未払い残業代の消滅時効が3年に!未払い残業代が引き起こす事態
さて、去年に民法改正がありました。改正後の民法では、債権の消滅時効は原則として5年間です(166条1項)。しかし、労働基準法は改正がなかったので2年のままです。労働基準法で、かえって未払い残業代の消滅時効が短くなってしまいます。そこで、当初は改正後の民法の規定に合わせて、未払い残業代の消滅時効も5年にしようという流れがありました。
しかし、企業にとっては大幅な負担増となることが予想されます。2年分しか請求されないと思っていたのに、いきなり5年分請求されると考えれば、反対が起こるのも無理はないでしょう。労使それぞれの利益の代表がお互いに譲らない中で、2019年12月27日に厚生労働省は折衷案として、未払い残業代の消滅時効を当分の間3年としました。
未払い残業代請求で怖いのは、労働基準法114条による付加金を上乗せして払わなければいけないということです。従って、単に未払金を払えば終わりというわけではなく、場合によってはかなりの高額になります。もちろん、債権としての遅延損害金がつくことを忘れてはいけません。「MITダイニング事件」(東京地裁判決 平27(ワ)9374号)では、被告の経営する飲食店で働いていた原告が、未払給与、通勤手当、残業代と遅延損害金の支払いを求めて訴訟を起こしました。
判決では、未払い賃金および残業代の一部について労働者側の請求が一部認容されました。企業側は、残業代合計165万146円と、遅延損害金と付加金を支払うことになりました。また、判決では労働法第114条に基づく付加金は残業代と同額の165万146円とするのが相当であるとしました。
MITダイニング事件から学べる教訓は、未払残業代だけ後から払えば良いというわけではないということです。残業代に加えて、遅延損害金や残業代と同額の付加金まで支払うことになる可能性があるのです。
今回の原告は1名であり残業代は約165万円でしたが、同額の付加金を含めた合計金額は倍の約330万円です。もし同じような状況の労働者が複数名いて、それぞれに未払残業代と遅延損害金を求めたとしたら、企業の財務状況は大変なことになるでしょう。残業代と同額の付加金の支払いが命じられることもあります。
未払残業代は本来支払うべきものですが、遅延損害金と付加金は正しく労務管理し、残業代を適切に支払っていれば払う必要のなかった金銭です。未払残業代が発生しないようにしっかり労務管理をすることが、企業を訴訟リスクから守ることに繋がります。
- 労務・制度 更新日:2020/04/15
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