加速する売り手市場化 学生の就活「厳選化」「早期化」に中小企業はどう対応すべきか
少子高齢化が進む中、採用市場は売り手優位の状況が続いています。
そのような状況でも、いや、そのような状況であるからこそ、新卒採用を積極的に行って社内の年齢構成バランスを整えておきたいと考えている人事担当者も多いのではないでしょうか。
しかし、企業の思惑とは裏腹に、学生の平均エントリー社数は20を切るような状況で、エントリー企業の「厳選化」が進んでいます。
となると、学生から人気のある超有名企業以外は、採用がより厳しい戦いになることは必至です。
そこで今回は、企業の採用支援の第一線で活躍するマイナビ社員2名に、「売り手市場における中小企業の戦い方」についてアドバイスを求めました。
ポイントは、「ターゲットの明確化」と「巻き込み力」であるようです。インタビューでその真意を確かめてみてください。
そのような状況でも、いや、そのような状況であるからこそ、新卒採用を積極的に行って社内の年齢構成バランスを整えておきたいと考えている人事担当者も多いのではないでしょうか。
しかし、企業の思惑とは裏腹に、学生の平均エントリー社数は20を切るような状況で、エントリー企業の「厳選化」が進んでいます。
となると、学生から人気のある超有名企業以外は、採用がより厳しい戦いになることは必至です。
そこで今回は、企業の採用支援の第一線で活躍するマイナビ社員2名に、「売り手市場における中小企業の戦い方」についてアドバイスを求めました。
ポイントは、「ターゲットの明確化」と「巻き込み力」であるようです。インタビューでその真意を確かめてみてください。
企業側も「厳選化」を進めて効率の良い採用施策を
— 学生数が微減する中で、多くの企業が新卒採用に苦戦しています。特に中小企業は採用活動のファーストステップとなる「採用母集団の獲得」で苦労されているようですが、状況を打破するためには、どのような打ち手があるのでしょうか?
安藤: 市場環境が変わっていますので、大きい採用母集団の獲得が本当に重要かどうか、まずは考え直すべき時期にきているのかもしれません。
「採用成功」とは、買い手市場、売り手市場に関係なく、「自社にとって必要なポテンシャルを持った学生を採用できること」ですよね。
それを実現するためにインターンシップ、説明会、選考、内定といった採用プロセスを踏んでいくわけです。
そして、学生の数が十分だったかつての採用市場では、大きい採用母集団を確保することがシンプルかつ有効な打ち手でした。
採用プロセスごとの遷移率が低くても最終的に十分な数の学生が残って、必要な人材が必要な人数だけ採用できたからです。
— しかし、今は学生の数が減っていますので、環境がそもそも変わっている、ということですね。
安藤: そうです。それゆえ「採用母集団が集まらない」というお悩み自体が、現状を反映していない、把握できていない可能性を考えなくてはいけません。また、学生の数が微減しているだけでなく、就活スタイルも変化して、エントリー企業の「厳選化」が進んでいます。
選考を受ける企業数は、ここ数年は学生1人当たり10〜20社程度で安定していて、数年前と比べるとかなり少ない数字になってしまっているのです。
出典:マイナビ2024年卒大学生活動実態調査(10月中旬)
https://career-research.mynavi.jp/reserch/20231020_62864/
吉澤: 私も同様の感想を抱いています。
学生が応募企業を厳選化する傾向にある中で、むやみに母集団拡大を目指す採用活動をすることにはリスクがあります。戦略を見直して、よりターゲットを絞った施策を行う必要があるはずです。
そのためにも、まずは「自社にとって必要な学生がどういう傾向の学生なのか」を把握し、ターゲットを定めることが重要です。
それも「コミュニケーション能力が高い」とか「素直」みたいな曖昧な資質ではなく、もっと明確な指標が必要となります。
社内のハイパフォーマーからコンピテンシーを取り出して、採用すべき学生の像を明確にし、そのターゲットに向けて的確な施策を行う必要があるのです。
その上で、インターンシップ期間、3月以降、内定出し前、内定後と、それぞれのフェーズでどのようなコミュニケーションを取ると自社が求める学生の反応が良いのかを見定め、計画を立てるといいと思います。
安藤: そうですね。過去に採用が成功した年があったら、その時に何をしていたのかを分析する、内定者や新入社員にヒアリングして有効なコミュニケーションの方向性を探っていくなど、方法はさまざまあります。
— つまり、従来の「大きい母集団からフィルタリングして必要数の人材を確保する」という考えではなく、「早い段階から高マッチングの学生に絞ってアプローチしていく」ということですね。
吉澤: そうです。なかなか難しい課題であることは間違いないのですが、現在の傾向、市場環境を考えれば必要なことだと思います。
就活の「早期化」にはどう対応する?
— いま、エントリー企業の「厳選化」についてご意見を伺いましたが、一方で近年は「早期化」の傾向も顕著です。インターンシップで接触した企業の選考にそのまま参加し、早い時期に内々定を獲得する学生が少なくないですね。
吉澤: そうですね。しかし、「早期から接触していればいい」と考え、インターンシップなど広報期間前の活動にリソース(予算・人員)を振り切ってしまうのも危険な判断になり得ると思います。
特に採用リソースが不足しやすい中小企業においては、ここでも効率化が必要です。先ほどの話と関連しますが、結局は「自社に必要な学生といつ出会えるか」が重要なのです。
場合によっては、公務員試験を終えた頃や体育会系の学生が引退した後、あるいは、就活をやり切りたいと考えている学生が再度動き出す3月以降など、早期に接触する必要がないこともあり得ます。
安藤: もちろんそういった選択肢の中には「早く会った方がいい」という可能性も残されますが、その場合でも「どう会うか」の方が重要です。
学生には、就職活動の中で企業と触れ合うことで成長していく過程があります。さまざまな業界や企業を比較し、自分の価値観を定めていく中で最終的に「ファーストキャリアはここにしよう」と判断してもらうことが、長い目で見れば重要です。単に早期に学生に接触して「囲い込む」ような戦略では、たとえ入社につながったとしても、活躍はできない可能性が高いのではないでしょうか。
— 今のお話は、最近よく話題に上がる「学生のキャリアデザイン」にもつながってきますね。
安藤: はい。就職活動の早い段階で接触するにしても、それは学生にとって将来を考える材料を提供するというくらいに考えて、就活学年になった時に再度会いに来てくれることを期待するのがいいでしょう。吉澤が言うように、リソースが不足しやすい中小企業でどこまでやれるか⋯⋯。議論の余地は残りますが、考え方としては持っておくべきものだと思います。
「キャリア教育」の潮流に中小企業はどう乗るか?
— 最近は、低学年からのキャリア教育が重要といわれていますが、そこまで採用活動が長期化すると、結局はリソース勝負で中小企業にとっては厳しいと考える方も多いようです。
吉澤: これからは低学年の学生にもキャリア教育という観点で自社を知ってもらったり、キャリアの選択肢として認知してもらったりする必要が出てくるでしょう。
そうなれば、3年生からの接触ではもう遅い、ということになると思います。
ただ、現状では大企業を含めて対応できる企業はまだまだ少なく、5〜10年スパンでの対応となるのではないでしょうか。
安藤: 理想論として「ここまでやりたい」という目標を掲げることは重要ですが、一方で「自社がどこまでできるのか」について冷静に考えることも重要です。
低学年のキャリア教育から始まり、インターンシップ、説明会、選考と、全てのステップに全力投球をすることはできないので、吉澤が言っているように「どこで自社にとって必要な学生に出会い、どのようなコミュニケーションを取るのか」をしっかり考えて行動し、加えて環境の変化に対応しながら行動を変化させていく柔軟性が必要です。
— つまり、採用のグランドプランをしっかりと持っておくということですね。
安藤: そうです。その点に向き合っていない企業さまが多いように思います。限られたリソースをどう振り分ければ成果が得られるかをしっかりと考えることが、これからの採用市場においてはさらに重要になっていくでしょう。
中小企業の採用活動は「トップを巻き込む」
— 理屈は理解できますが、では実際にどうすればいいのか⋯⋯という疑問を抱く方もいらっしゃると思います。中小企業の採用活動で具体的な成功事例をお聞かせください。
吉澤: 以前に担当していた従業員50名ほどのIT企業で、インターンシップを開催せず、しかし採用は成功させているという例があります。
インターンシップは実施されないのですが、オンライン、オフラインにかかわらず、説明会には必ず社長が登壇されていました。会社のこと、仕事の魅力、社風などを社長自身が語り、選考を通じて具体的な仕事の内容を伝えていくことで、ほぼ内定辞退がなく、毎年5名ほどを安定的に採用できていました。
この企業の強みは、単に「社長が出てくるから」ではなく、採用を経営課題と捉えて全社で方向性を一致させて取り組むことができているからです。
トップの意志が社風に反映されやすく、小回りの利く中小企業ならではの成功事例ですね。
安藤: 私が担当した東北地方のリフォーム会社、オノヤさんでも、同じように社長が採用に積極的に関わることで採用を成功されていました。
お金も手間もかけながら、現場も巻き込みながら採用に取り組んだ結果です。現場の社員が説明会などで生き生きと会社の魅力を語りますので、その熱意に気持ちを動かされた学生が入社し、その学生たちが数年後にはまた説明会に登壇する、という好循環が生まれていました。
やはり、中小企業では社長や役員が採用に積極的に関わり、全社を巻き込むことが重要なのだと思います。
— それが中小企業のリソース不足を解消する助けとなり、必要な施策を打つことができるわけですね。
吉澤: そうです。そのことをお伝えしたくて、採用施策のご相談を受けた際には、「社長さんと会わせていただけませんか」とお願いすることがあります。採用がどれだけ経営にとって重要な課題なのかをお話しするのです。
実際、人材の採用は日本企業にとって大きな経営課題ですし、問題意識を持って採用活動ができる企業はますます強くなるに違いありません。
安藤: 経営トップを巻き込むことができれば、学生が求める労働環境や雇用条件を社内に整えることもできるようになってきます。
例えば最近は、「勤務地確約」や「初期配属確約」といった採用手法が人気ですが、人事だけでその制度を作ることは難しいはずです。経営トップを巻き込み、経営課題として取り組むからこそ実現できるものです。
吉澤: それに、インターンシップを実施したいと考えたときに現場の協力も得やすいですよね。人事からお願いするのではなく、トップから指令が下りてくる形になれば実現は容易です。
— 中小企業の採用戦略は、「ターゲットを絞る」「効率的な戦略を立てる」、そして「トップを巻き込む」ですね。今日はありがとうございました!
中小企業ならではの「小回り」で売り手市場を戦う
インタビューの中で、こんな言葉がありました。「中小企業の人事担当者には、大企業は人も資金も豊富で採用活動も楽に見えるかもしれませんが、実際は大企業も必死になって採用活動をしているんです」
大企業では、近年の採用活動では欠かせない手段ともいえる「現場社員と学生との交流機会」をつくるために、多くの手続きが必要となることが多いそうです。
その点、中小企業であれば経営トップさえ巻き込めば、小回りを利かせながら効率の良い戦略的な採用活動を展開することができます。
まずは、経営陣に採用を重要な経営課題と認識していただくことから始めてみてはいかがでしょうか。
- 人材採用・育成 更新日:2024/02/01
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