労働時間の適切な把握方法|厚生労働省のガイドラインを基に弁護士が解説
コンプライアンスおよび労働環境の改善を図るためには、労働時間を正しく把握することが必要不可欠です。過少申告や隠れた残業を見逃さずに把握し、労働時間の適正化に努めましょう。
本記事では厚生労働省が公表しているガイドラインを基に、企業が労働時間を適切に把握するための注意点を解説します。
労働時間の把握漏れのよくあるパターン
会社が知らないところで残業が行われているなど、労働時間の把握漏れが生じている例はよく見られます。
特に以下に挙げるのは、労働時間の把握漏れが生じやすいパターンの典型例です。
- タイムカード等の定時打刻
- 残業時間の過少申告
- 持ち帰り残業・テレワーク
タイムカード等の定時打刻
<ケース1>
営業部の課長Aは、部下の残業を抑制するように、部長から厳しいノルマを課されていた。Aは部下に対して、タイムカードを常に定時で打刻するよう指示し、残業時間を実際よりも少なく仮装した。
管理職に残業時間抑制のノルマが課されている企業では、上司の指示によるタイムカードの不正打刻などにより、労働時間の把握漏れが生じるケースがよくあります。
会社としては、現場の従業員からヒアリングを行って労働の実態を把握するとともに、労働時間に応じて業務量を調整するなどの配慮が必要です。
残業時間の過少申告
<ケース2>
X社従業員のBは、業務が終わらず残業せざるを得なくなった。
X社では残業の許可制を導入しているところ、長時間の残業は許可されにくいと考えて、Bはわざと残業時間を過少に申告した。実際には、Bは申告した時間を超過して残業を行った。
残業の許可が得られにくい、人事評価がマイナスとなることを避けたいなどの理由で、従業員自ら残業時間を過少に申告する例もよくあります。
このようなケースについても、会社としては現場の従業員からの適切なヒアリングや、労働時間に応じた業務量の調整などを行って、残業の過少申告を防ぐべきです。
持ち帰り残業・テレワーク
<ケース3>
Cは、業務が終わらず残業せざるを得なくなった。しかし、会社に残って残業していると上司から文句を言われるので、仕事を持ち帰って自宅で残業を行った。自宅における残業時間につき、Cは会社に申告しなかった。
会社のオフィスにいる従業員については残業の様子を観察できますが、自宅に持ち帰って残業している従業員や、テレワークをしている従業員については、その様子を会社が把握するのは困難です。
自宅での労働時間を従業員に自己申告させる場合は、過少申告等による把握漏れが生じやすい傾向にあります。機械的な勤怠管理記録を原則とするなど、持ち帰り残業やテレワークについても労働時間を適切に把握できる仕組みを整えましょう。
労働時間を適正に把握するための方法
厚生労働省は、労働時間の適正な把握のために、使用者(会社)が講ずべき措置に関するガイドラインを公表しています*1。
同ガイドラインにおいて、使用者が講ずべきものとして挙げられている措置は、以下の4点に集約されます。企業はこれらのポイントを意識した対応を行い、労働時間の適正な把握に努めましょう。
- 適切な方法による始業・終業時刻の確認・記録
- 労働時間の記録に関する書類の保存(賃金台帳を含む)
- 労務管理責任者による問題点の把握・解消
- 委員会などの労使協議組織の活用
適切な方法による始業・終業時刻の確認・記録
労働時間を適正に把握するためには、労働者と労働日ごとに、始業・終業の時刻を確認して記録することが大前提となります。
厚生労働省ガイドラインでは、始業・終業時刻の確認・記録は、原則として以下の(a)(b)いずれかの方法によるべきとされています。
- (a)使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
- (b)タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること
上記(a)(b)いずれかの方法によることなく、始業・終業時刻を労働者の自己申告制で確認・記録する場合は、以下の措置を講ずべきとされています。
- ア 労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行う。
- イ 労働時間の管理者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行う。
- ウ 労働者が自己申告した労働時間と実際の労働時間が合致しているかどうかを調査し、必要に応じて補正を行う。 ※労働者が事業場内にいた時間の客観的なデータ(入退場記録やPCの使用時間の記録など)があれば、そのデータと自己申告された労働時間を比較して、著しい乖離が生じていれば実態調査を行って補正する。
- エ 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合は、その報告が適正に行われているかどうかを確認する。 ※休憩・自主的な研修・教育訓練・学習等として報告されていても、使用者の指揮命令下に置かれていた時間は労働時間として扱う。
- オ 自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設けて、上限を超える申告を認めないなど、労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じない。 ※社内通達や時間外労働手当の定額払いなどの措置が、労働時間の適正な申告を阻害する要因となっている場合は、改善のための措置を講ずる。 ※法定労働時間や36協定の上限時間を超える残業の隠蔽が、慣習的に行われていないかについても確認する。
労働時間の記録に関する書類の保存(賃金台帳を含む)
会社は、労働者名簿や賃金台帳、労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければなりません(労働基準法109条、附則143条1項)。
賃金台帳については、労働日数や総労働時間数、休日労働・時間外労働・深夜労働の時間数などを適正に記入する必要があります(同法108条、労働基準法施行規則54条)。
労務管理責任者による問題点の把握・解消
事業場において労務管理を行う部署の責任者は、その事業場内における労働時間管理の適正化に関する事項を管理し、労働時間管理上の問題点の把握およびその解消を図るものとされています。
具体的には、始業・終業時刻の確認・記録に関する措置として、勤怠管理システムの導入やアップデート、管理職を含む従業員向けの説明や研修、労働時間の実態調査や補正などを行うことが求められます。
委員会などの労使協議組織の活用
厚生労働省ガイドラインでは、労働時間の適正な把握に当たり、労使協議組織を活用すべき旨にも言及されています。労使協議組織には、労働時間管理の現状を把握した上で、労働時間管理上の問題点およびその解消策等の検討を行うことが求められています。
労使協議組織の役割は、会社側と労働者側が対等な立場で、労働条件や労働環境を改善することです。委員を労使同数として、発言等を理由とする不利益な取り扱いを禁止するなど、労働者側が忌憚のない意見を述べられるように配慮する必要があります。
まとめ
コンプライアンスの重要性が高まっている昨今において、労働基準法等の法令やガイドラインを遵守することはきわめて重要です。会社の把握していない残業をなくせるように、労働時間を適正に把握するための措置を講じ、不断にアップデートを続けましょう。
- 労務・制度 更新日:2024/02/20
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