「辞めない人材」を採用するにはどうする? 採用担当者にできること
サポネットをお読みの採用担当者の皆さまは、各社採用したい人材像をお持ちだと思います。
主体性がある、コミュニケーション力が高い、リーダー経験を持っているなど、その内容は企業によってさまざまですが、「長く活躍してもらえる人材であること」もまた重要な要素です。経営陣から定着率の高い人材を採用することをミッションに与えられている採用担当者も少なからずいると思います。
一方で人材流動性の高いこの時代、人材の定着に新卒採用の部署がどこまで貢献できるのか。甲南大学経営学部の尾形真実哉教授に「辞めない人材を採用するにはどうしたらいいですか」と直球で質問をしてみました。その答えは、入社前の「プレオンボーディング」と「期待と現実のバランス」にありました。
主体性がある、コミュニケーション力が高い、リーダー経験を持っているなど、その内容は企業によってさまざまですが、「長く活躍してもらえる人材であること」もまた重要な要素です。経営陣から定着率の高い人材を採用することをミッションに与えられている採用担当者も少なからずいると思います。
一方で人材流動性の高いこの時代、人材の定着に新卒採用の部署がどこまで貢献できるのか。甲南大学経営学部の尾形真実哉教授に「辞めない人材を採用するにはどうしたらいいですか」と直球で質問をしてみました。その答えは、入社前の「プレオンボーディング」と「期待と現実のバランス」にありました。
尾形 真実哉(おがた まみや) さん
甲南大学 経営学部 教授
2007年神戸大学大学院経営学研究博士後期課程を修了(博士[経営学]取得)。同年4月より甲南大学経営学部専任講師、准教授を経て、15年より教授となり現在に至る。
専門は組織行動論、経営組織論。研究テーマは、若年就業者の組織適応、中途採用者の組織再適応、育成上手の研究など。著書に『組織になじませる力:オンボーディングが新卒・中途の離職を防ぐ』(アルク)、『中途採用人材を活かすマネジメント:転職者の組織再適応を促進するために』(生産性出版)、『若年就業者の組織適応: リアリティ・ショックからの成長』(白桃書房)。共著に『人材開発研究大全』(東京大学出版会)、『日本のキャリア研究:組織人のキャリア・ダイナミクス』(白桃書房)、『経営行動科学ハンドブック』(中央経済社)、『入門組織行動論第2版』(中央経済社)など。
「組織社会化」が辞めない人材を育てる
— 尾形先生、今日はよろしくお願いします。率直に伺います。「辞めない人材」というのは、どのような人材なのでしょうか。
尾形先生: 私が研究している「組織社会化」という概念は参考になると思います。
難しい言葉に聞こえますが、意味するところはシンプルで、「組織の一員としてなじんでいくこと」です。
例えば私たちは、「日本社会の一員として、その文化(価値観や規範)を身に付けることによって社会化されている」と考えることができます。これを組織のレベルで考えるのが「組織社会化」という概念です。
— つまり、仕事のスキルを身に付け、会社の文化を理解してなじんでいくこと、と捉えていいのでしょうか。
尾形先生: そのとおりです。今回のテーマに沿って「新入社員の組織社会化」を考えるのであれば、新入社員が自社に対して社会化される(なじんでいく)ためにどのような手助けをするか、ということを考えることになります。
その上で重要なのが「オンボーディング」です。新しく入ってきたメンバーの順応を促進する取り組みで、人事担当者の方ならなじみがある言葉だと思います。オンボーディング施策を通じて、組織社会化を促進し、その結果として「辞めない人材」になる可能性が開けてくるわけですね。
— しかし、オンボーディングといえば、「入社後」にある工程というのが一般的です。採用までの間、つまり選考期間中や内定期間中に行うこともできるのでしょうか。
尾形先生: そこで紹介したいのが「プレオンボーディング」という考え方です。プレオンボーディングによって入社前から組織社会化に向けて動くことができるのです。
採用担当者ができる「プレオンボーディング」
— プレオンボーディングですか。ぜひ詳しく聞かせてください。
尾形先生: はい。通常のオンボーディングは、おっしゃるように入社後に行われますが、プレオンボーディングは入社前に行うものをいいます。結果として、その後に行われるオンボーディングの効果を高め、「辞めない人材」の採用に一役買えるのです。
そのための代表的な施策が、インターンシップですね。1 dayや先の三省合意の改定で新たに定められた「オープンカンパニー」のようなライトなものではなく、しっかりと就業体験ができるインターンシップがいいと思います。
そこで職場を見て、現場の社員と交流し、会社の文化を知る機会を提供することがプレオンボーディングといえます。
ただ、ある程度の期間が必要であるというのがデメリットかもしれません。
組織社会化を促進するほどの効果を得るには、限られた環境の中で仕事を数日間だけ「疑似体験する」というようなものではなく、ある程度の期間、繰り返して実際の仕事を体験してもらう必要があります。
まだ「選考母集団」の状態にある学生に対して行うには、コストが高すぎると感じる企業も多いかもしれません。
— 確かにそうですね……。現場の負担も大きく、採用担当者としては行いにくい施策のように思います。
尾形先生: そこでおすすめしたいのが、内定式から入社までの期間に就業体験をしてもらうという方法です。それであれば人数もある程度絞れますし、入社の確度も高いので、コストを受け入れやすいと思います。
実はこの「内定式から入社まで」の約半年間というのは、プレオンボーディングとして非常に重要な期間なんです。学生から社会人へと「変化」しなくてはいけない大切な時期ですが、ともすると座学講習や簡単な職場見学だけしか学生に提供できないということも多いですよね。
しかし、この期間に配属の可能性がある部署をいくつか回りながら就業体験をしてもらうことで、学生の中に「仕事をしている自分」の像をつくってもらうことができます。つまり、ゆっくりと「学生から社会人へと変化」する準備をしてもらうのです。
その中では、学生にとってショッキングなこともあるでしょう。しかし、それが仕事の現実なのであれば、受け入れてもらうことが必要ですし、受け入れられずに内定辞退ということになっても、入社後の早期離職よりは企業・学生の双方にとって傷は浅く済んだということになります。
とはいえ、どの会社にも1つか2つはある「新人が辞めやすい部署」や「新人が育たない部署」のようなところではなく、できれば「育て上手」の上司がいる部署で就業体験をしてもらえるようにする気遣いは必要です。
そうしてプレオンボーディングを丁寧に行えば、突然「会社」というそれまでなじみのなかった組織に放り込まれて受けるショックを和らげることができ、入社後のオンボーディングもスムーズに行えます。
「辞めない人材」は育てることができる
— 非常に魅力的な施策ですが、それだと「選考期間中」ではなく、「内定期間中」の施策になってしまうのが気になります。
尾形先生: 身もふたもない言い方に聞こえるかもしれませんが、選考期間中に「辞めない人材」を見抜くのは難しいことです。学生はエントリーシートにしろ面接にしろ、しっかりと対策をして臨むので、本当の資質は見抜けないと考えておいた方が良いと思います。
一方で、適切な職場体験と情報開示を行うことで、「辞めない人材」は育てることができます。ですから、選考は選考として進めて、その結果、内定を出すことのできた学生を「育成」する方が近道です。
その上で、採用担当者ができることは意外と多いと思います。
— 採用と育成で担当が分かれている企業は多いですが、そういった場合でも有効ですか?
尾形先生: まずお伝えしておきたいのは、「採用も育成も同じ担当者が行う」のが最も理想的なスタイルであることです。
選考から入社2〜3年目までの期間を同じ担当者が継続的に見ていくことで、育成の効果が高くなり、より「辞めない人材」になっていくと思います。
それでも、社内の組織構造やリソースの問題で、どうしても担当が分かれてしまうというパターンは多いと思います。
その場合でも、プレオンボーディングの期間(入社までの期間)では採用担当者以上に学生のことを理解している人はいませんから、どの部署で育てるか、誰に育ててもらうかという戦略も採用担当者にしか立てられません。
ですから、入社後からは育成担当者に学生を引き継ぐとしても、学生一人ひとりについてきちんと申し送りを行いましょう。
— 具体的にどのようなことを申し送りするといいのでしょうか。
尾形先生: 面接官の所感、適性テストの結果など記録に残っているものはもちろん、「なぜ採用を決めたのか」という採用担当者としての実感も併せて伝えた方がいいと思います。その上で、入社後その社員が良いパフォーマンスを発揮できるようになるためには、どのような育成が必要なのかを考えて伝えるようにしてください。
期待と現実のバランスを取る
— そのように職場体験をしてもらうのは、先生もおっしゃったように「仕事の現実を知ってもらう」という目的があると思います。近年はRJP(※ Realistic Job Preview:現実的な仕事の情報開示)を重視する風潮も高まっており、採用広報・選考期間でも「現実を知ってもらう」ことが重要になると思いますが、そこでできる工夫はありますか?
尾形先生: 採用広報と選考の期間中、「期待と現実のバランス」を上手に取るのが、採用担当者の腕の見せどころになります。
エントリー、エントリーシート提出、選考、そして内定と段階を経るにつれ、学生側の企業への志望度、期待は高まっていきます。その期待をくじくことなく、しかし間違った期待を抱かれないように情報を出していくことが大切です。
企業側がキラキラした良い情報ばかりを提示していると学生の期待は誤った形で膨らんでいって、いざ入社したときに期待と現実との差にショックを受けて早期離職を引き起こします。
だからといって、最初から自社のデメリットばかりを話すのも良くありません。私の研究でも、高すぎも低すぎもしない適切な期待を持って入社した人の離職率が低いという結果が出ています。
ですから、採用担当者として重要なのは、「学生の期待のレベルに合わせて、期待をくじかないレベルの現実的な情報開示を行っていく」ことです。
例えば、1年目からマーケティングの部署での仕事を希望している学生がいたとします。しかし、自社には1年目からマーケティングに配属されたという前例がない。その場合は、まず「1年目からマーケティングに配属されるのは難しい」という事実を伝えつつ、「でも、こういうキャリアパスを描いて3年目でマーケティングに配属された先輩がいる」という事実も併せて伝えます。必要であれば1対1で話す機会を設けるのもいいでしょう。
これが、学生の期待と現実のバランスを取りつつ、期待をくじかない情報提供をするということで、採用広報から選考まで学生と接する採用担当者でないとできない仕事です。こうして理想と現実のバランスを上手に取ってあげながら、入社が近くなったら職場体験でさらに社会人になる準備ができる期間をつくってあげる。それが、「辞めない人材」を採用するための第一歩だと思います。
— 先生、今日はありがとうございました!
「質問しやすい環境」が社内にあるかどうかもチェックしよう
取材の中で、先生が辞めない人材の特徴の一つとして、「フィードバックを積極的に求めることができる」ことを挙げていらっしゃいました。選考でその資質を見抜くのは難しいとのことでしたが、会社側にもできることとして「質問しやすい環境」をつくるのは重要だとのこと。
仮にフィードバックを積極的に求めることのできる資質を持った学生を採用できたとしても、周囲が学生や新入社員からの質問に面倒くさがって答えてくれないような環境では、結果としてその資質をつぶし、早期離職を招いてしまうからだそうです。
「辞めない人材」は全ての企業にとって一つの理想像ですが、学生側にその資質を求めるばかりではなく、記事にもあるとおり「育成」を重視し、なおかつ社内の環境を整えれば、おのずと人が辞めない組織づくりにつながっていくのかもしれません。
- 人材採用・育成 更新日:2024/04/24
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