえでのデメリットとなるでしょう。上記のようなデメリットがあることからも、帰属意識を重要視している社風の会社や、長期に渡って行われるプロジェクトの場合は、ジョブ型雇用ではなくメンバーシップ型雇用の方が性質として合っていると考えられます。
ジョブ型雇用を導入するためには?
ジョブ型雇用を導入したいと考えた時に、企業が押さえておくべきポイントは主に3つあります。
- 人事設計制度を見直す
- 就業規則にジョブ型雇用の社員の働き方を明記する
- 雇用契約書と労働条件通知書、職務記述書を準備する
これらのポイントについて、それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 人事制度設計から見直そう
ジョブ型雇用を導入するにあたっては、「ジョブ型雇用の社員をどの場面で活用するか」ということを考え、人事設計制度から見直してみましょう。 具体的には、「メンバーシップ型雇用の社員と、ジョブ型雇用の社員を並立させる」方法や、「非正規雇用社員がジョブ型雇用社員になる制度を作る」などの方法があります。
【メンバーシップ型雇用の社員と、ジョブ型雇用の社員を並立させる方法】
具体的には、今までの新卒採用(総合職)は、そのままメンバーシップ型雇用の制度として残しておき、ジョブ型雇用の制度を新たに作るという方法などが考えられます。メンバーシップ型雇用からジョブ型へ転換でき、またその逆(ジョブ型からメンバーシップ型)も、制度として作ることができます。
【非正規雇用社員がジョブ型雇用社員になる制度を作る方法】
そもそも、パートやアルバイトなどの非正規雇用社員はジョブ型雇用に近い働き方といえます。職務の範囲が決まっており、それに応じた時間給が支払われているからです。そこで、パートやアルバイトの社員が、社員になるときにジョブ型雇用社員へ転換する制度を作ってはいかがでしょうか。元々の働き方がジョブ型雇用に近いので、導入しやすいと考えられます。
また、完全なジョブ型雇用ではなくても、自社にあった新しい雇用の形を探る方法もあります。自社で働く社員が、どのような制度にしたら「頑張りたい」と思えるのか、またどのようにスキルを積んでいき、企業に貢献してもらえるのかを考えつつ、制度を設計していきましょう。
2. 就業規則にジョブ型雇用の社員の働き方を明記しよう
転勤の有無、担当する職務の範囲など、ジョブ型雇用の社員とそれ以外の社員の働き方は大きく異なります。したがって、就業規則にジョブ型雇用社員の契約類型を定めておく必要があります。 現在の就業規則を変更・追加する形でも良いですし、ジョブ型社員用の就業規則を別途規定しても良いでしょう。
3. 雇用契約書と労働条件通知書、職務記述書を準備しよう
ジョブ型雇用社員を採用する場合には、「労働条件通知書」、「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」が必要です。「雇用契約書」を交わすことは義務ではありませんが、労働者とのトラブルを避けるためには交わしておいた方が良いでしょう。なお、「労働条件通知書」の交付については、労働基準法第15条、労働準法施行規則第5条の規定により義務とされています。
「職務記述書」は義務ではありませんが、ジョブ型雇用の場合は業務の目的や内容、業務範囲、必要なスキルを明確にしておく必要があることから、作成されることが多いです。
雇用契約書に記載すべき事項は通常の雇用の場合と同様ですが、「ジョブ型雇用であること」を記載しておく必要があります。また、職務の内容と範囲についての詳細は「職務記述書(ジョブディスクリプション)」に規定します。職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に記載する内容については後述します。 給与、昇給や転勤などの項目については大きく違いが出る部分と考えられますので、ジョブ型雇用ではない従業員と企業とのトラブル予防のためにも必ず確認をしましょう。
職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に記載すべき内容
ジョブ型雇用の場合、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に基づいて仕事をしてもらうため、記載する内容は非常に重要です。ここでは、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に記載する事項の一例を紹介します。
- 基本事項……職務等級、職種、所属、役職名など
- 職務内容……「取引先の通信機器の販売促進業務」や「~プロジェクトの進捗管理」など、概要をまず記載し、その後に内訳を記載します。
- 職責……その仕事における責任と、役割を規定します。
- 期待される目標……短期的な目標です。契約期間に出してほしい成果について記載します。
- 組織との関わり方……チームの編成など他の社員との関わりについての項目です。
- 雇用形態・勤務地・勤務時間・時間外勤務手当、福利厚生など……一般的な求人票や雇用契約書にも記述がありますが、この項目であらためて記載します。
- 必要とされるスキル……学歴や職務経験などを記載します。
労働者との間で職務内容について見解の相違が起こらないように、職務内容の部分については現在働いている社員に丁寧にヒアリングをするなどして作成してください。
ジョブ型雇用を導入する際の注意点
ここまで、ジョブ型雇用の概要や導入方法について紹介しました。しかし、ジョブ型雇用を導入するにあたっては、「本当に自社に適した制度なのか」という点をよく考える必要があります。ジョブ型雇用はスキルを持った人材を、その時々に応じて外部から調達し、雇用するという発想です。「社内で人材を育てて、ゼネラリストとしてのキャリアを積んでもらう」という社風には合わないこともあるかもしれません。
本格的に導入する際には、就労規則や人事評価制度だけではなく、組織設計についても検討を加える必要があります。なぜならば全社員をジョブ型雇用社員に転換するのは非現実的だからといって、ジョブ型雇用社員とメンバーシップ型雇用社員を並立させるとなると、両者に不公平が出る恐れがあるからです。ジョブ型雇用を導入する際は、人事や組織の面からも従来のままでは運用が難しくなると考えた方がよいでしょう。
ジョブ型雇用の導入事例
ジョブ型雇用を自社のやり方に合わせてアレンジしながら取り入れている事例をご紹介します。
大手電機メーカー
2020年4月から、グループ企業の幹部社員にジョブ型雇用を導入しました。全社で統一された基準を作り、ジョブの大きさや重要性が報酬に反映されます。より大きな責任が求められるジョブへのチャレンジを促し、そのジョブで上げた成果に応じて処遇を決定することを目的とした人事評価制度です。ジョブを格付けし、ジョブのレベルが上がれば上がるほど、報酬と業績に応じて払われる賞与の比率が大きくなります。
まとめ
今回は、ジョブ型雇用とその導入方法についてご説明しました。日本ではまだ浸透していない働き方ですが、今後企業がグローバル化を生き残っていくための解決策の一つになる可能性があります。ジョブ型雇用の導入の際には、自社の働き方、社風、目指したい姿を念頭に置いて検討してください。
- 人材採用・育成 更新日:2023/03/01
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