ビッグデータの活用で人事施策を最適化する!~後編~
“Optimize Your Greatest Asset”では、人材分析を次の5つに分類しています。
- 分析データを金銭価値に変換する(例:仕事への満足度を金銭価値に変換)
- 複数変数間の関連性を調べる(例:「仕事へのエンゲージメント(熱意をもって、自発的に仕事にとりくむこと)と生産性の関連性
- 予測モデルを構築する
- プロジェクトが投資利益率に及ぼす影響の定量化を行う【5】投資利益率を予測する
このなかで、調査対象企業が実施していた(あるいは実施が計画されていた)プロジェクトの目的として一番多かったのが「複数変数間の関連性を調べる」というもの。続いて「プロジェクトが投資利益率に及ぼす影響の定量化を行う」となっています。
分析結果の使途としては「アクションや意思決定を促す」「プロセス、プログラム、ソリューションを改善する」がトップにあがっていますが、「人事機能に対する尊敬・敬意(respect)を得るために利用する」という企業も多く、半数近くにのぼります。これは、人事部の重要性を組織内で認識してもらうのに役立てるという意味であり、興味深い利用方法です。
さらに、同著では、プロジェクトを実施するうえで、何が障害となりうるかについても検証しています。
“Optimize Your Greatest Asset”では、データ分析をはばむ主な要素として、「データの収集・統合」「経営陣によるサポートの欠如」「スキルの欠如」「予算不足」をあげています。意外なようですが、ピース氏は、予算不足よりも、データの収集・統合のほうが問題であるとしています。
顧客のプロフィール分析や、売上分析など、組織内ではそれぞれの部門が、業務に必要なデータ分析を行いますが、単独よりも他部署と連携した分析のほうが有効なこともあります。しかしながら、部署ごとに使っているシステムが違ったり、データベースが統一されていなかったり。そもそも、他部署がどんなデータをもっているのか知らないため共同分析が行えないことも珍しくありません。“Optimize Your Greatest Asset”では、これらがビッグデータ分析の成功をはばむ大きな要因としています。
例えば、前編で紹介した営業担当者の離職率の改善は、営業チーム単独でも、人事部単独でも行えません。著者は、ほかにも次のような類似ケースが考えられると述べています。
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あるコールセンターでは、オペレーターの顧客対応時間が長引くようになっていることを問題視していた。人事部は問題解決のためにオペレーター全員にトレーニングを実施、その結果、コールセンター全体の平均顧客対応時間が短縮した。トレーニングの効果があったといってよいだろう。ところが、詳しい調査をしてみると、対応時間が短縮できたのは、オペレーターのうち40%だけだったことが明らかになった。
このケースにおいて、もしも、人事部が事前にデモグラフィック分析を行い、40%のオペレーターに共通するプロフィールを割り出していれば、該当するオペレーターに対してのみトレーニングを実施できました。つまり、より効率的なトレーニングができたかもしれないのです。そのため必要なのは、コールセンターと人事部の連携。著者は、こうしたケースや調査の結果から、「人材分析を成功させるには、部門を超えてデータを統合、共有しなければならない」と述べています。
人材分析、特に多種多様なデータを融合させたビッグデータの分析は、人材採用・育成など人事に特化した分野のみならず、企業の成長と業績にも影響を及ぼすことが知られてきています。
しかしながら、人事部では他部署ほどビジネスデータが利用されていないと著者はいいます。そのような現状を変革し、“Optimize Your Greatest Asset”というタイトルにあるように、企業の最大の資産である「人材」を最適化することが重要であるというのがこの本の主張です。
著者は、
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「人材分析によって、組織は十分な情報にもとづく意思決定をし、最終損益を改善できる」
と述べています。
実際、“Optimize Your Greatest Asset”が引用している、米国デロイト・ユニバーシティ・プレスの調査結果によると、人事施策と分析への投資を増やした企業では、「人材採用の改善率が倍増、リーダーシップ育成力は3倍に増加、株価は同業他社に比べると30%高くなった」といいます。
まずは、部署を超えた情報共有を促進し、必要なデータを人事部が直接入手、分析できるシステムを整えることから始めてみてはいかがでしょうか。
ビジネスプロセス・情報技術サービス業をグローバルに展開するAffiliated Computer Services/Business Process Solutions社(本社:米国、以下“ACS/BPS社”)は、1988年に創立、2010年にゼロックスが買収した企業です。全従業員数は約7万人、世界100か国以上に750の拠点を有し、約12,000人が37か所のコールセンターで働いています。
著者をはじめとする数名からなるグループが調査委託を受けた時点で、コールセンターのスタッフの離職率は160%。これを低減するための調査分析が行われました。具体的には、「スーパーバイザーの研修」「離職率を下げる社内キャンペーン」「仕事の質、効率、業務に対するポジティブな姿勢などを評価する報酬制度」「基本給あるいはインセンティブの引き上げ」「別のスーパーバイザーを配置」という5項目にデモグラフィック属性をかけあわせて、その関連性を調べるというものです。
調査の結果、研修を受けたスーパーバイザーにおいては、部下であるスタッフの離職率が0.08ポイント改善したことが分かりました。これは、スーパーバイザーひとりにつき、1年間で1.2人のエージェントを離職させずにすんだことになり、コストに換算すると400万ドルを超える削減になったとしています。
調査報告には、スーパーバイザーの研修参加率と受講コース数、受講者が多かったコースの種類についての情報に加え、スタッフとスーパーバイザーそれぞれの就業日数別にみた離職率や、自主退職か否かの内訳、年齢分布などの情報も記載されています。
- 労務・制度 更新日:2017/02/01
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