企業の魅力付けにつながるインターンシップ設計3ステップ
採用戦略におけるインターンシップの重要性は、年々高まり続けています。
特に最近は、2025年卒学生からインターンシップで取得した個人情報を条件付きで採用活動に利用しても良いという産学合意※も交わされたことから、ますます注目度は高まっていくでしょう。
では、学生のキャリア教育を支援するという目的のもとに行われるインターンシップにおいて、企業の魅力付けと学生の学びを同時にかなえるには、どのような設計が求められるのでしょうか。
多くの企業に採用コンサルティングを提供しているシーズアンドグロース株式会社の河本英之さんにお話を伺いました。
― 今日は企業の魅力付けにつながるインターンシップの設計について具体的な手法をお伺いできればと思いますが、まずはその基本となる考え方についてお聞かせください。
河本さん:はい。まず大前提として、「学生が主体的に動く」ということを基本に置くことが重要かと思います。
いま、一般的に企業や学生が「インターンシップ」と呼んでいるものの中には、「説明会の延長」のように、企業説明を一方的に行うものも多く、これらは学生の主体的な動きを喚起することが難しく、あまりお勧めできません。
― サポネットでも学生のインタビューや座談会を開くと、「インターンシップと聞いていたのに、ほぼ企業説明会でがっかりした」という話を聞くことがあります。
河本さん:そうですよね。今の学生は下調べが非常にしっかりしていて、企業側が通り一遍の説明をしただけでは決して満足しません。「インターンシップ」や「ワンデー仕事体験」とうたっているならなおさらです。
しかし、学生が主体的に動き、自分で考え、答えを出すという体験をすることができれば、それは価値のあるものになります。
― 主体的に動く、考える、答えを出すというのは具体的にどのような内容でしょうか。
河本さん:「インターンシップは企業が伝えたいことを学生に伝える場」という認識を持たれている企業が多くいらっしゃるように思います。これがまず、誤解です。
これでは企業が「主体」で、学生は受け手に徹することになってしまいます。この誤解を持ったままインターンシップを設計しまするので、「企業説明会と変わらないじゃないか」と学生をがっかりさせてしまうんです。
インターンシップはあくまでも「学生が主体で、企業が学生の学びをサポートする」という基本を忘れてはいけません。
このことを徹底することができれば、学生は企業に対して感謝の気持ちも抱きますし、学生の学びと企業イメージアップが同時にかなえられるはずです。
河本さん:まずは「態度変容の設計」です。多くの企業は「事業内容を理解してもらいたい」という程度の解像度でとどまっていますが、本当はより深く段階的な設計が求められます。
― つまり、学生が「事業内容を知らない」から「事業内容を理解した」へと変化するだけでは足りないということですね。
河本さん:そのとおりです。インターンシップの成功・失敗は、インターンシップ後の学生アンケートで判断できます。
たとえば先ほどの例にあったように「御社の仕事内容がよく分かりました」という程度の浅い回答ばかりだった場合、それは失敗です。
「御社が大切にしている顧客第一主義を徹底することで、きめ細かなサポートと社内の連携がかなって、結果的に業界シェアを独占していることが分かりました」
と、このくらいの感想が出てくることを目標にしてください。そして、それを階段のように重ねていき、「最終的に、どのような態度変容を起こしたいのか」と長期的なプランを立てることが重要ですね。
― なるほど。その1回ごとに、学生主体のプログラムで学生自身の言葉として紡ぎ出してもらうということですか?
河本さん:そうです。具体的なプログラム設計の話は後ほどお伝えしますが、ここまでの深い感想を出してもらうためには、テーマをぐっと絞る必要も出てくるでしょう。あれも、これもと企業の言いたいことばかりを伝えるインターンシップでは、決してかないません。
― インターンシップの内容を絞るというのは、なかなか勇気のいる決断で、実行できないという方も多そうですね。
河本さん:はい、そういったご相談もよく受けます。実際、企業の方は学生アンケートに「○○のことがよく分からなかった」と書かれると、翌年度のインターンシップにその内容を盛り込み、また翌年度にも……と繰り返して内容が盛りだくさんの単発インターンシップを作ってしまいますが、実はそれが最も成功から遠いやり方ですね。
河本さん:続いてが、魅力の整理とインターンシップ形式の選択です。魅力の整理については別の記事で解説していますので、ここでは割愛します。
― ここが具体的なプログラムを設計するキモになりそうですね。
河本さん:はい。先ほどお伝えした「学生を当事者にする」ということを基本方針として、企業の魅力を最も伝えられるインターンシップの形式を選びます。
まずは、学生に課題を解いてもらう「ワーク」か、それ以外(レクチャー、動画、座談会など)かを選択しましょう。
あくまでも手法の一つということにはなりますが、今回は比較的学生の「当事者性」を高めやすいワークに焦点を絞って解説します。
●競合の業界に対する優位性を理解する「業界比較ワーク」
河本さん:業界によっては、その枠を超えて採用上の競合がいる場合があります。
IT業界とコンサル業界、航空業界とホテル業界、インフラ業界と建設業界などです。学生は、そのどちらにも魅力を感じて悩んでいることが多いんですね。
そこで、「業界比較ワーク」を行うと、他業界と自業界を比較しつつ、自社独自の魅力にも気付いてもらえます。
2つの業界それぞれの特徴を並べ、どこが似ていて、どこが違うのか。お互いに対して、どこが強みで弱みか。そういったことを学生に分析してもらうものです。業界研究によって学生の学びが深まるのはもちろん、企業のイメージアップにもつながります。
●より深い企業理解を促す「価値観理解ワーク」
河本さん:そして最後が「価値観理解ワーク」です。事業上の優位性の理解にとどまらず、より深い企業研究の手法を学ぶ機会を学生に提供します。
全ての会社の根本にあるのは、企業理念やビジョンですが、これを理解するためのワークになります。
教材は、経営上のターニングポイントにおける意思決定プロセスや、プロジェクトストーリー、ハイパフォーマーの仕事の仕方などです。
意思決定の根底にある企業姿勢はどのようなものだったか、プロジェクトを進行する上で基礎となる考え方はどのようなものなのか、ハイパフォーマーの仕事上の哲学はどのようなものなのか、そういったことを理解する過程で、企業理念やビジョンが全ての仕事に通底していることを学生に学んでもらいます。
一般的な企業研究のさらに一歩先をいく内容を学生が学び、その教材として自社を取り上げることで企業イメージアップにつながります。
●INPUT
河本さん:そして最後に、もう一度企業側からインプットを行います。ここが重要です。
企業側も同じ課題に対してアウトプットを用意しておき、最後に学生にそれを発表するんです。しかも、学生のアウトプットを上回る、深さのあるものが求められます。
― 模範解答のようなものですか?
河本さん:模範解答というよりは、より深い自社理解からくるアウトプットの解説が重要です。なぜその意思決定があったのか、なぜその判断をしたのか、そして、なぜそれが自社らしいのか、そういったことを学生に説明します。
それがあって初めて、自社の考え方、魅力を学生に納得感を持って理解してもらえるんです。
― 考え方としては分かっても、実際に設計をするのは難しそうな印象もありますが、どうでしょうか。
河本さん:そうですね。学生の態度変容を線で設計した上で、自社の魅力を理解し、最適な方法で伝える。言葉にすればそれだけのことですが、実際にやるとなればトライ・アンド・エラーも必要になるでしょうし、マイナビのような専門家に設計を依頼した方がいいという判断もあるでしょう。
確かなのは、そういった努力が採用担当者自身の自社理解を深め、いずれは学生からも一定の評価を得られるようになるということです。
- 人材採用・育成 更新日:2023/02/16
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