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新卒採用トレンドワード「ジョブ型採用」 ~ジョブ型導入でどう変わった?企業の声を集めました~

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(前編)新卒採用トレンドワード ~最近よく聞く「ジョブ型採用」とは?~


今回、サポネット編集部では「ジョブ型採用」についてサポネット会員の皆さまにアンケート調査を行いました。また調査結果については、本記事で紹介し切れなかった内容も含めた資料もダウンロードいただけますので、ぜひご覧ください。
●調査概要
期間:2021年12月21日~24日
調査対象  HUMAN CAPITALサポネット会員(新卒採用担当)
調査方法  HUMAN CAPITALサポネット会員にメール告知・WEBフォームにて回答

●回答者の属性
<業種>
メーカー (39名) /サービス・インフラ (36名) / ソフトウエア・通信 (19名) / 流通・小売 (15名)/商社 (13名) /官公庁・公社・団体 (6名) / 金融 (5名) / 広告・出版・マスコミ (5名)
<従業員規模>
~50人未満 (27名) / 50~100人未満 (20名) / 100~300人未満 (44名) / 300~500人未満 (20名) / 500~1,000人未満 (18名) / 1,000~3,000人未満 (5名) / 3000~5000人未満(1名) / 5,000人以上 (3名)

※本アンケートや記事内で指す「ジョブ型採用」とは、職種別採用などの初期配属を限定した採用も含みます。
※ 従業員規模・業種ともに属性ごとの回答数に大きなばらつきがあるため、本調査に統計的な価値はないことにご注意ください。
まずはジョブ型採用を導入済みの企業に、そのメリットを聞いてみました。

1: 入社後のミスマッチが少ない

  • やりたいことが明確な意識の高い学生を確保できていると感じている。また、職種内容を理解して入社してもらうのが前提のため、入社後のギャップによる離職は低く抑えられているのでは。(メーカー)
  • 入社後に従事する業務が決まっているため、採用時の説明なども明確に伝えることができる。応募者もそれを理解した上で選考を受けられるし、入社後のミスマッチも少ないと思われる。(サービス・インフラ)

2: 採用広報しやすい

  • 母集団形成時のターゲットが絞りやすく、学生も自分が入社後何をするのかが明確であるため入社後の業務の不安が少ない。(ソフトウエア・通信)
  • 採用の際、業務内容を限定・特化して説明・プレゼンができる。(広告・出版・マスコミ)
  • 採用基準が明確になっている。(ソフトウエア・通信)

3: 育成のスピードが速い

  • 入社時から、仕事内容がある程度限定されるため、業務の習熟度をより早く上げることができる。また、キャリアプランを描きやすいため、資格取得など自己啓発も行いやすい。(サービス・インフラ)
  • 研修に時間がかからず、ある程度早く即戦力になる。本人もその職種に対してモチベーションが高い。(広告・出版・マスコミ)

「入社後のミスマッチが少ない」というメリットは、実際に多くの企業から聞かれた声でした。また、そのマッチングのしやすさに関連して採用広報がしやすいという側面もあります。
職種やポジションを限定することでターゲット学生が明確になるだけでなく、説明会やパンフレットなど限られた時間とスペースでより深く具体的な情報を伝えられるようになったことも関係しているでしょう。

また、注目すべきは採用基準の明確化。服部先生も、「採用基準の明確化は、ジョブ型採用において最も重要と言ってもよく、ジョブ型採用への切り替えを契機に採用する基準が明確になっていった企業は多いように感じます」と答えています。
自社にとって必要な能力を、職種・ポジションのレベルまで細分化・具体化していかないと、ジョブ型採用において求職者を評価していくことが難しいと言えるでしょう。

入社後の育成のスピード感についてもメリットを感じている企業が多い中、服部先生も「育成においては集中的に、無駄のない投資が可能」と見ています。

「この部門で活躍してもらうに当たってどんな経験をさせなければいけないか、研修やOJTでどんな能力、知識を付けてもらわなければいけないかが明確になるのがジョブ型採用です。一方で、米国などで一般化しているジョブ型採用が持つ本来の考え方においては、社員が一人前になるまでの責任を全て会社が持つものではありません。基本的な研修や成長の機会は与えるけれども、個人の側にも一人前になるための努力を求めていくものです。その意味で、自分で考えて学ぶことの必要性も、社員側がしっかり理解しておく必要があるでしょう」(服部先生)
次に、ジョブ型採用を導入した企業が行っている工夫について見ていきましょう。

1: 職種ごとの仕事内容を深く伝える

  • 職種それぞれを深く理解して選考に臨んでもらうため、プレ期の1~2月ごろに2~3職種ごとに職種紹介のパネルトークを交えたイベントや、3月の会社説明会にも各職種ごとの説明を実施。また、それぞれのイベントの様子を録画・編集、マイページ上にアーカイブ公開し、繰り返し視聴や不参加学生向けに提供した。(メーカー)
  • 人事がまず各職種について知識を付け、魅力を話せるようにする。(メーカー)

2: ターゲット学生がいそうなところにアプローチ

  • 理系学生のイベントに参加。ターゲットの学部があるキャリアセンターに会社案内を送付。自社のホームページで行っている社内イベントや取り組みを逐一発信。(サービス・インフラ)

3: 選考における見極めの強化

  • 募集から選考、採用判断まで部門担当者に携わってもらう。人事は進行、サポート、手続きを担う。(ソフトウエア・通信)
  • 採用部署の人が面接官をする。(メーカー)


ジョブ型採用が「RJP(※ Realistic Job Preview:現実的な仕事の情報開示)」のひとつの手法であるということを踏まえると、回答企業の工夫はとても理にかなったものが多いことに気付きます。
ターゲットとなる学生がいるところに積極的に広報をしていくことのみならず、職種ごとの説明を具体的に行うことや、見極めにおいて採用部署の協力を仰ぐことで、学生側から見ると具体的に入社後の仕事をイメージすることが可能になるだけでなく、選考結果の納得感も増していくはずです。

こうした工夫を実現していくために最も重要なのが「現場(=配属先)との関係構築」です。
これはジョブ型採用が採用担当だけで完結しないという難しさにもつながっていきますが、そこには大きなメリットも隠れているようです。
服部先生にこの現場との関係構築についてのポイントを聞いたところ、次のようなアドバイスをいただきました。

「ジョブ型採用の成功のためには、現場との協力体制が必須です。採用基準を明確化するためには、現場が求める人材を採用担当者が深く理解し、その見極め方法を一緒に考えていく必要があるでしょう。つまり、採用広報や選考を具体的に進める前の準備段階から現場の協力が必要になります。
職種別採用などの初期配属を限定した採用ではなく、純粋なジョブ型採用は現場に完全に権限を委譲しますが、そこまでいかなくとも採用の見極めは現場の意思を尊重してフローを構築する必要があります。面接においても、1次・2次などの初期段階では現場と人事の面接に大きなウエートが置かれ、最終面接では役員クラスによるビジョンへの共感など最終確認に近いものになっていくはずです」(服部先生)

とはいえ、それだけの協力を引き出すことが可能なのか?と不安な採用担当の方もいらっしゃると思います。服部先生は、こうした協力体制の構築において次のようなアドバイスを続けます。

「現場として、採用活動までも業務に入ってくるのは大変だと思われるでしょう。それは、メンバーシップ型(※)の採用活動においては現場の関わり方が受動的であることにも起因しています。急に面接官をアサインされて、自分の部署に来るのか分からない学生を会社の基準で採用するとなると、どうしても受け身になってしまいます。
まずは経営層から、現場が採用に関わっていくことの重要性をメッセージとして発信してもらうことが大切です。その上で、『どんな人を採りたいか』という具体的なイメージを現場と一緒につくっていくことができると、現場としてもコミットの必要性を感じられるのではないでしょうか。自分たちの部下や後輩は自分たちで選んでいくというマインドをつくっていけると良いと思います。
一見すると工数が多く感じられますが、実は評価項目が洗練されていくと、ジョブ型の方が面接の回数や確認項目は少ないことが一般的です。適性検査で見るべき項目もはっきりしますので、より重視していくと良いでしょう。どの段階で、何によってどう評価するのかを仕組みとして持つと良いと思います」(服部先生)

※ メンバーシップ型:ここでは、ジョブ型に対して総合職採用やジョブローテーションに代表される旧来の日本型採用・雇用体制を指す。人材のポテンシャルを重視し、メンバーシップ(仲間意識・帰属意識)を前提に教育、育成、キャリアパスの構築を会社が先導する雇用・採用手法のこと。

1: 入社後の柔軟性が心配……

  • 多様な職種を体験できることをポイントにできず、もし、入社後、不向きである場合、人事異動が難しいこと。(広告・出版・マスコミ)
  • 他の職種について考えたことや仕事をしたことがないため、部署間の連携や全社的・部署横断的なプロジェクトや取り組みが起こりにくい。(サービス・インフラ)

2: メンバーシップ型採用のメリットが使えない……

  • 現時点ではターゲット層に合致しないが、入社後の素養があるかもしれない学生がもっといるのではということを見極めるのが難しい。(ソフトウエア・通信)
  • 当社に入りたいが何をやりたいかを絞れない学生や、職種間の異動がある総合職的なキャリアステップを志向する学生を囲い込み切れないこと。(メーカー)

3: ジョブ型採用で採用し切れるか?

  • 職種ごとに細かい説明が必要。今後人気のない職種が発生しそう。(メーカー)
  • 各企業のSEが比較しやすいことにより、当社の待遇面での弱さが出てしまう点。(商社・社内SE募集)


ここまで、職種やポジションを明確にするジョブ型採用のメリットや工夫をお伝えしてきましたが、ジョブ型ならではの難しさもあることも事実です。
特に社会人経験がない分、スキルではなくポテンシャルを評価せざるを得ない新卒採用においては「ジョブ型採用との相性をきちんと考える必要がある」と服部先生も語っています。

「ジョブ型採用は、学生側も企業側も『自分(自社)が何をしていきたいのか』が明確に分かっているということが前提となっている採用手法です。ただ、学生側がそれを早い段階で分かっているとは限りませんし、分かっていないから優秀ではないということでもありません。その中でジョブ型採用によってキャリアが固定されてしまうことの難しさは念頭においておくべきでしょう。

まず、キャリアプランの提示や不向きであったときの対応についてですが、本来のジョブ型採用ではキャリアプランは学生本人がつくっていくもので、会社がつくるものではありません。したがって海外では“合わなければ退職”ということになりますが、ほとんどの日本企業ではそのような割り切った考え方をするのは難しいと思います。
一方で、キャリアをつくる本人の要望を聞き、対応策を準備しておくことは有効です。重要なのは一方的に会社が行うのではなく、本人と対話し、希望を聞きながら行っていくこと。満足度や希望をこまめにすり合わせていくことで、結果として長期雇用につながっていくと思います。

また、総合職的な志向や優秀さを持った学生の受け入れについては、こうした学生を受け入れ可能な職種やポジションを探してみると良いでしょう。例えば、経営企画や人事など、会社全体を見渡すゼネラルな仕事で、いろいろなタイプの人が活躍できる職種を自社内から探し出し、そこにアサインして適性を見ていくことは可能だと思いますし、メンバーシップ型からジョブ型への移行期には有効な施策だと思います」

3つ目のジョブ型で採用し切れるか?というお悩みについては、現実的なお悩みも多く寄せられました。条件や業務内容が明確になるからこそ、採用の難易度が上がってしまう職種もあります。

「ジョブ型採用は明確な採用基準を持つという性質から、給与などの基準で比較検討されやすくなることは確かです。待遇や条件だけで戦えないと思うのであれば、そのジョブの魅力をより意識して言語化していくべきだと思います。例えば仕事の進め方や、人間関係など実際の現場を学生に深く理解してもらい、魅力を感じてもらう必要があると思います。
そのためには、自社が持つ魅力の棚卸しを行い、今まで気付かなかった魅力に採用担当者自身が気付くことも重要です。例えば、『転職者が多い』ということは一見ネガティブにも見えますが、裏を返せば『しっかりと業界で通用するスキルが身に付く』という魅力にもなり得ますよね。こうして、自社の魅力をまずはゼロベースで言語化してみると良いと思います」(服部先生)

本記事では、特に多かった回答を中心にご紹介しましたが、このほかにも導入企業・導入検討企業それぞれからたくさんの回答をいただきました。
本記事で紹介し切れなかった各社の声と、それに対する服部先生のアドバイスについては、こちらのダウンロード資料(会員限定・無料)からご覧いただけます。ジョブ型採用が気になる方は、ぜひご覧ください。
各社の声と、それに対する服部先生のアドバイスを聞いていく中で、本来「ジョブ型採用」と「メンバーシップ型採用」は、その思想は大きく異なるものであることだと改めて感じました。以前の記事でも触れましたが、「採用の入り口だけをジョブ型にする」など、それぞれの特徴を理解せずに取り入れると、かえって採用や入社後の育成・活躍が難しくなる企業も出てくると思います。

一方で、ジョブ型採用が一概にハードルの高いものとも言い切れません。自社の課題に合わせて導入する職種を限定してみたり、メンバーシップ型と融合した仕組みをつくってみたりすることで、より自社が求める人材を獲得していくことや、メンバーシップ型のメリットと両立していくことは十分に可能です。
本記事とダウンロード資料におけるアドバイスは、こうした自社なりの採用のあり方を考えるヒントが満載です。自社にフィットしたジョブ型採用のあり方を探索してもらう参考になれば幸いです。
  • Person 服部 泰宏
    服部 泰宏

    服部 泰宏 神戸大学大学院経営学研究科 准教授

    2009年に神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。滋賀大学経済学部、横浜国立大学大学院国際社会科学研究院などを経て、18年より現職。組織と個人の関係性をコアテーマに、人材の採用と育成、評価など人材の「優秀さ」をどのように評価するかに関わる研究に従事。

  • 人材採用・育成 更新日:2022/03/23
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