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新卒採用トレンドワード ~最近よく聞く「ジョブ型採用」とは?~

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新卒採用領域でも、「ジョブ型採用」という言葉に注目が集まっています。一般的には、従来の「総合職採用」に対して、入社後の職種および職務内容を確定させた採用方式のことを指しますが、メンバーシップ型採用が原則となる日本の雇用において、その解釈、実態はさまざまです。

今回は、神戸大学で教べんを執り、「採用学」の第一人者としても著名な服部泰宏先生に、ジョブ型採用を巡る日本の採用業界の現状、そして今後の展望を伺いました。

― 今日はよろしくお願いいたします。まず「ジョブ型採用」という言葉の定義について伺いたいと思います。一般的には「職種別採用」とほぼ同義として捉えられることが多いように思いますが、どのように理解すれば良いでしょうか?


服部先生: はい。おっしゃるとおり、さまざまな解釈がありますので、「ジョブ型採用」という言葉を今ここで明確に定義することは難しいと思います。

ただ、押さえておいていただきたいのは、「ジョブ型採用」という言葉の大本に、「ジョブ型雇用」という雇用形態全体を指す言葉があるということです。

ジョブ型雇用というのは、人に対してではなく、ポジションに対して報酬が設定されている雇用形態のことで、アメリカなどでは一般的です。まずポジションがあって、そこに適した人を雇用する、適さないと判断したら解雇する。日本型の雇用形態とはだいぶ違って、かなり厳しいものなんです。

そういった雇用形態で人材を採用するときには、まず自社内に必要なポジションを明確にし、そのポジションに支払う報酬を算出し、さらにそのポジションに求められる能力を明確にする……という相当に厳密な計画が必要となります。
狭義のジョブ型採用というのは、そのように定義できるでしょう。

それに対して日本で言う「ジョブ型採用」というのは、いわゆる「総合職採用」に対するアンチテーゼという側面があり、もっと定義としてはカジュアルなものですね。おっしゃるように「職種別採用」の別名と捉えている事例もあります。
また、採用後に配属されるポジションを明確に提示することで業務内容についても明確な説明が必要とされるため、RJP(Realistic Job Preview : 現実的な仕事の情報開示)の一環と捉えることもできるでしょう。

― 総合職採用の「採用されるまでどんな仕事に就くか分からない」という現状に対する求職者側の不安がジョブ型採用の登場に寄与していると思いますが、いかがでしょうか。


服部先生: そうですね。新卒一括採用で一人ひとりのポテンシャルを見極めて採用し、入社後に育成して、それぞれに合ったポジションに就けていく……という日本型の雇用形態は、終身雇用を前提としたメンバーシップ(仲間意識)の中で培われた文化です。なので、大学を卒業したばかりで即戦力となる専門性を持っていなくても、学生は就職が可能ですし、企業側も採用が可能となっています。

ですが、一方でおっしゃるとおり、「採用されるまでどんな仕事に就くか分からない」という求職者側にとってのデメリットもあります。
マーケティング志望の学生が入社後に営業部門に配属されてミスマッチに悩むという話もひとつの例ですね。

そういった不満を抱えていると、入社前に配属されるポジションが決まっていて、RJPもしっかりと行われる、「ジョブ型採用」は魅力的に映ります。

― 入社前に自分のするべき仕事を正確に知っておきたい、いわゆるジョブディスクリプションを求める求職者心理が以前よりも強くなっているということでしょうか。

服部先生: そう見ることもできます。新卒でひとつの会社に入って、40数年間仲良く一緒に仕事をしようね、という終身雇用前提の時代に築かれたキャリア観が今の就職活動生にとっては一般的ではないんです。

その理由として、いまの就職活動生の親御さんの世代ではもう、転職することに違和感がないということも挙げられると思います。
転職であればポジションがある程度は明確になっていることが普通ですから、カジュアルな定義で見ればジョブ型採用に近い形で採用されているわけです。そういうキャリア形成を目の前で見ているんですね。

また、大学などでのキャリア教育も、その多様性を認める方向に強くシフトしているので、なおさらです。

そういった外部環境の変化によってキャリア観が変化し、少なくとも入社後の数年くらいは自分が何をするべきなのか分かっていたい、という求職者のニーズに応じる形で企業側も取り入れているので、狭義のジョブ型採用ではなく、もっと緩くカジュアルな解釈でのジョブ型採用が、実態としてはRJPの一環として広まっているというのが現状だと思います。

― 求職者側がジョブディスクリプションを求めているという現状と、企業側が定着促進のためにRJPを行う流れがうまく重なって、日本型の「カジュアルなジョブ型採用」が広まっていったという理解でしょうか。


服部先生: そうですね。そういった意味では決して悪いことではないと思っています。
狭義のジョブ型採用のことを知ったら学生は尻込みすると思いますし、実際に日本の企業が厳格にジョブ型雇用を取り入れることも現実的ではありません。一部の大手企業で役員にだけ適用している例がある程度です。

学生の思いとしては、「ジョブ型採用で採用前に仕事内容は知っておきたい、でも従来の日本企業のようにメンバーシップ型で入社してから能力を開発、育成してほしい」というのが現実だと思います。

― 実際には「ジョブ型採用」と「メンバーシップ型雇用」のハイブリッドを望んでいるということですね。

服部先生: そのとおりです。いまの就職活動生は、「自己分析」や「職業研究」が非常に進んでいて、「自分はこういう能力のある人材なので、こういう仕事がしたい」と明確なビジョンを持って就職活動を進めています。

なので、業界を絞った就職活動で、「ここなら活躍できるかも」と内定先を選んでいるんです。
しかし、採用形態は多くの場合「総合職」なので、ミスマッチが起こりやすい。

このミスマッチを減らすための方法として、「ジョブ型で採用して、メンバーシップ型で育成する」という日本独自のハイブリッドなジョブ型採用の解釈が生まれたのかもしれません。

― そう聞くと、悪いものではないようにも思えます。


服部先生: 学術的に正しい定義かどうかは別として、実態としてのハイブリッド式のカジュアルなジョブ型採用は決して悪いものではないでしょう。
問題は、定義があいまいなので企業側の意図していることが学生にきちんと伝わらない、お互いの理解に差異が生まれやすいというところにあります。

― 実際に運用されているハイブリッド式のジョブ型採用自体には問題がなくても、言葉をそれぞれ独自に解釈しているから採用後にミスマッチが起こる危険性がある、ということですね。


服部先生: はい。例えば、学生はハイブリッドなジョブ型採用を期待して入社したのに、企業側が考えていたのは狭義のジョブ型採用で、与えられたポジションをこなすために厳しい自己研さんが求められ、かなわなければ解雇、なんてことが起こり得るということです。

それを避けるためには、早い段階で現場のことを学生に知ってもらうことが重要でしょう。就職活動の初期段階では学生側も準備ができておらず、ただ言葉で仕事内容を説明しても理解できません。

もちろん、そういった情報は採用活動の過程で伝えるべきものですが、もっと自分が就職した後の姿を想像できるような機会を与えるべきです。
人事部の若手社員が、「弊社では」なく「私は」「僕は」と一人称で伝えるようなリアリティのある情報でもいいですし、現場社員との交流機会を設けるのもいいと思います。

単に「ジョブ型採用」という言葉に流されるのではなく、求職者が本当に求めているもの、つまり「キャリアの明確化」をどのような手段で実現していくか、これは各社に合った方法を選んでいいと思います。

要するに大切なのは、選考フローを「ジョブ型」「総合職」と分けるのではなく、いずれの場合でも、学生が就く可能性のあるポジションについて明確に、詳細に説明するRJPです。

そうしてキャリアを明確に示すためには、社内の職種の棚卸しやそれぞれの職種に求められる能力の分析など、いわゆるジョブアナリシスが必要となります。そうしたステップを踏んでいくことは、企業としての採用力を向上させるだけでなく、企業全体の力も底上げしてくれるでしょう。

― 服部先生、今日はありがとうございました!

最後に服部先生からお話があったように、日本型のハイブリッドなジョブ型採用は単なる流行語ではなく、学生のニーズを受け止めようと企業側がそれぞれに努力することで生まれたものです。

「ジョブ型採用」と難しく捉えるのではなく、ミスマッチ防止と定着促進のためのRJPの一環として捉え直すことで、多くの企業にとってはもちろん、学生にとっても価値のあるものとなるでしょう。

マイナビ2023では、職種別やエリア別で募集ができる「コース別採用掲載」をスタートしました。ぜひご活用いただき、実りある採用活動の一助としていただければ幸いです。

服部先生には後日、サポネット会員の皆さまからお寄せ頂いた「ジョブ型採用に関するお悩み」にもお答えいただきます。そちらもぜひ楽しみにお待ちください!

<キーワードのおさらい>
RJP(Realistic Job Preview) : 現実的な仕事の情報開示
ジョブディスクリプション(Job Discription):仕事内容の説明

  • Person 服部 泰宏
    服部 泰宏

    服部 泰宏 神戸大学大学院経営学研究科 准教授

    2009年に神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。滋賀大学経済学部、横浜国立大学大学院国際社会科学研究院などを経て、18年より現職。組織と個人の関係性をコアテーマに、人材の採用と育成、評価など人材の「優秀さ」をどのように評価するかに関わる研究に従事。

  • 人材採用・育成 更新日:2022/02/01
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