「採用学」対談(第1回対談)
― 初回は、もはや採用活動の基本施策となっている「面接」をテーマにお二人にお話頂きたいと思っています。まず、採用の面接について、研究の分野ではどのように語られているのかについて教えて頂けますか?
服部: 大別すると、採用に関する研究は、「選ぶ」に関する研究と求職者とどういう関係を築くかという「関係構築」に関する研究の2つに大別されます。その中において、面接というのは、「選ぶ」に関する研究の中の大きなトピックです。さらに、「選ぶ」に関する研究の中で、面接がどのように語られているかですが、適性テストやワークサンプリングといった他の選考手法と比較して、「悪くない」という結果が出ていますね。
神谷: 悪くないというのは、つまり優秀な人を見抜ける手法として比較的評価されているってことですよね。まぁそりゃそうだという結果ですけど(笑)。
服部: はい。欧米の研究ではそういわれています。ちゃんとやれば求職者の資質を見抜けるというのが研究分野での認識です。では、どういう風にやったら良いか?という議論ですが、ここにも研究結果として提示されているのが構造化面接をした方が、良い人を見抜けるというものです。
神谷: 構造化、つまり評価要件を具体的に決めて、それに準ずる評価項目や手法を構成するというアプローチ。例えば、評価シートも能力定義や評価水準を決めてきっちり作り込むとか、面接中の質問項目なども具体的に策定するなどです。かっちり「ものさし」決めて測定しましょうという姿勢ですね。
服部: そうですね。研究的には「構造化をすればするほどいい」というのが明らかになっているわけです。研究分野では、そんな結果が出ています。
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― 優秀な人を見極めるためには、面接は有効な手段である。そして、その有効性を高めるためには「構造化」を進めていくことが大事ってことですね。
神谷: はい、確かに研究で言われていることはその通りです。しかし、これを日本企業に対して提示する際には、僕はあくまでも「欧米」での研究という点に意識的になるべきだと思っています。日本企業の新卒採用における選考と、欧米の採用における選考はかなり異なる側面がある。日本で採用するのは、大学生ですからね。業務経験がなく、まず業界や仕事内容などをほぼゼロから学び始める学生達を採用するわけです。そこにおいて面接は、選ぶ手段以上の意味を持つ。欧米の理論だけで面接の機能を捉えてしまうのは、妥当ではないでしょう。
服部: そうなんです。幾つか抑えるべき前提があります。まず、神谷さんのおっしゃる日本と欧米の「求職者」の違いという前提ですね。求職者を、能力やスキルがある存在と見るのか、それとも日本の新卒者のように潜在可能性や基本能力を見るのかの差異です。
神谷: そもそも、日本の新卒採用は「即戦力」といいつつも、自社における成長可能性を重視した採用が展開されるケースが多いですよね。研修やOJTなどを通して、将来的に一人前になる人材を採用するというスタンスが、日本では一般的かもしれませんね。
服部: はい。そうすると、欧米よりも「見抜く」という側面は重視されないのかもしれません。さらに、もう1つの前提として、先ほどの研究で提示されている内容は、ほとんどが欧米の大企業を対象に行われた研究の結果であるという前提です。
神谷: 大企業ということは、つまり求職者が集まりやすい企業ってことですね。たくさん集まるから、どうやっていい人を見抜くかという点にが訴求される。ゆえに、「正しく選ぶためには?」という問いが掲げられるわけですね。そもそも学生が集まらない企業や、他者との求職者の奪い合いするような企業における面接研究ってあるんですか?
服部: それは限られています。どうやって志望意識を高めるかとか、どうやって辞退されないようにするかといったような、一般的な関心は実は欧米の研究ではそんなに大きく取り上げられていないんですよ(笑)。
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― なるほど。私たちは、企業規模や母集団のボリュームに関係なく、面接=人を見抜くという前提で考えてしまいますが、そうじゃない面接も考えられるということですね。そう考えた際に、ちょっとお二人に訊きたいのですが、例えば面接にはどのような機能がありえるのでしょうか。
服部: 日本企業の新卒採用において、「いい人を見抜く」以外の面接の持つ機能ですよね。私が企業の面接などを見ていて感じるのが、従業員に対して納得を促す機能ですね。
神谷: それは、「うちの人事や面接官が選んだんだからしょうがない…」みたいな感じ?組織としての責任が生まれるというような意味合いですか?
服部: もちろん、それもあります。現場の納得ですよね。さらに、面接官自身の納得もあるのかなと。面接官自身が「俺が面接して選んだ人材」という意識を持つことが、その後の学生と面接官の個人間の面倒見や支援に影響していると思うんですよね。
神谷: 現場の納得と面接官個人の納得が発生することで、人材を組織が受け入れる姿勢がつくられるわけですね。それはありますよね。私自身も自分が面接した人材や、関わった内定者とかはちょっと意識しますからね。
服部: はい、そうなんですよね。組織の代表者として面接官が納得するって大事だと思うんです。
神谷: 他の機能として、僕は育成という機能に注目しています。
服部: 面接に育成機能、面白いですね。
神谷: 学生が行っている「企業研究」や「業界研究」はもはや就活の型として存在しています。でも、それは面接があるから備えるわけです。面接で仕事に関して質問されるから、準備したり内省が促さたりする。それって自らのキャリアをイメージするというプロセスなんですよね。であれば、反対の相互作用もありだと。企業が面接を戦略的に進めることで彼らのキャリアイメージを「育成」をし、入社を想定させるというアプローチも充分に考えられる。実際に、学生たちに調査を行っても、面接の中でリアルに働くイメージが醸成されたというケースは多いです。特に、人材が集まらない企業は「育成」の側面を重視して面接を推進する必要があると思うんですよね。
服部: 予期的社会化というやつですね。組織に参入する前に、組織のことを学び、入社した後にスムーズに適応させることが出来たらかなり効率的ですよね。
神谷: はい。現在の市場は、かなり早期の取り組みが入社意思のカギを握っている。インターンシップなども含めて。ならば、面接のプロセスも選考過程と割り切らずに、そのような意思やイメージを醸成する1機能として活用すべきかもしれません。マーケティングの概念で「学習」というのがありますが、それに近いですね。顧客が商品について情報を集め、学んでいくプロセス。学生の学習を戦略的に促すことだってありでしょう。
服部: なるほど。そういう意味では、学生と面接官のコミュニケーションの質がかなりポイントになりますよね。「見抜く」ことを目的とするならば、コミュニケーションは戦略的に構造化すべきでしょう。しかし、求職者に「育成」を促すことを前提とするとまた変わりますね。
神谷: 求職者に合わせてコミュニケーションは変えるべきでしょうね。企業や業務内容に関する学習レベルや、自己認識のレベル、キャリアに対する価値観など、そういったニーズに配慮する必要があるのかと思います。「見抜く」のアプローチならば、企業研究が出来ていない学生に対しては「不合格」と評価する。でも、「育成」のアプローチならば、そういう学生に対して「レクチャー」するわけですよね。面接の捉え方で、対応が180度違う。
服部: 自社において面接とは、「評価(見抜く)」の場で良いのか?ここについて熟考する姿勢が大事ですね。
神谷: 説明会でも、面接でも、たとえエントリーシート1枚であっても、すべて同様のことが言えますよね。一般論に流されず、「自社に適したアプローチをしているのか?」と問い直す姿勢から採用の成果は生まれるんでしょうね。
― 有難うございます。「見抜く」という機能のほかに、例えば、組織の納得を促すという意味や、育成を促すという意味が見出せる訳ですね。特に、育成については中小企業や、なかなか母集団を集められない企業においては重要なアプローチですよね。量の不足や質の低下を嘆くのではなく、面接のプロセスで学生を育てる、ですね。本日は貴重なお話を有難うございました。
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次回は面接における具体的なコミュニケーションについて、さらに深く語って頂きたいと思います。今後も、採用施策の様々なテーマについてお二人にお話頂き、毎月記事を更新していこうと考えています。
- 人材採用・育成 更新日:2017/05/31
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