「採用学」対談(第2回対談)
神谷: ハロー効果、つまり求職者のある特徴が面接官の判断を狂わせてしまうというバイアスですね。さて、いかに見抜くかといかに惹きつけるか、ですね。この2つの分野についてちょっと思うんですが、明らかに企業と求職者の関係性が違いますよね。前者は性悪説的な文脈であるのに対して、後者は人間的なアプローチ、そんな印象を受けます。 服部:そうなんですよ!実際、全く両極端な研究なんですよね。いかに見抜くかという立場から見たら、求職者を惹きつけて関係構築していくことはNGになると可能性すらある。「ノイズ」になってしまうかもしれません。
神谷: 反対に、求職者を惹きつける立場から見ると、面接の構造化はシステマティックな側面が強すぎて、関係構築をするには邪魔にすらなる可能性もあるわけですね。どうして、それぞれの分野で面接のコミュニケーションの捉え方に差異があるのでしょうか。
服部: これは個人的な考えですが、それぞれの出自が関係しているんでしょうね。いかに見抜くか、という研究は軍事研究を基軸に発展してきたものなのでしょう。いかに優れたリーダーを見極めるか、そういったスタンスで進められてきた研究ですね。一方で、惹きつけに関する研究は産業界の研究なんですね。ゆえに、いかに企業に対して積極的に関わってもらうようにするかといったことも重視されてくるわけです。
神谷: そうかぁ……なるほど。それぞれの研究背景が異なるために生まれたダブルスタンダードなんですね。でも、このダブルスタンダードの背景を踏まえて、さらに疑問に思う点がでてきました。今のお話では、産業分野での面接研究として、惹きつけ関連の分野がでてきたわけですが、個人的には実際に産業界に浸透しているのは、「面接=見抜く」のイメージだと思うんですよね。この点について、どう思いますか。
服部: それは僕も同感ですね。企業では、面接=見抜くというイメージの方が浸透しているかもしれません。
神谷: 面接官への質的な調査を展開すると、現場の面接官からは「最近の学生は質が…」といったようなものや、「一発で見抜ける質問を知りたい」といったようなものをよく耳にしますね。明らかに、スクリーニング(見抜く)研究の方が面接官の役割認識に強い影響を与えている気がします。彼らの前提には、人材を評価するという姿勢がより強くあるように感じますが、これ何でなんでしょうね。
服部: 不思議ですよね。よく採用で使う「母集団」という言葉に対しても同じイメージがあります。本来、統計用語なわけですけど採用でも使われています。そもそも、企業の採用それ自体が大量の群衆から適者を見つけ出すというイメージが色濃いのでしょうね。
神谷: 「採用=選抜」という前提イメージがあるゆえに、数値化される部分に関心を注ぐ傾向があるのかもしれませんね。それゆえに、母集団や、面接評価や適性テストの結果など、数値化される部分に社員の視線が集まる。結果として、求職者のレベルはどれくらいなのか?を測りたいというニーズが生まれてくる……そういう風にも解釈できますね。
服部: 個人的な意見ですが、科学や効率といったものに対する認識が影響していそうですね。組織として効率的に進めるというと、定量的な側面が重視されていくのかも。数字で見えれば分り易いですからね。実際に、我々「採用学」が多くの方に受け入れて頂いた背景にもこのような期待があったのだと思っています。
神谷: あったのでしょうね。目の前の事象を全て数値化して、その傾向や分析結果を捉えれば、正解を見出せるだろう……というような。ふむ、「科学」的な志向を感じますね。
― 一旦、区切りますね。面接のコミュニケーションの話から実に本質的な展開でお話を頂きました。面接では特に人材の資質を見抜く側面が重視されがちであると言うのは本当にそうだなと思います。企業は数値化される点に注力する傾向があるのも頷ける気がしますね。そもそも、面接それ自体の認識が偏ることについてお話頂きました。
服部: そうですね。惹きつけに成功している面接官がどういうコミュニケーションをしているのか、そのプロセスを詳細に調査したりしてみたいところですね。
神谷: それ、ある企業でプロトタイプ的にやったことがあるんですよ。定量調査ですが、面接で入社意欲が高まったと回答した学生に対して、面接の時間の流れや、どのようなコミュニケーションが繰り広げられていたのかを調査しました。コミュニケーションパターンを16くらいに分けて、それぞれのタイミングでどのようなやり取りが行われていたのか。それを見てみたかったので。まぁ、学生の個別性によるところもありますし、面接官のキャラクターなども関係するので一概に言うべきではないのかもしれない。なので、あくまでの参照点として。
服部: ほう。それはそうでしょうけど、でも興味深いですね。どんな感じですか?
神谷: サンプル200程度のアンケートだったのですが、かなり傾向はクリアに出ていて、アイスブレイクから入り、前半では比較的抽象度の高い質問が多く、それも繰り返しされている傾向がありました。それも学生の志向や価値観について問いかける内容のものです。
服部: オープン質問ってやつですかね。「何をしたいか?」とか「どう思う?」とか……。あくまで、見極めではなく、入社意欲につながったコミュニケーションにおいて、ですよね。面白いなぁ。
神谷: そうです。深堀りしていく感じで、質問が繰り返されていくという流れになります。それが学生からすると良かったわけですよね。さらに中盤あたりで、選択肢の提示と質問が繰り返される。
服部: ほうほう。「こういう可能性もあるね、どう思う?」みたいな感じでしょうか。なるほど。
神谷: 後半で解説と学生自身へのフィードバックですね。学生の志向に関する内容を引き出して、さらに選択肢を踏まえて具体化していき、最後に解説して学生にフィードバックする。そういう流れですね。あくまでも1企業の事例にすぎません。それに定量的な調査でしたし、当事者の個別性に左右される部分もあるでしょうから質的な調査も併せてやりたいところですけどね。
服部: いや、でもそういう指標やモデルがあるのと無いのではかなり面接官の振る舞いの質が変わってくるでしょうね。そういう形で、面接の新たな在り方を次々に提示していけると少しは変わるのかなと。
神谷: 確かにそうですね。しかし、実はさきほどの調査はオチがあって……そもそも、この調査はある企業で実施をして、分析したものでした。で、その企業はこの結果を踏まえて、面接官のプログラムを改めて開発し、面接官のトレーニングまで行ったわけです。しかし、全く浸透しなかったんですね。
服部: そこまでやったのに、現場で実践されなかったんですね。
神谷: そうです。実践レベルはかなり低かったわけです。ここにも興味深いポイントがあるなと。
服部: 面接官は現場の管理職だったりしますからね。なかなか言う事を聞いてもらうのも大変そうですよね。
神谷: そうです、私もある組織で人事企画に属していますが、採用担当者と現場の間には隔たりがあるのかなと。採用担当者が抱く戦略と、現場を巻き込んで構築していく実践には少し乖離があるのかもしれません。次回はそんな話をしたいですね。
― 次回のテーマまで出していただいて有難うございました。神谷さんの調査事例の話は面白いですね。質問から入っていき、深堀って、解説につなぐ……。そういう流れで学生の入社意欲が高まるという話でした。しかし、それでも面接のコミュニケーションパフォーマンスは変わらなかったと。それもまたある意味では興味深い結果です。次回はそこについて深めていく感じですね。どうも有難うございました。
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次回は採用担当者と現場の関係性、そして採用担当者に求められるものについて語って頂きたいと思います。今後も、採用施策を中心に様々なテーマについてお二人にお話頂き、毎月記事を更新していこうと考えています。
- 人材採用・育成 更新日:2017/07/10
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