保育士の新卒採用 学生の志向をつかんだ実体験を伴う広報がカギ
地域や業種を問わず、全国的に慢性的な働き手不足である現在の日本ですが、その中でも特に人材不足感が強い業界の一つが保育です。
この記事をお読みの方は、まさに現場で危機感を強く抱いていらっしゃるのではないでしょうか。
出典:令和4年版 厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-(厚生労働省)
この状況は国も重く見ており、2022年(令和4年)の厚生労働白書では「社会保障を支える人材の確保」が大きなテーマとして扱われました。
上図は、同白書より引用した「保育士の有効求人倍率の推移」を表すグラフです。
2022年(令和4年)の有効求人倍率は全産業平均(1.03)に対し、なんと2倍以上の2.50。これは、10人募集しても平均4人しか採用できないことを意味します。
国の未来をつくる保育・幼児教育の現場である保育園や児童養護施設などを運営するのに欠かせない人材の確保は、まさに急務。
そこで今回は、保育士の新卒採用支援の経験が厚い2人から、保育士の新卒採用を成功させるポイントについて話を聞きました。
この記事をお読みの方は、まさに現場で危機感を強く抱いていらっしゃるのではないでしょうか。
上図は、同白書より引用した「保育士の有効求人倍率の推移」を表すグラフです。
2022年(令和4年)の有効求人倍率は全産業平均(1.03)に対し、なんと2倍以上の2.50。これは、10人募集しても平均4人しか採用できないことを意味します。
国の未来をつくる保育・幼児教育の現場である保育園や児童養護施設などを運営するのに欠かせない人材の確保は、まさに急務。
そこで今回は、保育士の新卒採用支援の経験が厚い2人から、保育士の新卒採用を成功させるポイントについて話を聞きました。
就活をしている保育学生は全国に2.9万人 しかし半数が他業種を希望・併願
— 今日はよろしくお願いします。まずは、お二人が現場で実感していらっしゃる「保育士不足」の現状について聞かせてください。
田中: 保育学生は年々減少傾向で、2026年卒業者は2.9万人ほどと予測されます(※)。さらにそのうちの半数は保育以外の業種を希望したり、併願したりしているというのが現状です。
※厚生労働省 保育士の現状と主な取り組み、こども家庭庁 全国指定保育士養成校一覧・私学事業団令和5(2023)年度 - 私立大学・短期大学等 入学志願動向よりマイナビ算出
つまり、保育学生として保育士の仕事を第1希望として考えている学生は、実質的に1.5万人 程度ということになります。
大高: 他業種と比較したときに、保育業界の待遇が低く見えてしまうというのが大きな理由の一つです。
政府が行う保育士報酬加算などで改善されましたが、学生への印象は変わっていないのが現状です。
— 保育学生が他業種を希望・併願する場合、具体的にどのような業種がライバルとなるのでしょうか?
大高: 保育士の専門教育を受けてきている学生は、いわば一人の「教育者」ですので、まずは教育関連企業が採用上のライバルです。
特に、保育や幼児教育、福祉などの関連事業を行っている大手の教育系企業などが該当しますね。
これらの企業は、保育学生が学んできたことを生かしながら働ける職場であり、なおかつ、一般的に保育園などよりも給与をはじめとした待遇面で優位性がありますので、強力なライバルです。
ほかには、「子どもにまつわる仕事」の関連でベビー用品、おもちゃのメーカーや小売店、テーマパーク運営会社なども採用上のライバルとなります。
田中: また、保育や教育、子どもとは全く関係のない一般企業への就職を希望する学生も、もちろんいます。
厳しい状況ではありますが、保育に限らず、新卒で有資格者を採用する必要のある業種(建築・医療・福祉など)の多くが共通で抱える悩みでもあります。
こうした状況下で保育士採用を成功させるには、学生の 志向をしっかりと理解しておく必要があります。
「選ばれる園」になるには? 学生の志向をつかんだ情報発信がポイント
— 関連業種のみならず、他業種もライバルとして浮上する保育業界において、保育学生を採用するために知っておくべき 志向を教えてください。
田中: 保育学生一人ひとりで見れば個別の志向がありますが、傾向としてご紹介できるポイントがいくつかありますので、一つずつ解説します。
保育学生の志向1:実家の近くにある園に就職したい
田中: 他業種と比較して「実家の近くで就職したい」という学生が多いのは、保育学生の一つの特徴といえます。自分の育った地域で、保育を通して社会貢献したいという志向に加え、 保育士の業務は事業所にかかわらずほぼ同じであるため、自宅からの近さが数少ない優位ポイントとなるからです。
保育学生の志向2:保育方針に賛同できる園に就職したい
大高: 先ほどもお伝えしたように、保育学生は幼児教育に専門性を持った「教育者」の一面がありますので、保育方針に賛同できる園で働きたいという志向を持っています。
「広い園庭や自然の中で伸び伸びと育てる」「幼児期からの英語教育に力を入れている」など、保育に関する園ごとの特色を採用広報で打ち出したり、その保育方針に引かれて入園を決めた親御さんからの声を伝えたりすれば、方針に賛同した保育学生を集めることができるかもしれません。
保育学生の志向3:子どもと向き合った働き方のできる園に就職したい
大高: 保育園で働く場合、日報や指導案計画の作成など、 事務仕事にも多くの時間を割くことになります。
もちろん事務も大切な仕事ですが、保育士になるからには子どもと向き合う時間を第一に考えたいというのが多くの保育学生の希望です。 しかし、まだまだ「手書き文化」の根強い業界で、なかなかその希望はかなえられません。
こういった事務仕事の効率化(デジタル化など)を行っている場合は強力な差別化要素になりますので、ぜひ積極的に広報していただきたいですね。
保育学生への広報は「実体験」が効果的!
— 具体的なポイントをありがとうございます。では具体的に、どのような手段で採用広報を進めるのが効果的でしょうか?
お勧めの採用広報施策1:学校訪問
保育士採用に当たり、学校訪問はマストです。キャリアセンターで見学先を探す学生が多いため、まずはキャリアセンターに事業所の資料を置いてもらいましょう。また、先ほどもお伝えしたように、保育学生は実家の近くにある園を就職先として希望する傾向にあります。そのため、訪問先としては園の近くにあり、保育関連の学部・学科を持つ大学・短大・専門学校などがベストです。
お勧めの採用広報施策2:手元に残る「紙もの」ツール
田中: 大学訪問時にぜひ持参していただきたいのが、パンフレットなど「紙もの」の広報ツールです。キャリアセンターで手に取ってもらいやすいのはもちろん、親に就職について相談する学生が多いのも、保育学生の特徴の一つだからです。
それを踏まえて、親御さんと一緒に見て一緒に考えられるようなオリジナルのパンフレットや紙DMを制作するのがお勧めです。
お勧めの採用広報施策3:園の所在エリアの合同説明会に出展する
大高: 実家から通える園を希望する学生が多いため、 全国向けの採用広報施策よりも、地域密着型の合同説明会に 出展する方が、マッチング率の高い学生と出会える可能性が高いですね。
合同説明会では学生と直接話ができるため、保育方針や園の魅力を伝えたり、勤務エリアについての相談を行ったりすることができます。また、その場で園見学の予約なども受け付けることで、次のステップに進めやすくなります。
お勧めの採用広報施策4:園での保育を体感できるイベント
大高: 先ほど、保育学生の志向として「保育方針に賛同できる園に就職したい」というものがあるとお話ししました。
その点では、園がどのように子どもと接し、教育しているのか身をもって体験できるイベントは非常に有効な施策となります。
事例として、クリスマスやハロウィーンなどイベントごとのある日を見学日に設定している園もあります。
日々の保育業務を見てもらうよりは、園の特色が強く出るタイミングで見てもらった方が、より効果的なようです。
お勧めの採用広報施策5:先輩保育士との交流
自園に内定している大学4年生や、入職3年以内程度の若手保育士をリクルーター的に活用するのもお勧めです。学生目線を受け入れ、共感し、疑問に答えながら、自身の就職活動や、自園を選んだ理由や魅力について、オープンに語ってもらいましょう。学生の不安を解消し、園の魅力を自然に理解してもらうことができます。
他の学生とちょっと違う 保育学生の就活スケジュール
— では最後に、保育学生にアプローチする上で重要なスケジュールについても教えてください。
田中: はい。他業種を目指す学生と保育学生とではスケジュールに異なる点がありますので、詳しく解説します。
他の学生と同様に、3年生の6月ごろから情報収集やインターンシップへの参加を始めますが、保育学生は夏休み後に実習期間が設定されていることが一般的であるため、本格的な就活のスタートはやや遅くなりがちです。
3年生の終わりから4年生の初めごろに当たる春から園見学や説明会に参加し、本格的に選考に参加するのは 4年生の夏休み前からとなることが多いですね。
— 一般的な就活のスケジュールと異なる保育学生へのアプローチで気を付けるべきことはありますか?
大高: 先ほど、田中から「本格的な就活のスタートはやや遅くなりがち」という話がありましたが、保育士の資格が必要のない他業種を併願している場合は別です。
また保育事業者の中でも、大手を中心にインターンシップやオープン・カンパニーを実施している企業も増えてきています。実際、早期インターンシップに参加したことで内定までつながる学生が年々増加しているそうです。
また、プレサイト期間と呼ばれる就職活動前(主に3年生向け)の2024年7月に実施した保育学生向けインターンシップ合同説明会には300人以上が参加。保育学生自身も早期から動く流れができてきています。
その上で自園に就職してもらうだけの魅力を打ち出す必要がありますので、切れ目のない継続的な採用広報で魅力を発信し続けることが重要となります。
特に、一般就職と迷う理由として「実習に参加してみて、自分にこの仕事ができると思えなかった」という声はよく聞かれますので、子どもと接する仕事のやりがい、意義をきちんと伝えられる丁寧なコミュニケーションは重要でしょう。
田中: 選考が短期集中になりやすいのも、特徴として挙げられます。採用広報を通じたコミュニケーションと併せて、選考中に細かくフォローをしたり、先輩保育士などと話す機会を設けたりするなどしてモチベーションを維持することも考える必要があるでしょう。
日常業務が忙しい中での採用活動にはなりますが、しっかりと志向をつかんで魅力を打ち出していけば、きっと採用につながります。
— 保育学生に特有の事情も含めて、具体的なお話をありがとうございました!
保育士という仕事の魅力とは? と考えて採用活動を
インタビューの中で、田中は保育士の魅力として「何と言っても社会貢献性。人生で初めて出会う、親以外の大人になること。その意義深さは他の仕事では味わえない」と話していました。まさに、これが保育士の仕事が持つ最大の魅力かもしれません。保育学生のうち、半分は他業種を志望または併願しているという話もありましたが、保育を学ぼうと考えて進路選択した学生であれば、仕事の意義については一定の理解があるはずです。
保育士という仕事の魅力、そして自園の魅力を整理して、保育学生を引きつける採用活動をしていきましょう!
- 人材採用・育成 更新日:2024/10/30
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