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人事の領域を超え経営戦略に!優良企業が積極的に取り組むアルムナイネットワークとは

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中途退職した元社員とのつながりを強化する「アルムナイ制度」を積極的に活用する企業が増えてきました。
元社員を即戦力として再雇用するという人事面のメリットや、採用ブランディングとしての活用はもちろんのこと、最近では新たな事業創出など経営戦略としての側面にも注目が集まっています。

本記事では、アルムナイ制度の推進に積極的に取り組む企業の活用事例を紹介します。

アルムナイ制度とは

「アルムナイ(alumni)」とは本来、学校の卒業生やOB・OGを意味しますが、人事領域においては、定年退職以外の退職者、離職者を指す言葉として使われています。*1, *2

アルムナイ制度推進の背景

現在は人材雇用の流動化が進んでいます。*1
終身雇用制が崩壊しつつあり、キャリア採用が拡大する一方で、副業を望む人が増え、フリーランス人口が増加しています。
多くの企業が多種多様な雇用形態を容認し、複数の会社で働く人も増えています。
このような状況から、人材雇用は今後ますます流動化が進むものとみられます。

さらに、生産年齢人口の減少やAIの台頭による労働領域のシフトなどにより、優秀な労働者の獲得競争が激化することが予想されています。

雇用の流動化や人手不足という状況下で、アルムナイの「カムバック採用」は即戦力の確保だけでなく、企業ブランディングの向上にもつながるため、企業によるアルムナイ制度の活用が進んでいるのです。

メリットと留意点

アルムナイ制度を活用することには、以下のようにさまざまなメリットがあります。*2

  • 即戦力の確保・人材開発
  • 採用コストの削減
  • 採用ブランディング・インナーブランディングの向上
  • 顧客・パートナーとしての協業・ビジネス連携
  • 社外の有益な情報収集

このうち、ブランディングや協業・ビジネス連携は、人事をこえた経営戦略といえます。

一方、アルムナイ制度の活用には、留意点もあります。
まず、アルムナイとの関係維持には時間やコミュニケーション上のコストがかかります。

また、アルムナイ制度を導入する際には、あらかじめ会社内での理解を醸成し、体制づくりを行い、再雇用のための条件を明確にするなどの対策が必須です。

アルムナイ制度と相性が良い組織形態は、ジョブ型(職務型)雇用であることにも留意が必要です。

アルムナイネットワークの重要性

アルムナイネットワークとは、「その企業の元従業員で形成されるコミュニティ」を指します。*3
採用手法というだけでなく、経営戦略という観点からも、このアルムナイネットワークは重要です。

経済産業省が2022年5月に公表した「人的資本経営の実現に向けた検討会」の報告書「人材版伊藤レポ ート 2.0」でもその重要性が指摘されています。*4

同レポートでもっとも重要視されているのが、「経営戦略と人材戦略との連動」です。
「経営陣においては、企業理念や存在意義(パーパス)、経営戦略を明確化した上で、経営戦略と連動した人材戦略を策定・実行すべきである」と述べられているのです。

経営戦略の実現には、必要な人材の質と量を充足させ、中長期的に維持することが必要となります。
「そのためには、現時点の人材やスキルを前提とするのではなく、経営戦略の実現という将来的な目標からバックキャストする形で、必要となる人材の要件を定義し、人材の採用・配置・育成を戦略的に進める必要」があるのです。

こうした文脈から、同レポートでは、CEO(最高経営責任者)とCHRO(最高人事責任者)は、社員が社外で有効な経験を積んで自社に戻ることを奨励し、アルムナイネットワークの活用を検討することを提唱しています。

企業の活用事例

第一生命経済研究所によると、2024年2月14日の株式時価総額上位30社のうち、12社がアルムナイネットワークを、19社がアルムナイ採用を導入しています。*3
それらの活用事例をみていきましょう。

活用手法 *3

まず、アルムナイ制度を活用する際の手法についてみていきます。

アルムナイに関する情報収集

ネットワークに入会する際、アルムナイはプロフィールや現在の勤務先、経歴、保有スキルや資格などを名簿登録するため、企業はそれらの情報を収集することができます。
現在、ネットワークへの登録者数が1,000名を超える企業もあります。

アルムナイへの情報提供

ネットワーク内のコミュニケーションツールを活用して、アルムナイに対して企業情報を定期的に発信している企業が多く、そうした情報の中には、現在の企業の取り組みや採用情報、社内報など、社外の人が一般には知ることができないものも含まれています。

交流イベントの開催

対面あるいは非対面で、企業の現従業員とアルムナイとの交流イベントを定期的に開催している企業もあります。
なかには、交流イベントの第1部で企業の役員とアルムナイとのパネルディスカッションを、第2部でアルムナイとの懇親を実施した金融機関もあります。

アルムナイ採用の窓口

アルムナイネットワークを導入している企業のほとんどがアルムナイ採用を実施しています。
ネットワークを通じてアルムナイとつながりを持ち続け、アルムナイに自社の魅力を改めて感じてもらい、再雇用につなげるケースもみられます。

以上は企業による活用事例ですが、従業員とアルムナイ、あるいはアルムナイ同士がネットワークのチャットツールを活用してコミュニケーションをとることもあります。
なかには、転職に関する相談や、育児・趣味などプライベートに関することについてのやりとりもみられます。
また、個人間のやり取りだけでなく、グループチャット内で情報交換を行っている事例もみられます。

取り組み事例

アルムナイ制度を積極的に活用している主な企業として、住友商事、三井住友海上火災保険、野村ホールディングス、SMBC日興証券、みずほFG、味の素、三菱電機、トヨタ自動車、三菱ケミカル、ロート製薬、日本製鉄、荏原製作所、ニトリなど多くの企業が挙げられます。*5, *6, *7, *8

ここでは、双日株式会社の取り組み事例をご紹介します。
同社は2021年4月にビジネスネットワークを構築するプラットフォームとして「双日アルムナイ」を設立しました。*7
これは、退職者による設立の提案を受け、賛同・公認し、運営を支援するものです。

退職後も経済・社会活動を続ける双日(ニチメン、日商岩井も含む)のOB・OGと双日役職員との人的ネットワークの形成・拡大により、ビジネス領域の拡大を促進しています。

それは、労働力不足や労働に関する価値観の変化、兼業・副業といった新たな労働スタイルの浸透など、外部環境が大きく変化するなか、同社で働く社員が高いモチベーションを持ち、多様な働き方を実現できる選択肢を増やしていくためです。*9

また、同社にとっての事業機会やオープンイノベーションのきっかけを創出していくために、現状の事業領域にとらわれない新たな事業機会を増やすことを目指しています(図1)。

なお、図1にある「ジョブ型新会社」は商社初のジョブ型高度人材ファーム「双日プロフェッショナルシェア(SPS)」として既に設立されています。*10

双日アルムナイの具体的な活動は、各種プロジェクトへのアドバイスや事業創出のサポート、ファンディング先の紹介・確保、各種発表会などでの審査、セミナーや講演会の開催、双日役職員との定期・個別会談、意見交換会など多岐にわたります。*9

手法としては、以下の3点が挙げられます。*11
まず、充実した名簿機能です。アルムナイメンバーの現職を一覧で見ることができるため、同期や部署にとどまらず、つながりを広げることができます。

次に、日頃使い慣れているSNS機能で、アルムナイ同士や役職員との気軽なメッセージのやりとりや情報交換が可能です。

また、1on1メッセージ機能を使えば、直接面識のない相手とも気軽にコミュニケーションをとることができます。

こうした交流によって以下の図2のような、さまざまな効果が生まれることが期待できます。*9

この図からもわかるように、アルムナイ制度は人事の領域を超え、経営戦略として位置づけられています。

おわりに

これまでみてきたように、企業はアルムナイとのつながりを活用することによって、オープンイノベーションを促進し、新たなビジネスチャンスの創出やブランド価値の向上を実現することが可能です。

採用手法として注目されるアルムナイ制度ですが、こうした経営戦略としての側面にも目を向けてみてはいかがでしょうか。

参考

  • Person 横内 美保子

    横内 美保子 -

    博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

  • 人材採用・育成 更新日:2024/08/08
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