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「採用すること」だけを目的としない ファンケルが実践する新卒障がい者採用の課題と挑戦

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障がい者の法定雇用率は来年度(2024年度)には現在の2.3%から2.5%に、その後も2.6%、2.7%と段階的な引き上げが予定されています。

2.5%ということは社員40人の企業で1名の雇用が必要ということになり、今後、障がい者採用の門戸はますます広がっていくでしょう。
一方で、これまで障がい者採用の主な手法となっていた中途採用(経験者採用)だけでは法定雇用率の順守が難しくなる企業も出てくることが想定されます。

そこで注目されているのが、新卒の障がい者採用です。
今回は、障がい者採用について長年の経験があり、実際に新卒での採用も行っている株式会社ファンケルの浪江優花さん、小田島真従さんにお話を伺いました。

― 今日はよろしくお願いします。まずは、御社がこれまで行ってきた障がい者採用について歴史をお聞かせください。


小田島さん:はい。まず、1999年に創業者の池森賢二がリードして立ち上げた特例子会社「ファンケルスマイル」で障がい者採用が始まりました。

当時としては非常に先進的な取り組みでしたが、社会環境が変わる中、「あらゆる個性が一緒に働いている環境」をつくっていくべきなのではないかと考えて、19年から本社でも障がい者採用を始めています。

― 2019年から新卒障がい者採用を始められたということですが、現在は何名ほど採用されていますか?


小田島さん:年度によって異なりますが、30〜40名の新卒社員のうち、1〜2名が障がい者枠での入社です。
マイナビチャレンジドなどの就職情報サイトで障がい者採用をしていることを知っていただき、インターンシップを経て選考を行っています。

― 新卒障がい者採用で課題としてよく挙げられるのが、見極めです。就業経験がなくポテンシャルを見なくてはいけないのは、障がいがない学生でも同じですが、やはり独特の難しさはあると思います。


小田島さん:そうですね。弊社の場合、特例子会社での雇用も含めてすでに法定雇用率は超えていますので、あくまでも一緒に仕事をしていくメンバーのひとりとして考え、採用を行っています。
浪江さん:小田島さんの言うとおり、入社すれば社員として成果を期待するのは当然ですので、今年から、5つの評価基準を定めました。

①パーソナリティ・人柄:正直で素直、かつ前向きで自信を持って働けるかどうか
② 自己理解:自身の障がいの特性を理解して、自分がどう活躍できるかをイメージできているか
③ 社会性:報連相ができて、異なる意見を受け入れながら行動できるか
④ 心身の安定:規則正しい生活や薬の服用など、安定・自立した生活ができるか
⑤ 就業意欲:ファンケルに入りたいという理由、意欲があるか

です。

― 特に重要だと考えられている項目について聞かせてください。


浪江さん:はい。「② 自己理解」が障がい者採用においては非常に重要な項目だと考えています。「障がい受容」とも言い換えられますが、要するに「自分の障がいをよく理解し、受け入れた上で、どんなフォローが必要か」を知っているということです。

実際に働いていただく場合は、フォロー体制を準備するために部署のメンバーに、ご自身から障がいのことや必要なフォローのことをお話ししていただく必要があります。そのことをお伝えすると、「話したくないです」と答える方もいらっしゃいます。

それでは実際に職場で仕事をしているとき、本人はもちろん、周囲も困ってしまう場面が出てくるでしょう。
実際に仕事を始めたときに「周りが気付いてフォローしてくれるまで待っている」のではなく、「自分から働き掛けることができる」というのは非常に重要なポイントです。

― ここからは、ほかの評価基準をどのように見られているのかも含めて採用フローについてお伺いします。どのようなフローで新卒障がい者採用を行っていらっしゃいますか?


小田島さん:先ほどもお伝えしたように、まずはマイナビチャレンジドなどの就職情報サイトを通じて弊社の障がい者採用について広報し、インターンシップにご参加いただいています。
特徴的なのは、インターンシップが対面式であるということかもしれません。

浪江さん:今、多くのインターンシップがオンラインに移行している中なので、対面式が初めての方もいらっしゃいますが、実際にオフィスに来ていただくことを重視しています。

例えば身体障がいがある方であれば、実際に見ることで自分がオフィス内でどのように働けるのか、具体的にイメージができます。それに加えて、障がい者採用で入社した先輩社員にも会ってもらうことで働きやすさや実際の業務内容についても共有することができ、自身の働いている姿をリアルに想像してもらえるからです。

また、弊社の製品を実際にお渡しして、そのこだわりなども直接お話しすることで弊社の魅力付けもしっかりと行いたいということもあります。

― なるほど。他にインターンシップで重視されている点はありますか?


浪江さん:10名ほどの参加者の方を含めてオフィス内を移動していくのですが、その際に車椅子の学生のサポートをする学生がいるなど、参加者同士でサポートし合う様子が見られたりします。そういうところから、視野が広く周りを見ることができているかが分かる場面もありますね。評価基準の「③ 社会性」に当たる部分です。

ほかにも、事前に必要な配慮を伺う中で「② 自己理解」も分かります。具体的には「トイレに時間がかかるので休憩時間は長めに設定してほしい」とか、「聴覚障がいがあるので事前に印刷した資料が欲しい」と申し出てくださる方もいて、自身に必要なフォローを理解し、必要であれば頼ることができるかが見えてきます。

― ファンケルという会社、労働環境の理解を目的としながらも、インターンシップの中で見えてくるものがあるのですね。


浪江さん:そうですね。事前にいただいたフォロー項目はこちらできちんと準備しますが、その上でさらにフォローが必要になる場面も当然出てきます。その時、フォローが必要な本人がどうするか、その周囲がどう行動するか、オンラインでお話しするだけではなかなか見えてこないことが、インターンシップを通じて分かってきます。

― ありがとうございます。その後の採用選考では面接することになりますね。面接でのポイントはどのようなものですか?


小田島さん:お話しする中で、「① パーソナリティ・人柄」を見るのはもちろん、「⑤ 就業意欲」は重点的に見ています。

新卒の障がい者採用はまだまだ間口が広いというわけではありませんので、単に「募集窓口があるから」というだけで応募される方も少なくありません。
あまりファンケルへの志望度が高くないのかも、と思ったら面接や面談を通じて意識を醸成するような働き掛けを行っています。面接の前段階でインターンシップにご参加いただき、先輩社員との交流を設けているのもそのための施策のひとつです。

浪江さん:あと、今年から面接を1回増やして3回にしています。これは接触の機会を増やしてお互いに理解する時間を確保するということもありますし、現場の役職者に面接官として参加してもらうためでもあります。

― 面接を増やしてみて、結果はいかがでしたか?


浪江さん:一緒に働くことになる現場の目線が入ることで、これまでとは違う角度での質問ができるようになったと思っています。

例えば、イレギュラー対応も発生する仕事の現場で、「こういうとき、どう対処してどうほかの人に頼る?」ということを具体的な例を出しながら聞いていったり、という感じです。
小田島さん:私たち人事が質問をすると、無意識に「答えやすい質問」をしてしまいがちなのですが、現場の役職者からは浪江さんが例に出したような「答えにくい質問」も出てきます。

会社って、自分の事情を分かって配慮してくれる人ばかりではありませんよね。他人の都合に合わせなくてはいけない場面もあれば、難しいプロジェクトに取り組んでいるタイミングで仕事が重なってしまうこともあります。
それは障がい者であってもそうでなくても同じで、忙しく動く現場では仕方のないことです。

― もちろん一定の配慮は必要になるものの、仕事を共に行うメンバーとしては本人の努力による「現場での適応」も欠かせない。それを見ることができたということですね。


小田島さん:はい。面接で現場の役職者が「答えやすい質問をしない」というのは、その一端として面接の段階で触れていただくという意味で、やって良かったなと思っています。

抽象度の高い質問がきたときに「それって、○○という意味ですか?」と聞き返せたり、分からなければ「分からない」と言えたり。
現場に出れば絶対に必要な能力ですが、私たちからの質問ではなかなか見えてこない部分でした。

― 障がい者採用においても「入社後に活躍できるかどうか」という視点は欠かせませんね。


小田島さん:そのとおりです。この基準を曖昧にしてしまうと入社後に会社も本人も苦労するので、その方を受け入れる上での必要なサポートと、期待できる成果のバランスはかなりシビアに見ています。

法定雇用率もありますが、採用することだけを目的にしてしまうと、お互いに不幸になってしまうこともあり得ますから。

― いま日本の障がい者は、占める割合が高いのが「精神障がい」だと言われています。精神障がいのある方の採用にはまた違った難しさもあるのではないかと想像しますが、いかがでしょうか。


浪江さん:はい。弊社も精神障がいの方を採用したのは初めてで、まだトライ・アンド・エラーの最中です。

やって良かったのは、現場の役職者との面接を通じてどう活躍できるのかを一緒に確認したこと、産業医の見解も聞きながら必要な配慮を洗い出して内定者研修なども個別対応するということですね。

例えば、大人数が集まる研修やグループワークへの参加が難しいのであればオンラインに切り替える、社員食堂で一緒に食事をしながらリラックスした雰囲気で相談をしてもらう、などです。

― かなりきめ細かい個別対応ですね。


小田島さん:精神障がいの方の採用が難しいと感じるのは、本人の調子が上下しやすく、臨機応変の個別対応が求められることにあるのではないかと思います。
その点で、集合研修を基本とした内定者研修も果たして適切であるのかと思い至りました。

効率性の面から取り入れてきた方法ですが、この経験を通じて見直そうかと考えています。障がいの有無にかかわらず、集合研修が適切でない方がいるのではないかという気付きを得たからです。

― 障がいの特性に合わせた個別対応を通じて、それを広げていこうと考えられたわけですね。


小田島さん:はい。さまざまな個性を持った社員と働いて会社に多様性をもたらすことがダイバーシティ&インクルージョンの考え方ですが、「個性」は誰にでもあります。障がいの有無とは基本的に無関係です。

すぐには難しいのですが、ゆくゆくは一人ひとりに個別対応で内定者研修やフォローをしていけるようにしていきたいですね。

― では最後に、御社の障がい者採用について今後の展望をお伺いしたいと思います。


小田島さん:障がいがある学生の方を採用することだけをゴールにしてはいけないと実感しています。

事前に把握できていなかったフォローが必要になることもありますし、想定外のトラブルも起こります。また、企業である以上は、先ほどもお話しした「必要なサポートと成果のバランス」もシビアに確認する必要があります。

その上で、採用すること自体が目的ではなく、それぞれの個性が、ほかの人からは生まれない発想を生み出す源泉になることこそが大切だと考えています。今後も障がい者を含めた幅広い人材の採用を通じて製品やサービスに寄与することが一番です。

例えば、身体障がいの方で握力が弱いという場合、ボトルの持ちやすさ、開けやすさなどのユニバーサルデザインを考える一助になります。
意識の面でも、障がいのある方との業務を通じて私自身も、そしてほかの社員も「個性を活かす」ということをより深く理解できると思います。

浪江さん:途中で話題に上りましたが、障がい者の方に「ファンケルだから働きたいんだ」と思っていただけるよう、これからも努力をしていきたいですね。

「障がい者雇用の窓口があるから」という理由だけだと入社してから本人が苦しいと思いますし、総合職と同じようにキャリアの広がりがあるファンケルで活躍したいという方が注目してくださるようにしていきたいですね。

― 今日はありがとうございました!

インタビューの中では、どの企業も参考にできそうな具体的な採用手法から、障がい者採用への考え方まで、幅広くお話をうかがうことができました。

特に印象的だったのは「採用することだけをゴールにしてはいけない」という言葉です。

法定雇用率があるから、とにかく採用する。障がいがあるから、見極め基準を甘く設定する。
障がい者採用において考えてしまいがちなことですが、その後に本人が個性を活かして活躍し、会社に利益を生み出すために、一歩引いて俯瞰した判断も必要です。

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  • 人材採用・育成 更新日:2023/06/27
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