経営と人材をつなげるビジネスメディア

MENU CLOSE
1 ty_saiyo_t01_mid_career_recruitment_word_231128 column_saiyo c_saiyougakuc_shitenc_senkougyoumuc_careersaiyouauthor_mishima

「中途採用→経験者採用」に言い換えすべき?現場の戸惑いと代替案

/news/news_file/file/ty_saiyo_t01_mid_career_recruitment_word_231128_TOP.jpg 1

「中途採用という表記は不適切だから、経験者採用と言い換えなければならない」 そのような話を耳にして、驚いた方もいるかもしれません。

実際には、経団連が“経験者採用に表記統一する方針”を表明しましたが、表記の判断は各企業にゆだねられている状況といえます。

この記事では、背景を把握したうえで適切な判断をできるよう、経緯や動向を掘り下げていきたいと思います。

「中途採用→経験者採用」表記をめぐる動向

最初に、「中途採用→経験者採用」の表記変更をめぐる動向を、整理しておきましょう。

2022年11月:経団連の方針表明

ことの発端は、2022年11月の「経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)」案および経団連の十倉雅和会長の記者会見にあります。報道各社が以下のように報じました。


翌年1月に公表予定である経労委報告の素案のなかで、
「中途採用の呼称をやめて、経験者採用に統一する」
との方針が示され、この部分が話題となりました。

定例記者会見における十倉会長発言要旨より:

【経験者採用】

新卒以外の採用で広く「中途採用」という呼称が用いられているが、「中途」という言葉に否定的なイメージがあることや通年採用を実施する企業が増えている実態を踏まえれば、「経験者採用」とする方がよいと考える。*1


Googleトレンドの動向を見ても、ちょうどこの会見の時期に、「経験者採用」の検索数が増えており、注目されたことがうかがえます。*2

2023年1月:発行された経労委報告の内容

上記会見の2ヶ月後、2023年1月に発行された「2023年版 経営労働政策特別委員会報告」では、実際にどのように記述されていたのでしょうか。

少々長くなりますが、前後の文脈がわかるよう、以下に引用します。

(2)円滑な労働移動に資する企業における制度整備
① 採用方法の多様化

イノベーションの創出や生産性の向上には、様々な能力やスキル、価値観を有した多様な人材に活躍してもらうことが不可欠である。多様な人材の採用にあたっては、多様な方法によって行うことが適当である。さらに、採用方法の多様化は、いわば労働移動における受入れ側の整備となり、円滑な労働移動にも資することになる。

採用方法の動向(経団連調査)を確認すると、新卒者においては一括採用を中心としつつ、その割合を減らす一方、通年採用や職種別・コース別採用、ジョブ型採用を増やす方針を掲げる企業が多くみられる。経験者(既卒者)においては、今後もその多くを通年採用で行うと回答している。

このうち、通年採用は、自社にとって適切な時期に必要な人材を確保することを目的として、特に経験者採用で活用されている。今後は新卒採用においても、通年採用の活用を一層進めていくことが有益である。若年者にとっては就職の機会・場の選択肢が広がることになり、企業では様々な人材に巡り合うチャンスが増えるなど、双方にメリットがある。通年採用の実施企業には、その旨の募集要項等への明記や企業説明会での周知とともに、新卒一括採用者と同様のキャリアパスを設定することが望まれる。

なお、「中途採用」との文言が一般的に使用されているが、「中途」という言葉がネガティブな印象を与えることから、経団連は今後、「経験者採用」との表記で統一する。*3 太字は筆者


上記では「採用方法の多様化」が重要なテーマとなっています。イノベーションの創出や生産性の向上には、“多様な人材の活躍”が欠かせないからです。

「中途採用→経験者採用」の表記に関するトピックが出てくる前に論じられているのは、

〈新卒採用においても、通年採用の活用を一層進めていくことが有益である〉

という提言です。

この文脈で、〈経験者(既卒者)においては…〉〈特に経験者採用で…〉の文言が出現し、これを補足する流れで、経団連の経験者採用・表記統一の件が説明されています。

あくまで補足説明に留まっており、「中途採用/経験者採用」について、特別な議論がなされているわけではありません。

参考までに、上記に続く段落では、

  • カムバック・アルムナイ採用
  • リファラル採用
  • 多様な正社員採用

について、以下のとおり触れられています。

また、退職した元社員を再度採用する「カムバック・アルムナイ採用」は、自社が求める人材とのミスマッチが少なく、即戦力が採用できることから、さらなる活用が効果的と考える。

このほか、社員から知人・友人らを紹介してもらう「リファラル採用」、勤務する場所や時間、従事する仕事を限定した「多様な正社員採用」など、様々な選択肢の中から、自社に適した採用方法を検討・活用することが必要である。

採用選考においては、働き手の人柄や性格、将来性を重視する潜在能力(ポテンシャル)ベースによる採用に加え、学修成果の評価・保有しているスキル・職能に基づいた採用基準による採用枠の拡大を検討することも一案である。*4


「中途」のネガティブな印象とは?

先に引用した「定例記者会見における十倉会長発言要旨」および「2023年版 経営労働政策特別委員会報告」では、それぞれ、
 〈「中途」という言葉に否定的なイメージがあることや…〉
 〈「中途」という言葉がネガティブな印象を与えることから…〉
と記述されています。

これ以上の具体的な内容は書かれていませんが、十倉会長の会見を確認してみると、以下の発言が確認できます。

「採用とか雇用のあり方ですけども、まあ中途採用っていうのはなんか、中途半端みたいな感じのイメージが湧きますんでね、私も経験者採用というほうがいいと思いますし…」*5

混乱を避けるために使い分けたい意図も

一方、報告や会見での流れを踏まえると、
「“新卒者の一括採用以外の年度中途に行う通年採用”との関連で、混乱を避けるために、用語をわかりやすく使い分けたい」
という実務的な意図も、うかがえます。

「離職・転職などに対する意識を社会全体で肯定的なものに変えていく」

もう一点、中途採用の呼称を変えることで、
「中途採用の(語句自体ではなく)概念に付随するマイナスイメージを刷新するきっかけとしたい」
という思いがあるように感じられます。

同報告では、以下のように記述されている部分があるからです。

あわせて、離職・転職など労働移動に対する意識を社会全体で肯定的なものに変えていく必要がある。働き手は、社内での異動や転職を自身の適性や職能に一層適した魅力的な仕事に就くための機会として前向きに捉えて能力開発等に励んでいく。企業は、転職経験者を単なる労働力不足への対応ではなく様々な知識やスキル、キャリア等を有する者と評価して積極的に採用・処遇する方針を掲げ、キャリアアップ型の転職機会を増やしていく。政府は、働き手が安心して労働移動できるよう、雇用のマッチング機能強化とセーフティーネット整備を図る。こうした取組み等を通じて、社会全体の意識改革を促していくことが、わが国で円滑な労働移動を定着・推進させていく要諦といえる。*6

報道や会見では、「中途」の語句自体のネガティブ性や、「通年採用」にフォーカスされていましたが、本質的には、上記の考えがベースにあるのではないでしょうか。

「経験者採用」表記 現場で生じる2つの戸惑い 

続いて、「経験者採用」表記を検討する際に、現場で生じやすい2つの戸惑いを見ていきましょう。

「“新卒採用”以外の全部」を表現できる語ではない

1つめは、経験者採用は「“新卒採用”以外の全部」を表現できる言葉ではないことです。

「中途採用」は、新卒採用以外を表したいとき、汎用性の高い用語でした。

基本的には、新卒採用以外のすべてを中途採用でカバーできます。

しかしながら、「経験者採用」では、表現しきれないカテゴリーが出てきます。

たとえば、求人サイトで[経験者採用]のタグづけがされている求人があるとします。

“異業種から未経験での転職希望者”が見たら、「これは未経験の自分は応募できない求人だ」と思ってしまうかもしれません。

こういった誤解のリスクがある点で、「経験者採用の用語は、使いづらい」と感じる現場も少なくないでしょう。

認知度が低い

2つめは「認知度が低い」ことです。

参考までに、Googleキーワードプランナーで、月間平均検索ボリュームを調べてみると、中途採用が14,800、経験者採用が1,000という結果でした。

「中途採用のほうが、約150倍の回数、検索されている」
と考えると、中途採用の言葉を避けるデメリットも現実的です。

とりわけ、自社採用サイトのSEO(検索エンジン最適化)に注力している企業にとっては、大きな問題といえます。

対象とする求職者が、検索時に自ら入力する語句を使わないと、検索結果ページに表示されにくくなるからです。

「経験者採用」の言い換え案

「中途採用の使用頻度は落としていきたいが、経験者採用を使うのも課題がある」
という場合、どのような対応が考えられるでしょうか。

前述の経労委報告には、以下のとおり、注釈があります。

「経験者採用」以外の表記例としては、「キャリア採用」「社会人採用」「既卒者採用」などが挙げられる。*7


それぞれ見ていきましょう。

キャリア採用

キャリア採用は、基本的には即戦力となるキャリア(職歴や経験)を持つ人材の採用を指します。

その意味では「経験者採用」と表記した場合と、類似した印象を受け取り手に与える言葉です。

「未経験者可」とせず、キャリアを持つ人を積極的に採用したいときに向いています。

社会人採用

社会人採用は、従来の“中途採用”がカバーしていた概念に、最も近い代替案といえるかもしれません。

「社会人になった後で転職する人のすべて」を表現したいときに、向いています。

「未経験者可」とする場合にも、「社会人採用・未経験者可」と並列表記が成り立ちます。

既卒者採用

既卒者採用は、経労委報告上では経験者採用と代替できると受け取れる書き方がされていますが、注意が必要です。

というのは、近年、「学校をすでに卒業したが未就職」というグループを指して「既卒者」と呼ぶケースが増えているためです。

同報告では「新卒者の通年採用の活用を進める」という趣旨が書かれていましたが、むしろ、こちらの新卒採用の文脈に「既卒者」が使われることが増えているといえます。

既卒者採用の表記に関しては、双方に誤解を生むリスクがあるので避けるか、使う場合には、意味を明確にする注記を付けることをおすすめします。

その他の表記

その他の表記としては、

  • 転職者採用
  • エキスパート採用
  • 経験者採用(中途採用) ※かっこ書きを併記

などが挙げられます。

参考までに、以下は月間平均検索ボリュームのリストです。

さいごに

言葉のニュアンスや印象は、時代とともに変遷していきます。

筆者個人としては、「中途」の語句にネガティブな感覚がなかったため、経験者採用への言い換えには戸惑いを覚えました。

しかしながら、古い時代の悪しき風習や偏見、窮屈さを含む雇用の象徴として「中途採用」を捉え、新しい価値観へのシフトを図る意義であれば、言い換える価値があると感じます。

それぞれの企業の価値観や、届けたい対象の求職者のニーズに合わせて、最適な表記をご検討いただければと思います。

参考

  • Person 三島 つむぎ

    三島 つむぎ -

    ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。

  • 人材採用・育成 更新日:2023/11/28
  • いま注目のテーマ

RECOMMENDED

  • ログイン

    ログインすると、採用に便利な資料をご覧いただけます。

    ログイン
  • 新規会員登録

    会員登録がまだの方はこちら。

    新規会員登録

関連記事