マイクロストレスとは?具体例や影響、対処法を解説
メンタルヘルスの疾患を持つ人は世界的に増加している傾向にあります。そのなかでも注目されているのが、日常の些細な出来事によるストレス「マイクロストレス」と呼ばれるものです。
マイクロストレスは一つひとつが軽微なストレスであるため、その場では気に留めず受け流してしまうことが少なくありません。
しかし、これが積み重なることで、本人も周囲も気づかぬうちに深刻な影響を及ぼす可能性があります。
とくに、上司や管理者にとっては把握しづらい部下のメンタルダメージにもなり、見過ごせない問題となっています。
本記事では、マイクロストレスとは何か、具体例を交えながら説明し、マイクロストレスへの対処法を解説します。
マイクロストレスとは
マイクロストレスとは、日常の些細な出来事によって生じる軽微なストレスのことを指します。例えば、予定外の対応に追われることや、相手の些細な言動にモヤモヤすることなど、一つひとつは気にするほどではない些細なことように思えるものの、無意識のうちに積み重なり、心身に負担を与えていきます。
世界保健機関(WHO)によると、現代では地球上の8人に1人がメンタルヘルス疾患を抱えているとされます(*1 )。こうした背景の一因として、世界経済フォーラムはマイクロストレスの影響を指摘しています。
「マイクロストレス」と呼ばれる日常の小さな悩みや煩わしさは、それ自体は重要でないように思えるかもしれませんが、蓄積されると、精神的・肉体的な健康に深刻な影響を及ぼし、物事を崩壊させてしまう可能性があります。
引用)「『マイクロストレス』がメンタルヘルスの時限爆弾となる理由」世界経済フォーラム仕事仲間とのちょっとした対立や家族とのすれ違い、約束を守らない相手への苛立ちなど、仕事や私生活のなかで生じる些細なストレスは、私たちの意識の外で蓄積されがちです。そのため、気づかないうちにメンタルヘルスやパフォーマンスに影響を及ぼし、結果的に生産性の低下や人間関係の悪化を招くこともあります。
マイクロストレスの厄介な点は、それが明確な「ストレス」として認識されにくいことです。そのため、適切に対処しなければ、心身の健康にじわじわと悪影響を及ぼし、最終的にはメンタルヘルス不調につながる可能性があるのです。
マイクロストレスとその影響
一見すると高いパフォーマンスを発揮している人でも、実は日々の小さなストレスを多く抱えていることが研究で明らかになっています。
バブソン大学のロブ・クロス准教授らが、グローバル企業30社の計380人にインタビューを実施したところ、企業のハイパフォーマーの多くが強いストレスを抱えていながら、それを自覚していないことが判明しました。なかには、話を進めるうちに突然涙を流し、「この苦しさからどう抜け出せばいいのかわからない」と打ち明けた人もいたといいます。*2
彼らを苦しめていたのは、明確な重圧ではなく、気づかないうちに積み重なったマイクロストレスでした。
彼らが説明に苦慮する中で、パターンが現れた。それはけっして押し潰されそうに感じる重圧がたった一つある状況ではなかった。むしろ、気づかないような些細なことが時とともに絶え間なく積み重なり、彼らのウェルビーイングをどこまでも蝕んでいたのだ。
引用)「ハーバード・ビジネス・レビュー」2023年8月号 p21また、ニューヨーク大学の行動神経科学者ジョエル・サリナス氏によれば、強いストレスを感じた際、脳は防御反応を働かせて体を守る仕組みを持っています。しかし、マイクロストレスのような軽微なストレスでは、この防御メカニズムが作動しにくいといわれます。*3
そのため、脳がストレスを深刻に受け止めていない間にも、身体への負担は蓄積されていきます。そして、自覚したときにはすでに影響が広がっており、回復が難しくなってしまうのです。
マイクロストレスの例
マイクロストレスは、個人の負担にとどまらず、周囲へと波及していきます。クロス准教授らは、これを具体的な事例で説明しています。*4
上記は、一見するとよくある状況ですが、この小さな出来事が次々と悪影響を引き起こしていきます。
- 一次的な影響
リタは帰宅途中、仕事のことが気になりストレスを感じる。
上司の依頼に対応するため、夕方の2時間を使ってチームに連絡し、業務に取り掛かる。 - 二次的な影響
リタのチームメンバーも対応のため、互いに連絡を取り合う必要が出てくる。
翌朝の資料準備ため、チーム全体での残業時間が累計20時間に及ぶ。
部下から、新任の上司について不満の声が上がり、リタが対応に追われる。 - 三次的な影響
帰宅途中にストレスを感じたリタは、夫に対して無愛想になってしまう。
上司の要請を優先したため、息子と夕食をとる約束を破ってしまう。
家族をないがしろにしているのではないか、チームに無理強いをしたのではないかと不安に駆られ、よく眠れない。
チームメンバーも似たようなストレスを抱える。
このように、一つの小さな出来事が、個人の心身に負担を与えるだけでなく、チームや家族といった周囲にも影響を及ぼすこともあります。こうした連鎖が積み重なることで、組織全体の活力が損なわれ、パフォーマンスの低下や職場環境の悪化につながる可能性があるのです。
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マイクロストレスへの対処法
マイクロストレスは、日常の小さな負担の積み重ねによって引き起こされるため、基本的には個人での対処が求められます。小さなストレスを放置せず、自分に合った方法で軽減することが重要です。
一方、上司や管理者としても、こうした対処法を部下に伝え、適切なサポートを提供することが求められます。マイクロストレスが蓄積し、業務や人間関係に悪影響を及ぼす前に、対策を講じることが大切です。
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マイクロストレスの要因を絞る
マイクロストレスは、自覚しにくいものが多く、漠然とした不調として現れることがあります。そのため、まずは「何が自分にとって負担になっているのか」を明確にすることが大切です。
具体的な方法としては、1日の終わりに「今日はどんな場面でストレスを感じたか」を振り返り、ノートやメモに書き出してみるとよいでしょう。例えば、「会議で発言の機会がなかった」「急な依頼が多かった」など、日常のなかで気になる出来事を整理することで、ストレスの要因を客観的に把握できます。
また、管理者は部下の業務負担を見直し、特定の業務や環境がマイクロストレスを引き起こしていないかをチェックすることが重要です。
マイクロストレッサーと距離を置く
「マイクロストレッサー」とは、日常的に小さなストレスを引き起こす要因や人、環境のことを指します。人によりますが、「細かい修正を何度も求めてくる上司」「返信が遅い同僚」「チャットツールからの絶え間ない通知」などが該当するかもしれません。
すべてのマイクロストレッサーを排除することは難しいものの、影響を抑える工夫は可能です。例えば、不要な通知をオフにする、時間を決めて連絡を取る、適度に休憩を入れるなどの方法が考えられます。また、ストレスを感じる相手と会う機会を減らすことも有効です。
管理者としては、柔軟な働き方をサポートし、ストレスの発生を未然に防ぐ環境づくりが、チーム全体のパフォーマンス向上にもつながるでしょう。
ポストフォーディズム時代のメンタルヘルス課題
現代におけるメンタルヘルスの問題には、「ポストフォーディズム」の時代に突入したことが深く関係していると考えられます。
「フォーディズム」とは、1900年代前半にフォード社が確立した大量生産システムに由来する言葉で、この時代の労働は、工場の作業時間のみが「仕事」と見なされ、それ以外の時間は労働から切り離されていました。労働者は決められた肉体労働をこなせばよかったのです。
しかし、フォーディズムが終わるとともに、労働は肉体的なものから精神的なものへと広がり、働く人々は業務時間外でも仕事に関することを考え続けるようになりました。場合によっては、見えない形での労働が事実上無限に続く状況といえるでしょう。
こうした環境では、単に労働時間を管理するだけでなく、人間関係を含む精神的負担への配慮が必要です。管理者は、社員のマイクロストレスの蓄積に目を向け、定期面談などの場で「仕事に限らず、何かストレスを感じているか」を尋ねることが重要です。詳細を聞くことはできなくても、「ストレスを感じている状況にある」という事実を把握することが重要なのです。
また、企業としては、社員が「仕事に関係ないが、いま少しストレスを感じている」と気軽に伝えられる環境を整えることも取り組むべきことの一つです。具体的な手段としては、月に一度のアンケートの実施や、業務連絡とは別の専用メールアドレスを設けることで相談しやすい環境を整えるなど、負担の少ない方法から始めるのがよいでしょう。
参考
- *1 「『マイクロストレス』がメンタルヘルスの時限爆弾となる理由」世界経済フォーラム
- *2、3、4 「ハーバード・ビジネス・レビュー」2023年8月号 p21、p24、p23
- 労務・制度 更新日:2024/09/04
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