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【医師が解説】中途採用時の健康診断で経営者・人事が把握すべきポイント 何をする?してはいけない?

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中途採用者を雇用する際には、会社は労働者に対して雇入時健診を受けてもらう必要があります。 この記事では、中途採用者の雇入時健診や定期健診についての基本的な知識について解説します。 また、中途採用の際に人事の方が対応すべきポイントも述べていきますので、ぜひ参考にしてください。

中途採用者の健康診断時のポイント

まずは、中途採用者の健康診断について簡単に説明します。

事業者は、中途採用か新規採用かに関わらず、新たに人を雇用する際には雇入時(やといいれじ)健康診断(以下、雇入時健診)を実施する義務があります。そして、入社してからは年に1回の定期健康診断(以下、定期健診)も必須とされています。

この2つの健康診断は、それぞれ労働安全衛生規則の第四十三条と第四十四条で定められています。

そして、雇入時健診・定期健診の項目はそれぞれ以下のように規定されています。*1

雇入時健診の項目 定期健診の項目
既往歴及び業務歴の調査 既往歴及び業務歴の調査
自覚症状及び他覚症状の有無の検査 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
身長、体重、腹囲、視力及び聴力(1000ヘルツ及び4000ヘルツの音に係る聴力)の検査 身長、体重、腹囲、視力及び聴力(1000ヘルツ及び4000ヘルツの音に係る聴力)の検査
胸部エックス線検査 胸部エックス線検査及び喀痰検査
血圧の測定 血圧の測定
貧血検査(血色素量、赤血球数) 貧血検査(血色素量、赤血球数)
肝機能検査(GOT、GPT、γ-GPT) 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GPT)
血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド) 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
血糖検査 血糖検査
尿検査(尿中の糖および蛋白の有無の検査) 尿検査(尿中の糖および蛋白の有無の検査)
心電図検査(安静時心電図検査) 心電図検査(安静時心電図検査)

これらをみると、雇入時健診と定期健診の項目は、ほとんど同じであるということがわかります。

雇入時健診は定期健診で代用できることもあるのですが、これら2つの健診にはいくつかの違いがあります。
そこで、中途採用者の雇用時の健康診断で気を付けるべきポイントをこれから説明します。

(1)雇入時健診と定期健診で項目が異なる検査がある

定期健診では、問診などから肺がんのリスクが高いと判断される人には喀痰検査(かくたんけんさ)を行います。
原則として、50歳以上で喫煙指数(1日の平均喫煙本数*喫煙年数)が600以上となることが判明した方(過去の喫煙も含む)が対象となります。

喀痰検査とは痰をとり、その中に病的な成分が含まれているかどうか顕微鏡で調べる検査です。
気管支など、肺がんの中でも中枢側、つまり肺の内側にできる肺がんの早期発見の目的で行われます。*3
雇入時健診ではこの喀痰検査は義務付けられていません。

(2)前職の定期健診で省略した項目については雇入時健康診断の際に検査を行う必要がある

医師が必要でないと認めるときには省略できる項目があります。
これは、労働安全衛生規則の第四十四条の第2項で規定されており、以下のようになっています。*4

  • 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
  • 胸部エックス線検査及び喀痰検査
  • 貧血検査
  • 肝機能検査
  • 血中脂質検査
  • 血糖検査
  • 尿検査
  • 心電図検査


一方、雇入時健診では定められた項目は原則すべて検査しなければなりません。
そのため、例えば前職で定期健診を受けたものの、上記の項目が抜けている可能性があります。
その場合は、雇入時健診の際に足りない項目を検査しなければなりません。

人事が気をつけるべきポイント

次に、中途採用者を雇用する際に、経営者や人事部門担当者が対応すべきポイントや、知っておきたい事項について説明していきます。

(1)雇入時健診のタイミングには注意

雇入時健診を受ける中途採用者の中には、前の職場にいる際に定期健診を受けている人もいます。
定期健診などの健康診断を受けた後3ヶ月以内で、その結果を証明する書面を提出できる場合、既に受けた健康診断の項目を雇入時健診の代用にすることが可能となります。*1

しかしながら、年度途中で中途採用された方でもその年度内に会社での一斉定期健診を受けなければならないこともあります。
それは、代用した前職での定期健診と、就職した会社の定期健診の間隔が1年以上空いてしまうような場合です。

労働安全規則の第四十四条で、会社は年に1回定期健診を労働者に受けさせるよう定められています。*2

そのため、このような場合には年度内にも定期健康診断を受けることが望ましいと考えられます。
もちろん、前職で健診を受けていない方については雇入時健診を受けてもらうようにしましょう。

(2)中途採用者が雇入時健診を受けたかきちんとチェックしよう

中途採用者は、年度内にさまざまなタイミングで雇用され、必然的に雇入時健診も時期がバラバラになることが多いかと思われます。

すると、雇入時健診を企画する事務作業が煩雑となるため、一般の定期健診で代用するケースも増えることが予想されます。

先に述べたように、定期健診を雇入時健診と兼用することは問題ありませんが、いずれにしても以前の定期健診の結果を把握することは不可欠です。
それぞれの中途採用者が法律で定められた雇入時健診の項目を満たしているかどうかをチェックできるようにしておきたいですね。

(3)雇入時健診は中途採用者の採用判定材料にしてはいけない

中途採用者に限らず、雇入時健診とは別に、会社独自の健康診断を行うケースが見受けられますので、一例を挙げてみます。*5

ある事業所では「高所での作業が多く貧血の人では危険」という理由で、応募者全員に血液検査を行っていました。
しかし、高所作業は技術職のみが行う仕事であり、事務職の人には関係がありませんでした。
つまり、事務職に応募を希望した方にとっては血液検査を行う必要性は認められないのにも関わらず、会社は一斉に血液検査を実施していたのです。

あくまでも、雇入時健診は、常時使用する労働者を適正に配置したり、入職後の健康管理に役立てたりするために行うものです。
採用選考時に、その判定材料としたり、応募者の採否を決定するものではありません。

また、先の例のような血液検査などの「健康診断」を行うと、応募者の適性や能力を判断するために不要な健康状態の事項も把握してしまう可能性があります。
こうした対応は、職業差別に繋がりかねませんので、就く予定の業務に対して不要と判断されるような会社独自の検査は行わない方が良いでしょう。

(4)採用選考時の健康診断・健康状態の確認に対しては本人の同意をとろう

業種や職種によっては、採用選考時に適性があるかどうかを判定するために、健康診断を含めて健康状態を確認する必要がある場合があります。*6

例えば、運転や配送業務に応募する場合に、失神などの発作が生じないかを確認する、といったケースです。
この場合は、配送業務にあたっている際に事故が起こることを防ぐために、失神などの危険な発作がないかどうかを確認しておくことは合理的で客観的な必要性があると考えられます。

しかしながら、発作が内服薬などで抑えられているかどうかも踏まえ、業務にあたることができるかどうかを判断すべきです。
また、健康状態を確認する場合には、本人にその必要性を説明し、同意を得なければならないことには十分留意しておきましょう。

【まとめ】

中途採用者の採用時、雇入時健診と定期健診とを兼ねる際には漏れている項目がないか注意しましょう。
また、雇入時健診はあくまで、健康状態で気を付けたいことなどを把握する目的での健康診断です。
そのため、採用するかどうかを決める判断材料にはしないということも覚えておきたいものです。

中途採用者の健康管理をしっかりと行うため、雇入時健診やその後の定期健診もきちんと実施していきましょう。

  • Person nishicherry2480

    nishicherry2480 放射線治療専門医・日本医師会認定産業医

    行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。

  • 労務・制度 更新日:2024/03/26
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