採用前に知っておきたい、リスク人材を見極めるポイントとオンボーディングの実践方法
企業の人事部では、現場を巻き込みながら選考を重ねて人材を採用するのが一般的です。しかし採用した人材が実際に働き始めると、現場から「なんでこんな人材を採ったんだ」と声があがることは少なくないようです。
よさそうな人材だと判断して採用したものの、本人の申告と入社後の実際の働きぶりに乖離があるケースのほか、求めるスペックは備えていたのに、入社後に企業カルチャーとマッチせず離職してしまうケースもあります。
背景には、求職者の面接テクニックとリテラシーの向上があります。インターネット上の情報をもとに対策をして適正試験や面接に臨む求職者が増えたため、従来の選考方法ではその実力値を判断するのが難しくなっているのです。
加えて、売り手市場であることも影響しています。選考にはスピード感が求められますが、短期間で人材の本質を見抜くのは困難です。
採用の失敗・ミスマッチの発生要因は、「人材の見極めの失敗」と「入社後のオンボーディングの失敗」の2つに大きく分けられます。
前者には、想定していたスキルや期待値との乖離があったケースのほか、面接で確認したはずなのに勤務状況や勤務態度に問題が発覚するといったケースがあります。後者には、受け入れ体制の未整備のほか、上司や同僚と相性が合わない、企業のカルチャーと合わないといったケースがあります。
なお、採用の失敗・ミスマッチは、約14%の確率で発生するといわれています。また、新人が3ヶ月で離職した場合の経済的な損失は、一人当たり187.5万円といわれます。
以上のような課題や現状から、採用では、リスクを想定した選考プロセスの策定が必須といえます。「求める人材像」はもちろん、「求めない人材像」についても定義しておくべきでしょう。また、自社に失敗事例があるならば、その失敗事例を収集・分析し、採用活動のPDCAサイクルを回していく必要があります。
【まとめ】
■採用における企業の課題感
- 本人の申告と入社後の働きぶりに乖離がある
- 入社後に企業カルチャーとマッチしない
■背景にある事情
- 情報社会が発展し、求職者の選考・面接対策のテクニックが向上したため、従来の選考方法では実力値の判断が難しくなっている
- 売り手市場で選考にスピード感が求められるため、短期間で判断しなければいけない
■ミスマッチ・失敗の主な原因
- 採用時の見極めの失敗
- 入社後のオンボーディングの失敗
■課題感への対策
- リスクを想定した採用選考プロセスの策定
- 失敗事例の収集・分析をして、採用活動のPDCAを回していくこと
- 入社後の計画的かつ適切なオンボーディング
リスク人材採用に関する成功例と失敗例
続いて、私が過去に採用担当者として体験した事例をご紹介します。
■成功例1
新規開拓営業職の採用で、経歴、実績、人柄のいずれも申し分ない人材。しかし面接官が志望動機を確認した際に、回答内容と態度にやや違和感を感じた。
そこで本人の確認をとってバックグランドチェック(※)を実施したところ、前職で顧客と金銭トラブルを起こしていたことが発覚。業務特殊性の観点からリスクが大きいと判断し、採用を見送った。
※応募者の経歴に関する情報が真実であるという裏付けを取るための調査をすること
■成功例2
企画業務系事務専門職の採用で、当該分野の知識やスキル以外に、組織内外での「根回し」などが求められる特殊性のある業務だった。ある応募者について、スペックは申し分ないものの寡黙な人柄が気になったことから、本人の同意を得てリファレンスチェック(※)を実施。
その結果、申告通りのスペックである上、「根回し」面でも必要な能力を備えていることが確認され、採用した。その後、無事に定着もしている。
※書類や面接ではわからない応募者の情報を、一緒に働いたことのある第三者(現職・前職の職場の上司や同僚など)から取得し、マッチング精度の向上や入社後の育成に活用すること
成功例1は、リスクになっていたかもしれない人材をバックグラウンドチェックにより見極めることができたケースです。採用には至っていませんが、リスク管理の観点からは成功例といえます。
一方の成功例2では、人柄の面で不安がある人材に対してリファレンスチェックを実施した結果、問題ないことが確認されて採用に至り、入社後も無事に定着しています。
■失敗例1
技能系専門職の採用で、人柄の面で好感が持てる上、技能試験の結果も良好な人材。
前任者の退職日まで余裕がなかったこともあり、急いで採用に踏み切った。
ところが入社後、勤怠面での問題や、職場の規律を逸脱する行動が散見された。後に、前職以前でもトラブルメーカーだったことが判明。
■失敗例2
IT系スタッフ職の採用。転職歴はやや気になったものの面接の印象は良好で、当該業務に必要とされる資格を多く取得しており、専門分野の口頭試問も申し分ない人材だった。
しかし入社後に、対人コミュニケーションに難があり、「単独で遂行する閉じた仕事」しかできないことが発覚。補助的な業務に従事させざるを得ず、早期退職という結果となった。
失敗例1は、採用を急いだ結果、リスク人材であることを見抜けなかったケースです。
失敗例2は、見極めの失敗により早期離職となったケースです。先に述べた通り、採用した人材が早期離職する場合、多大な経済的損失が生じます。
リスク人材を採用しないための予防策
では、問題のある人材を採用してしまうリスクを回避するには、どうしたらよいのでしょうか。予防策の一つが、面接での質問の仕方を見直すことです。
下記は、リスク人材見極めの5つのチェックポイントです。
今回は、5つのうちスペックとメンタルをピックアップして、面接における質問の構造を考えていきましょう。
面接でスペックを確認する方法
人材の職務適性を把握するには、面接での質問によって得た候補者の経験、成果、行動などの情報から、その人の具体的な行動事実を抽出する必要があります。
面接での質問は、応募者の価値観や考え方を確認するための質問と、応募者の経験や行動事実を抽出するための質問の2つに大きく分けられます。2種の質問を駆使しながら、面接を展開していくのが採用面接の基本テクニックです。
下記に、2種の質問の例を挙げます。
- あなたは、困難に直面したらどのように乗り越えますか?
- あなたが困難に直面して乗り越えた経験について、具体的に教えてください
採用面接の前提には、「過去にできた行動は繰り返しできる」という考え方があります。ですから、質問で応募者の過去の具体的な行動事実を確認できれば、その職務に関しては適性や能力があると判断できます。
上の例でいうと、Aの質問への答えは、あくまで「こうすべきだと思う」という応募者の考え方です。もちろん考え方や価値観も重要ですが、これだけでは応募者が実際に行動できるかどうかはわかりません。
面接における判断の精度を上げるためには、Aの質問をした後、さらにBの質問をして職務経験(行動事実)を聞き出し、Aの質問で聞いた考え方、価値観と照らし合わせて判断する必要があるのです。
さらに、STARSと呼ばれる質問法も、面接の構造化に役立ちます。
この例では、前職における一連の成果についてSTARSを活用して質問し、応募者の話を構造化しています。
STARSでは、「いつの出来事か」「どんな状況だったか」というSituation(状況)、ゴール設定やチーム体制などのTask(課題・役割)を確認した上で、Action(実際の行動)について深く掘り下げていきます。
続いて、その行動のResult(結果)について確認し、最後に、「その成果の成功要因が何だと思うか」といった質問で、応募者のSelf-Appraisal(自己評価)を把握します。
なお、上の図では一問一答のように記載していますが、実践する場合は一問一答ではなく、各項目で複数の質問を重ねて、応募者の話を構造化していきます。構造化した結果、具体性に欠ける部分があれば、さらに質問をして掘り下げる必要があります。
面接でメンタル面のリスクを確認する方法
次に、メンタル面のリスクの確認方法を見ていきます。面接中に見ることができるのは、応募者のストレス感応度だといわれています。
面接では、上の図のような座標軸で考えるとよいとされています。「応募者本人がストレスを感じやすい要因を知っているかどうか」、「ストレスに遭遇した際の除去の仕方を知っているかどうか」という2軸で質問をして、ストレス耐性を見ていきます。
具体的な面接での質問の仕方としては、主に下記の4つが考えられます。
- あなたはストレスを感じたことはありますか?
- あなたにとってのストレス要因は何ですか?
- ストレスを乗り越えた経験を教えてください
- 入社にあたり、健康面・メンタル面で当社に申告しておくべきことはありますか?
さらに2と3の間に、「あなたなりのストレスの 解消方法はなんですか?」という質問をしてもよいかもしれません。
あくまで相対的な評価ではありますが、これらの質問への回答から、応募者のストレス感応度が、上の図の何色の部分に当てはまるかを判断することができます。
たとえば自分がストレスを感じやすい要因を知っていて、ストレスに遭遇した際の自分なりの除去の仕方と実際にそれを実践したことがある応募者は、最もストレスへの適応力が高く、図の右上の緑色の部分に分類されます。
一方、ストレスを感じやすい要因もストレス除去の仕方も知らず、実践したこともない場合は、最もストレスへの適応力が低く、左下の赤色の部分に当てはまります。
面接での評価は自己申告によるものなので、実際の選考では、適性検査の「ストレス耐性」の項目とあわせて判断するとよいでしょう。
採用した人材の早期離職を防止するための打ち手
ここからは、入社後のオンボーディングについて、どこに着目してブラッシュアップしていけばよいのかを解説していきます。
まずは、OJTの現場で指導する側が直面する問題を見てみましょう。たとえば、新人が与えた仕事について考えずに「どうやるんですか」などと聞いてくるケースや、「わからない」と言えないために指示と異なるものが仕上がるといったケースにおいて、上司は新人に不満を抱きがちです。
ただし一方で、新人の側も、上司や先輩に対して不満を抱いています。指導される側の困り事として多いのが、五月雨的に仕事を振られるケースや、ざっくりとした指示で仕事を振られた末に、「あとはこちらでやるから」と途中で巻き取られるケースです。
教えられる側にとって、ゴールが見えないまま走らされるのはつらいものです。また、教える側も疲弊してきます。
そこでOJTには、「計画的・継続的」要素と、「継続的・意識的」要素が必要だといわれています。
この流れがちゃんとできているかを確認し、人事と現場で共有しておきましょう。
続いて、OJTについて、「計画的・継続的に指導する」と「継続的・意識的に指導する」という2つの切り口に分けて、より詳しく見ていきましょう。
計画的・継続的に指導する(指導の見える化・共有化)
OJT計画については、作成や実践ができていない企業も多いようですが、計画が見える化・共有化されていると、「何ができていればOKか」「今何をすべきか」が明確になり、新人が仕事へのモチベーションを保ちやすくなります。
計画を作成する際には、まず「一人前像(ゴール)」を決めた上で、「経験させる仕事(to do)」を作り、その後、「経験させる時期(スケジュール)」を決めるという順番で進めましょう。
下記は、あるスーパーマーケットの野菜・果物売り場における6ヶ月間のOJT計画を簡略化したものです。
上記の例では、新人が入社してから3年後の「一人前」のゴールイメージと、半年後のゴールイメージを明確にした上で、どのタイミングでどんな仕事を経験させるかという具体的なスケジュールを記載しています。
また、陳列や接客、セール時間の声出しといった仕事内容ごとに、どんな状態になればその仕事が習得できたといえるのかも定義しています。OJT計画の一例として、計画作成時の参考にしてください。
継続的・意識的に指導する(日々のコミュニケーション)
継続的・意識的に育成・指導するには、日々のコミュニケーションを再点検する必要があります。
仕事の指示を出す際、受ける際のポイントは、教える側、教えられる側の双方が、下記の「5W1H」を意識することです。
Why……業務の目的は?
What……業務の完成イメージは?
Who……業務の相手先、担当者、関係者は?
How……どのように仕事を進めるか?
When……中間報告のタイミング・仕事の納期は?
Where……場所は?
教えられる側は、上司の指示命令を傾聴するだけでなく、不明点についてしっかり質問することが重要です。
ほめる際、叱る際にも押さえるべきポイントがあります。
■ほめ方のポイント
- 事実をほめる
- タイミングよくほめる
- 心からほめる
- 人前でほめる
■叱り方のポイント
- 事実を叱る
- タイミングよく叱る
- 心から叱る
- 人前で叱らずに、個別に呼んで叱る
- ほめる言動と叱る言動を同時に行わない(例:君は頭の回転が速いが、納期を守らないね)
ただし、叱る際には、ハラスメントにならないように注意しなければなりません。ハラスメントの定義については、厚生労働省のサイトを参考にしてください。
叱ることが苦手な人は、下記のDESK話法を取り入れるのもよいでしょう。
■DESC話法(話し方の4つのステップ)
- Describe(描写する):良い/いけない事実を伝える
- Express(表現する:なぜ良い/いけないのか?(理由や影響範囲)を伝える
- Specify(提案する):あなたからの解決策を提案する(一緒に考えても良い)
- Consequence(結果・成り行き):「そうしてくれれば~できる」を表現する
最後に、報連相について確認しましょう。下記の図は、報連相の基本ステップです。
マイナビではオンラインリファレンスチェックサービスである「TRUST POCKET(トラストポケット)」を提供しています。
TRUST POCKETは、「前職の引継ぎを当たり前に。」をコンセプトとした、求職者の現職や前職の上司・同僚などから、働きぶりのレビューを取得できるサービスです。求職者が過去に積み重ねた実績を客観的に評価することで、ミスマッチを軽減し、より精度の高いマッチングを可能にします。
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- 人材採用・育成 更新日:2024/01/26
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