役職定年を導入するメリット・デメリットは?社員活性化の方法と注意点などを解説
役職定年とは、管理職などの役職に就いている社員が所定の年齢に達した時に、その役職を離れる制度をいいます。
ある調査 によれば、役職定年制を導入している企業の割合は全体で28.1%、3~4社に1社程度の導入率となっています。
役職定年が導入された背景
役職定年が導入されるようになった背景としては、以下の点が挙げられます。
●定年延長などによる人件費抑制や組織若返りの必要性
企業における定年制はこれまでも徐々に延長され、2025年からは65歳で義務化されることになっています。勤続年数によって定期昇給を行うような企業では、雇用期間が延長されることでの人件費負担増への対応が必要となります。また、役職者についても、従来からの日本企業では、一度役職に就けば原則降格がないところも多く、人件費の増大や高止まりと合わせて、組織の世代交代に停滞が起こっていました。こういった流れの中から、人件費の抑制、組織の若返りや世代交代を図ろうとする動きが出始め、その一環として役職定年の導入が広がってきました。 雇用期間の延長に伴う人件費抑制と、組織の世代交代を進める動きが役職定年を導入する大きな背景となっています。
●定年功序列、終身雇用制度の崩壊による環境変化
多くの日本企業では、組織運営における年功序列の考え方がありました。そのため、一定年齢でおおむね一律に役職任命される形が続けられてきました。しかし昨今は、多くの企業で成果主義的な手法が取り入れられ、年功によらない昇格や昇進、役職任命が一般的になっています。 こうした社会環境の中で、かつてのように年齢や勤続年数によって任命された役職者を残すことはつじつまが合わなくなってきており、このことも役職定年が導入される背景の一つとなっています。
役職定年のメリット・デメリット
役職定年の導入によるメリットとデメリットを、確認していきましょう。
役職定年のメリット
●世代交代を進めることができる
これまでの日本企業では、終身雇用ととともに、年齢や勤続年数に比例して給与や役職が上がっていく年功序列が一般的でした。ただ、年功をもとにした役職任命は、役職者の交代や降格が行いづらく、人材の固定化が起こりやすくなります。その結果として、組織運営が硬直化したり、新たなアイデアが生まれにくくなったりするなど、環境変化に対応できなくなる懸念がありました。 ここに役職定年を導入することで、役職者の若返りと組織の新陳代謝が図られ、組織運営の活性化、新規アイデアの創出、変化対応力の向上などが期待できます。
●次世代幹部を育成する環境を作ることができる
年功的な役職任命では、一定以上の年齢でなければ役職に就くことができず、またポストが空くまで相応の時間がかかります。どんなに優秀な人材であっても、役職者になるまで長い年数を要してしまうのです。
次世代幹部や若手社員の育成を考えたとき、その能力によって早い段階から管理職を経験させることが好ましく、年功序列では若手人材の成長機会をつぶしてしまいます。成長が望めない環境では本人の成長意欲は下がり、離職につながってしまう恐れもあります。
役職定年の導入によって、次世代幹部や若手社員が役職に就く機会を増やすことができ、より早い時期から管理職経験を積むことができるようになります。能力や意欲に見合った成長ができる環境があることは、若手社員のモチベーション向上につながることも期待できます。
●シニア社員のキャリア形成ができる
昨今の人材不足の環境下では、シニア社員の活用、活躍は重要なテーマの一つです。役職定年は管理職を離れて年齢が上がっても、個人の志向に合わせて働き続けられる制度ということができます。
そのためシニア社員のキャリア形成が行いやすくなり、長く働けることへの安心感や仕事への意欲向上につながるでしょう。
役職定年のデメリット
●役職から外されることによるモチベーション低下の恐れ
これまで役職者として、責任感を持って仕事に取り組んできた立場からすれば、一定年齢で一律に役職から外されてしまうことは、仕事へのモチベーションが大きく低下してしまう要因になり得ます。
対象者には役職定年の意義や目的をよく理解してもらい、役職定年後の働き方を前向きに考えられるように、キャリアプランの提示をはじめ、さまざまな働きかけを行うことが重要です。
●若手社員の目標喪失、将来不安、ロールモデルがなくなるなどの悪影響
役職定年は、対象者だけでなく、一緒に働くまわりの社員にもさまざまな影響を及ぼします。役職定年後の仕事内容が魅力のないものであったり、仕事を干されたような印象があったりすれば、まわりの社員はいずれ自分たちにも降りかかってくることとして、それを肯定的にとらえることはできません。特に若手社員は将来不安を感じてしまうでしょう。
反対に役職定年者が意欲的にいきいきと働いていれば、周囲に良い影響を与えることができ、好ましいロールモデルとなります。若手社員にとっても、将来のお手本となる存在が身近にいるのは望ましいことでしょう。役職定年者の活躍は若手社員にとっても重要です。
●役職定年後の情報不足、職場での孤立のおそれ
役職定年によって役職から外れることで、資料が届かなくなったり所定の会議に呼ばれなくなったりといった環境の変化が考えられます。社内の情報が入らなくなり、さらに部下をはじめとした周囲とのコミュニケーション機会が減ることで、人によっては情報不足や孤立感を感じやすくなるでしょう。さまざまな環境変化が身体的、精神的な負担となって、業務に支障をきたす懸念もあります。他の社員と同様に、定期的な面談の機会を設けたり、別途フォローを行なったりすることも必要でしょう。
役職定年を導入する際の注意点と導入手順
役職定年を導入する際には、対象年齢の設定や給与の取り扱いなど、制度面ばかりを意識しがちですが、それよりも役職定年後のシニア社員の活用、活躍を考えていくことが重要です。
また、役職者の後継となる年齢層の社員が少ない、役職者候補の育成が進んでいない、人件費の削減効果が薄いなどの状況で役職定年を導入し、その後のデメリットが大きかったために廃止したというような例が見受けられます。導入の必要性は、自社の状況を見ながら十分な検討を要するでしょう。
また、導入する際の手順としては、以下の項目が挙げられます。特に社員の不利益変更に該当することがないように、十分な配慮が必要です。
1.制度の必要性検討、趣旨確認
自社の年齢構成や賃金の年功制の状況などから、制度導入の必要性を十分に検討しましょう。その上で、単なる賃金カットが目的ではないことなど、導入目的や趣旨を確認します。
2.対象年齢の設定
対象年齢の設定では、なぜその年齢なのかという具体的な理由を提示して、恣意的な設定ではないことを示します。
3.減給時の猶予期間、代替措置の設定
役職定年後は、基本的に減給となることが多いですが、激変とならないように猶予期間を設けるなど、何らかの調整や代替措置を検討、設定します。
4.労働組合、従業員代表からの意見聴取
会社の考えを一方的に押し付ける形にならないように、労働組合や社員側から十分に意見を聞き、出された意見については真摯に対応することが大切です。
5.就業規則、人事制度等の改訂
導入する制度に沿って、就業規則や人事制度の改訂を行います。変更手続きを法律に則って行うことは当然ですが、制度導入に関する各社員の個別同意文書なども、合わせて受領しておくことが望ましいでしょう。
役職定年後の社員を活性化するための方法
役職定年後の社員の活性化の方法としては、以下のような施策が考えられます。
●役職定年後のキャリアデザインを促す
役職定年は、それによって自身のプライドを損なったり、仕事上の目標を見失ってしまったりするなど、大きなインパクトを伴うことがあります。ここでは、あらためて自身のキャリアを見直し、再設計を促すことが重要です。
例えば役職定年者を対象にしたキャリアデザイン研修などを実施して、期待する役割などを示し、今後のキャリアを考えてもらう機会を作るといった方法があります。役職定年者が、新たな目標を持って活躍することができるようにサポートすることが大切です。
また、役職定年前の早いうちから情報提供を行うなど、役職定年に向けた事前準備を促すことも必要です。仕事内容や賃金の変化など役職定年後の情報を、随時提供しておくと良いでしょう。
●新たなやりがいを見出せるように働きかける
制度で決められたことであっても、役職を外れることで自己肯定感は失われがちになります。会社から期待されていないように感じてしまい、モチベーションも低下しやすくなります。
これを防ぐには、役職定年後も引き続き期待を伝えて、成果や行動を評価することが大切です。
この期待や評価を伝えるにあたっては、金銭だけでなく名誉、承認、感謝、成長、人間関係など、さまざまな形の報酬を与えることを意味する「トータルリワード」という考え方があります。役職定年では基本的に減給になることがほとんどで、金銭的報酬が失われるのに合わせて、意欲ややりがいも失ってしまいがちになりますが、非金銭的な「目に見えない内面的な価値」を報酬として考えることは、新たなやりがいを見出すための方法の一つとなり得ます。
自身の権限がなくなったり報酬が少なくなったりするマイナスがあったとしても、まわりからの承認や感謝、自己成長、円滑な対人関係など、非金銭的なさまざまな報酬があることで、仕事へのモチベーションを維持し、やりがいを持って取り組むことができます。仕事ぶりや成果をトータルリワードの視点で定期的に評価していくことが必要です。
●コース複線化など、本人の意思でキャリア選択可能な環境をつくる
役職定年者に一律で補佐的な業務に就かせるなど、本人の意思を考慮しない業務割り当ては、必ずしも経験を活かせないこともあります。加えて、業務を一方的に押しつけられた形となり仕事へのモチベーションを保つことが難しくなることもあるでしょう。この状況を避けるには、役職定年者が本人の意思でキャリアが選択できるように、キャリアコースを複線化する必要があります。
例えば、専門技術を活かして現場でスペシャリストとして活躍するコースや、部下や後輩の指導・育成役に専念するコース、経営陣や管理職の身近な相談役を担うコースなどが考えられます。
ある程度幅を持った選択肢の中から、本人がキャリアを選べるようにすることで、仕事への前向きな取り組みが期待できます。
●肩書などの呼称に配慮する
役職の肩書は、本人がそこまで意識していなくても、役割を自覚させて責任感や自己認識を持たせる効果があります。肩書がなくなることで、これまでの役割意識や責任感も失って、モチベーション低下につながる恐れがあります。
これを防ぐためには、本人の職務や能力に応じて、新たな呼称を設けることも必要です。「担当部長」のような一般的な呼称から、「○○アドバイザー」「○○スペシャリスト」「○○マイスター」などの呼称が使われることもあります。
職務や能力に応じた適切な役割呼称を用意することは、役職定年者の役割意識の醸成、モチベーションの維持向上といった部分で重要な要素となります。
●会社の枠を超えた学びを促す
役職定年によって、社内での組織的立場を高めることはできなくなりますが、ここで社外に視点を広げることができれば、自分の能力を客観視することや、新たな可能性に気づくチャンスにもなり得ます。
例えば、社外セミナーや勉強会、地域活動への参加、その他全く異なる環境で働いたり学んだりする越境学習を促すことで、役職定年者は新しいスキルや知識を身につけたり、新たな経験を積み上げたりすることができます。社外の学びを社内でも活かせるようにすることで、本人の前向きな取り組みと活躍につながることが期待できるでしょう。
●新たな管理職に「年上部下」に対するマネジメント、コミュニケーション方法を学ばせる
新たに管理職となる社員は、役職定年者より年下の場合がほとんどですが、年下上司と年上部下という関係は、お互いに過度な気遣いを生んでしまうことがあります。この関係性が、組織運営の上でマイナスになったり、職場の雰囲気を悪くしてしまったりする恐れがあります。
こういった問題に対応するため、新しく管理職となる年下上司には研修などを通じて、部下マネジメントやコミュニケーションに関する適切な手法を学んでもらう必要があります。
管理職のマネジメント力向上によって、役職定年者も前向きに業務に取り組むことができるようになるでしょう。
役職定年後のキャリアルート
役職定年後に考えられるシニア社員のキャリアルートとしては、次のようなものが挙げられます。
●引き続き同一部署で働く
役職定年後も引き続き同じ職場で勤務する形が、比較的多いでしょう。これまでの知識や経験、人間関係を活かすことができ、上司と部下のつなぎ役などの役割が期待できる一方、もともとの職場内での関係性で、例えばコミュニケーションがうまく取れていない、信頼関係が不足しているといった場合は、主に人間関係の悪影響やトラブルが起きてしまう恐れがあります。
対象社員や配属先部門の関係者との面談などを実施し、状況把握を行ったうえで配属することが必要でしょう。
●グループ企業や関連企業への転籍、出向
比較的関係の深いグループ企業や関連企業など、他の会社で新たな業務に携わる形態です。異なる環境で仕事の幅が広がり、自身のキャリアアップにつながる可能性があります。ただし、企業グループを形成しているなど相応の規模の企業でなければ実施することが難しい方法です。
●専門職への転換
社員教育やアドバイス、技術の継承などに特化した新たな専門職を設置して、その役割を担ってもらう方法があります。本人の適性や志向に合った役割が明確に与えられ、対象者の職務に対する意欲向上が期待できます。
役職定年後のキャリア形成で効果を生んだ事例
役職定年を導入して、その後のキャリア形成に効果を生んだ事例をひとつ紹介します。ある大手住宅メーカーでは、役職定年の導入と合わせて定年も65歳に延長し、さらにシニア社員の能力や実績・業績に応じた処遇と、育成担当や生涯現役などの複数のコースを設定しました。また、それぞれの志向に合わせた役割を担うことが可能となる人事制度も構築しました。
定年延長によってシニア社員の将来不安を回避したこと、役職定年後のキャリア複線化によって対象者の役割を明確にしたこと、のです。評価に応じた報酬制度によって減収のを抑制することができることなど、それぞれの施策の組み合わせが効果を発揮しています。
キャリアを複線化する施策は、あらゆる企業で導入が進められていますが、その中には、社内業務の公募や社内外での副業推進といった形で、本人の活躍の場を広げる取り組みを行っているところもあります。
まとめ
ここまで見てきたように、役職定年には世代交代が促進されて次世代幹部の育成や成長につながるなどさまざまなメリットがある一方、対象者のモチベーション低下や、組織内の上下関係が入れ替わることによって感じる働きづらさなどの課題があります。
役職定年のメリットを維持しながら、対象者がやりがいを失ってしまうような思いを抱かず、これまでと違う立場から力を発揮してもらうことは、会社と社員双方の発展のために重要なことです。
年令や立場を問わず、やりがいを持って働ける職場作りの一環として、役職定年を考えていく必要があるでしょう。
- 労務・制度 更新日:2022/09/15
-
いま注目のテーマ
-
-
タグ
-