日系企業のアルムナイ活用事例③〜退職後も続く緩やかなつながりが、新たなキャリアとイノベーションを生む〜(日本航空株式会社)〜
多様な人財が活躍できる環境を整え、組織の成長を実現する取り組みに注力している日本航空株式会社(以下、JAL)。最近ではJALから退職し、現在は他のフィールドで活躍している人財を即戦力として迎える「キャリアリターン採用」を実施しています。異なる環境での経験を活かし、成長できる環境を整え、キャリアリターン採用で迎え入れた社員一人ひとりの人財が持つ力を最大限に引き出そうとしているのです。
今回は人事部 採用グループ岩根拓也様に、事業戦略としてアルムナイコミュニティをどのように活用しているかについてお聞きしました。
Qそもそもどのような経緯で、アルムナイコミュニティを立ち上げることになったのでしょうか?
岩根 拓也様(以下、岩根): JALでは2023年から退職者向けの施策をスタートさせています。この取り組みを通じて、退職者向けの定期的な情報発信を行い、JALが描く経営方針やビジョンについてお伝えできるコミュニティを作りたいと思っていました。
その背景には、JALが中期経営計画の人財戦略として掲げている「多様な人材が多様なフィールドで活躍できる環境を整え、エンゲージメント向上と価値創造を実現」することへの挑戦があります。多様な人財が活躍できるフィールドを目指すためには、採用する人財の多様化について考えていく必要があります。
実際にそうした課題について採用チームの中で議論を重ね、多様な背景の人財をどのように集めるかについて意見を交わしました。その結果、過去のキャリアリターン採用の実績が配属現場社員から非常に好評だったことを踏まえ、アルムナイコミュニティを活用した「キャリアリターン採用」を導入してみることになりました。
Qアルムナイコミュニティを運営する上で、なぜ「YELLoop(エーループ)」を選んだのですか?
岩根: アルムナイコミュニティはほとんどゼロからの立ち上げだったため、より積極的にアプローチできる方法を考えて最終的に「YELLoop」を選びました。「YELLoop」はユーザーの情報が一元管理しやすく、SNS機能を活用したメッセージのやり取りもできるんです。JALからお伝えしたい情報を気軽に投稿できるので、非常に魅力的だと感じました。
コミュニティ運営自体がJALにとって初めての経験でしたし、ノウハウもないため最初は不安でした。しかし導入後に営業担当の方から「こういうコンテンツを掲載するのはいかがでしょう?」と具体的にアドバイスをいただき、大変助かっています。分析したデータを元に、コミュニティ内を活性化するための施策を一緒に考えてくれるので、ありがたいです。
Q「YELLoop」の導入目的について教えてください。
アルムナイコミュニティからの人財採用
岩根: 1つ目は、キャリアリターン採用につなげるためです。退職者との接点を維持し、スムーズにキャリアリターン採用ができる仕組みを構築することで、採用活動を補強したいと考えています。特定の人財や職種を採用したいわけではなく、JALにはない外部の視点を取り入れて学び、スキルアップしてきた方に大きな魅力を感じています。視野を広げてから「もう一度JALに戻って、新たに挑戦したい」という方を歓迎したいです。
再入社される方の多くは、企業理念への深い理解をお持ちです。「お客さまに最高のサービスを提供する」「企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献する」といった想いに共感し、自分の持っている能力を世の中に還元していきたいと考える方々とともに、社会の役に立つ事業の実現を目指したいと思っています。
まず、この1年でコミュニティに所属する人数を増やしていくために、事務局を立ち上げ、母集団形成をしっかり進めていく必要があると思っています。最初の目標として100名のアルムナイコミュニティを結成し、年間10名の採用を目指しています。
新たなビジネス機会の創出
岩根: 2つ目の目的は、ビジネス機会の創出です。新規事業を生み出し、付加価値を作り出すことに挑戦しようという風土がJALに根付いていることもあり、「一緒に新しい付加価値を提供する」ための場にできればと考えています。
具体的には、アルムナイとのネットワークを活かして協業の可能性を探り、個々の強みやキャリアの方向性を共有できるような仕組みを整えていきたいです。JALとしても「今後はこういうチャレンジをしてみたい」という情報を提供していくつもりです。
アルムナイコミュニティとは別の動きですが、すでに客室乗務員が「JALふるさとアンバサダー」として、地域活性化のためのプロモーション活動や特産品の企画・PRを行う実績もあります。他にも、京都の老舗和菓子店とのコラボで新しい和菓子を企画し、販売したこともありました。
また、味の素株式会社と協働し、機内食の開発なども行っています。
こうした実績を活かし、既存の枠にとらわれない新たなアイデアを実現していければ良いですね。自由にチャレンジできる環境は整っていますので、新規事業が生まれやすくなるのではないかと期待しています。
Q実際に活用してみて、社内外からの反響はいかがでしたか?
「キャリアリターン採用」と合わせた活用への期待
岩根: 「YELLoop」に参加するタイミングは退職時になりますが、もちろん参加するか否かは個人の自由です。今年から導入したばかりなので、これまでの退職者全員に連絡がとれておらず、まだまだ「YELLoop」への参加を促しきれていない状況です。しかし、既に参加いただいた方からは当初の想定以上の反響を得られており、JALの中でも目を見張る活躍をされていた方も多くいらっしゃいました。
中には、数年間別の企業で経験を積み「キャリアリターン採用」を利用して戻ってきた方もいらっしゃいます。社内で顔を合わせると、非常にイキイキとした表情で働いています。退職前とは違う部署であっても、ご自身の知見や経験を活かして着実にキャリアアップできているのではないでしょうか。
例えばJALで人事総務の仕事をしていた方がデータを扱うIT企業へ転職して同じ人事総務の経験を他業界で積み、再び戻ってきたことがありました。転職先での経験を通じてデータ分析のスキルが備わり、以前とはまた違った領域で活躍できるようになった例もあります。
今後はこうした例がさらに増え、組織内の活性化につながると感じています。
ここでしか得られない最新情報が、アルムナイコミュニティの価値に
岩根: 既にコミュニティに参加している方からは「コミュニティに属しているからこそ得られる情報が欲しい」との声がありました。
基本的に会社から外部へ発信される情報は、プレスリリースなどを通じて誰でも得ることができますが、世間にオープンにできない・するまでに時間がかかる情報もあります。社内の見通しや採用に関する情報をいち早く得ることができれば、コミュニティに参加するメリットにもつながりますから、試行錯誤しながらコンテンツを充実させていく予定です。
現在、力を入れている「キャリアリターン採用」についても、より多くのアルムナイの方に知っていただきたいと思っています。実は通常とは異なる選考フローをご用意しているのですが、こうした採用方式があることはあまり知られていません。もちろん、採用HPなどにも掲載しているのですが、「YELLoop」を通じて広くアピールし、現在の経営方針をはじめ、会社の採用方式についてわかりやすく伝えていけるようにしたいです。
実際に、社内の働き方に関する情報は年々アップデートされています。テレワークの実施率や、産休・育休の取りやすさなども数年前と比べるとかなり変化しました。過去にはほとんど例のなかったワーケーションも、最近では利用している社員が増え「JALで働く魅力」となっています。
そうした情報をより充実させ、「もう一度JALに戻れば、こういう働き方ができるのか」と具体的にイメージしていただけることが大切なのだと、改めて思いました。
Q今後、アルムナイを促進するためにチャレンジしてみたいことはありますか?
リアルな声を反映したインタビュー記事を企画中
岩根: これからやってみたいこととしては、キャリアリターン経験者への個別インタビューです。「なぜJALを離れたのか」「なぜまた戻りたいと思ったのか」など、アルムナイのメンバーが気になるポイントを記事としてまとめ、生の社員の声を載せていきたいです。
以前、アルムナイコミュニティでアンケートを実施したことがあるのですが、最も多かった意見は「 戻ってきた社員の声を直接聞きたい」というものでした。自分と同じような境遇の方が、どのようなキャリア形成をしているのかに興味関心が集まっているようです。実体験から得た学びを共有することで、自身のキャリアを見つめ直すきっかけにもなるでしょう。
また、人財本部の部長にも「アルムナイに対する想い」を率直にお聞きし、公開したいと考えています。キャリアリターン採用について感じることや、期待などについても発信したいです。
対面式のコミュニケーションによるリアルイベントの開催
岩根: また、参加者数がもう少し増えてからになりますが、対面式のリアルイベントにもチャレンジしたいですね。
「YELLoop」でのコミュニケーションは、テキストベースのものが中心になりますから「文字でのやり取りは少し苦手」という方でも気軽に話ができるような場づくりも必要です。対面でのイベントであれば名刺交換をしながら話が弾む機会もあるでしょうし、今後のビジネスチャンスの創出につながる可能性も広がります。他社とのコラボ実績についても気軽に発信しやすくなると思います。
アルムナイによるリーダーシップでイノベーションを生む
岩根: おそらくJALだけに限らず、退職すればそれまでの会社との関係は途切れてしまう方がほとんどだったと思います。しかし、退職後も引き続きつながりを持ち続ければ、新しい価値が生まれるかもしれません。そうした可能性を社内に向けて積極的に発信していきたいです。
他社で培った知見をJALで広げ、リーダーシップを発揮していただければ、社会的にも大きなインパクトを与える価値が生み出せるのではないでしょうか。会社の事業成長のみならず、JALが理念として掲げている「社会の進歩発展に貢献する」という点も実現できることになります。「YELLoop」の活用はさまざまな可能性を広げてくれそうです。
- 人材採用・育成 更新日:2024/10/30
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