ビッグデータの活用で人事施策を最適化する!~前編~
テクノロジー業界だけでなく、医療、警備システム、自動車業界など、さまざまな分野でビッグデータが活用されるようになってきています。「人事には、あまり関係ない……」と思う人もいるかもしれませんが、ビッグデータは、企業にとって最大の資産である人的資源を最適化するうえで、重要な役割を果たします。
今回ご紹介する“Optimize Your Greatest Asset — Your People: How to Apply Analytics to Big Data to Improve Your Human Capital Investments” (Gene Pease著、以下“Optimize Your Greatest Asset” )は、人事ビッグデータ分析によって何ができるのか、実例をまじえながら考察した本です。
この数年、さまざまなビジネストピックで「ビッグデータ」という言葉が聞かれるようになってきました。でも、「実はよく意味が分からない」「どれくらい大きければビッグデータなの?」と思っている人もいるのではないでしょうか。ビッグデータという言葉の定義は明確に定められていませんが、「テクノロジーの進化とソーシャルネットワークの進展、スマートフォンのようなデバイスが普及した結果、生成されるようになった多種多様で膨大な量のデータ」という意味で使われることが多いようです。
デジタルデータの流通量は急増しており、総務省の『平成27年版情報通信白書』(2016年4月現在で公表されている最新版)によると、
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「2005年の約1.6エクサバイトから2014年には約14.5エクサバイト(見込み)となり、2005年から2014年の9年間で、データ流通量は約9.3倍(同期間の年平均伸び率は28.2%)に拡大している」
といいます。
人事ビッグデータが注目されはじめた背景には、多種多様な情報がリアルタイムで入手できるようになったというIT面での環境変化があります。そして、経営戦略に根差した人材マネジメントの重要性が認識されるになってきたことも、ビッグデータへの関心が高まってきた理由のひとつです。
従来の人事部は、多くの企業において管理部門として位置づけられてきました。しかしながら、ここ数年は、経営層のパートナーとしての役割が求められるようになってきています。経営戦略に沿って、いつ、どの部署に、どのような人材をどのくらい配置すべきか把握し、状況に応じてスピーディーに人材を投入できる人事部が必要なのです。そのためには、入社年次や役職でひとくくりにした管理方法ではなく、従業員や採用候補者について、きめこまかに個別の人材管理を行うことが不可欠。さまざまな情報源からデータを吸い上げ、多元的に組み合わせるビッグデータの分析がここで役に立つのです。
“Optimize Your Greatest Asset”の著者ピース氏によれば、ビジネスリーダーたちは、意思決定の際により高度な方法でデータを利用するようになってきており、
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「組織内の他部署で高度分析が成果を上げるにつれ、人事においても人材分析を採用してほしいという期待が高まるだろう」
と予測しています。
さらに、
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「これまでも、マーケティング部や財務部をはじめとする組織内の多くの部署で予測分析が利用されてきたものの、人事や人材育成開発の分野では、従来あまりビジネスデータが使われることがなかった。だが、予測分析は、いま人事・人材育成開発におけるゲーム・チェンジャーとして認識されるようになってきている」
と、述べています。
ビッグデータの分析・活用は、今後、人事部が経営層から求められる重要事項のひとつになると言ってよいでしょう。
ビッグデータ分析がもたらす最大のメリットは、新しい知見です。企業内には、売上高、不具合発生率、従業員情報などさまざまなデータがありますが、これらは、特定の部署だけで利用されていることが少なくありません。しかしながら、多様な情報ソースから抽出した一見関連のなさそうなデータを組み合わせることで、あらたな洞察(インサイト)を得られる場合があるのです。
著者は、
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「年齢や性別といったデモグラフィック属性と、営業成績やパフォーマンスに関するデータを組み合わせ、従業員の労働力をセグメント化すれば、これまでは把握するのが難しかったパターンや傾向を見つけることが可能である」
とし、いくつかの事例を挙げています。
例えば、営業担当者の離職率の高さが懸案事項となっていた大手金融企業で、「前職」「営業成績」「離職率」を組み合わせて分析したところ、「前職で不動産営業を経験している営業担当者は、優れた成績を上げるポテンシャルが高いが離職率も高い」という結果が出たといいます。
この結果から、同企業の人事部では「不動産営業をしていた人は地域社会に多くのコネクションを持っており、おそらくこれが現職の営業にも活かされる。一方で、金融業での営業は、飛び込み営業や顧客を説得して取引銀行の変更をさせるような、前職とはまったく違う種類の能力が必要とされるため、思うように成績が上がらず、離職につながるのではないか」と予測しました。
この企業では、さらに人材分析を進め、離職率を下げる方法を開発しました。それは、どの求職者から面接すべきかという優先順位をつけるためのツールを含む、非常にプロアクティブな仕組みです。
このほか、“Optimize Your Greatest Asset”では、日本でも話題になった米ヤフーでの在宅勤務に関する方針の変更や、eBayの人材流出防止などに人事データ分析が利用されたとも述べています。
このように、人事部におけるビッグデータの活用は、今後ますます重要度を増していくと予見されます。後編では、すでに取り組みを開始している企業が、何を目的にどのようなプロジェクトを実施しているのか、課題は何かについてみていきます。また、離職率の改善で400万ドルの経費削減が可能であるという結果報告を出した調査実例も紹介します。
- 労務・制度 更新日:2017/01/26
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