身元保証書とは?目的と注意点、知っておくべき法的ルール
「身元保証書」は、入社する従業員が、企業に提出する保証書です。企業側が書面を作成し、従業員の身元を保証する第三者の保証人が署名・捺印します。
身元保証書の目的
本人の人物像に問題がないことを証明する
採用は、履歴書や職務経歴書、面接によって判断します。いずれも本人の自己申告になるため、虚偽があっても調べることは困難です。
「身元保証書」を求めることで、なりすましの防止や、履歴書や職務経歴書に虚偽がないこと、企業に勤めることに問題がない人物であることを第三者の保証人を通じて担保する目的があります。
企業に損失を追わせた際の金銭保証
横領や機密漏洩、不法行為など、従業員が故意に企業に損失を与えた場合、損害賠償の請求が発生します。賠償金額が本人の支払い能力を超える場合、保証人に弁済を求める場合があります。
抑止力として
前述の通り、従業員が悪事を働き企業に損害を与えた場合、自分だけでなく保証人に大きな迷惑がかかります。責任を自覚させ、悪事を防止するための抑止力として働きます。
緊急連絡先の確認
何らかのトラブルで本人と連絡がつかなくなったときの緊急連絡先として機能します。
身元証明書との違い
「身元証明書」とは、本人が法律上の行為能力を備えていることを、公の機関が証明する書類です。本籍地の市町村で発行され、「身分証明書」と呼ぶ場合もあります。
法律上の行為能力とは下記を指します。
- 禁治産または準禁治産の宣告の通知を受けていない
- 後見の登記の通知を受けていない
- 破産の通知を受けていない
禁治産とは、常に心神喪失状態である人物の行為能力を制限する制度。準禁治産とは、心神耗弱などの状態にある人物の行為能力を制限する制度。
「身元証明書」と「身元保証書」は、内容も発行主体も違う書面です。誤用の無いようにしましょう。
身元保証人の対象者
前述の通り、「身元保証書」の役割には、損害賠償時の弁済の担保があります。しかし、実際問題として、従業員が業務上のミスで企業に損害を与えた場合、従業員本人や保証人に損害賠償ができるのでしょうか? また、その金額に関して解説します。
従業員への損害賠償請求に関して
民法の解釈では、企業が従業員に対して、債務不履行や不法行為を理由として、損害の賠償の請求は可能です。しかし、実際の裁判では、従業員の義務違反があったとしても、故意や重大な過失がなければ、全額の賠償は、認められない場合が多いです。
つまり、悪質な故意や、不法行為、重過失がなければ、賠償請求は制限されると考えてよいでしょう。
賠償上限金額の設定
2020年4月の民法の改正により「個人根保証契約は、極度額を定めていなければ、その効力を生じない」と定められました。
「個人根保証契約」とは、将来発生する不特定の債務まで保証する契約です。保証人の立場では、どこまでも保証範囲や金額が増えていく可能性があります。
上記のことから、「身元保証書」には、賠償額の上限金額を設定する必要があり、記載のない場合は、保証人への賠償請求は無効になります。
身元保証書の知っておくべきルール
ここでは、身元保証書の法的なルールを説明します。身元保証書を運用する際は、必ず把握しておきましょう。
身元保証書の契約期間
身元保証書の契約期間は、期間が定められていない場合は3年で失効します。期間を定める場合は最長5年です。
身元保証書の更新
身元保証書は、「異議がない場合は同一内容で更新する」などの条文をいれても無効とみなされます。自動更新はできないので、新たに書面を作成し、署名・捺印を求める必要があります。
入社時のみ身元保証書の提出を求め、以降は、失効しても「身元保証書」の更新を求めない運用をしている企業も多く存在します。
保証責任の限度
身元保証法第5条では、「裁判所は、身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定めるに当たっては、被用者の監督に関する使用者の過失の有無、身元保証人が身元保証をなすに至った事由及びこれをなすに当たり用いた注意の程度、被用者の任務又は身分上の変化その他一切の事情を斟酌する」としています。
つまり、保証人が責任を負う賠償金額は、企業が受けた被害額ではなく、企業側の監督義務や、身元保証人と当事者の関係性などを勘案して、裁判所が決定します。連帯保証人とはいえ、その責任の範囲や賠償金額は制限されると考えて良いでしょう。
身元保証人への通知義務
トラブルがあった場合の通知義務
企業は、従業員にトラブルが発生し、身元保証人に責任が生じる恐れがある場合、身元保証人に通知する義務があります。
任務・任務地の変更の通知義務
企業は、従業員の任務や任務地の変更があった場合、身元保証人に通知する義務があります。
通知義務を怠った場合
通知義務を怠った場合、身元保証人に賠償を請求できない可能性があります。
身元保証契約の解除
前述の通知を身元保証人が受け取ったとき、身元保証人は契約を解除できます。
つまり、何らかのトラブルが発生し、賠償の可能性が発生した場合、身元保証人は、契約解除を宣言することで、賠償責任を回避できる可能性があります。
身元保証書の記載事項
身元保証書の契約期間
前述の通り、期間を定める場合は、最長5年です。特段の事情がない場合は、5年としましょう。また契約の自動更新はできませんので、記載しないようにしましょう。
保証人が支払う賠償金額の上限額
賠償金額の上限は、企業側で自由に設定できます。とはいえ「賠償金額の上限1億円」など高額に設定した場合、保証人の成り手が見つからず、制度として成り立たなくなる可能性があります。非現実的な数字にならないように配慮しましょう。
賠償額上限の設定例
- 賠償金額の上限金額は、○○万円とする。
- 賠償金額の上限金額は、該当従業員の過去半年の平均給与の○ヶ月分とする。
また、実際の賠償金額は裁判により決定する旨、記載しておきましょう。
身元保証人の連絡先
前述の通り、「身元保証書」は、本人と連絡がとれない場合の緊急連絡先としても活用できます。住所、指名、続柄、電話番号、メールアドレス、などの記入項目を作りましょう。
記入は自著であること
記入の際は、代筆は不可です。自著による署名・捺印を求めましょう。
身元保証書の提出の求め方
- 労務・制度 更新日:2022/04/26
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