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法定雇用率改定 当事者と考える「障がい者採用」の今と求められること

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いま、日本では政府の方針に従って障がい者の法定雇用率が段階的に引き上げられています。2024年4月に2.5%まで引き上げられ、さらに26年には2.7%へとさらに引き上げられることが決まっている状態です。

つまり、現時点では従業員数40名以上の企業で、26年からは37.5人以上の企業で、少なくとも1名の障がい者を雇用する必要があるということになります。
今は法定雇用率の適用外であっても、26年以降には対象となりそうな企業の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?

ではなぜ、企業は法定雇用率に従って障がい者を雇用する必要があるのでしょうか。厚生労働省によれば、その根底には「共生社会の実現」という理念があります。職業を持つことで障がい者が自立し、地域社会の一員として暮らしていくための下地づくりという側面があるということです。

このことについて、マイナビの特例子会社であるマイナビパートナーズでマネジメントを担当する守屋 優は「法定雇用率は大切だが、それにとらわれすぎると障がい者雇用の本質的な意義を見失う」と話します。

そこで今回は、障がい者雇用の現場を知る守屋に加え、障がい当事者でありマイナビパートナーズの社員でもある3名を招いた座談会の様子をお伝えします。

新卒障がい者雇用の現状は?

— 法定雇用率の引き上げもあり、これまで中途人材(経験者)を対象とすることが多かった障がい者採用でも、新卒人材に注目が集まっています。まずは市況感について教えてください。


守屋: はい。率直に言って、新卒の障がい者採用は非常に狭いマーケットです。大学を卒業していく障がい当事者は約7,000人程度で、うち4,000〜5,000人が就職活動をしていると言われています。
就活生全体の人数が約70万人程度なので、1%にも満たない小さな数字です。

— さらにその中で、企業が受け入れの側面から「採用しやすい」と考える障がいの類型、そうではない障がいの類型というのもあるのではないでしょうか。


守屋: そのとおりです。企業の方は身体障がい者を「採用しやすい」と考え、他の障がいについては「採用しにくい」と考える傾向が強いですね。

しかし、マイナビの障がい者向け就職支援サービス「マイナビパートナーズ紹介」に登録されている方のうち、6割から7割が精神障がい・発達障がいなので、実は求職者の中心はそちらにあります。
それでも身体障がい者が求められやすいのは、精神障がい・発達障がいについての理解が進んでいないからでしょう。

そういった誤解や偏見を解くための活動を含め、マイナビでは障がい者雇用を促進するためのお手伝いをさせていただいています。

障がい当事者が直面する誤解や偏見

— 具体的に、どのような誤解や偏見があるのでしょうか。


守屋: 精神障がいや発達障がいの人について、「安定して勤務することは難しいだろう」とか、「通常の業務を任せられるか不安」「人間関係がうまくいかないのではないか」といった内容が多いです。いわゆるアンコンシャスバイアス(無自覚な偏見)ですね。

しかし実際には、障がい当事者によって対応できること、できないことは異なりますし、「○○は苦手だが、こういう条件ならできる」のように具体的な解決策までセットで自分の障がいについて理解している方もいれば、そこまで具体的には理解し切れていない方もいます。

そのような多様性があるにもかかわらず、「障がい者」という大きなくくりで決めつけるのは適切ではありません。
他の就活生と同じように、一人ひとりと向き合って、きちんと選考をすれば、自社にとって戦力になる社員として雇用することができるのです。

R.F.: そういった誤解やアンコンシャスバイアスには、障がい当事者である私たちが直接、触れることもありますね。

例えば私はADHD当事者ですが、就職活動中には「精神障がい者は体力がない」と思い込まれている方とお会いしたことがありました。
精神障がいの中でも抑うつ症状が出やすい方だと「ベッドから起き上がれない」ということがありますが、そこから得た誤解だったのかもしれません。

しかしながら、私の場合はごく普通の体力を持っています。とはいえ、そのことをなかなか理解していただけず、苦労しましたね。

橋本: 身体障がい者である私にも似た経験があります。私が全盲であるということで、面接の場で「会社の行き帰りは親御さんに送り迎えしていただくことになりますか?」と聞かれました。

そのような誤解をしてしまうことも理解できますし、ある種の気遣いであることも分かるのですが、私は仕事も日常生活も基本的には自立して一人で行うことができます。

こうして聞いてくださった場合は訂正することができますので、むしろいい例で、実際には思い込みで最初から「普通の仕事は無理」と決め付けている方もいらっしゃると思いますね。

— 橋本さんのおっしゃるように、「聞いてくれただけ、むしろいい例」というのは納得できます。そうでない方もたくさんいらっしゃるということですよね。


守屋: そのとおりです。そして、いま二人が話してくれたのは「障がいがあるから○○はできないだろう」という思い込みの例でしたが、その逆もよくあります。

例えば「ASDの人は細かい作業が得意」とか、「目の見えない人は他の感覚が鋭敏」といった、特別な能力を期待するものです。

実際、中にはそういう方もいるでしょう。しかしそれは「脚が速い人」がいたり、「計算が得意な人」がいたりするのと同じく個性の一つであり、「障がい者だから、こうであるはずだ」というアンコンシャスバイアスであることには違いありません。採用側として意識して取り除いていくべき考え方ですね。

— 「特別な能力を期待する」ということは、確かにありそうだと感じましたし、それも偏見の一つであるという気付きもありました。そういったものを含めて、アンコンシャスバイアスは「無意識」であるがゆえに自分自身で気付き、取り除いていくのは簡単ではなさそうです。


守屋: そうですね。例えばいま、出身国や地域でその人の人柄や性格、能力を決め付けるという方は、もうほとんどいらっしゃらないと思います。それは偏見であり、そのような考え方を持つべきではないと分かっているからです。

しかし、相手が障がい者だと、まだまだ偏見を持ってしまう方がいらっしゃるのが現状ですね。

そういった方にぜひ見ていただきたいのが、マイナビが運営している障がい当事者学生のための就活サイト「マイナビチャレンジド」にアップしている動画です。

例えば、「発達障がいかも!?と思ったことがある方のための講座」という動画では、当事者であるマイナビパートナーズ社員が登壇して自身の就活体験を語っています。
学生向けのコンテンツですが、これから障がい者採用を始めようと考えている方々にとっても、障がいの理解に役立つ内容です。

障がい者を採用するための選考とは?

— いま例として出していただいた外国の方を採用する際には、選考で言語能力や必要なサポートを確認する必要があります。障がい当事者の方には、具体的にどのようなことを確認すべきでしょうか。


守屋: はい。「自社の事業にとって必要な能力」は障害のない方と同じようにしっかり見極めていくことを前提に、大切なポイントが3つあります。

まず1つ目が、「ご自身の障がいについて率直に教えてください」とストレートに尋ねることです。自身の障がいについてどれだけ理解できているのかを聞くことで、自己分析の度合いを測ることができます。

2つ目が、「普段、どういう困り事がありますか?」という質問です。先ほどもお話ししたように、障がいは人によってさまざまで、例えば診断名はASDで共通していても、聴覚過敏(大きな音が苦手)だったり、人混みが苦手だったりと困り事は異なるからです。
この質問にはっきり答えられない場合、入社後に「実は○○ができません」と後出しで困り事が出てきてしまうことがあり、会社にそのための受け入れ態勢が整っていないと生産性を確保することができなくなります。

そして3つ目が、「どこまで自己対処(セルフケア)ができますか?」です。困り事に対してどこまで自己対処可能で、どこから手伝いが必要か、きちんと聞き取ります。
例えば、「感覚過敏なのでイヤーマフかパーテーションを用意してほしいけれど、仕事内容に配慮はいらない」とか「通院日には休暇がほしいけれど、自分で調整するので仕事量に対する配慮はいらない」とか、はっきりと答えられる方は入社後にも活躍しやすいですね。

ちなみに、先ほど橋本が話していた「会社の行き帰りは親御さんに送り迎えしていただくことになりますか?」という質問は、セルフケアについて本人に聞かずに、アンコンシャスバイアスから先回りしてしまった例ですね。

障がいについて具体的に尋ねること自体に遠慮を感じる方も多いかもしれませんが、本人と会社のためにきちんと聞くことが大切です。

障がい者が職場で活躍するために必要な「定着」のサポートは?

— いま守屋さんから入社後の活躍についても言及がありましたが、やはり雇用する以上は「定着」とその後の活躍についての施策も重要です。当事者の皆さんが感じた、働きやすさのための配慮とはどのようなものでしたか?


S.O.: 私はASDの当事者で、今の会社(マイナビパートナーズ)に入社するまでの経験を踏まえて、「上司との面談」の時間を設けてほしいとお願いして時間を取っていただきました。

年齢に対して就労の経験が浅い私が入社したら人間関係に悩んだりするのではないか、自分が会社の役に立っているかが不安になるのではないかと考えたからです。

実際、定期的に1on1を行っていただいたことで、会社に合理的配慮としてお願いしたいことを伝えられたり、自分自身の現状を把握できたりと、いいことが多かったですね。

守屋: いまOから話のあった「合理的配慮」という考え方は非常に重要です。これは法律でも定められていて、障がい者が働く上で「合理的な」配慮を会社側が用意する義務があります。

本人が会社という営利組織の一員として生産性を発揮するために必要な、障がいの特性に合わせた配慮を提供することで、初めて本当の意味で一員として活躍することができるからです。

R.F.: 私の場合、それが「マニュアル作成」でした。どのような業務にもマニュアルがある、またはマニュアルを作る時間をいただけるということが安心して仕事ができる環境につながっています。

それでも「自分がちゃんと仕事ができているか」と不安になったときは、就労移行支援の第三者機関に相談をしてアドバイスをいただいたり、業務状況について話して業務遂行能力について意見をもらったりといった時間も励みになりました。

— 上司や会社以外に、第三者機関に相談するというのも、安心して働くための一つの方法なのですね。


守屋: これも重要な視点だと思います。「ナナメの関係」と呼ばれるもので、Fのように就労移行支援機関でもいいですし、人事などの相談窓口でもいいでしょう。
第三者から「ちゃんとやれていますね」とか、「こういう配慮を求めてもいいと思いますよ」という意見をもらえることが重要なのです。

特例子会社ではなく、障害者手帳を持っていない社員に混じって働く環境に障がい者を迎えるという場合は、積極的に検討してください。

特に新卒で就業経験がないと、「こんなことを相談したら恥ずかしいのではないか」「こんなことをお願いするのはワガママなのではないか」と尻込みしてしまう人が多く、結果的に必要以上に我慢したり、がんばりすぎたりしてしまい、組織への定着が難しくなることもあります。

— なるほど。上司には聞きにくいことを確認できたり、我慢せずに配慮をお願いしていいのかを判断してもらったりできる第三者は、確かに支えになりそうです。


守屋: もちろん、相談の結果として厳しいことを言われることもあります。「もっと結果を出さないとだめだよ」とか、「それはワガママだと思いますよ」とかですね。

しかし、そういった意見は上司の側も言いにくいと感じることが多いですから、会社にとっても「合理的配慮」の見解を第三者に一部委ねるというのはメリットが大きいのです。

法定雇用率はインクルーシブな組織を作るためのステップ

— 最後に、これから障がい者雇用をしようという企業の方に向けて、経験豊富な守屋さんからアドバイスをお願いします。


守屋: 法定雇用率が引き上げられ続ける中で、それを守るために障がい者を雇用するという企業もあると思います。
確かに法定雇用率を守ることは大切ですが、それが目的ではありません。あくまでもインクルーシブな組織をつくるための手段であるということを忘れないでいただきたいと思います。

インクルーシブと言葉にすれば簡単ですが、実際に実現するのは難しいことです。障がい者を雇用して合理的配慮を提供することで不公平感を抱く人も出てくるでしょう。完全な「平等」を実現することはできません。

それでもチャレンジしていくと、組織に「帰属性」が宿ると私は考えています。
人材流動性が高まり、採用コストが膨らむ一方の世の中で、「ここが私の居場所だ」と多くの人が考えることのできる組織をつくるには、多様な個性を持つ人たちが一緒に働いて、それぞれが活躍できる環境をつくっていくしかないからです。

それが「インクルージョン」ということであり、そこにはLGBTQや外国人採用、女性活躍といったイシュー解決の糸口もあります。

そのための第一歩として、障がい者との関係、働き方を考えることは、会社にとって長期的に大きな利益をもたらすはずです。

自社だけでは難しいと感じる場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

— 今日は皆さん、ありがとうございました!


インクルーシブな組織のための法定雇用率

インタビューの最後に守屋が言っていたように、法定雇用率を「目的」ではなく「手段」と捉えると、障がい者雇用に対する意識は自然と変わっていくのかもしれません。

難しい課題だと感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、その実現を阻んでいるのは私たちの「障がい者だから○○だろう」という無意識の思い込み、アンコンシャスバイアスではないでしょうか。

例えば大卒の新卒人材を採用するときに、応募者を「大学生」という大きな枠に入れて理解や見極めをすることはありません。だからこそ、一人ひとりの経験や能力を見極めるための面接が大切であることは皆さんも実感されていると思います。

障がい者も同じです。インタビューの中で何度も語られているように、障がいは人によって千差万別で、ひとくくりにして理解できるものではありません。
一人ひとりと向き合って、「個人」を理解することから始めましょう。

マイナビパートナーズが手掛けるマイナビパートナーズ紹介では、障がい者雇用のサポートだけでなく、その後の定着まで含めて幅広くご支援しておりますので、ぜひご相談ください。


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  • 人材採用・育成 更新日:2025/01/08
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