組織社会化とは?人材のパフォーマンスを発揮させるために必要なプロセス・ポイントを解説
社会の価値観が変化し続けていく中では、個人も組織も変化し続けなければ生き残れないことは歴史上明らかです。
変化の少ない時代では「組織に馴染むために個人が努力する」ことで事足りていたかもしれません。しかし、変化のスピードが加速している現代においては「個人が組織に馴染めるように組織がサポートする」ことで、組織も個人も短期間でパフォーマンスを発揮できるようにすることが重要になってきているといえます。
この重要な取組みを行うにあたり、「組織社会化」という概念が注目されています。
人事担当者にとっては、採用した人材が、変化し続ける企業生活の中で継続的にパフォーマンスを発揮できることが一つのゴールとなっているはずです。組織社会化について理解することで、従業員体験(EX:Employee Experience)をよりよいものにデザインすることができるでしょう。
本記事では、組織社会化のメリット・デメリット、進めるプロセスをお伝えします。また、組織社会化を阻む5つの要因や、組織社会化を進めるうえでのポイントについても見ていきます。
組織社会化とは
組織社会化とは、「新規参入者が組織の外部者から内部者へと移行をしていくプロセス」と定義されています。
具体的には、個人が、新しい組織の価値観や行動様式、そこで効率的に働くために必要な知識、スキル、態度、期待、および行動を理解し、だんだんとその組織に適応していくプロセスを指します。
例えば、新しい企業への入社や、異動によって新しい部署に行くことになった場合、事前にその職場の情報を手に入れて、期待と現実のギャップをできるだけ小さくするために心の準備をした経験は、誰しもあるのではないでしょうか?
その後、自分の仕事の主要なタスクを理解し、そのタスクを遂行する能力に自信が生まれると、自分が組織の一員として受け入れられていると感じ、組織の文化をより理解しようとするでしょう。このように、その組織に馴染んでいくために、少しずつ自分自身を変化させていくプロセスが組織社会化なのです。
組織社会化とオンボーディングの関係
一方で、新しく組織に入る従業員の組織社会化を促すために、企業側が行う様々な取り組みを「オンボーディング」と呼びます。新しく組織に入る個人を迎え入れるために、その個人の役割を明確化し、自己効力感を持ってもらい、目標・価値・規範などを示すオンボーディングは、組織社会化を成功させるために欠かせません。
組織社会化が求められる場面
組織社会化が求められる場面としては、主に以下のようなタイミングが考えられます。
従業員の採用後
新しい従業員が組織に適応し、生産性を高め、自信を持って働くことができるようにするためには、組織社会化が必要です。企業が新たに採用した従業員に対して組織社会化を行うことで、企業の文化やルール、ビジョンや目標、業務内容などを伝え、教育・育成に役立てることができます。
転勤や異動後
組織内で従業員が転勤や異動をする場合も、新しい役割・責任と、新しい環境に適応するための組織社会化が求められます。新しいチームメンバーと関係を築き、新しい職場環境における文化やルールを理解するためにはサポートが必要です。
新しいルール・制度やシステムの導入時
新しいルールや制度、システムが導入された場合、従業員はそれについて学ぶ必要があります。組織社会化を通じて、従業員は変化に対応するための知識やスキルを身につけることができます。
新しいプロジェクトの開始時
新しいプロジェクトの開始時には、従業員は新しいプロセスや要件を理解する必要があります。組織社会化は、従業員が新しいプロジェクトに関連するルールを理解し、成功に導くことができるようにするために必要です。
新しいマネージャーの着任後
新しいマネージャーが着任した場合にも、組織社会化が求められます。マネージャーのリーダーシップのスタイルや、チームに期待していることについて理解を深めることで、従業員はより効果的に働くことができます。
合併や買収後
2つ以上の企業が合併したり、ある企業が別の企業を買収したりする場合、従業員は異なる組織文化やルールに適応する必要があります。新しい組織構造、ビジョン、価値観を理解し、異なる文化や背景を持つ従業員を一つのチームに統合するために、組織社会化が必要です。
組織の方針やビジョンの変更時(チェンジマネジメント)
組織が文化、方針、慣行を変える場合、従業員は新たに適応する必要があります。従業員がチェンジマネジメントの理由を知り、新しく期待される行動や、自分の役割、責任への影響を理解するためには、組織社会化が必要です。
組織社会化のメリット
従業員が組織の中で体験するすべての要素を従業員体験(EX)といい、社会組織化は、従業員体験(EX)と密接に関係しています。従業員体験の向上により、従業員が仕事に対するモチベーションを高め、組織に対する愛着やエンゲージメントを保つことにつながるのです。
ここでは、組織社会化に取り組むことによるメリットを詳しくお伝えしていきます。
定着率の向上
組織社会化は、従業員が組織の文化やルールを理解し、自信を持って仕事に取り組むことができるようにするために必要です。組織社会化を行うことで、従業員が自社のビジョンや目標に共感し、組織に愛着を持てるようになります。また、従業員同士のコミュニケーションや交流が生まれ、職場環境の改善にもつながることがあります。これにより従業員の満足度が向上し、定着率の向上が期待できます。
実際にBauer (2007)による研究では、新しい授業員が組織へ適応するほど、本人の離職意向が低減されることが確認されています。
生産性の向上
組織社会化によって、従業員が仕事に必要なスキルや知識をスムーズに習得することで、早い段階から個人のパフォーマンスが発揮されれば、生産性が向上し、組織の成果につながります。
上述したBauer (2007)による研究でも、新しい従業員の組織への適応を示す指標は、仕事上のパフォーマンス向上と相関性があると報告されています。
組織の継続性の確保
企業にとって組織社会化は、企業文化の継承や次世代のリーダー育成など、組織の継続性を確保するために不可欠な要素です。また、従業員が組織に定着し、長期的に貢献していくことができれば、企業の安定性や成長性を確保することができます。
組織社会化のデメリット
組織社会化には上述したメリットがありますが、もし組織社会化が「手段」ではなく「目的」となってしまっている場合、組織風土に悪影響をもたらす恐れもあります。メリットだけでなく、以下の潜在的なデメリットも理解したうえで組織社会化に取り組むことが重要です。
個性やアイデアが抑圧される恐れ
組織社会化が進むと、従業員は組織の文化や価値観、規範、ルールに合わせて行動するようになります。しかし、それによって自己表現や新しいアイデアを表現する自由が制限され、創造性が抑圧される可能性があります。結果的に、組織がイノベーションを起こす可能性を妨げることになります。
柔軟性が欠如する恐れ
組織社会化によって、従業員は「自分が組織の文化や慣習に忠実である」という感覚を持つようになり、変化を受け入れ、新しい戦略ややり方に適応することが難しくなる恐れがあります。これは、既存の文化やルールにとらわれすぎているために変化への抵抗が生まれ、柔軟性や創造性が失われるからです。特に所属年数が長い従業員であるほどこの傾向が見られます。
組織の柔軟性が欠如し、変化への対応が遅れることで、組織が市場環境の変化に適応し、新たな課題に対応することが困難になる可能性があります。
ネガティブな行動が強化される恐れ
組織がネガティブな文化を持っている場合、組織社会化によって、いじめ、差別、ハラスメントなどのネガティブな行動が強化されてしまう可能性もあります。
コミュニケーションの欠如につながる恐れ
組織社会化が進むと、従業員同士が同じ考え方や文化を共有することが多くなります。その結果、むしろコミュニケーションの幅が狭くなる恐れもあります。
特に、異なる文化やバックグラウンドを持つ従業員同士のコミュニケーションが十分にとれない場合、意見の対立やコミュニケーションロスが生じる可能性があるでしょう。
組織社会化を進めるプロセス
新しい従業員が組織に適応し、パフォーマンスを確立するためには、戦略的に組織社会化を進める必要があります。実際に、組織社会化の取り組みの中でも特に、既存従業員によるサポートと、新入社員の態度・スキル・能力に対するサポートが、「パフォーマンス」と最も強く結びついているという研究結果も出ています。
なお、以下すべてのプロセスを踏む必要はなく、自社組織の文化や状況に応じて選択することが重要です。
1.オリエンテーションプログラムの実施
新入社員や異動してきた従業員に向けたオリエンテーションプログラムを実施します。
- 組織のビジョン、ミッション
- 組織の文化
- 組織のルール
- 業務プロセス
オリエンテーションプログラムでは、上記のような基本的な情報を提供します。
2.シャドーイング・トレーニングや、メンタリングの実施
組織内のベテラン従業員の日々の仕事に同行してコミュニケーションや意思決定を間近で観察する「シャドーイング・トレーニング」を実施することで、新しい従業員が業務プロセスや技術、思考プロセス、行動規範などの実践的なスキルや知識を習得しやすくなります。
また、一定期間の継続的な「メンタリング」も効果的です。経験豊富な先輩従業員が、新しい従業員のメンター役を担い、より円滑に組織に適応するために相談に乗るなどのサポートを行います。
メンタリングを実施する期間は、企業の文化や業務の難易度、社内ネットワークを構築する難易度、職位や職種などによっても異なり、1か月の場合もあれば、半年にわたって実施する場合もあります。
3.ロールモデルの設定
組織内で模範とすべき従業員を「ロールモデル」として設定し、新しい従業員が彼らの行動や態度を学び、振り返られるようにします。ロールモデルを設定する際には、性別や職位などにとらわれず、自社のバリュー、行動指針、評価基準に基づいた行動ができていることが大前提となります。
4.チームビルディングの実施
新しい従業員を含むチームビルディングを実施し、従業員同士の信頼関係や協調性を構築します。具体的には、アイスブレイクの機会を設けたり、歓迎会を開催したりします。また、複数のチームとの定期的なランチや、ゲームやワークショップ、オフサイトミーティング(いつもの職場を離れた場所で行うミーティング)などを通じて、共通の目的をもって協力する時間や相互理解をする機会を設けます。
6.パフォーマンスフィードバックの提供
組織が求める仕事の成果や行動規範に基づいたパフォーマンスに対して、ポジティブなフィードバックを提供し、従業員が自己評価を行う機会を提供します。
組織社会化を阻む5つの要因
組織社会化を成功させるためには、以下の要因を克服するための対策が必要です。
1. ネガティブな従業員の存在
新しい従業員が入社した際に、ネガティブな態度をとる従業員がいると、新しい従業員が組織に適応するのを妨げる恐れがあります。
2. コミュニケーションの不足
新しい従業員が組織の文化やビジョンを理解するためには、十分な情報を提供することが必要です。コミュニケーションが不足すると、新しい従業員が組織に馴染むことができません。
3. トレーニングに計画性がない
新しい従業員が必要なスキルや知識を習得できるように、計画的なトレーニングを提供することが必要です。計画されないままにトレーニングを実施した場合、何がゴールなのかわからず、新しい従業員が仕事を行ううえで不安を感じる原因となります。
4. 役割と責任の不明確さ
新しい従業員が自分の役割や責任を正確に理解していない場合、業務上の問題が生じることがあります。役割と責任の不明確さは、新しい従業員が組織に適応するのを妨げる原因となります。
5. 組織文化との不一致
新しい従業員の価値観や行動が組織文化と一致しない場合、新しい従業員が組織に適応するのを妨げることがあります。また、既存の従業員がトレーナーやメンターとして指導・教育する場合においても、彼らが価値観や行動が組織文化と一致しない行動をした場合、新しい従業員の混乱を招くことにもつながります。
組織社会化を進めるうえでのポイント
以下のポイントを踏まえたうえで、組織社会化プログラムを計画しましょう。
個々の特徴、個人差(ダイバーシティ)に配慮する
新しい従業員は、それぞれのユニークな個性や文化的背景、経験を有しています。そのことを理解し、個々の特徴に合わせた組織社会化プログラムを計画する必要があります。
公平かつ一貫した取り組みを行う
新しい従業員に対して、接し方や教育の程度、情報提供を公平に行うことが重要です。新しい従業員も既存従業員と同じ条件で評価されることや、組織が定めるルールや規則を全従業員に対して一貫して適用することなど、公平かつ一貫した取り組みによって、組織全体のモラル向上や、コミュニケーションの齟齬を減らすことができます。
組織文化や重要視する価値観の具体例を提示する
新しい従業員に対しては、組織文化や価値観を説明するだけでなく、組織での行動や振る舞いといった具体例に落とし込んで提示することが大切です。組織文化が明確であれば、組織の方針や方向性に沿った意思決定をしやすくなります。組織への早期適応だけでなく、その振る舞いや行動が評価されることによって、自信を持って行動できるようになります。
フィードバックを提供する
新しい従業員に対してフィードバックを提供することで、組織への適応をサポートできます。具体的には、育成責任者、組織内のベテラン従業員、メンター、人事担当者などが、適切なタイミングで個人の具体的な行動や結果について真摯な姿勢で話し、改善点や必要な情報、アドバイスを提供していく必要があります。
継続的なサポートを提供する
組織への定着を促し、高いパフォーマンスを発揮してもらうためには、継続的なサポートが欠かせません。具体的には、中長期的に成果を上げるために必要なスキル・知識の習得や、従業員の成長につながるフィードバック、コーチングなど、上司や同僚、メンター、コーチなどが継続的にサポートを提供することが大切です。
まとめ
変化の激しいこの社会において、我々人事担当者は、経営者や現場のマネージャーとともに従業員体験(EX)を向上させる方法について考え続けることが必要です。その際には、今回紹介した組織社会化のメリットだけでなく、デメリットも踏まえて、組織社会化のバランスをデザインする必要があると思います。
人事担当者としては、新しい組織の中に入る従業員が、文化適応・役割理解・スキル獲得のハードルを飛び越えて組織へ適応し、自分自身という心の自由も大切にし、希望あふれる素晴らしいキャリアライフを送ってくれるようにサポートしていきたいところです。
参考
- Fisher, C. D. (1986)『 Organizational socialization: An integrative review. In K. M.Rowland & G. R. Ferris (eds), Research in personnel and human resources management』
- Bauer, T. N., Bodner, T., Erdogan, B., Truxillo, D. M. & Tucker, J. S. (2007)『Newcomer adjustment during organizational socialization: A meta-analytic review of antecedents, outcomes, and methods. Journal of applied psychology』
- Saks, A., Uggerslev, K., & Fassina, N. (2007)『Socialization tactics and newcomer adjustment: A meta-analytic review and test of a model. Journal of Vocational Behavior』
- Allen, N. J. & Meyer, J. P. (1990)『Organizational socialization tactics: A longitudinalanalysis of links to newcomers’ commitment and role orientation』
- 経営・組織づくり 更新日:2023/06/29
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