決裁者ニーズの捉え方│澤円さんの管理職向け社内プレゼン術【前編】
採用、評価、育成、労務など、多岐にわたる人事領域の業務。近年は人材の流動化や人材不足も相まって、多くの課題やタスクを抱えている担当者、特に中間管理職の方が少なくありません。
こうした状況の打開策として、例えば評価であればタレントマネジメントシステム、採用であればリクルーター制度など、業務効率化や最適化のために、さまざまな新システムや制度を導入したいと考えている方は多いのではないでしょうか。
そんなときに避けて通れないのが、意思決定層へのプレゼンです。彼らが真に求めていることを理解した上で、説得力のあるプレゼンを行い、スムーズに決済の承認を得るためにはどうすれば良いのでしょうか。
日本マイクロソフト時代にエバンジェリストとして、年間200〜300回ものプレゼン・講演をこなし、「プレゼンのプロ」の異名を持つ澤円さんに、前編・後編にわたってその極意を伺いました。前編では、プレゼンに臨む前の「意思決定層が真に求めていることの捉え方」について解説します。

まずは自分自身の役割を俯瞰的に理解しよう
— まず、澤さんが考える「良いプレゼン」について教えてください。
澤さん: 大前提として、ビジネスにおけるプレゼンは結果が全てです。そして、いわゆるプレゼン術だけで、その結果を良くすることはできません。
皆さんよく、スライドの作り方や話し方をなんとかすればプレゼンが通るようになるのではないか、と勘違いされますが、それだけでは実は不十分で、本質はもっと根本的なところにあるのです。
それはあなた自身が、そのプレゼンを成功させて決済を通すことにより、会社にどのような良いことがあるのか。ひいてはどんな社会貢献ができるのかを、とことん突き詰めて考えられているかどうか、ということです。
— 具体的に教えてください。
私がよく経営者向けのセミナーでお話ししているキーワードの一つに、「経営三層構造」というものがあります。

経営者が見ているのは、会社や社会の全体像です。社会全体を捉えた上で、自社が社会にどのような価値を提供するかを考えています。それをもとに、ビジョンを提唱します。そして一般社員は、ビジョンを実現するためのいくつかの要素のうち、それぞれが担当するタスクを見ています。
そしてマネージャー(中間管理職)の重要な役割は、この2層の橋渡しです。経営を正しく方向付けするための材料として、現場の情報を経営にフィードバックする。そしてその経営を実行できるよう、現場をマネジメントする。そのための仕組みをつくり、運用することが求められているのです。
まさに、今回例で挙がっているような人事領域の新システムや制度もそうです。現場の情報を経営にフィードバックして、経営を正しい方向に導くような仕組みとして機能すべきものです。
その実現のためには、マネージャーであるあなたが経営者と現場、両方を深く理解している必要があります。経営者のビジョンや悩み、真に求めていること。現場であればリアルタイムな数値進捗(しんちょく)や、今実際に起きている成功や失敗です。
これができて初めて、現場と経営を結び付けるシステムや制度の立ち位置が見え、今回のテーマである提案(プレゼン)をするための準備が整ったといえるわけです。
最も大切なのは「観察」すること
—
つまり、導入したいシステムありきで「どうプレゼンを通そうか」という考え方ではなく、経営と現場をより深く理解し、見えてきた課題を解決するために必要なシステムを提案することが必要なのですね。
現場に関しては数値進捗(しんちょく)のチェックや現場からのレポート、聞き取りなどである程度理解できそうですが、経営者の真のニーズを理解するためにはどうすれば良いのでしょうか?
澤さん: 経営者のニーズを理解するために必要なこと、それは「観察」です。
「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」という自動車王・ヘンリー・フォードの名言を聞いたことがあるでしょうか。人は自分が求めているものをうまく言葉にできるとは限りません。
そのため、例えば経営者に「あなたは何を欲していますか」と聞いたところで、的確な答えが返ってこないこともあるでしょう。「観察」が重要なのは、これが理由です。
— 「観察」といっても、どのように行えば良いのでしょうか?じっと対象者を見ていれば、その人が欲しいものがおのずと分かってくるわけではありませんよね。
澤さん: はい。この「観察」をする上で大切なマインドセットがあります。それが「デッサン思考」と私が呼んでいるものです。
例えば、ミロのヴィーナスの彫刻をデッサンしようとしたとき、多くの人は絵を描いている自分の手元に目が行きがちです。
デッサンにおいてはそうではなく、ミロのヴィーナスがいる空間全体を見ることが重要です。つまり事象だけを注視するのではなく、事態全体を俯瞰して見ることがポイントなのです。
先ほどの例でいえば、フォードが「もっと速い馬が欲しい」という顧客の声を真に受け、「馬をどう速くしようか」と考えていたとしたら、それは事象だけを注視していた、ということになります。実際は顧客の声を「早く移動したい」というニーズとして、俯瞰的に抽象度を上げて捉え直しました。それにより「自動車の大量生産」という発明を生み出すことができた、というわけです。
経営者の声も同様に、その言葉の意味するところを俯瞰的に観察しながら、自分なりに捉え直すことが必要なのです。
【前編まとめ】マネージャーの役割を押さえた上でプレゼンに臨もう
— ありがとうございます。改めて、新システムを導入したいと考えているマネージャー層の読者が行うべきことをまとめていただけますか?
澤さん: はい。マネージャーに求められている役割は、経営と現場の両方を理解した上で、それぞれをつなぐ仕組みをつくることです。「自分が提案するシステムではそれがうまくできますよ」ということを、意思決定者にエビデンスを示しながらプレゼンしましょう。ポイントとしてまとめるならば、以下の3つです。
① レポートや聞き取り、日々の数値進捗(しんちょく)のチェックなどを通して、現場を理解する
② ①と並行して意思決定者を観察し、その人が何を欲しているのかを自分自身で編み出す
③ 欲していることが分かったら、自分の提案がそれを満たすものであることが伝わるよう、現場の情報をエビデンスとして示した上でプレゼンする
特に経営層へのプレゼンは、小手先の技術だけで通すことは難しいでしょう。まずは自分に求められている役割に忠実に、プレゼンを組み立てていきましょう。
— 本質的なお話をありがとうございました!
導入したいシステムありきではなく、現場と経営を両方突き詰めて理解することでおのずと必要なシステムが見えてくる――という、真逆の考え方に目からうろこが落ちたという方も多いのではないでしょうか。
前半では、ビジネスの全体構造や意思決定層を動かす根本的な考え方についてご紹介しました。後編ではこうした本質を押さえた上で、プレゼンを成功させるためのメソッドについて、具体的にご紹介します。
- 人材採用・育成 更新日:2025/02/19
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