アルムナイコミュニティのエンゲージメントを高める7つのルール
アルムナイ(alumni)とは「卒業生」や「同窓生」を意味する言葉です。人事・HR領域では、自社を退職した人たちをアルムナイと呼び、同窓会コミュニティを作ることで、将来のリクルーティング(特に再雇用)に役立てる動きが注目されています。
アルムナイコミュニティが注目されるにつれ、どうしたら退職者であるメンバーのエンゲージメントを高め、再雇用や業務委託につなげられるかを考える動きも高まっています。
この記事では、エグゼクティブコンサルタントで、コミュニティづくりを専門とするチャールズ・フォーグル氏の著書『The Art of Community』から、コミュニティのエンゲージメントを高める7つのルールを紹介します。
この本は、アルムナイに特化して書かれたものではありません。メンバーのエンゲージメントを高め、コミュニティ発展につなげるために設けるべきルールやコミュニティ運営のポイントが紹介されています。アルムナイコミュニティを発展させるための参考になるポイントもあるので、ぜひ最後までお読みください。
コミュニティリーダーのための7つのルール
リーダーが以下の7つのルールを自分のコミュニティに実装すれば、メンバーのエンゲージメントを高めコミュニティを発展させることができます。このルールは、できたばかりの新しいコミュニティでも、成長中のコミュニティでも生かすことが可能です。
- ルール1:メンバーと部外者の境界線をはっきりさせる
- ルール2:新しいメンバーを導くイニシエーション(入学式・入社式など)
- ルール3:コミュニティが行うことに特別な意味を持たせる
- ルール4:コミュニティを見つけることができる場所
- ルール5:他者や自分自身の価値を知るために、私たちが共有するもの
- ルール6:私たちにとって重要なアイデアを形に表したもの
- ルール7:私たちが参加する成長への道
ここからは、各ルールについて解説します。
1.メンバーと部外者の境界線を明確にする
コミュニティを発展させるためには、まずコミュニティの内と外の境界をつくることが大切です。コミュニティのメンバーは、「自分が価値観をシェアするほかのメンバーが誰なのか」を知りたいと思っています。一方、コミュニティに興味があるものの、まだ入会していないビジターは、コミットせずに安全にそのコミュニティを探検したいと思っています。メンバーとビジターや部外者の境界線がはっきりしていることは、双方にとって居心地をよくするのです。
多くのコミュニティリーダーは「自己選択」と「誰もが所属できる」ことを混同しています。強いコミュニティを作るためには、潜在的なメンバーと部外者を分けなければいけません。そのコミュニティの価値観に関心がない人をメンバーに加えてはいけないのです。
メンバーと部外者の境界は、個人的な好み、些細な懸念、または気まぐれな基準ではなく、コミュニティの価値観に従って保護することが欠かせません。特に、次の2つには気をつける必要があります。
まず、インクルーシブ(誰でも受け入れること)を意識するあまり、価値観の合わない人を受け入れてしまうこと。そして、メンバーを限定しすぎることも、同じ価値観を持った人が限られてしまうため、よくありません。
価値観を守ること、境界線を引くこと、また、それを実行することは、すべて動的なままでなければなりません。これがコミュニティ成熟のしかたです。成熟が止まってしまうと、コミュニティは徐々に見当違いな方向に向かってしまいます。
2.新しいメンバーを歓迎していることを示す
入社式、入学式、入会記念式など、コミュニティに入る儀式 をイニシエーションと呼び、とても重要なプロセスです。私たちはみな、自分が参加するコミュニティに本当に受け入れられていると思いたいのです。イニシエーションは、新しいメンバーを承認し、コミュニティに歓迎されていると公式に認めるプロセスです。
イニシエーションのあと、入会者は新しい特権を取得し、メンバーと部外者の境界を越えたと認められます。新メンバーは、自分がコミュニティに所属することに自信と歓迎を感じられているはずです。
コミュニティに正式参加する前に、たとえ簡単でもイニシエーションがあることは、まだ次のステップに進む準備ができていない参加者にとっても安心感につながります。イニシエーションを行うことで、参加者はメンバーの価値と信念を取り入れるかどうかを見学しながら考えることができるのです。
帰属の危機
一部のエリート層や、知識層の集まりなど、特に選ばれた人たちのコミュニティでは、メンバーの多くが自分はそのグループに帰属してないと感じてしまう「帰属の危機」に陥ることがあります。その場合、コミュニティで開かれるイベントや集会で、招待可能な人数を増やすと問題解決につながります。帰属の危機に陥ってしまった人が、コミュニティリーダーや内部の人から招待状を受け取ると、招待状自体が、その人の帰属の証となり、たとえその人が参加しないとしても自信となるのです。
3.新しいメンバーのために歓迎会やお祝いを行う
イニシエーションは、コミュニティが行うことに特別な意味を持たせるために重要です。人とのつながり、信頼、評価、歓迎されていると感じることは全て感情の領域にあります。それを引き立てるのがイニシエーションです。イニシエーションを行うことで、過去の物事を現在と未来の希望へと結びつけることができます。強いコミュニティは、正式なイニシエーションと非公式なイニシエーションの両方を実施しています。
私たちは前の世代よりもはるかにカジュアルな時代に生きているため、イニシエーションと聞くと特別なことのように思えるかもしれません。しかし、誕生日にケーキに立てたろうそくを吹き消したり、感謝祭に七面鳥を焼いたり、母の日にカードや花を贈ったりすることは、すべて私たちがよく知っているイニシエーションです。
生活の中のイニシエーションを見いだす方法は、「その行動を取り除くことで、その時間の重要性が低下するかどうか」です。たとえば誕生日を祝う方法を考えてください。誕生日がほかの日よりも重要であることを示す活動は何ですか? あなたにとって、どんな活動がその日を特別にしていますか? 私たちはあまり意識せずに誕生日を祝っているかもしれませんが、ケーキの上に年の数だけキャンドルを灯したり、誕生日を祝う歌を歌ったりすることは立派なイニシエーションです。
コミュニティでは、あるステータスから別のステータスに上がるときや、フォロワーからリーダーへの昇進、部外者から内部のメンバーになるときなどに、イニシエーションを行うことで、より強いつながりを作ることができます。
形式をつくる
著者は、コミュニティのなかに新しいイニシエーションを作り出すことを推奨しています。イニシエーションはコミュニティ形成のためにとても需要で人を惹きつける力があります。イニシエーションを作るときには、次のような形式に沿うといいでしょう。
オープニング
- 歓迎
- インテンション(意図を述べる)
- 伝統的なイニシエーションであることを伝える
- イニシエーションの中で何が起こるかを説明する
内容
- 知恵や知識を分かち合う
自分が学びから得た知恵や知識を声に出して読んだり、記憶から引用したり、コミュニティやこのイベントにとって重要な人の言葉を引用したりしてください。1行だけでもたくさんでもかまいません。
- 参加を促す
イニシエーションへの参加を促します。ただ見ているより、皆で参加したほうが楽しいです。
クロージング
- 承認
イニシエーションによって何を得ることができたか、何が変わったかコメントします。
- 送り出し
リーダーは参加者が前向きに活動を続けられるよう声をかけながら送り出します。
4.特別な場所をつくる
私たちは、自分たちのコミュニティが集まり、切望していることを実現できる場所を持ちたいと望んでいます。コミュニティ は共通の価値観を持つ人々が地域社会のイニシエーションをする場所です。同様に、コミュニティにも特別な場所が必要です。 そのとき、次のポイントを押さえると、神聖でイニシエーションの効果が出やすい空間になります。
境界をつくる
何かがコミュニティの空間と外の空間を区切るようにします。空間的境界はその場所を特別な雰囲気にするのに役立ちます。例えば、部屋が端にあること、花で作ったライン、壁など、何でもいいので外の世界との境界をつくります。何もない場合にはロープを張ってもいいかもしれません。
招待
コミュニティの重要人物を招待します。その人たちの存在は空間を特別なものにします。
衣類
参加者が特別な服を着ます。例えば、ローブや制服、特別な帽子などがイニシエーションで使われています。
照明
照明はイニシエーションでも使われます。参加者に注意を向けてほしい場所に光が投げられ、ほかの場所の照明は最小限の明るさになっていることが理想的です。
音
音はビジュアルと同じくらい空間の感じ方を変えます。広いスペースでの沈黙は特別な感じがしますし、雑音が多いところでは音楽があると特別な雰囲気になります。
高さ
式典で重要なオブジェクトは、人を含めて一段高い位置に上げます。例えば式典中はフロアのレベルから、舞台の上に移動したり、シンプルにその場に立ったりします。夕食の場であればリーダーは立って乾杯や挨拶をすることができるでしょう。そうすることで、より特別な空間を演出できます。
5.企業に関係する特定の物語をメンバーに共有する
物語を語ったり聞いたりすることは、人間にとって最も強力な学び方です。特定の物語を共有すると、コミュニティのつながりが深まります。人々があなたの物語を知らなければ、その人たちはあなたのコミュニティについて理解できません。コミュニティのなかで、あなたが誰であるか、あなたが何をしているのか、どのように重要なのかを知らせることが大切です。物語を通して、現在のメンバー、未来のメンバー、および部外者がコミュニティの価値とコミュニティの価値を学ぶことができます。
6.記念品(トークン)をメンバーに渡す
シンボルとは、キリスト教の十字架や、卒業式で着るローブなど、コミュニティのアイデンティティや、特別な時間を表すツールのことです。シンボルを使用することは、コミュニティをより強くします。アイデアと価値観の集合であるシンボルは、一度に多くのことを表すことができます。
トークンはシンボルの一種で、アイデア、イベント、または特別なことを覚えておくために記念として人に与えられるもので、ほとんどの人はトークンを受け取ることが好きです。指導者や同僚がイニシエーションでそれを出すとき、しばしば強力な意味を持ちます。
メダルやバッジなどのトークンを渡すときには、渡す相手に、なぜ与えるのかという意図、それが何を表すものなのかというシンボリズム、そして、受け取る人に何を望んでいるのか(例:これからも向上心を持って頑張ってほしい。)という未来とのつながりを伝えます。
7.誰もが権限を持つ可能性のある組織にする
コミュニティのなかに存在する幾重にも重なるステータスごとのグループをインナーリングと言います。例えば、多くのグループには、「ビジター」~「新人」~「メンバー」~「シニアメンバー」といったインナーリングがあります。公式のメンバーシップにはフォーマルなインナーリングが存在します。それ以外にも、非公式なインナーリングがコミュニティの中にできています。
多くの人は、権威を持ったり、尊敬されたりするためだけでなく、コミュニティに参加し貢献する方法として、より権限のある内側のリングに属することを希望しています。そして、成熟した強いコミュニティには、内側のインナーリングに進む機会があるのです。
アルムナイコミュニティづくりの第一歩は、強い文化をつくること
コミュニティリーダーのための7つのルールを取り入れることにより、コミュニティのなかに強い文化を生むことができます。強い文化は、人々が互いに支え合い、情熱を共有し、大きな目標を達成するのに役立ちます。このような帰属意識は単なる偶然ではなく、企業や信仰団体の間で、意図的に育まれているのです。この7つのルールは、アルムナイコミュニティを作るリーダーにも役に立つことでしょう。
The Art of Community
著者 Charles H. Vogl
出版社Berrett-Koehler(初版2018/1/1)
ISBN-10 : 1626568413
ISBN-13 : 978-1626568419
- 経営・組織づくり 更新日:2022/12/15
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