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【専門家インタビュー】 障がい者雇用で必要な業務の切り出しや注意点とは?

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2023年1月、厚生労働省が障がい者の法定雇用率を引き上げる方針を発表したことにより、ますます注目が高まっている障がい者雇用。

近年、民間企業に義務付けられている雇用率は数年ごとに上がっており、現状の2.3%から、2024年度は2.5%、2026年度には2.7%と大幅に引き上げられることになりました。これによって、対応を急ぐ企業も一段と増えています。

こういった背景の中、本サイトでも前回、専門家インタビュー記事として「新卒で障がい者雇用を行う企業側のメリットと、その導入方法」を取り上げたところ、多くの反響がありました。そこで今回は第二弾として、企業向けに障がい者雇用を実践するためのコンサルティングやサポートを行う「障害者雇用ドットコム」代表の松井優子さんに、障がい者雇用で必要な業務の切り出しとその際の注意点についてお話を伺いました。
障がい者を雇用するにあたり、多くの企業で悩まれているのが“業務の切り出し”です。
厚生労働省による平成30年の調査では、民間事業所の7割以上が障がい者を雇用するにあたっての課題として「会社内に適当な仕事があるか」を挙げています。
担当してもらえそうな業務が見当たらない、切り出し方がわからないということが雇用へのハードルになっている状況です。

障害者雇用ドットコムに寄せられるご相談でも、業務の切り出しに関するお悩みが最も多くなっています。初めて障がい者雇用に取り組む企業だけでなく、既に雇用されている企業でも同じように苦戦されている場合が多いです。業務の切り出しは、人事担当者の“終わらない悩み”になっていると言えるでしょう。

そもそも、業務の切り出しはなぜ重要?


適切に業務を切り出すことは、障がい者雇用をスムーズに行うために大変重要です。
業務に合わない人材を採用してしまうと、現場ではその後の育成が難航し、多くの時間がかかってしまいます。
また、十分な業務を切り出せずに採用した場合には、担当者が業務を作ることに手一杯になり、自身の仕事を滞らせてしまうこともあります。

そのため、採用活動を始める前に業務を整理し、どの部分を担当してもらうのかを明確にしておくことが大切です。その上で職場実習を行い、当該業務への適性を見極めてから採用すると、ミスマッチによる失敗を少なくすることができます。

多くの企業が悩んでいる業務の切り出しですが、必要なステップを順に踏んでいけば、難しいことではありません。ここからは、円滑に業務を切り出すための手順をご紹介します。

配属部署が決まっている場合


  • メンバーに方針を説明する
  • まずは社内のメンバーに向けて、障がい者雇用を進める上での方針を説明します。これをせずに後のステップを進めてしまうと、メンバーは「自分の仕事がなくなってしまうのではないか」と不安になったり、「ないがしろにされている」と感じてモチベーションが低下したりする場合があります。現状のメンバーが障がい者雇用を前向きに捉えられるよう、初めに方針を理解してもらいましょう。

    具体的には、「障がい者雇用を進めるにあたり、人によっては業務をステップアップしてもらう場合があること」「そのために定型的な業務を整理する必要があること」などを伝えると、好意的に捉えられやすくなります。


  • 担当してもらえそうな業務を挙げる
  • 次に、担当してもらえそうな業務をリストアップします。方法は組織にもよりますが、メンバーにアンケート調査を実施することが多いです。質問内容としては、「現在の業務内容」「1日(1週間)の流れ」「その中で、他の人に任せたい業務」などの項目があると整理しやすいでしょう。


  • 実際の担当業務とクリアしたい基準を決める
  • (2)で挙げた内容を再度吟味して、担当してもらう業務を決めます。
    一見切り出せそうな業務でも、部分的に難しい内容を含んでいる場合があるため、1つ1つのフローを確認し、任せられそうな業務を切り分けていきます。
    その際、スピードやクオリティなど、求める基準も決めておきましょう。こうすることにより、採用したい人材のイメージが明確になり、採用活動がしやすくなります。


  • マニュアルを作成する
  • 業務手順やルールなどをまとめたマニュアルを作成します。箇条書きにしたり、図や動画を用いたりするなど、視覚的にわかりやすく作ることを心がけましょう。


  • 1日、1週間の大まかなスケジュールを組む
  • 業務内容に合わせて、1日や1週間単位でのスケジュールを組みます。
    本人はもちろん、一緒に働くメンバーに負荷がかからない流れを考えることが大切です。
    また障がい者雇用は、厚生労働省の規定(障害者雇用率制度※)で基本的には「30時間/週」で1カウントと決まっているため、企業で必要なカウント数をクリアできるかどうかも確認しておきましょう。

    ※障害者雇用率制度:障害者について、一般労働者と同じ水準において常用労働者となり得る機会を確保することとし、常用労働者の数に対する割合(障害者雇用率)を設定し、事業主に障害者雇用率達成義務等を課すことにより、それを保障するもの(障害者雇用制度の概要


  • 職場実習をする
  • 決定した内容を踏まえて求人を出し、本採用前に職場実習を行います。
    ここでは(5)のスケジュールに沿って実際の業務を行ってもらい、求める基準をクリアできるか確認します。クリアできた人材だけを採用するようにすれば、ミスマッチが起こりにくく、採用後の業務もスムーズに進みやすくなります。


配属部署が決まっていない場合


切り出せそうな業務の見込みがなく、配属部署が決められない場合には、以下のような視点で考えると良いでしょう。

  • 社員がより活躍できる体制作りにできないか
  • 社員食堂の運営など、社員の福利厚生に繋がる業務はないか
  • 社員が、就業時間以外で行っている雑務はないか
  • 人手が欲しい業務はないか
  • 外注している業務や派遣社員を雇っている業務はないか
  • 社内で残業の多い部署や部門の業務はないか
  • やらなければならないけれど手がつけられていない業務はないか
  • 今できていない業務でも本当は取り組んだほうが良いものはないか

よくある事例としては、給湯室の片付け等の雑務、ホームページの更新やSNSの運用などが挙げられます。ごく小さな業務でも、各部署から吸い上げたものをまとめると十分な仕事量になることも多いため、「切り出せる業務がない」と決めつけずに、まずは考えてみましょう。

業務を切り出すステップがわかったところで、切り出し時に特に気をつけたい点を抑えておきましょう。

障がいへの勝手な思い込みで判断しない


障がいへの思い込みが邪魔をして、切り出しや採用がうまくいかないケースがよくあります。

同じ障がい名や等級でも、個人によってできることは異なります。そのため、イメージで決めつけずに、実際に職場実習で業務をしてもらってから判断するようにしましょう。

今後の変化を見通して業務を組み立てる


業務を切り出す際には、現在だけでなく、何年か先まで問題なく働き続けられる仕組みになっているかどうか考えましょう。

この見通しができていないと、組織変更や支社の増減などによって、業務を変更したりシステムを組み立て直したりしなければならなくなることがあります。

そのため、人事担当者だけで業務を切り出すのではなく、組織全体における今後の方針を把握している人に確認を取りながら組み立てていくことが大切です。

担当者に負荷のかからない業務設計・仕組み作りをする


採用後、現場で一緒に働く担当者の負担も考慮することが大切です。

例えば、チェックが必要な業務がある場合、その対応に追われて担当者の仕事を圧迫しないかを考える必要があります。そのような業務の場合は、チェックや質問に対応する時間を決めておくなどして、担当者への負荷が大きくなりすぎない仕組み作りをしておきましょう。

中途採用・新卒採用のそれぞれの留意点


就労経験のある中途採用なのか、初めて業務を行う新卒採用なのかによって、担当者が気を配るべきポイントも変わってきます。以下の点を意識すると、採用やその後の業務を進めやすくなるでしょう。

<中途採用>

職務経歴がある分、過去の実績を見て判断しがちですが、「現在どのような状態なのか」を把握することが大切です。特に、体調管理能力や集中力、適切な勤務時間を知っておくと、採用後のマネジメントでも役立ちます。

また、後天的な精神障がいの場合には、発症したときにどのような状況だったのか、どれくらいの負荷がかったときに体調が悪くなったのかを聞いておくと、当該の業務を担当して問題がないか判断しやすくなります。

ただ、デリケートな内容であるため、面接などで質問する際には注意が必要です。合理的配慮を示す上で必要な事柄であることを伝え、可能な範囲で話してもらうようにしましょう。

<新卒採用>

新卒の場合は、現在のスキルだけで判断するのではなく、将来発揮するであろう能力に期待して採用することも可能です。ただこの場合は、育成に時間がかかる場合も多いため、受け入れ側に長い目で人材を育てていく意思が求められます。

採用後も長く働き続けてもらうためには、継続的にサポートを行うことが必要です。ここでは、担当者が行いたいサポートの具体的な内容や方法をご紹介します。

継続的にコミュニケーションの機会を設ける


<上司との面談>

マネジメントの一環として、定期的に1対1の面談を行いましょう。もし、本人の自己評価と実情に差があるのであれば、それを伝えて解消していくことが必要です。求めているレベルに達していない場合は、数字や時間で具体的に示しましょう。

また、フィードバック時には、業務の意義を伝えることをおすすめしています。障がい者雇用の場合、定型的な業務内容であることも多いため、評価されにくい側面があります。そのため、例えば「この業務によってどれくらい時間が節約できた」「○○さんがとても助かっていると言っていた」などのフィードバックを行うと、モチベーションの向上にも繋がります。

適切な面談の頻度は、状況にもよりますが、入社3か月頃までは2週間に1回程度、その後は1〜2か月に1回程度が目安です。本人の希望や業務が順調かどうかによって、頻度を調整していくと良いでしょう。

<関係機関との協力>

通常のマネジメント以外のサポートが必要な場合には、産業医やカウンセラーなどに相談することも検討しましょう。また、職場以外での問題については、就労支援機関のサポートも活用することができます。

<チームメンバーとのコミュニケーション>

本人の了承を取った上で、配慮が必要な点などの状況を共有しておくと、チーム内での理解が進み、フォローがしやすくなります。

また、上司や人事担当者の見えないところで、一緒に働いているメンバーがストレスを抱えていることもあります。そのため、定期的な面談やアンケートなどで現場の状況をヒアリングし、課題を把握できる仕組みを作っておくと問題が起こりにくくなります。

職場環境や働き方を整える


障がいの特性や業務内容にもよりますが、合理的配慮として、本人が集中して働きやすい環境や働き方を整えることも大切です。

<合理的配慮の例>

  • 周囲の音や反応が気になって集中しづらい
  • →デスクの周りにパーテーションを立てる、人の出入りが少ない席に配置する

  • 疲れやすい
  • →休憩時間を昼にまとめるのではなく、複数回に分けて取れるようにする

  • 1人になる時間が必要
  • →昼休みの会議室の利用を許可する

など

業務を切り出す際には、雇用率達成のために「業務をつくり出す」のではなく、組織に必要とされる・貢献できる業務は何かという視点で考えることが大切です。

適切な業務の切り出しを考えたり、その後のサポートをしたりすることは、本人たちが快適に働けるだけでなく、業務の効率化や社員のマネジメント能力の育成など、組織としてのメリットにも繋がります。このことを理解して前向きに取り組んでいけば、企業としての成長にも結びついていくでしょう。

  • Organization HUMAN CAPITALサポネット編集部

    HUMAN CAPITALサポネット編集部

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  • 人材採用・育成 更新日:2023/12/20
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