ジョブリターン制度とは? メリットやデメリット・他の制度との違いを解説
ジョブリターン制度とは、妊娠・出産・育児や介護などの事情で一度退職した社員を、再雇用する制度のこと。人材不足が続く日本においても、近年注目されている制度で、さまざまな企業が導入を始めています。
今回は人材確保に悩みを抱える採用担当者の方向けに、ジョブリターン制度のより詳しい意味はもちろん、メリットやデメリット、導入時のポイントなどを解説します。
ジョブリターン制度とは
早速、ジョブリターン制度の定義や、なぜ昨今注目されているのかについて、確認していきましょう。
ジョブリターン制度とはどんなもの?
ジョブリターン制度とは一般的に、やむを得ない理由で退職した従業員を再雇用する制度のことを指します。具体的には、妊娠・出産・育児や介護、配偶者の転勤に帯同するために辞めた人を対象としています。
ただし、企業によってはキャリアアップ目的で転職・留学した場合も含むなど、細かい定義はさまざまです。当初は退職理由を限定していたものの、転職市場の活性化などから、ネガティブではなく前向きな転職が増えたために、退職理由を原則不問に変更したという企業もあります。
また呼び方も多種多様で、「ジョブリターン制度」以外の代表的なものには「カムバック制度」「退職者再雇用制度」「退職者復職制度」「キャリアリターン制度」などがあります。
ジョブリターン制度が注目されている理由
日本は現在、少子高齢化が進み、生産年齢人口(15~64歳人口)が減少し続けています。内閣府の報告書『令和6年版 高齢社会白書』によると、2023年(令和5年)の10月時点で、65歳以上の人口は3623万人となり、総人口に占める割合は29.1%です。
一方で生産年齢人口は7395万人と、総人口の59.5%。1995年(平成7年)に8716万人でピークを迎えた後は減少に転じていて、2035年(令和17年)には7000万人、さらに2045年(令和27年)には6000万人を下回ると予想されています。
このように生産年齢人口、つまり労働人口が減り、各社の人材獲得競争が厳しくなる中で、一度自社を辞めた人を再雇用するジョブリターン制度は、人材不足解消に向けた新たな採用手法として注目されているのです。
また、過去その会社での就業経験があるため、企業としては自社に適した業務遂行スキルがあることが分かっています。本人も企業風土を理解して応募しているため、双方で入社後のミスマッチが起こりづらいといえる点も、この制度の広がりを後押しているといえるでしょう。
ジョブリターン制度とアルムナイ制度の違い
さて、「ジョブリターン制度」と似た言葉に「アルムナイ制度」というものもあります。
「アルムナイ」は、卒業生、同級生を意味する「alumnus」の複数形である「alumni」が語源。人事領域では、一度その企業を離れた者(OB・OG)を指します。
「一度退職した人を再雇用する」ということで、ジョブリターン制度と、アルムナイ制度はよく似ていますが、対象者に違いがあります。
ジョブリターン制度では、育児や介護などのやむを得ない理由で退職した人のみを対象とするケースが比較的多いですが、アルムナイ制度では退職理由は問わず、転職・起業などの理由で離れた人も含むことが一般的です。
ただし前述した通り、近年はキャリアアップ・キャリアチェンジのための転職者など、自発的に退職した人にも門戸を広げてジョブリターン制度とするところもあり、考え方は各企業によります。
またジョブリターン制度は、退職者から応募があった時に、条件がマッチすれば採用するというような、どちらかというと「点」の状態を指すといえます。
一方でアルムナイ制度は、大学の校友会ネットワークのように、企業と元社員が接点を持ち続け、互いの最新情報を常に把握できる・必要なタイミングで企業側からも採用に向けた声掛けができるといった、「線」の状態だと考えられるでしょう。
アルムナイ制度は再入社を前提としておらず、あくまで「企業と元社員のつながり」を目的としているところも違いといえます。
関連記事:アルムナイの意味は?人材難のこれからを勝ち抜くアルムナイについて
ジョブリターン制度のメリット
ジョブリターン制度の概要が分かったところで、ここからは企業目線から見た、具体的なメリットを詳しく見ていきましょう。
採用後のミスマッチを減らせる
採用側にとって、応募者が本当に自社で活躍してくれる人材なのか、また長く働いてくれるかを見極めるのは、非常に重要なポイントです。しかしYouTubeなどで手軽に情報収集をしやすくなったこともあり、書類や面接における応募者の「自分の魅せ方」のレベルは、近年どんどんと上がっています。そのため、ジャッジの難易度が高いのも事実。
ジョブリターン制度であれば、応募者の在籍時のリアルな経歴やスキルを把握しているため、欲しい人材像にマッチする人を確保しやすい点がメリットとしてあります。
また、一度その会社で働いたことがある人ならば、既に企業風土や理念、雰囲気などを理解した上で応募してきているため、採用後も定着する可能性が高いといえるでしょう。
採用コストを抑えられる
人材獲得のために、広告出稿や転職エージェントなどを使う場合、手数料が高額になるケースもあります。また、適性検査や面接など、多くの選考プロセスを用意すると、費用や人件費がかさむことも。
一方でジョブリターン制度の場合、一度制度を整えておけば、自社の採用サイトやSNSなどでの告知のみで済みます。また、応募者の人となりや実力が分かっていることから、選考を簡略化することができ、費用を抑えられる可能性があるでしょう。
教育コストを掛けることなく即戦力採用が期待できる
ジョブリターン制度の応募者は、社内の仕組みや自社商品に対する理解が既にあります。そのため、入社してからの教育の手間や費用が、新入社員や通常の中途採用社員と比べて少なくて済む傾向にあります。
また、以前と同じ、あるいは近い部署への再雇用であれば、研修期間やOJT期間を設けなくとも、即戦力として活躍してくれる可能性が高いといえるでしょう。人手が足りなくて困っている部署であれば、特にありがたい存在となってくれるはずです。
離職中に得たスキルや視点を生かしてもらえる
応募者が、自社を退職した後に他社で働いていたという場合は、社外で得た知見やスキルを生かしてもらえるといったメリットもあるでしょう。
また、客観的な視点を生かし、社内にずっといる人では分からない問題点に気が付けたり、逆にその会社ならではの魅力・アピールポイントを見つけたりすることもできるでしょう。
会社のイメージアップにつながる
ジョブリターン制度を確立し、退職者に再雇用の門戸を広げることは「退職者に寛容な会社」「柔軟な姿勢がある組織」など、企業のイメージアップにつながる可能性もあります。
具体的には、例えば妊娠・出産・育児や、介護などで退職せざるを得なかった人を再雇用する姿勢は「女性も活躍しやすい会社」「従業員の人生を大切にしている」といったアピールになり得るでしょう。
対外的な印象が良くなることで、新たな採用活動はもちろん、クライアントや消費者、株主などにもプラスに作用してくれるかもしれません。
ジョブリターン制度のデメリット
ここからは、ジョブリターン制度のデメリットも確認しておきましょう。良くない点もしっかりと把握した上で、導入を検討したり、環境を整えたりすることが大切です。
既存社員との摩擦が生じる可能性がある
ジョブリターン制度を取り入れて、元社員を再雇用する場合、既存社員との間で摩擦が生じたり、既存社員が不満を募らせたりする可能性があります。
例えば、ずっとその会社で頑張り続けてきた既存社員と、再雇用された人の待遇が同じ、または再雇用者の方が好待遇といった場合、既存社員が不公平感を抱くかもしれません。
そうはいっても、再雇用者に対してあまりに待遇が低いと、他社と比較されて復職してもらえない可能性も高まってしまいます。双方が納得いくような、慎重な制度設計が必要となります。
安易な退職を誘発する恐れがある
従業員の間に「退職してもまた帰ってくることができる」という意識が生まれることは、一時的とはいえ、人材流出の危険が高まる危険性をはらんでいるという点も、念頭に置いておきましょう。
退職理由などにより、ジョブリターン制度を使える対象者の範囲を限定する、無条件で再雇用するのではなく採用選考を必須にするといった、丁寧な制度設計がポイントとなります。
退職者からの接触を待つのみで企業側からのアクションが難しい
ジョブリターン制度は基本的に、退職者の「再雇用」に重きを置いている仕組みです。
つまり、求人がある状態で、自社の採用サイトなどにジョブリターン制度の案内を掲示して、退職者からのコンタクトを待つというのが一般的な形。そのため、企業側から退職者へのアクションは難しいという側面があります。
また、求人が発生した際に、運よく退職者から応募が来るとは限りません。せっかく制度を用意しても、申し込みがないと経営陣から失敗と判断されてしまう可能性もあるのです。
なお、アルムナイ制度の場合は、「再雇用」にとらわれず、企業と退職者の「つながり」を重視しているため、専門の交流サイトなどを用意すれば、企業側・退職者側の双方向でのコミュニケーションができるのが特徴です。
退職者が「今は復職を考えていない」という場合でも、接点を持ち続けることで、将来の再入社につながる可能性があります。
運用ルールの整備・制度の周知に手間や時間が掛かる
そもそも、ジョブリターン制度を実施するためには、再雇用時の就業規則や採用ルールを整えたり、社員や退職者に制度を周知したりするなど、ある程度の手間や時間が掛かります。
また、求人が発生した際にタイミングよく退職者からの応募があるとは限らないため、短期間での「再雇用」のみにフォーカスし過ぎると、なかなか結果として表れにくいのも難しいポイントです。
そこで、退職者ネットワークに関連する専門サービスを活用して、プロの知見を取り入れることで社内の労力を抑えつつ、再雇用の在り方を改めて考え直すのも、一つの選択肢といえるでしょう。
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ジョブリターン制度を成功させるためのポイント
ここからは、ジョブリターン制度を成功させるために抑えておきたいポイントを解説します。
導入の目的や見込める効果を明確にして本当に導入すべきかを考える
制度の導入にはある程度の手間が掛かるので、上層部や一緒に動くメンバーを納得させるためにも、その目的や必要性、労力に対する効果はきちんと考えたいものです。
現場の担当者にヒアリングして、ニーズや実現性について意見を募ったり、今までの退職者の傾向を把握し、導入後に見込める効果を試算したりといったことをしておくといいでしょう。
なお、これはどちらかというとアルムナイ制度での例となりますが、30~40人程度の退職者をプールしておくと、およそ1年に1人の採用につながるといわれています。こういった目安を基に、通常の中途採用に掛かる労力や費用と比べてもいいですね。
「制度をつくることが目的」となってしまわないよう注意してください。
ルールを明確化する
ジョブリターン制度を取り入れるのであれば、希望者であれば誰でも復職できるというわけではなく、ある程度の再雇用の条件を設けるのがおすすめです。例えば、退職理由・在職期間・離職期間などが代表的。こういった条件があることで、在籍社員の安易な退職を防いだり、再入社後のパフォーマンスの担保につながったりするでしょう。
また、既存社員に不公平感を抱かせないような、納得感のある制度であることも必要です。特に「コネではなく、しっかり選考している」「会社にとってメリットをもたらしてくれる優秀な人材であるからこそ再雇用する」といった点を、全面的にアピールするのが大切だといえます。
さらに、復職者の待遇においては、社内に残って頑張り続けてきた既存社員と同等、あるいはより好待遇である場合に、その理由をきちんと説明ができるかという点もポイントになってきます。
多様な働き方を認めて働きやすい環境を整備する
せっかくジョブリターン制度をつくるのなら、優秀な社員が戻ってきやすい環境を整備することも視野に入れたいものです。
例えば育児を理由に一度退職した社員の場合、子どもが大きくなって復職できる余裕ができたとはいえ、「フルタイムだと難しい」という場合も大いにあるでしょう。子どもの帰宅時間には家にいたい、と考える場合もあるかもしれません。
そこで時短勤務や時差出勤、リモートワークなど多様な選択肢があると、復職へのハードルが下がるはずです。既存社員の働きやすさにもつながるため、これを機に働き方全体の制度改革を考えてみてもいいかもしれません。
社内外に制度を周知・活用してもらえるようにする
せっかく制度を整えても、知られていない・使ってもらえないのでは、意味がないですよね。そこで、社内に制度を広報しつつ、上がってきた疑問に対してすぐに回答できる体制を整備しておくと、制度や人事部に対する印象もアップするはずです。
退職した社員にも周知が必要なので、社内ポータルだけではなく、企業の採用サイトはもちろん、SNSや専用サイトなどを積極的に使っていきましょう。
なお、退職者ネットワークに関連する専門サービスを活用して、あらかじめ退職者とのつながりを維持しておくと、制度ができた時の案内も容易にできるので、よりスムーズでしょう。
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ジョブリターン制度を賢く活用して組織力アップを目指そう
ジョブリターン制度とは、かつて退職した社員を、再度、雇用する制度のことです。退職理由など、制度の細かい条件は各企業によって異なりますが、一度その会社で働いたことのある人なので、入社後のミスマッチが起こりづらく、また即戦力として活躍してもらいやすいといったメリットがあります。
人材不足の昨今において注目を集めている制度ではありますが、導入の際には、既存社員に不公平感を抱かせないよう、きめ細やかな配慮や、慎重な制度設計をするようにしましょう。
また「制度をつくって終わり」ではなく、その制度をどう活用していくか、よりよく進化させていくかは、常に考えていく必要があるでしょう。
- 人材採用・育成 更新日:2025/07/14
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