【専門家インタビュー】 障がい者雇用で必要な業務の切り出しや注意点とは?
近年、民間企業に義務付けられている雇用率は数年ごとに上がっており、現状の2.3%から、2024年度は2.5%、2026年度には2.7%と大幅に引き上げられることになりました。これによって、対応を急ぐ企業も一段と増えています。
こういった背景の中、本サイトでも前回、専門家インタビュー記事として「新卒で障がい者雇用を行う企業側のメリットと、その導入方法」を取り上げたところ、多くの反響がありました。そこで今回は第二弾として、企業向けに障がい者雇用を実践するためのコンサルティングやサポートを行う「障害者雇用ドットコム」代表の松井優子さんに、障がい者雇用で必要な業務の切り出しとその際の注意点についてお話を伺いました。
※厚生労働省職業安定局 障害者雇用対策課 地域就労支援室
「平成30年度障害者雇用実態調査結果」をもとに加工して作成
配属部署が決まっている場合
- メンバーに方針を説明する
- 担当してもらえそうな業務を挙げる
- 実際の担当業務とクリアしたい基準を決める
- マニュアルを作成する
- 1日、1週間の大まかなスケジュールを組む
- 職場実習をする
まずは社内のメンバーに向けて、障がい者雇用を進める上での方針を説明します。これをせずに後のステップを進めてしまうと、メンバーは「自分の仕事がなくなってしまうのではないか」と不安になったり、「ないがしろにされている」と感じてモチベーションが低下したりする場合があります。現状のメンバーが障がい者雇用を前向きに捉えられるよう、初めに方針を理解してもらいましょう。
具体的には、「障がい者雇用を進めるにあたり、人によっては業務をステップアップしてもらう場合があること」「そのために定型的な業務を整理する必要があること」などを伝えると、好意的に捉えられやすくなります。
次に、担当してもらえそうな業務をリストアップします。方法は組織にもよりますが、メンバーにアンケート調査を実施することが多いです。質問内容としては、「現在の業務内容」「1日(1週間)の流れ」「その中で、他の人に任せたい業務」などの項目があると整理しやすいでしょう。
(2)で挙げた内容を再度吟味して、担当してもらう業務を決めます。
一見切り出せそうな業務でも、部分的に難しい内容を含んでいる場合があるため、1つ1つのフローを確認し、任せられそうな業務を切り分けていきます。
その際、スピードやクオリティなど、求める基準も決めておきましょう。こうすることにより、採用したい人材のイメージが明確になり、採用活動がしやすくなります。
業務手順やルールなどをまとめたマニュアルを作成します。箇条書きにしたり、図や動画を用いたりするなど、視覚的にわかりやすく作ることを心がけましょう。
業務内容に合わせて、1日や1週間単位でのスケジュールを組みます。
本人はもちろん、一緒に働くメンバーに負荷がかからない流れを考えることが大切です。
また障がい者雇用は、厚生労働省の規定(障害者雇用率制度※)で基本的には「30時間/週」で1カウントと決まっているため、企業で必要なカウント数をクリアできるかどうかも確認しておきましょう。
※障害者雇用率制度:障害者について、一般労働者と同じ水準において常用労働者となり得る機会を確保することとし、常用労働者の数に対する割合(障害者雇用率)を設定し、事業主に障害者雇用率達成義務等を課すことにより、それを保障するもの(障害者雇用制度の概要)
決定した内容を踏まえて求人を出し、本採用前に職場実習を行います。
ここでは(5)のスケジュールに沿って実際の業務を行ってもらい、求める基準をクリアできるか確認します。クリアできた人材だけを採用するようにすれば、ミスマッチが起こりにくく、採用後の業務もスムーズに進みやすくなります。
配属部署が決まっていない場合
切り出せそうな業務の見込みがなく、配属部署が決められない場合には、以下のような視点で考えると良いでしょう。
- 社員がより活躍できる体制作りにできないか
- 社員食堂の運営など、社員の福利厚生に繋がる業務はないか
- 社員が、就業時間以外で行っている雑務はないか
- 人手が欲しい業務はないか
- 外注している業務や派遣社員を雇っている業務はないか
- 社内で残業の多い部署や部門の業務はないか
- やらなければならないけれど手がつけられていない業務はないか
- 今できていない業務でも本当は取り組んだほうが良いものはないか
よくある事例としては、給湯室の片付け等の雑務、ホームページの更新やSNSの運用などが挙げられます。ごく小さな業務でも、各部署から吸い上げたものをまとめると十分な仕事量になることも多いため、「切り出せる業務がない」と決めつけずに、まずは考えてみましょう。
中途採用・新卒採用のそれぞれの留意点
就労経験のある中途採用なのか、初めて業務を行う新卒採用なのかによって、担当者が気を配るべきポイントも変わってきます。以下の点を意識すると、採用やその後の業務を進めやすくなるでしょう。
<中途採用>
職務経歴がある分、過去の実績を見て判断しがちですが、「現在どのような状態なのか」を把握することが大切です。特に、体調管理能力や集中力、適切な勤務時間を知っておくと、採用後のマネジメントでも役立ちます。また、後天的な精神障がいの場合には、発症したときにどのような状況だったのか、どれくらいの負荷がかったときに体調が悪くなったのかを聞いておくと、当該の業務を担当して問題がないか判断しやすくなります。
ただ、デリケートな内容であるため、面接などで質問する際には注意が必要です。合理的配慮を示す上で必要な事柄であることを伝え、可能な範囲で話してもらうようにしましょう。
<新卒採用>
新卒の場合は、現在のスキルだけで判断するのではなく、将来発揮するであろう能力に期待して採用することも可能です。ただこの場合は、育成に時間がかかる場合も多いため、受け入れ側に長い目で人材を育てていく意思が求められます。
継続的にコミュニケーションの機会を設ける
<上司との面談>
マネジメントの一環として、定期的に1対1の面談を行いましょう。もし、本人の自己評価と実情に差があるのであれば、それを伝えて解消していくことが必要です。求めているレベルに達していない場合は、数字や時間で具体的に示しましょう。また、フィードバック時には、業務の意義を伝えることをおすすめしています。障がい者雇用の場合、定型的な業務内容であることも多いため、評価されにくい側面があります。そのため、例えば「この業務によってどれくらい時間が節約できた」「○○さんがとても助かっていると言っていた」などのフィードバックを行うと、モチベーションの向上にも繋がります。
適切な面談の頻度は、状況にもよりますが、入社3か月頃までは2週間に1回程度、その後は1〜2か月に1回程度が目安です。本人の希望や業務が順調かどうかによって、頻度を調整していくと良いでしょう。
<関係機関との協力>
通常のマネジメント以外のサポートが必要な場合には、産業医やカウンセラーなどに相談することも検討しましょう。また、職場以外での問題については、就労支援機関のサポートも活用することができます。<チームメンバーとのコミュニケーション>
本人の了承を取った上で、配慮が必要な点などの状況を共有しておくと、チーム内での理解が進み、フォローがしやすくなります。また、上司や人事担当者の見えないところで、一緒に働いているメンバーがストレスを抱えていることもあります。そのため、定期的な面談やアンケートなどで現場の状況をヒアリングし、課題を把握できる仕組みを作っておくと問題が起こりにくくなります。
- 人材採用・育成 更新日:2023/12/20
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